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2020.04.03 08:09 UTC / 南極 視点:セイバー
「で、ワシの相手はお前ってわけかよ。キャスター」
「然り。マスターを信用していないわけではないが、此の身が勝利すれば同じ事。……加えて、この戦を避ける臆病者に“悪魔”を倒す資格は無し」
「ああ、そういやそうだったなアイツ……」
マスターたちは、既に戦いを始めたようだ。
心配ではあるが、手を出せない以上気にしすぎても仕方ない。
そちらを横目に見ながら、数時間前のことを思い出す。
確かに、バーサーカーがそんなことを言っていた。
奴を滅ぼせるのは「運命力補正の極まった主人公」だけらしい。
……なんつーか、随分概念的な話だ。
【狂化:EX】の言うことを真に受けるのもどうかと思うが、実際奴の不死身っぷりは体感している。
それに「英雄譚の主人公」といえば、「勇者」だと相場が決まっている。
「戦いを避ける臆病者」が、勇者の真逆なのは間違いないだろう。
奴の言うことに理屈をつけるなら、そういうことになる。
それはそうと、キャスターには確認したいことが一つあった。
「ところで、一ついいか。……さっきアーチャーが自分を“射出”する直前に、反動でぶっ壊れてたはずの魔力砲台が直ってただろ。あれ、お前か?」
「……然り。砲塔は元々此の身の所有物なれば、遠隔に依る最低限の修繕は容易い。何より、悪竜の自爆に伴う環境の壊滅的汚染は到底許容不可能の事象。大儀式が成立しようと、喪われた生命・環境は戻らぬ故に」
「対策くらいしとけやテメーとは思うが、まあ同感だな。だが、大聖杯はアーチャーがぶっ飛ばした。“泥”もアサシンが対処したと聞いてる。件の大儀式はもう駄目なんじゃねぇのか?」
「……大聖杯は宙の彼方へと吹き飛んだが、回収不可能には非ず。破壊を免れ、儀式との経路は繋がっている。此方を滅し、その魔力を辿れば回収できる。その時にこそ、
……さすがにそう都合よくはいかねぇか。
ルーラーの宝具、ライダー、ワイバーンの群れ、魔力砲台。
奴はここまでに、かなりのものを失っているはず。
それでも、一切の自信喪失は感じられない。
事実、直接戦闘においてこちらの動きは全て「予測」される。
その上、儀式の効果によって無尽蔵に近い魔力供給を受けていると来た。
総合的に見て不利なのは、やはりワシの方だ。
……祈り無き、竜の世界。
神秘が揺らぐことなく、この表側の地球に君臨し続ける世界。
この聖杯戦争参加者のように、上位の幻想種とはとてつもなく強力な「個」だ。
通常の自然であれば、生態系の頂点に君臨する巨大肉食獣でも、遥かに小さな虫の毒や感染症によって死に得る。
どれだけ強大な生命だろうと、いずれは老い、朽ち果てていく。
その中で、食物連鎖と生命の循環が育まれていく。
しかし、最上位の幻想種相手にそんな“番狂わせ”は絶対に成立し得ない。
例えば「純血竜」、竜種のグランドクラス――「アルビオン」。
その齢は、地球の誕生と同等……即ち四十六億年に及ぶとすら言われている。
だが、かつて彼は「神代の終わりを悟り、世界の裏側に行こうと地面を掘り進み、失敗して息絶えた」らしい。
……そんな規格を超えた偶然がなければ、「規格外の個」たる生命が、表側の頂点に延々と君臨し続けることになる。
キャスターの目指す世界とは、そういうことだ。
何故、人類史において「ヒトが
英雄が、不可能を可能にできたのか。
それは、
「知識」「経験」「技術」「共同体」「記録」――
数千・数万の時間の中で、彼らはひたすらに様々なものを「積み重ねて」きた。
進化と淘汰を繰り返し、祈りと屍を積み重ねてようやく
だが、大災害に等しいドラゴンたちは、その「積み重ね」を容易に崩していく。
土台から全てを焼き滅ぼし、発展を無に帰していく。
その焼け跡から新たな生命が芽吹こうとも、「高度な技術」には絶対に至れない。
まして、そこにキャスターのような「恣意的な意思」が介在するのならば。
「ところで、もう一つ質問いいか? “真なる竜”といやあ、思い出すのは“アルビオン”だが。噂じゃアレは四十六億年前から“いた”って聞くぜ。お前はヒトが思い描いた“竜という概念の雛型”だって話だが……一体どっちが“先”なんだよ?」
「……成程。確かに、それは当然の疑問と言える」
「だろ? 鶏が先か、卵が先かってヤツだ。折角の最終決戦だ、それくらいは教えてくれても罰は当たらないと思うんだがな」
「良かろう。此の身とアルビオンの順番は――」
次の言葉が放たれようとした瞬間、巨大な爆発が巻き起こった。
数は二つ。場所は、ワシとキャスターのそば。
――そして爆炎を切り裂いて、刃と刃がぶつかり合う。
「……小賢しい真似を。会話の隙を突き、海中に礼装を忍び寄らせていたか」
「お前こそ、爆撃の魔術を仕込んでいたな。いつぞやの“隕石を隠した”術か」
どうやら、考えていたことは同じだったらしい。
互いに、会話中の“気が抜ける”瞬間を見計らっていたのだ。
だが、やはり互いに攻撃を回避し――このように、鍔迫り合いに至った。
「知りたいとは思わなかったのか? 情報として安くはないと考えるが」
「否定はしねェ。それ次第でお前が“アルビオンの力”を使えるかどうか判別できただろうからな。……だが、それより重要な情報に確証を得られた。そいつで十分」
「……ほう」
キャスターは並行世界の情報から、こちらの行動を「予測」できる。
だが、それが完璧ならこのような「互角」の状況にはならなかったはず。
それは、「不確定要素が入り混じったから」だ。
海中に潜ませたエアリアル・ドライブは、敢えてそれぞれに「自律攻撃」を命じていた。
――レゼフィルが、固有結界から放り出されたユキネを救出した際に、僅かな時間で辛うじて聞き取った情報。
それは、キャスターは「同時に複数人の行動予測はできない」こと。
アサシンではなく、ユキネの意思で攻撃を行うことで、「予測」は掻い潜れた。
今の攻撃は、その応用。
ワシの意思を介さない「複数体による自律判断の攻撃」を、奴は読み切れていなかった――!
「……無論、その選択は予測の範疇。副砲たる礼装の攻撃力はたかが知れている。此方自身の剣が届かぬ限り、此方の勝利は無い……! 起動せよ、
「なッ、“クルシェドラ”だと……!?」
詠唱と共に、キャスターの全身を赤いオーラが覆う。
そのオーラは、エアリアル・ドライブによる砲撃を容易く弾いたのだ。
……キャスターがどのような力を使ってきても対応できるよう、ワシは「会議室」でバーサーカーと共に様々な竜種の伝承を予習していた。
今キャスターが口に出したのは、古いアルバニアの民話に伝わる竜種の名。
蛇の鱗に四本の脚、小さな翼を持つ「ボラ」と呼ばれる竜として生まれたのち、十二年経つとヒュドラにも似たメスの巨大な多頭竜、「クルシェドラ」に進化するという。
彼女は
そして何より、クルシェドラを倒せるのは「ドラゴニ」と呼ばれる存在だけとされる。
ドラゴニは雷を操る力と翼を持ち、「善・光・秩序」を象徴し――クルシェドラと対を成す半人半神の英雄。
……言うまでもないが、ワシは「ドラゴニ」じゃない。
だが、今は四月三日。
遠くはないが、本来ならクルシェドラが起きられる日ではない。
そうである以上、あの術は不完全だ。
でなきゃ、最初からずっと使えばいいんだからな。
――推測に過ぎないが、恐らく理由は二つ。
まず、「固有名詞を冠した竜種魔術」は使用に制限があるはず。
強大なドラゴンたちの力を元としているだけあり、出力はほとんど宝具に近い。
それはもう、ほとんど「宝具を無数に保持している」のと同義だ。
もう一つは、「アーチャーがいたから」。
『赤蛇絶環』は術者に「ドラゴニでなければ倒せない」無敵の護りを齎す術。
そう仮定すると、「ドラゴニと同等の特性を持つのならばダメージを与えられる」はず。
神獣であり善・光・そして雷の属性を操る上、何よりあいつには「変化の術」があった。
「翼の生えた人間の姿」になるくらい、訳もないだろう。
そう分析するワシに対し――絶望を煽るかのごとく、更にキャスターは畳みかける。
「……どれだけ看破しようとも、此方が術を破ること能わず。混沌の闇に朽ち果てよ、
宝具、二重展開――
◆
2020.04.03 08:1■ UTC / 「会議室」 視点:パラニール
「あれは、アーチャーの“隕石”を破壊した宝具……! 目標との距離が近ければ、この速度で召喚できるのですか!?」
「それだけじゃない! 続けて使ったの、例の“魔術を無効にする翼”でしょ……! 防御すらもさせない気だ!」
会議室の画面前には、見学者が一匹増えていた。
毛布に包まり、ルーラーの膝の上で震えながらも、画面からは目を離さない。
そんな、ユキネの姿が。
数分前、ルーラーが監督者権限を発動させ、「敗退したマスター」である彼女はここまで転移・保護された。
温帯出身の野生動物は、南極の寒さには耐えられない。ルーラーの判断は妥当だ。
……バーサーカーの制止がなければ、それはもっと「早かった」だろう。それで危うくアーチャーの宝具が不発になるところだったのは置いておこう。
ともかく、セイバーの戦いについてだ。
容易にアーチャーの
「ならば、
「あの至近距離じゃ、セイバーの図体と速度じゃ避けられないよ! どうす――えっ? あれ?」
ユキネの声には、心配より困惑が多く含まれていた。
流星の落下により、白煙が吹き荒れるが――その中に、巨大な竜の影は「一つしか見えなかった」。
見えたのは、華麗にその直撃をすり抜けた残影。
そして――風に舞う、紫色の長い体毛。
『来い、エアリアル・ドライブ!――
号令と共にセイバーの礼装が飛来し、光が白煙を塗り潰す。
次の瞬間、画面の中に現れたのは――赤と白の装甲に包まれた、
それが誰なのかなど、問うまでもない。
紛れもなく彼女は、セイバー・タラスクが誰よりも敬愛した聖女――「マルタ」。
私の知識から考えると、女性の服装にしては露出度が高すぎる気もする。
だが、そこに漂うのは卑俗な印象ではない。
礼装と一体化し、光が結晶化したようなその戦闘力の前では、全てが些細に映る気すらした。
咆哮と共に、唸る拳が空を裂き――キャスターの胴に突き刺さる。
「馬鹿な! キャスターの“予測”と防御をすり抜けた……!」
「まさか、アレって……“停戦期間”にアーチャーがやってた
「知っているのですか、ユキネさん!?」
「そっか、パラニールは見てないんだった。実はね……」
ランサー脱落後に、ルーラーが設けた二十四時間の「停戦期間」。
セイバー・アーチャー・アサシン陣営は共にアイスランドに滞在していた。
その折、話題に上ったのは――「何故アーチャーやアサシンは人の姿になれるのに、セイバーはなれないのか」という疑問。
そこでアーチャーが
だが今、セイバーは「自らの意思でその術を使っている」。
その意味を、その「罪」を。彼が理解していないはずがない。
「当然だ。――キャスターの“予測”は、並行世界のデータを元に演算されている。逆に言えば、“どんな並行世界でも絶対にあり得ないこと”であれば、その予測を超えられる。“本来のタラスクであれば、絶対にしない事”をやらなければ意味がない」
背後から響いたのは、低く愉悦を含んだ声だった。
その声音で、全てに合点がいった。
「……セイバーに、あの術を授けたのは貴方ですね。バーサーカー」
「いかにもその通り。“三つの願い”、最後の一つを使ってな。こんな面白い機会、“悪魔”たる俺が逃すはずがないだろう?」
私の睨む視線を、バーサーカーは軽く受け流す。
「会議室」に走る緊張感を感じ取り、ユキネが慌てて口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? 確かに、“停戦期間”でも似たような話が出ていた気がするけど……何がどういうことなの!?」
「ま、日本で生きてきた一般猫にキリスト教的観念を知っていろというのも無理があるな。いいだろう、楽しい愉しい説明の時間だ!」
その宣言と共に、音を立ててホワイトボードが現れる。
「画面」を一時停止し、悪魔は悠々と語り始めた。
「……この流れ、もう三回目くらいじゃないか?」
「はいそこうるさい。話がややこしくなるからルーラーは黙っていろ!」
◇
「まずは基本的な事項から確認していこう。『ヨハネの黙示録』十二章第七節から第九節に曰く――」
『さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである』
『竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった』
『この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた』
話の当事者であるはずの彼は、すらすらと他人事のように言う。
「即ちキリスト教において――竜は、“悪”と同義だ。つまり竜とは、“神の秩序に逆らう混沌”の象徴に他ならない」
ホワイトボードには、「神」→「秩序」/「竜」→「混沌」という文字。
「一方、“人間”とは何か。『創世記』によれば人間は、
マーカーが音を立て、「神・秩序」と「竜・混沌」をそれぞれ別の円で囲む。
「混沌と秩序、破壊と創造。本来、これらは絶対に交わらぬものだ。アジア圏では『白蛇伝』のように、蛇が神仙として修行し徳を積んで人の姿となり、人間と結ばれるという物語もあるが……キリスト教では話が全く違う。『コリントの信徒への手紙Ⅱ』十一章十四節には、こうある」
『サタンでさえ光の天使を装うのです』
「悪魔は神聖を装い、人を堕落させるため欺く。即ち竜が人の形を取るというのは、“神の創造を模倣し、盗む”行為。つまり――最上級の冒涜なのだ」
「はい質問。“冒涜”って何?」
ユキネが、小さく前脚を上げる。
「良い質問だ、ユキネ嬢。まず前提として、日本やインドのような多神教文化と違い、一神教のキリスト教において“神”とは唯一にして絶対。この宇宙全てを創りたもうた存在とされている。冒涜とは、簡単に言えば“神のことを貶め、軽んじ、穢す”ことだ。言い換えれば、それは“宇宙の秩序そのものの否定”と同義なんだよ」
「へ、へえー……あれ? 確かバーサーカーって、“神様に叛逆して堕天した”んだよね?」
「そうだが?」
「……物凄いヤバいことしてない?」
「そうだが。お、ようやく理解したか?」
「う、うん……とりあえず、続けて」
「よろしい」
悪魔は、愉快そうに笑みを深めた。
「さて。セイバーが行っているのは、解釈次第では俺に勝るとも劣らない冒涜的行為と言える。
何故なら、奴の母親“リヴァイアサン”は『第二バルク書』によれば、神が天地創造の五日目に、ベヒモスと共に直々に創り出した海の怪物だからだ。
即ち竜種タラスクとは、“混沌と悪”の直系。そんな彼が――よりにもよって、“救世主”に直接教えを授かった聖女マルタの姿を取る。これがどれだけ背教的な行いか、想像がつくだろう?」
「う、うん……」
ユキネは頷いたが、納得はしていない様子だった。
その気持ちは、私にもよく分かる。
だって、セイバーは――
「……セイバーの行いは、ある意味において“信仰の極致”だ」
沈黙を破ったのは、ルーラーだった。
「確かに、それは“背教”かもしれない。彼は“神の似姿”を模し、創造の権能を模倣した。だが……それを為した理由は、傲慢でも、侮辱でもない」
彼女は一瞬、画面に映る「聖女」の姿へと視線を落とす。
「彼の根底にあるのは、“祈り”。秩序と混沌という、遠く定められた生まれであろうと――“共に在りたい”という、切なる祈り。曲がり僻んだ己を変えた、“自分を一歩も曲げない強さ”。その愛と光に、応えるための……」
ルーラーが言葉を詰まらせたのを見て、バーサーカーは小さく肩を竦めて話を続けた。
「ああ、そうだ。セイバーの変身は、冒涜であると同時に“祈り”そのものだ」
小さく、悪魔は笑う。
「……良いじゃないか。実に、“人間的”だと思わないか?」
その笑みが、私にはどこか寂しげに見えた。
タラスク、実はとんでもない主人公適正持ちだという事がお分かりいただけたでしょうか