Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第51話:The Red Queen Hypothesis

2020.04.03 08:15 UTC / 南極 視点:キャスター

 

「おオオオオオオッ!! オラオラオラオラオラオラぁッッ!!!」

「ぐ……ッ、ぬうゥゥゥッ……!!」

 

 此の身の「予測」を上回る、怒涛の拳撃。

 「無敵」と「儀式」の魔力供給を頼りに耐え続けるが、追いつける速度ではない。

 先の戦いで受けた「神剣」による致命の傷は、『無窮千生』(レルナイア・ヒュドラ)の術で既に塞いだ。

 部下の竜を「潰し」、その血肉・骨と鱗で新たな腕をでっち上げた。

 だが、全ての負傷を癒せたわけではない。神の一撃とは、そういうものだ。

 聖女の絶技は、消せぬ傷跡を的確に抉り穿つ。

 

 ……激情に罅割れる寸前の脳髄を、理性で押さえつける。

 感情を制御しなければ、「予測の演算」は精度を失う。

 確かに、現在の『赤蛇絶環』(クチ・クルシェドラ)は不完全。

 ドラゴニと同様の性質を持つ者であれば、「無敵」の防御を突破できる。

 ――英霊マルタは【神性】のスキルを有する人間。

 秩序・善属性であり、現在は礼装が「翼」の役割を果たしている。

 そして使うは、大天使にすら勝利しうる格闘技【ヤコブの手足】。

 四十八の格闘技・五十二の喧嘩殺法を携えた、紛れもない超人。

 その姿、その力を借りることは、此の身の「予測」と防御を上回るための「正しい」戦法。

 彼女の技を、信念を――誰よりも刻みつけられたタラスクなればこその荒業だ。

 我が理性は、そのように結論付けた。

 

「“祈りの拳”、か。畢竟、我が前に立つ最後の敵が此方であることは、必然であった――『宝殻の竜鱗』(クエレブレ・ガルディオン)!」

「うおッ!? なんだこの硬さ……!?」

 

 スペイン北部、アストゥリアス地方にて語られる「クエレブレ」の特徴は堅固な鱗にある。

 その防御は、ほぼ無敵に等しいとされるが――

 

「悪いな、予習済みだ。クエレブレの弱点は――ッ!!」

 タラスクは、的確に「喉」と「腹部」に狙いを定めた。

 クエレブレは「唯一の弱点たる喉を突き破らねば」殺せないとされるが、「大量の針を仕込んだパンを誤飲する」ことで倒したという伝承も存在する。

 即ち、「鱗」は無敵であっても体内は別。

 

「姐さんの拳の真似事だぜ。かつてワシの防御をブチ抜いた、あの打撃と同じように!」

 ……所謂「寸勁」、「鎧通し」に近い技術。

 衝撃を体内に浸透させる特殊な一撃。

 されど、変化直後故か「洗練」はされていない。

 致命を与えるような拳打には到達していない現状でこそ、「効果」はある……!

 

「――『竜爪』(Orm-kló)

 詠唱と共に、強靭なる巨爪が両腕を覆う。

 その様子を見て、タラスクは拳を止めぬまま怪訝な視線を寄越した。

 

「ここでそンなシンプルな術を……? いや違う。それ“だけ”じゃあねェな――!」

 ――その洞察力が、彼の生涯を想起させる。

 然り。この程度で済ますものか。

 幻想の王たる竜として生まれながら、憎むべきヒトの姿を取る者に対して。

 

「――『竜骨』(Orm-bein)『竜翼』(Orm-vængr)『竜尾』(Orm-hali)『竜頭』(Orm-hǫfuð)『竜牙』(Orm-tǫnn)――」

 

 連鎖するは六の言霊。

 一言ごとに全身が強化、或いは再生、或いは武装の如く覆われる。

 特に――宝剣により失われ、一時凌ぎに繕った右腕を。

 

「オォラァッ!!」

 極地に轟く、怒声と炸裂音。

 足元の氷ごと砕くような、必殺の打撃。

 

「――『画竜点睛』(Ormauga-ríta)ッ!!」

 

 拳と拳が、重なり合う。

 砕け散ったのは、氷床のみに非ず。

 

 精神を封じる「理性の仮面」もまた、同時に割れた。

 渾身の一筆を、未完成の壁画へと解き放つように。

 

「もはや、“予測”という雑音は不要。此の激情を以て、此方の全てを焼き尽くしてくれる――!!」

「いーい度胸だ。――かかってきやがれ、シャバ僧がぁッッッ!!」

 

2020.04.03 08:20 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 地上、海上、空中。そして再び地上。

 目まぐるしく、激しく戦場は移り変わる。

 

「――『竜爪・起螺(カイノス)』ッ!」

「ぬぅッ……『神縫掌』(テオシン・パルマ)ァ!」

 

 身体強化で殴るのみかと思いきや、キャスターが使ってきたのは「功夫」と「カラリパヤット」を組み合わせたような独自武術だった。

 その名を、『竜闘法・七重の螺旋』(ムチャリンダ・プラーナ)

 仏教において「覚者」に帰依したとされる竜王の伝承を元にした、「循環と連鎖」の闘法。

 即ち――「大自然そのもの」の象形拳!

「ムチャリンダと言えば、暴風雨から覚者を護るため自らの体を七度巻き付けた逸話。守護した期間も七、ムチャリンダの頭部の数も七。そして奴の使った術も、『画竜点睛』(Ormauga-ríta)を数えれば七つ。……どう考えても、単なる偶然じゃねえなッ!」

 

 『竜骨・護螺(ガルバ)』『竜翼・翔螺(ヴァーユ)』『竜尾・廻螺(ナーガ)』と、拳の「型」は連鎖し続ける。

 拳と拳がぶつかるたびに、敵が流体に変化するような感覚。

 踏み込みは波のように緩やかで、避ければ嵐のように加速する。

 そこにあるのは、一方向の流れではない。

 攻撃の軌跡が全て防御となり、防御の余波が次の攻撃を導く。

 まさに「生態系」のごとく、完全循環する武の軌跡。

 

「つまり、とことん隙が無ぇ……!!」

 

 柔よく剛を制すという言葉があるが、キャスターの動きはまさにそれだ。

 的確に、こちらを少しずつ追い詰めている。

 恐ろしいのは、そうでありながら奴の拳からは焔のごとき激情が伝わってくるということ。

 溢れんばかりの怒りを解放していながら、その奔流を完全に制御している。

 

 ……言われてみれば、奴の本質が「激情家」であることに違和感はない。

 古来、ヒトは「大災害」という理解不能の現象を、「竜のような超自然存在の怒り」という顔を与え人格化することで、理解しようとしたのだから。

 

(さて、ワシが奴にぶつけるべき言葉とは何だ? 「それがどうした」か? 否定や、蔑みであるべきか?)

 

 ――そうではない。

 そうではないだろう。

 それでは、この姿となった意味がない。

 拳による格闘とは、まさに互いの感情のぶつけ合いだと姐さんに教わった。

 それが愛であれ、憎悪であれ――「心の籠もらぬ打撃」に魂は響かない。

 「一方的な暴力」では決して届かぬ、情動の交感(エクスチェンジ)

 そこには、時に通常の言論以上の意味があるのだと。

 

 確かに、かつて「あの人」はこう言い残した。

 「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」と。

 あなたのところで、報復を、復讐の連鎖を止めなさい――と。

 

 この教えの本質は、逃避でも我慢でもない。

 「逃げずに立ち向かい、向かい合う勇気を持て」ということだと、ワシは解釈した。

 何と向かい合うのか?

 決まっている。

 キャスター・リンドヴルムの「怒り」そのものだ。

 

 キャスターの怒りは、きっと「正当」なものだ。

 自然を、生命を、神秘を破壊し穢した人類への憎悪。

 発展の末、この星の「持続性」にすら手を掛けた愚か者共への激昂。

 ああ、そうだ。

 人類という総体を見れば、きっとその怒りは当然だ。

 

 ――だけど。

 少しくらい、信じたっていいだろう。

 「愚かではない選択をできる者はいる」のだと、信じたっていいだろう。

 聖女マルタが、「全ての竜が悪ではない」と信じてくれたのと同じように――!!

 

『天穹返』(ケリュゴン・リヴァース)ッ!!」

「――『竜牙・滅螺(カーラ)』!」

 

 奴の攻撃は完全に同一というわけではないが、基本的には「同じ型が循環する」ものだ。

 ここまでの衝突を経て、攻撃の傾向はある程度掴めてきていた。

 六番目の『竜牙・滅螺(カーラ)』は、『竜頭・識螺(ヌース)』から繋がる「牙で噛み砕くかのごとき、回転する貫手による連撃」。

 故に、こちらは。

 

「……逆回転の“螺旋”を、噛み合わせたか!」

「応よぉ! 悪いが、“回転”ならワシも得意分野でなぁ……!!」

 

 腕部に集中させた「エアリアル・ドライブ」の噴出の勢いで、凄まじいスピンをかけた掌打。

 二つの螺旋がぶつかり、せめぎ合う。

 

「お前は言ったな、祈り無き真なる竜の世界とやらを創ると! それは徹底的な“個”の世界だ! 世界の頂点に立つ竜によって回る、自己完結の世界――違うか!?」

「――然り。“強者”たる竜が、祈ることはなし。その時こそ我々は認識に依存した“幻想”を超え、真に完全な生命となる。第二の魔法(カレイドスコープ)の干渉すら超え、ヒトの存在せぬ、猛々しくも輝かしい理想郷の中で……!」

 

 第二の魔法――確か、どこかで「並行世界の運営」だと聞いたことがあるな。

 キャスターが「並行世界を観測する眼」を持ち、『終環記章・竜蛇胎蔵界』(ドラゴン・リベレイション)もそれに関わるとすれば、最終的に同じ「第二魔法」とやらに似た力に行き着いてもおかしくはない。

 ――だが。

 

「だが、本当にその世界が“剪定事象”にならないと断言できるのか? その大儀式とやらで、数百・数千年は“編纂事象”として保つかもしれねえ!しかし――竜種の寿命はその程度じゃ尽きん。上位なら千や万は当たり前に生きる連中だ! 同一の生命が延々と存在し、君臨し続ける……そんな“停滞の連続”が……本当にいつまでも認められるのかッ!? 答えてみやがれ、キャスターッ!!」

「……ッッ!!」

 

 ただでさえ、今の世界は「宇宙にとって悪く間違えた流れ」にほとんど突入しかけている。

 たとえここを「竜の世界」と再定義したとしても、「何を選んでも変化することがない」と判断されれば――宇宙を存続させるために、いずれ切り捨てられてしまうだろう。

 そもそも、「神秘」とは「知られていないこと、隠されていること」そのもの。

 言うなれば、「竜という不変」と同等だ。

 技術の進歩という「変化」によって神話、神秘、宗教は「科学技術に反する、人々の空想」だと暴かれ始めたからこそ、幻想種は「世界の裏側」へと去って行った。

 

 何という、決定的な矛盾。

 極端に言えば――初めから、我々は詰んでいたのだ。

 

「……否。否だ、タラスクッ!『終環記章・竜蛇胎蔵界』(ドラゴン・リベレイション)により、“竜の存在が当然になる世界”が形作られれば、大前提となる世界の法則もまた変わるはず。幻想の王たる竜の知能が、ヒトに劣ることは決してない! ならば、進化の可能性は必ず秘められ――ッ!?」

 

 キャスターの瞳が、大きく見開かれる。

 ……奴は、気が付いていなかったのか。

 

「――語るに落ちたな、キャスター! 我々は決して、詰んでなどいない……必ず可能性が秘められていると! 変わる“はず”だと!」

 

 いや、無意識に気付かない振りをしていたのだろう。

 奴にとってそれだけは、決して認めてはならないことだから。

 

「確実と言えない不確かなものが、世界の法則を超えるとお前は“信じた”!! それが――“祈り”以外の! 何だってんだッ!!?」

 

 外から分かるほどの、凄まじい動揺。

 一瞬の、完全な停止。

 当然、この隙を逃せるはずもない。

 

「……ッ! 『画竜点睛・完螺(サムサーラ)』――」

「遅ェッッ!!」

 

 螺旋の拮抗を制し、掌を掴んだまま躊躇いなく踏み込む。

 蛇のような胴体を腕で絡め取り、両手で翼を固定しながら――高く跳躍。

 もはやその体は完璧にクラッチされ、逆さに担ぎ上げられていた。

 竜の体躯が怒りに蠢くも、既に遅い。

 

「エアリアル・ドライブ――『天墜陣』(カタドゥノス・フォーメーション)ッ!」

 

 十基の礼装が、一斉に火を噴く。

 「術を破る宝具」の発動より早く、地面へと向けた加速を行うために――!!

 

「ヤコブの手足、四十八の拳法技――その一つ!『聖墜抱環』(アーク・サクラメント・バスター)ァァァァァァッッ!!!」

 

 光輪の軌跡が天を裂き、二つの影が地上へ一直線に墜ちていく。

 天と地がぶつかり合うような轟音が、氷の世界に響き渡った。

 

2020.04.03 08:25 UTC / 南極 視点:キャスター

 

「ぐ……ッ……ぬあああああアアアアっ!!」

 

 折れた翼に活を入れ、割れた大地から復帰する。

 反撃を警戒してか、タラスクは技の後、此の身から距離を取った。

 必殺技(フィニッシュホールド)が完璧に極まったにも関わらず、相手が生きていたためだろう。

 その秘密は、竜種魔術『八首贄法』(やつこうにえのほう)

 八岐大蛇との死闘を解析し、ようやく完成に至った呪法。

 自身の死を「八つの首のいずれかが死んだ」事にし、因果処理を遅延させる「人柱」に近い術。

 性質上、死ねるのはあと六度まで。

 八度目は、真なる死滅だ。

 加えて、「自身の死を曖昧にして避けた」だけである以上――身体への損傷は回復しない。

 本家本元の不死性には、遠く及ばない。

 

 ――そして何より、此の身に齎された()()()()()()

 祈りとは、「自らを超えた概念を仮定し、それに対し心を向ける」行為。

 自分の力ではどうにもならない無力を自覚し、課題解決を超然的他者に全て委ねること。

 それは、「自力による課題解決を放棄した、諦念と思考放棄」に他ならない。

 少なくとも、此の身における定義はそうだ。

 

 無論、ヒトを含む尋常の生物はそうせざるを得ないほどに弱い。

 災害に。

 上位の捕食者に。

 寿命を始めとした不可避の自然法則に。

 相対する彼らは、どうしようもなく無力だからこそ――

 そこに、「祈り」が生まれたのだ。

 「それを叶えさせられる側」からすれば、あまりにも無責任な想念が。

 

 本来、「自然」は中立的概念だ。

 怒ることも、罰することも、赦すことも初めからない。

 特定の何かに肩入れすることも、願いを叶えることもあってはならないはずだ。

 そうでありながら、ヒトは自然に人格を押し付け、祈りという名の責任転嫁を幾星霜と続けてきた。

 挙げ句に、発展の名の下に無秩序に「自然」という神秘を破壊し続け――

 それでもなお、「祈り」を止めることもしない。

 右手で相手を愛でながら、左手で殴りつけるような矛盾。

 何よりも唾棄すべき、退廃的な怠惰。

 

 此の身もまた、無意識下にそうしていたという事実。

 そう突き付けた言葉の刃は、想像以上に深く突き刺さっていた。

 ――されど。

 

「されど、此の身は断じねばならぬ――『それがどうした』、と……!」

「……!!」

 

 『竜骨顕現』(Ormbeinvakna)により、全身の機能を再起動。

 声の震えを抑えつけ、拳を固く握り直す。

 

「確かに、此の身には“変わるはずだ”という“祈り”があった。変化を他に委ねるという甘えが」

「……だったらどうする。キャスター」

 

 呼吸と姿勢を整え、少しずつ距離を詰めながらタラスクは問う。

 その姿を見据えながら、口を開いた。

 

「世界を変えるとは、『変わるはず』と祈ることではない。『絶対に変えてみせる』のだと、決することだ。進化し続ける、祈りを超えた“意志”(ロゴス)だ……!!」

 

 ――己の内に灯る、微かなる焔を感じる。

 祈りが他者に委ねる願いならば、意志とは己の内に燃やす灯火。

 誰かに与えられるものでなく、ただ己の手で掴み、己の爪で刻むもの。

 

 『その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない』(It takes all the running you can do,to keep in the same place)――

 

 かつてヒトが提唱した、遺伝子の進化の理。

 即ち、「赤の女王仮説」。

 常に進化し続けたからこそ、淘汰されず生き残ったという考え方。

 

 竜が「不変にして永遠の象徴」であるというのならば、此の身は「片方だけを選ぶ」真似などしない。

 不変のまま、進化し続ける。

 停滞なき永遠――それこそが、目指すべき竜の真なる形。

 「尾を噛む蛇」は、真に「無限」ではない。

 それは内と外を隔て、物質世界の限界を描く円環に過ぎぬ。

 しかし「意志」に形はなく、循環する無限だ。

 故に此の身は物質の円環を越え、精神の螺旋を選んだ。

 

 ――此の身の中心から魔力と憤怒が奔る。

 世界の脈が、己の心音と重なる感覚。

 

「我が怨敵よ、敢えて感謝しよう。我が志は、たった今真の完成を見た……!!」

「この感じ、よく分からねえが己を“再定義”したってのか……!? だったら、こいつでどうだッ!」

 

 タラスクは自律礼装による砲撃を行いながら、同時に跳びかかって来た。

 爆撃が身を焼き、破片が傷を抉る。

「喰らえ、追撃の――『光輪衝』(ハロウ・ドライブ)ッ!!」

 

 怪訝な行動をとった相手に対し、即座に二段構えの対応を取るのは流石と言えるが――

 

「――『悪咒・毒胤咆嗤』(アジ・ダハーカ・アエシャマ)。その行動は、“予測”の範疇に過ぎず!」

「なッ――んだ、こりゃあ!?」

 

 急ぎ礼装の噴射を反転させ、飛び退くタラスク。

 その危機察知と、裁定者に匹敵する【対魔力】がなければ、肉が腐り落ちていたかもしれぬ。

 目に見えてそう思わせるほどの「悪性の泥」が混ざった血が、此の身から溢れ出ていた。

 怒りや憎悪を始めとした、ヒトが「悪」と忌避する感情を触媒とせねばならない術だけのことはある。

 

「近づいただけで体が灼けた!? 自動反撃……なんてチャチなもんじゃねえッ! 奴の言った名前が正しいなら……!」

 

 然り。悪神アンリマユによって創造されし悪竜の力は、存在するだけで「善」なるものを蝕み、生命を腐らせる。

 更に、アジ・ダハーカは傷を負えばそこから更に邪悪なる魔を生み出し続ける。

 故に切り殺すことは叶わず、地下深くに幽閉する他なかったほどに。

 此の身から流れし血は、既に大型爬虫類めいた竜種の群れと化し、敵に向けて駆け出していた。

 

「ちぃッ、面倒な真似しやがって……!」

 

 そう毒づきつつも、即座にタラスクは空中へと飛び上がる。

 そして聖女の姿を取ったまま炎を吐き、使い魔の殲滅にかかった。

 外見の奇態さを除けば、飛行能力を持たない敵には最適解の攻撃だ。

 

 ――その分だけ、此の身には刻限が与えられた。

 

「……起動せよ。『黒咒・双声(アンフィスバエナ・ドゥオルム)相噛之竜蛇』(・ウォクム・インヴェルシオ)……!!」

 

 詠唱と共に、尾に激痛が走る。

 肉が裂け、骨が蠢き――「もう一つの首」がゆっくりと生成されていく。

 自らの血肉を糧として、我が身を「双頭の竜」へと変貌させる術。

 下手を打てば「弱点を増やした」だけに終わりかねない上、時間制限すらあるピーキーさだが……今、必ず成立させねばならないものだ。

 

「その姿は……! 頭部が二つなら詠唱速度も二倍じゃねェか、通せるかよそんなモン! かっ飛べ、『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)ッッ!!」

 

 タラスクは咆哮とともに、己の宝具を召喚した。

 本来の竜の巨体にふさわしい、質量の暴力そのもの――それを遠距離から、力任せに投げ放つ。

 大気が裂け、光の尾を引く刃が一直線に迫る。

 狙いは、変貌の只中にある此の身の尾。

 『悪咒・毒胤咆嗤』は有効時間が短く、その間に「生成」を終えなければならない以上、これ以上の攻撃を受ける余裕はない。

 かといって、現状高度な竜種魔術は行使できないが――

 

「――『廻天』(Ørløgsnúningr)!」

「うおおおおお!? 何だこいつら爆発しやがった!?」

 

 高度でなければ、可能だ。

 『廻天』(Ørløgsnúningr)は自らの使い魔に自爆・飛行能力を与え特攻させる、単純極まりない術。

 湧き出た爬虫類は、魚雷のごとく突撃を敢行。

 剣の軌道は僅かに逸れ、大地へと突き刺さった。

 

「いくら何でも、迎撃のタイミングが合い過ぎてンぞ……まさか!?」

 

 タラスクの目が、驚愕に見開かれる。

 どうやら、ようやく気が付いたようだ。

 我が「右目」が存在しておらず、幻術で隠されていたことに。

 周囲を飛び回る、半透明の影に。

 

「――然り。『竜魂は荒天に翔ぶ』(ズドゥホヴァ・ドゥーシャ)……“解除”」

 

 言霊と共に、術により霊体化していた右目が帰還する。

 それは、スラヴ・バルカンに伝わる竜人「ズドゥハチ」を基にした呪法。

 魂を分離し、自律して観測を続ける――「第二の視界」を持つ術。

 それはあらゆる動きを俯瞰し、敵の行動を解析する。

 『画竜点睛』(Ormauga-ríta)により強化された演算、動体視力と組み合わせれば、従来通りの「予測」は不可能ではない。

 気付かれた以上、霊体を潰される前に解除しなければならなかったが。

 

「なーにが“もはや予測という雑音は不要”だ、あの発言完全にブラフじゃねえかよ……!」

 

 それは事実だが、悪態に応える余裕はない。

 「双頭」の完成は、不変たる「ウロボロス」を突破し、再構築に至るに必須の形。

 即ち、「高度な二種の術を、完全に同時に発動させる」ための――!

 

「発動せよ――『呑星贖環・竜胎終界儀』(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)!!」

「始動せよ――『蝕呑螺環/日輪廻転』(アポピス・ヘカ・ジューロン)!!」

 

 重なり合う声は、螺旋のごとく絡み合う。

 新たなる軌跡を、世界に刻み込むために。

 

2020.04.03 10:40 UTC / 南極 視点:セイバー

 

「――嘘だろ、オイ」

 どうにか、僅かな言葉を絞り出す。

 理由は明確だ。

 明らかに、

 

2020.04.03 15:30 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 空と海の動きがおかしい。

 四月は極夜のため、太陽こそ出ないが――雲の速度が尋常じゃない。

「これはまさか、時間が加速してンのか……!?」

 その影響なのか、体がまともに動かない。

 早すぎる時間の進行に、

 

2020.04.04 00:25 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 追いついていけないのだ。

 その進みを「見る」ことで精一杯。

 キャスターの二つ目の首は、『蝕呑螺環/日輪廻転』(アポピス・ヘカ・ジューロン)という詠唱を唱えていた。

 恐らくそれは、エジプトの蛇神「アポピス」と古代中国の蛇神「燭龍」のことだ。

 

2020.04.04 08:49 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 神話によれば、アポピスは太陽神ラーの最大の敵であり、夜の闇や日食を象徴するという。

 一方『山海経』に記される燭龍は太陽神にして火の神であり、彼が目を開くと外は明るく、閉じれば夜になるとされた。

 『契闘の竜印』(サンヴィド・コアトル)がヴリトラとケツァル・コアトルの力を組み合わせた術だというのなら、別の存在でも似たようなことができておかしくはない。

 

2020.04.04 23:49 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 ラーとアポピスの永遠の戦いは、「昼と夜の交替」の象徴。

 同じく昼と夜の変化に関わり、太陽神たる燭龍を重ね合わせたということは。

 

「昼と夜を無理矢理ぶつけ合って、日付を進める――オイ、そんなのアリかよッ!?」

 

 それが意味するのは、

 

2020.04.05 14:25 UTC / 南極 視点:セイバー

 

「――然り。此の時を以って、我が『終環記章・竜蛇胎蔵界』(ドラゴン・リベレイション)は……」

「……ッッ!?」

 

2020.04.06 10:40 UTC / 南極 視点:セイバー

 

「――進行度、凡そ八割を成し遂げた」

 

 その言葉と共に、時間の流れが正常化したのを感じ取る。

 見渡す限り、地平線の先まで……氷の大地全域に、光の軌跡が刻まれていた。

 

 即ち、南極大陸全土――面積およそ一千四百万㎢に及ぶ、超超巨大魔方陣が。

 

2020.04.06 10:4■ UTC / 「会議室」 視点:パラニール

 

「ま、待ってください……!いくら何でも、それはあり得ないのでは!?」

「そうだよ!確か、あの儀式完成にはまだまだ時間かかるんじゃなかった!?」

 

 私とユキネが見つめる画面には、怒涛の勢いで南極全土に広がっていく魔方陣を映す画面があった。

 バーサーカーとルーラーの見立てでは、「世界を再構成する大規模儀式」である以上、最低でも一週間はかかるという話だったはず。

 そのため、儀式はあくまでも「無限に近い魔力供給源」として使い、キャスターはタイムリミットに焦った他陣営を全滅させてから悠々と儀式を完成させる……

 

「……という話でしたよね。ですが、もし時間を進めて無理やり儀式を完成させられるのなら、なぜ最初からそうしなかったのでしょう」

「それはそう。どうなってんの、バーサーカー!?……あれ?何この空気」

 

 振り返ると、半ばパニックになっていた我々に対し、サーヴァント二名はかなり重苦しい空気を纏っているように見えた。

 あのバーサーカー・サタンも、笑顔でありながら眉間に皺を寄せたような難しい顔をしている。

 

「……バーサーカー、時間経過前の南極各地の様子を」

「仰せの通りに。では、少し巻き戻してみるとしよう」

 

 ルーラーの指示を受け、バーサーカーは画面を操作する。

 地上、氷原、海中――幾つもの映像がモニターに現れた。

 

「キャスターが発動したのは、時間を進める術だけじゃない。『呑星贖環・竜胎終界儀』(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)――悪竜現象をモチーフとした、ある意味最も“竜らしい”大魔術だ」

 

「そ、それはいった……い……ッ」

 

思わず息を呑む。

私が見た画面には、

 

 

 そのアデリーペンギンは、倒れて動かない巨大な肉塊をつついていた。

 彼らは、突如出現した空を埋め尽くす巨大な怪物の群れに恐怖し、岩陰に身を寄せていた。

 だが、空が静かになったのを感じ取り――外に出て早速、異物と遭遇したのである。

 

 目の前のワイバーンの死骸は異臭と血を垂れ流す、「未知の怪しい物体」。

 縄張り意識の高い彼らが、「気にしない」わけにはいかなかったのだ。

 

 しばし確かめた後、「安全らしい」ことを仲間に伝えようと振り返ったとき――

 彼の目に映ったのは、地に伏せて動かない群れの姿だった。

 その背から、青白い光が滲み出たのを見た時。

 最後に残った一羽の意識もまた、闇に落ちていった。

 

 

 陸ではペンギンが。アザラシが。カモメが。小型節足動物が。

 海ではクジラが。シャチが。魚類やオキアミ、プランクトンまでもが。

 一つの声すらも発せず、区別なく、彼らは死に絶えていく。

 南極大陸と、その近海に生息する生命の全てが――青白い光へと変換され、融け消えていく。

 そんな惨状が、淡々と映し出されていた。

 

「術の触媒はワイバーン共の死骸か。南極全土に散った血肉がそのまま効果範囲・射程距離となる仕組みらしい。そして、魔力に変換された命は魔方陣を刻み進めるためのリソースとなる。――無から有は生まれない。これ以上なく、シンプルな理屈さ」

 

私達が絶句するしかない中、バーサーカーは解説を続けた。

 

「三年前、人類は消滅し、地球環境を修復するための塵と成り果てた。結果、世界は神代並のマナに満ち、そこに生きる生命のオドもまた同じようになった。それを大規模に“収穫・徴収”するのが、あの術という訳だ。実に効率的なこった」

 

「なっ……なんで、そんな……酷いことを……!?」

 

ユキネが絞りだした声に、バーサーカーは答えた。

 

「簡単だ。竜とは、そういうものだからだよ」

――余りにも、端的に。

 

「理解できない、って顔だな。ユキネ嬢。だが、忘れたとは言わせないぜ。お前のサーヴァント、アサシン――八岐大蛇が、神話においてどのような役回りだったか」

 

「……っ」

 

「多くの神話・伝承・文学において、竜は基本的に“簒奪者”として描かれる。壊し、奪い、攫い、喰らい、支配する。勇者が倒さなければならない、“反秩序の具現”だ」

 

 例えば、八岐大蛇はアシナヅチ・テナヅチの七人の娘を喰らい、最後に残ったクシナダヒメをも喰らおうとして――スサノオに討たれた。

 ファヴニールは父を殺し黄金を奪い、弟レギンと分け合うことを拒み、竜と化して――シグルド、もしくはジークフリートに敗れるまで、黄金を守り続けた。

 

「逆に言えば、竜は一度“奪う”ことで“物語が動く理由”を作っている。八岐大蛇が居なければスサノオは追放された暴れ者のままだし、国家の象徴たる三種の神器も生まれ得ない。ファヴニールが居なければ、シグルドはレギンの手を借りて魔剣を手にできず、父の仇も取れずに燻っていたかもしれない。『呑星贖環・竜胎終界儀』(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)は、この原理を基に世界の再構築を促進する術――といったところだな」

 

……確かに、そうなのかもしれない。

だが、納得できるかは別の問題だ。

 

「キャスターは……そんな非道を、善しとしたのですか」

「当然、否だろうさ。“目的のための、自然環境の大規模かつ不可逆性な破壊”――それは、奴が最も憎んだ人類の悪徳だ。奴が嫌うであろう、“最も人間らしい”行為の一つと言える」

 

 そういえば、少し前にライダーが死に際の『毒竜の血鎧』(ブロズハムル・ファヴニール)を発動しようとしていた時、アーチャーにコントロールを奪われ、反動で一度壊れた魔力砲を密かに修復したのはキャスターだったらしい。

 アサシンにやられた傷を治している途中にも拘わらず、セイバーたちに見つかることも顧みずにだ。

 

「だが、そもそも今自分が負けてしまえば、どんな理想も全ては元の木阿弥だ。故に、あのように」

 

バーサーカーは、ゆっくりと画面を指さす。

その画面に映る緑の竜の目元は……緋色に、濡れていた。

 

「血涙を生む程の苦渋の決断。己の信条を踏みにじってまでの決意。奴とて、理解はしている。この先“停滞なき永遠”を目指して走り続けるとして――真に“正しく進化を続けること”は余りにも困難だ。そんな中で、一度でも信念を曲げた者が、同じ速度で走り続けられるだろうか?

誰だって、“怠けること”を覚え、例外を作ってしまった瞬間に――『少しくらいなら』『もう一度だけ』と、自らを甘やかす理屈を作ってしまう。そして次も、また次も、同じように。そうして堕落していった者たちを、悪魔たる俺は星の数ほど見てきた」

 

 即ち、キャスターは今。

 「悪を悪と理解して、自分の意思でそれを実行した」。……成程、バーサーカーが饒舌になるのも道理だ。

 

「しかしまあ、俺から言わせてもらえばだ……“人の悪徳”と“竜の悪徳”とは、そもそも同一だ。竜が象徴する“貪欲・傲慢・強欲・暴食”といった性質は、人間が内に抱える破壊衝動、欲望、傲慢、支配欲といった“影”の外在化に他ならない。

ユング心理学で言うところの“シャドウ”――自己の否定面を投影した幻想、それが竜という存在だ。そもそも、竜はヒトの幻想から生まれたんだからな。

彼らが自然の中に見出された意思であり、ヒトによって押し付けられたヒトの悪性そのものだとするならば――二者の悪に、違いなどありはしない。キャスターがそれを自覚しているかどうかは知らないが……ああ、そうか。

寧ろ自覚しているからこそ、奴は“ヒトの想念に因らない幻想種の自立”を掲げたのかもしれないな」

 

 一瞬の沈黙が流れる。

 その声には皮肉も侮蔑も無く、ただ静かな納得だけが滲んでいた。

 それだけに、なおさら胸の奥が重くなる。

 バーサーカーの言葉にどう答えるべきか悩んでいると、

 

「そんな難しい話はいいとして、アルヴェイルとダルグレインはどうなったの!?あの何とかって術は南極全土が範囲なんでしょ!?」

 

……ユキネがばっさりと切り捨ててしまった。

 

「ま、確かに今重要なのはそっちだな。ちと話が逸れ過ぎた」

 

苦笑いしながら、バーサーカーはリモコンを操作する。

 

「結論から言えば、『契闘の竜印』(サンヴィド・コアトル)による一対一の決闘は未だ有効だ。キャスターの術が、両者を傷つけることは不可能なままなんだが……どうも、厄介なことになっているな」

 

――そして、画面の時間は巻き戻り始めた。

 








【ヤコブの手足】の技に関する情報は知る限り原作に無かったので筆者のオリジナルです

まあFGOのクリスマスイベント2018があんな感じだったし多分バスターしてもセーフ。
原作にも流石にジェット噴射で加速する技は無かったと思うけど…
原作ってどれだよ(今更)
多分旧約聖書か…?

キャスターの竜種魔術リスト②
固有名詞無し
・『竜頭(Orm-hǫfuð)』
・『竜牙 (Orm-tǫnn)』
・『竜翼 (Orm-vængr)』
・『竜骨 (Orm-bein)』
・『竜鱗 (Orm-fjǫðr)』
・『竜爪( Orm-kló)』
・『竜尾 (Orm-hali)』
・『画竜点睛(Ormauga-ríta)』
竜を象徴する七つの部位を強化する術。7つを順番に発動し、最終的に「画竜点睛」で仕上げることが重要となる。

・『竜骨顕現(Ormbeinvakna)』
体内の竜骨を活性化させ、筋力と耐久力を爆発的に上げる。発動すると骨格の一部が外骨格のように浮き出る。

・『廻天(Ørløgsnúningr)』
ワイバーンなど使い魔に自爆能力を持たせ特攻させる。
回天=「天地の運行をも変えるほどの大事業」ということ、知名度は低いが日本の特攻兵器に「海龍」「蛟龍」「伏龍」などがあることから結びつけて。

固有名詞あり
・『赤蛇絶環(クチ・クルシェドラ)』
Kuqi Kulshedra。
短時間、「闇・悪・自然破壊の象徴」にして混沌たるクルシェドラの力を纏う。その間術者はあらゆる攻撃から身を守り、無敵となる。 ただしこの無敵には例外があり、「drangue(ドラゴニ、もしくはドラングエ)」と同じ特徴を持つ者が相手だと、共通している特徴があるごとにその「無敵」の力が弱まる。 ドラゴニの特徴:半人半神・翼を持つ・光や善・雷の属性を持つなど

・『無窮千生(レルナイア・ヒュドラ)』
Lernaia Hydra。
レルネーの沼地に住まう不死身のヒュドラの伝承を元にした術。
自己再生の魔術。自らの死に匹敵する攻撃を受けているとき、魔力を消費して肉体を再生できる。

・『宝殻の竜鱗(クエレブレ・ガルディオン)』
Cuélebre Guardión。
スペインの伝承にある竜クエレブレを元にした術。その鱗は非常に硬く、ほとんど無敵とすら言われるが、腹部・喉元など一部は脆いとされる。
この術も同様に、肉体(鱗)を硬化させてあらゆる攻撃を防ぐが、代償として、クエレブレと同じく腹部・喉元に弱点が設定されてしまう。

・『竜闘法・七重の螺旋(ムチャリンダ・プラーナ)』
「竜虎相搏」の故事及びナーガラージャの一体、竜王ムチャリンダの伝承を基とし、カラリパヤットと功夫を織り交ぜた格闘術。
「大自然そのもの」、即ち竜の形象拳。呼吸・血流・思考・視線・動作・魔力・因果全てを螺旋の如く繋げる、「循環と連鎖」の闘法。
ムチャリンダがブッダに七回巻き付き、七日の雨風から護ったことに由来し、『竜爪』『竜骨』『竜翼』『竜尾』『竜頭』『竜牙』『画竜点睛』の七種発動が前提となる。
また、以下のような同名の「型」が存在する。
1:『竜爪・起螺(カイノス)』掌打による開幕の一撃。両手を螺旋状に振り上げ、上昇気流を生むように敵を打ち上げる。
2:『竜骨・護螺(ガルバ)』前の「起螺」で生まれた渦を体軸に吸収し、両腕を交差して流す。打撃を受け流し、同時に骨のような“支柱”を形成する。
3:『竜翼・翔螺(ヴァーユ)』防御から即座に跳躍・旋回。翼を広げ、風の螺旋を纏って空中へ。
4:『竜尾・廻螺(ナーガ)』地上に再び降り立ち、長尾を振るうが如く回転蹴り。
5:『竜頭・識螺(ヌース)』頭突き、もしくは視線を交える“識”の技。
6:『竜牙・滅螺(カーラ)』噛み砕くような連撃。牙の如き貫手・掌打・拳撃。
7:『画竜点睛・完螺(サムサーラ)』最後の一撃――あるいは“打たない”一瞬。
『竜爪・起螺』から始まり『画竜点睛・完螺』まで繋げ、そこから再び『竜爪・起螺』へと繋げ続けることで「螺旋は循環し続ける」。

・『悪咒・毒胤咆嗤(アジ・ダハーカ・アエシャマ)』
Aži Dahāka Aēšma。
自分の「悪と定義される感情」(怒り、憎しみなど)が一定以上なければ使用不可能 。
自身に「善なるものは近付くだけで傷つき、ダメージを与えられても使い魔を大量に召喚する状態」を短時間付与する。

・『黒咒・双声相噛之竜蛇(アンフィスバエナ・ドゥオルム・ウォクム・インヴェルシオ)』
Amphisbaena Duorum Vocum Inversio。
双対にして逆位の竜、アンフィスバエナの伝承を基にした黒魔術。
自身の血肉を糧に、もう一本首を生やす。この首は本体と同等の脳を持ち、同時に二つの詠唱を行うことが可能になる。
首は一時的にしか増えず、最終的に増えた方の首は腐り落ちる。
脳に自我が宿るとするならば、それは自分が一度死ぬことと同義だろう。
なら「全く同じ自我にしなければいいのでは?」と思うかもしれないが、それでぴったり息が合う訳が無いのだ。
ただ、制限時間の存在は首の増加により自己に関する問題を起こさないためのリミッターでもある。
「どちらも自分である」とするならば、一つの魂が二つに裂かれてしまうことになるからだ。

・『竜魂は荒天に翔ぶ(ズドゥホヴァ・ドゥーシャ)』
Zduhova Duša。
スラブ・バルカン地方に伝承される竜人、Zduhać(ズドゥハチ)を基にした術。
伝承によればZduhaćは天候や風雨、嵐を司るとされ、寝ている間に魂が抜けて空を飛び、悪天候を操る存在と戦う」とされる。
この術の使用中は、魂を分離もしくは体の一部を霊体化・分離して自律操作させることができる。

・『呑星贖環・竜胎終界儀(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)』
Fáfnir Omnivorus Ouroboros
貪欲なる「ファヴニール」と、自らの尾を噛む永遠の蛇のシンボル「ウロボロス」を元にした術。
効果範囲内の生命を全て喰らい、魔力へと変換し続ける。
土地や海の持つ魔力すらも強引に。
そしてそのエネルギーは、すべて『終環記章・竜蛇胎蔵界(ドラゴン・リベレイション)』を無理矢理「進めるため」に供給され続ける。
(儀式を進めるためのリソースは、『終環記章・竜蛇胎蔵界』由来の魔力では賄えないため。たとえそれが無限であったとしても)

・『蝕呑螺環/日輪廻転(アポピス・ヘカ・ジューロン)』
エジプトの日食を操る蛇神「アポピス」と、古代中国の地理書「山海経」に記載された蛇神「燭龍」(燭陰)を元にした術。
昼と夜の戦いを再現し、最大三日間「時間を進める」。昼と夜は三回進むことになる。
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