Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第53話:双巳激天

2020.04.06 10:4■ UTC / 「会議室」 視点:ルーラー

 

「テュフォンは、確か……ギリシャ神話における怪物の祖とされる竜ですよね。神々の王ゼウスを破った唯一の存在とも聞いたことがありますが……あの術は、一体」

 

 画面に映った光景に、パラニールが困惑する。

 エレバス山の中腹には――

 氷が音を立てて割れ、そこから若草が芽吹いていた。

 乾いた風は湿りを帯び、霧の中に初夏の香りが満ちていく。

 苔むした岩。壮大な大木。音を立てて流れる渓流。

 「白」を埋めつくす、神聖なまでの「緑」がそこにあった。

 

「いいえ……『灼風創界・虚空廻天』(テュフォン・アナゲネシス)の在り方はまさに、かの竜の力そのもの。炎と風を支配し、世界を書き換える権能――即ち、テラフォーミング。自分に合わせて環境を作り替える機能こそが、あの機神の本質」

 

 恐らく、あの自然はダルグレインの「オリジナル」が生きた景色。

 ユキネが「血」を介して見た記憶が真実ならば、「彼ら」の正体は絶滅種、ニホンオオカミのクローン。

 あの山は遺伝子に刻まれた、憧憬としての故郷。

 彼らが夢見た、失われし原風景。

 

「ええと、つまりは私の固有結界と似たようなものかな……いや、アレは“心象風景で塗り潰す”固有結界と違って、“一から作り替える”ものだった。それに時間がかかってしまうから、ここまで使わなかったってこと?」

 

 ユキネの言葉に首肯し、補足する。

 

『呑星贖環・竜胎終界儀』(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)が“発動時に南極にいた生命を吸収する”効果だとするなら、作った環境が吸収されないように、後に発動する必要もあったのでしょう。

更に言えば、『蝕呑螺環/日輪廻転』(アポピス・ヘカ・ジューロン)は儀式の進捗と術の過程を無理矢理進めてしまっただけではない。あの空間は、日本の秩父山地の気候すら完全再現している。ダルグレインは凍傷を気にする必要がなくなり、アルヴェイルは完全に生物的アドバンテージを失った。

そして何より……あんな地形では、ペンギンはまともに前に進めない」

 

 アルヴェイルの地上での戦法は、なだらかな氷上を腹部で滑る「トボガン」――滑走が前提。

 いかに礼装で身体を強化していようとも、ペンギンは本来、わずかな段差を越えることさえ苦手だ。

 この山林の起伏と湿地は、彼にとって致命的な足枷となる――!!

 

「ただまあ、時間経過によって魔力は回復している。砲撃は再度可能になっちゃいるが――キツいのには変わらんだろうな」

 

 バーサーカーは、腕を組んでそう言った。

 ――目を見合わせるわたしたちを、にこやかに見回しながら。

 

「……んん? 俺からは別に何も言わないぜ? 俺は悪魔である故、自ら動くことはない。ただ――お前たちが何か願うならば。その程度、軽く叶えてやれるというだけさ」

 

2020.04.06 10:41 UTC / 南極 視点:キャスター

 

 三日間が無事経過したことを確認し、密かに発動していた『炎化還生』(サラマンダー・メタレプシス)を解除する。

 「燃やした対象を癒し、肉体を蘇らせる」特殊な火術は、『黒咒・双声(アンフィスバエナ・ドゥオルム)相噛之竜蛇』(・ウォクム・インヴェルシオ)によって増えた首を腐らせず「維持」し続けていた。

 術の繊細さから戦闘中には使えないため、その前に解除せざるを得ないが……

 「首が保つ」のは、最大で二時間。

 その間に、全ての決着をつける。

 

「……何故だ。何故、こんなことをする必要がある!」

 怒りに拳を震わせて、聖女の姿をした竜は叫ぶ。

「何が起こったかなんぞ見りゃわかる。今お前は――この大陸そのものを絶滅に追いやったんだぞ!?」

 本来、それに答える時間などない。

 されど。

 

「――そんなことは百も承知だッ! これは聖杯“戦争”。如何に崇高な理想を掲げようと、忌むべき戦争であることに変わりはない!

奪うために奪い! 殺すために殺し! 敗者は全てを失い、そこには何も残ることはない!!」

「……!!」

「目的のため、手段を選ばぬことを“悪”だとするならば、此の身は“善”で居られるほど強くなかった。されど、途中で全てを投げ出すことだけはできぬ。ならば此の身にできることは、犠牲とした全てへの贖罪を背負い、此方を倒すことのみだ……!!」

 

 咆哮と共に、我が背へ幾何学的文様が刻まれていく。

 紋は螺旋を描き、次第に外縁から内核へと回帰する。

 流れ込むは、圧倒的な力。

 

「是こそは、我が罪にして未来たる無限の刻印。即ち、『フラクタル・ウロボロス』……!」

 

 通常のウロボロスは、「完璧だが閉じた円環」。

 物質世界の限界の象徴。

 その中では変化は自己完結し、停滞へと繋がりかねない。

 しかし「自己相似的に無限の細部が生まれる」フラクタルにおいては、全体と部分が無限に反響し合う構造たりうる。

 己を食み、自己を生成し続ける竜の内的構造は無限に展開していく。

 それは「完全な円環の中に宿る無限の生成」である。

 儀式の完成により、此の身が「世界そのもの」となることで、剪定を超えた終わりなき無限の円環は成り立つ。

 

「……そういうことか、何となくだが理解したぜ。世界を産み直す儀式の完成が近付いたことで、自分自身の“階梯”を一段上げやがったのか!」

「然り。もはや、此の身は竜世界の真なる祖と定義されつつある。――戦闘前の質問の解は、もはや書き換えられたとだけ言っておこう……!!」

 

 語り終えた刹那、もう片方の首は既に動いていた。

「――『三首は咆動す』(ゴルィニシチェ・トレーグラス)!!」

 スラブ神話の三頭竜伝承を元にした、火・毒・雷の強烈な三属性攻撃。

 その奔流が、三つの角度から回避軌道を塞ぐように襲い掛かった。

 続けて追撃を繰り出そうとした――次の瞬間、「予測」の景色が映り、

「纏繞せよ、『園護蛇環』(ラドン・ペリボロス)……!」

 ヘスペリデスの園の守護竜に由来する、自律防御の術へと切り替える。

 無数の蛇状魔力線は、自動的に無数の弾幕を弾いていく。

 

「自律攻撃には自律防御だってか。大したカバー力だなオイ」

 晴れゆく黒煙の中心に立つタラスクの周囲には――重装歩兵(ファランクス)のごとく陣形を組む、二十機近い「エアリアル・ドライブ」が飛行していた。

 本来あの礼装は十二機が基本数であり、二機をアルヴェイルに貸し出している状態だったはずだが、

 

「“三日間”を有効活用したのはお前らだけじゃない、ってこった。オーバーロードするほど魔力炉を回し続けた成果が――こいつらだッ!!」

 

 その背から、さらに光の粒子が噴き出す。

 一機、また一機――輝きを伴い、礼装が次々と生成され、宙へ舞った。

 標的を見定める天使の群れがごとく、空に光輪の軌道を描く自律砲台が……装備状態のものを含め、計四十機。

 それは、倍以上に増えたという事実以上の意義を持つ。

 

「――『天翼陣』(レギオン・フォーメーション:オメガ)。当然、聡明なお前ならこの数の意味は理解しているよな?」

「……無論。キリスト教における“四十”は、試練と浄化の象徴。洪水、荒野、そして救世主の断食。四十の時は、再生の刻へ至るために耐えねばならぬ数。やはり、此方の存在こそが我が未熟を乗り越える最大の試練というのならば」

 

 此方が、聖を以て祈りを示さんとするのならば。

 

「――その祈り諸共、全身全霊で叩き潰すまで。我が“創世”の第一歩として!!」

「……いーだろう。ならば、ワシから言えることは一つだ」

 

 聖女は四十の羽根をはためかせ、飛翔する。

 そして、力強く拳を打ち鳴らした。

 

「――悔い改めさせてやる。お前の傲慢と、その罪をッッ!!!」

 

2020.04.06 10:44 UTC / 南極 視点:セイバー

 

「――『蒼雷天翔』(ツァンレイ・ティエンシィアン)!」

『竜闘法・七重の螺旋』(ムチャリンダ・プラーナ)……!」

 

 キャスターの二つの首が、それぞれ別の詠唱を行う。

 片方は先程も使っていた武術だが、三日で効果が切れたから改めて掛けたのだろう。

 ……奴の竜種魔術には「再使用に相当な時間がかかる」という弱点があるが、三日経過でその制約も解かれた可能性が高い。

 それより、問題はもう片方だ。

 術を掛けた途端、こちらの砲撃をキャスターは信じられない速度で全弾回避してみせた。

 全身に雷を纏い、常に追い風に乗ったかのような速さ。

 思い起こさせるのは、アーチャーの恐るべき回避性能だった。

 さっきの戦いで、これを使ってこなかったのは……

 

(恐らく、“固有名詞を冠する術”の同時運用は難しいからなんだろう。だからこそ、文字通り“頭数”を増やした)

 

「――『竜翼・翔螺』(ヴァーユ)ッ!」

『祝撃』(ベネディクト)ッ!!」

 

 キャスターはワシの拳撃に「予測」を噛み合わせ、予め攻撃を「置いて」きていた。

 更に以前の倍以上の速度で、打撃が途切れることなく続いていく。

 ランサーとの戦いでも思ったが、「意志の統一ができている多頭生物」というのは本当に厄介だ。

 神話において、その手の怪物は「そもそも知能が高くない」「それぞれの頭に別の性格があり、仲違いをすることもある」といった弱点を突かれて倒されるイメージだが、

 

(当然、奴はそうじゃない。二つの脳で同時に思考し、同調させ、一切のブレなく体を動かせているッ!)

 

 もちろん、後天的にそれを行ったことによるデメリットはあるだろう。

 生物の構造ってのは、そんなに単純じゃない。

 脳から神経やら何やらが色々繋がって……というのを、“ちゃんとやっている”のがあの術だ。

 現状、二つの意思がありながら問題なく一つの体を動かせている方がおかしいんだ。

 

(――意志が強さに直結するのなら、脳が二倍で強さも二倍ってことじゃねえか。そりゃアサシンもランサーも強かったわけだ……!)

 

 そう考えた次の瞬間、キャスターが急に前方にスライドする。

 風に乗り、そうと表現するしかない動きのまま『竜尾・廻螺』(ナーガ)を繰り出してくる。

 だが、「エアリアル・ドライブ」の自律動作はかなり高精度だ。

 複数の砲口がキャスターの動きを常に追う以上、ワシもまた奴の動きを予測できる。

 既に『握恩』(グラティア・グラップ)による握撃のカウンターを、

 

「――連呪。『逆鱗』(Gramfjǫðr)『血焔鼓動』(Blóðlogrhjarta)『黒翼の嵐刃』(フェルニゲシュ・ヴィハルカール)ッ!」

「くおッ!?」

 

 更に、読まれていた。

 キャスターが連続して発動したのは、三つの術だった。効果はそれぞれ、

 「鱗を逆立たせ、自分を攻撃した相手に反撃しつつ自らの攻撃力を上げる」、「血を沸騰させ、体温を焔のように異常加熱させる」、「ハンガリー民話に登場する竜王を基にした、翼から風の刃を叩きつける」術だった。

 ワシのカウンターに対してカウンターで返し、零距離で追撃するコンボ攻撃。

 これでは、「エアリアル・ドライブ」の防御陣形は間に合わない。

 

「だが、避けらンねぇのはお前も同じだ! 『飛翔陣』(ソアリング・フォーメーション)へ移行ッ!!」

 虚空から『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)が現れ、礼装と融合する。

 剣の速度をジェット噴射で底上げするための陣形だが、頭数が増えている今ならば――ワシが剣を握らずとも、斬撃を繰り出すことさえできる!

 

「叩ッ斬れ! 『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)ッッ!!」

 ジェット噴射による大回転切りが、真っ直ぐキャスターへと飛行する。

 同時に行われる、他の礼装による一斉砲撃。

 風の刃に晒されようと、奴の尾を掴んだまま離さない。

 『逆鱗』は鋭く逆立ち、掴むたびに掌を裂く。

 だがそれでも、ワシの握撃は緩まない。

 圧に耐えきれず、奴の鱗の隙間からも血が滲む。

 

(――いくらワシの行動を『予測』できようと、礼装の自律攻撃を読めんことに変わりはない! まずはその増えた首からぶった切ってくれるッ!!)

 

 キャスターの『黒翼の嵐刃』(フェルニゲシュ・ヴィハルカール)『園護蛇環』(ラドン・ペリボロス)による防御が、砲撃と斬撃を防ごうとする。

 だが砲撃はともかく、宝具による攻撃を魔術で防ぐのは難しい。

 魔術である以上、「より強い神秘には勝てない」という基本からは逃げられない。

 切っ先に絡みつく無数の蛇首は、問答無用で刈り取られていく!

 

「――その程度は承知の上。此の身の答えはこうだ……『蛇咬摂命』(ビショーネ・ディヴォラトーレ)!」

「続呪――『無尽にして無終』(アナンタ・プラヴァーハ)!!」

 

 詠唱と共に、二種の術が発動する。

 突如、剣の軌道は「吸い込まれる」ように変化した。

 首ではなく、キャスターの口元へ向けて。

 

「……まさか、牙で受け止めるとでも!?」

「否。“呑み込む”のだ、その斬撃のエネルギーを!!」

 

 宣言と共に、キャスターの口が大剣を押さえ込む。

 出血こそあれど、両断できず刃は止まってしまった。

 

(ビショーネは確か、ミラノにある「人を呑む蛇」の紋章だろ!? 察するに、対象を概念的に吸い、呑み込む能力とみた。アナンタはヴァースキと同じナーガラージャだが、その大きさは宇宙と同等! 外見に変化は無ぇが、あの術は内部を“宇宙と同じサイズにする”ものだとしたら――!?)

 

「逆噴射だ! 戻れッ、『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)!」

 確かに、これなら「防いだ」わけじゃない。

 奴の体内で、ワシの攻撃の威力は限りなく弱体化されたのだ。

 「宇宙と同じ大きさの蛇の体内で、エネルギーを摩耗・消滅させる」ことで。

 喉元を過ぎるまでのダメージさえ許容できれば問題ないし、何より――

(このままでは、ワシの宝具すら呑み込まれかねんッ!!)

 

「大した判断力だ。しかし、此の身が一手先んじた――『石牢の視線』(ゴルゴネイウ・リトゥー・ブレマ)ッ!!」

「はぁ!?」

 

 ――極悪コンボにも程がある。

 「口で剣を受け止める」なんてすりゃあ、「必ず何かある」と警戒・対処する。

 奴は、ワシが絶対にそうすると踏んでいた。

 そうすれば、口元だけでなく顔全体を――目を、自然と見ることになる。

 

 本命は、そこで発動したもう一つの魔眼。

 既知の『緘毒の凝視』(イビルアイ・バジリスク)ではなく、初見の――「メドゥーサ」が持つ「キュベレイ」を基にした石化の術!

 【対魔力】でレジストこそできているが、その上で凄まじい「麻痺」と「重圧」が圧し掛かってくる……!

 

「ぐっ……だが、この程度……!!」

 姐さんの姿をそっくり真似ているためか、今のワシは【天性の肉体】スキルを獲得している。

 生物として完全な肉体は、どんな状態異常だろうと弾く。

 無論、限界はある。

 長く効果を受け続ければ、いずれは――!

 

「こン、のぉおおおおおおッッ!!!」

 周囲を飛行していた礼装が、次々と腕部へ装着されていく。

 ――奴の視線を外す最も簡単な方法。それは即ち……!

『黎明返』(オルトゥス・リヴァース)ッ!!」

 肘部のスラスターが一斉に火を噴き、天地が反転する。

 尾を掴んだまま、全身の慣性を利用して――キャスターを投げ飛ばす!

 間髪入れず、礼装による一斉砲撃が降り注いだ。

(あとは、自律飛行する『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)を呼び戻す! 刀身の輝きを盾にすりゃ、“凝視”は反射できるッ!!)

 

「だが……そのために、此方は距離を取らざるを得なかった。――走れ、『天攪の索』(ヴァースキ・パリヴァルタ)ッ!!」

 

 詠唱と同時に――何も、起こらない?

 そう思った瞬間、腕に白い綱のようなものが絡みつく。

 綱は、氷上に叩きつけられたキャスターの腕から――

 遥か上空を経由して「打ち込まれていた」のだ。

 

「――『丸胴潜影』(がんどうせんえい)。“野槌”とは、探そうと思えば見つからず、触れて初めて見つかるもの。真理もまた同じである」

「……何が言いてえ」

 

 キャスターは、野槌(ツチノコ)に由来する隠形の術まで使っていたらしい。

 それも、成層圏を往復できる長さの武器を隠せるほどの。

 

「仮に、此の身が悠々と勝利を収めていようと――この世界は早々に剪定されていた可能性が高い。抵抗され、追い込まれたからこそ今がある。……互いにな」

「……そうかもしれんが、時間を掛ければ不利になるのはお前の方だろ。無駄話なんぞしてる余裕はあるのか?」

 

 そう言いつつ、綱の強度を確かめる。……駄目だ、力づくでは切れそうにない。

 インドの神話において、乳海攪拌は千年続いたという。

 その綱の役割を務めた、ヴァースキの長さと強度がこの術に反映されているとすれば……解くのは至難の業だ。

 キャスターが綱を軽く振ると、その長さはワシとキャスターの距離……およそ十メートルに縮む。

 

「無論。それは必要な時間だからだ……『蛇託寂声』(ピュートーン・テオマンティア)の“予言”が完成するための……!」

 

 

 未来を予言する術、『蛇託寂声』(ピュートーン・テオマンティア)

 その由来は、ギリシャ神話に登場する蛇の怪物ピュートーンにある。

 彼がデルフォイの神託所の番人、もしくは神託を授ける役割だったことに由来するが――

 キャスターは、この術を一度も使用したことはなかった。

 なぜなら、「予言」で決定した事項は術者自身にも覆せないからである。

 神話においてピュートーンは、自分が「レートーの子によって殺される」という予言を受けた。

 彼は殺されるくらいならと、ゼウスの子を身籠っていたレートーを追い回す。

 もしくは、嫉妬したヘラに刺客として送り込まれたとも。

 だが、レートーはゼウスとポセイドンの助けにより出産に成功してしまう。

 太陽と月の神、アポロンとアルテミスを。

 かくして、生まれた当日に弓を手にしたアポロンは、母親の恨みを晴らすことに成功したのだという。

 ――即ち、ピュートーンは自らの予言によって滅ぼされている。

 その末路を考えれば、キャスターが使用を躊躇うのも道理であった。

 

 しかし、この予言は「全てを見通す」万能の術ではない。

 見えるのは、点在する断片。

 未来の「核」となる出来事や結末は避けがたいとしても、そこに至る過程――「どう解釈し、どう繋がるか」は行動次第でいくらでも変わり得る。

 これまでキャスターは、徹底的にリスクある術の使用を避けてきた。

 だが、もはや余裕を言っていられる状況は過ぎている。

 

(運命は従うものではない。手繰り寄せ、従えるべし。たとえそれが、いずれ埋伏の毒と化そうと――その毒すらも呑み融かしてくれる……!)

 

 果たして、定めは記された。

 ある者の未来を、致命的に決定づけるものとして。

 







キャスターの竜種魔術リスト
固有名詞なし
・『血焔鼓動(Blóðlogrhjarta)』
竜の血が沸騰し、熱と魔力を全身に巡らせる強化術。短期間のみ、攻撃力が大幅上昇。

固有名詞あり
・『灼風創界・虚空廻天(テュフォン・アナゲネシス)』
Typhon Anagenesis。
ギリシャにおける怪物の祖にして機神の竜、テュフォンを基にした術。
指定した環境の書き換え、即ちテラフォーミングを行う。
その地が南極であろうと、森林への変更すら可能。

・『三首は咆動す(ゴルィニシチェ・トレーグラス)』
Gorynych Troeglas。
3方向に分裂した魔力射線を同時展開し、それぞれ異なる属性(火・風・雷)で襲い掛かる。
スラヴ神話の三頭竜、ゴルィニシチェを元にした魔術。

・『園護蛇環(ラドン・ペリボロス)』
Ladon Períbolos。
無数の蛇状魔力線が術者を中心に円環を描き、侵入者を感知次第自動で迎撃する“自律防衛陣”。
ギリシア神話。ヘスペリデスの園を守る多頭の竜、ラドンを基にした術。

・『蒼雷天翔(ツァンレイ・ティエンシィアン)』
Cāng Léi Tiān Xiáng。
風を巻き起こし、雷光を纏うことで空気抵抗を打ち消す。
四神の一角、青竜を基にした身体強化の竜種魔術。
飛行速度・旋回性・反応速度が大幅に上昇。
周囲の空気を帯電させ、物理的攻撃をしてきた敵の動きを鈍らせる副効果を持つ。

・『蛇咬摂命(ビショーネ・ディヴォラトーレ)』
Biscione Divoratore。
敵の生命力や魔力を“呑む蛇”として吸収する。物理接触不要、視線の射程内で吸引可能。
イタリア・ミラノの象徴にして、「人を呑む蛇」のビショーネを基にした術。

・『無尽にして無終(アナンタ・プラヴァーハ)』
Ananta Pravāha。
ヒンドゥー神話における無限の蛇、アナンタを基にした防御魔術。
受けた攻撃を「宇宙と同じ大きさの蛇の体内」で循環させ、その中でエネルギーを摩耗・消滅させる。
ただし、「自分の体内に呑み込んでいる」事実に変わりはないので、それ以前の口内や喉などは自然とズタズタになる。

・『石牢の視線(ゴルゴネイウ・リトゥー・ブレマ)』
gorgoneiou lithou blemma。
ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹の末妹、メドゥーサの伝承を元にした術。
視界に捉えた相手を「石化」させる魔眼。ただしこの聖杯戦争におけるサーヴァント相手には効果が薄いことから「麻痺、重圧」のバステを与えることに特化させている。

・『天攪の索(ヴァースキ・パリヴァルタ)』
Vāsuki Parivarta。
乳海攪拌の綱の役割を果たしたナーガラージャ、ヴァースキを基にした竜種魔術。
伸縮自在の綱を出現させ、武器として操る。この綱は「千年間、宇宙の中心にある海をかき混ぜられる」ほどの強度を持ち、その長さまで伸ばすことができる。
ただ、「武器として扱える物理的限界」があるためキャスターが伸ばせるのは事実上数キロまで。

・『蛇託寂声(ピュートーン・テオマンティア)』
Python Theomantia。
神託を行い、未来を「視る」術。
術者にとって良い未来でも悪い未来でも、その時点で見た景色は未来において「確定」してしまう。解釈次第でそれは己の望む形へと調整できるかもしれないが、「完全に無かったこと」にはできない厄介な術。
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