◆
2020.04.06 11:02 UTC / 南極→再現:原初の大地 視点:ルーラー
「収束版、
A――Aaaaaa、aaaaaa――!!」
「対処する――
「La――aaaaaaaaaaaa――ッ!!」
激戦の続く、灼熱の上空。
二つの「歌」がぶつかり合い、対消滅する。
その直後、奇妙なことに戦場は一瞬の沈黙に包まれた。
(この感覚……まさか、逆位相の響きを!?)
音は空気を振動させ、「波」として伝わる。
そこに生じる「山と谷」に対し、全く同じ強さで完全に逆の位相が重なった時――互いを相殺して、無音が生まれる。
いわゆる、ノイズキャンセリングと呼ばれる現象だ。
キャスターの、ハンガリーの竜種を起源とする術がそれを発生させたのだろうが――
ここから分かることは二つある。
一つ目は、キャスターはわたしの「行動の予測」を相当に進めているということ。
そうでなければ、わたしが放つ音に予め「合わせる」ことはできない。
二つ目は、キャスターは予想以上に歌が上手いということ。
かの鮮血魔嬢を彷彿とさせるソニックボイスは、「完璧な音程調整」を伴って放たれていた。
相手が「音」である限り、宝具であろうと関係なく撃ち消すことができるほどに。
思わず「何故その才能を、もっと別のことに使わなかったのか」と感じるほどに……!
「――理解したか。その宝具は、もはや此の身には通用しない」
「追呪――
そして放たれる、もう一つの暴風。
かつて嵐神プルリヤシュを倒し、その力を奪い取った竜のブレス。
歌を吹き飛ばし、数多の飛竜たちを強引に加速させる追い風として、それは機能している……!
「させる、か……っ!」
光が走り、「SSH-009 U4.MI DA.AB.RU.TI」――翼部に搭載された風力制御ユニットが作動。
暴風の勢いを下に逸らし、わたしは更に上へと飛翔する。
すぐ真下を通り過ぎていくワイバーンを始めとした翼竜。
だが次の瞬間、信じ難い事実を「思考補助ユニット」が告げる。
――頭上に、大地があった。
上空を覆うのは、赤黒く乾いた岩盤。
天井から垂れ下がる、溶岩の滝。
まるで、この場所が「火山の奥底」になったような――
「まさか、
「然り――“書き換え”は、未だ終わらず。もはや逃げ場はなし」
「此方を倒さんがための“術の連鎖”……今此処に、解放する。第一呪――
詠唱と同時に、突如「上にある大地」が膨れ上がった。
現れたのは――岩で出来た、無数の「槍」。
それらは、まるでわたしに「吸い寄せられる」かのように襲い掛かった。
「――防げ、『ラフム』ッ!」
当然、喰らってやる義理などない。
左腕の「SSH-005 DLAḪ.MU」が煌めくと、半月型の巨大な光盾が展開された。
「泥」の名に相応しく、この盾はただ硬いだけではなく「攻撃を受け止め、柔らかく弾く」。
――「ティエン=ティエン=ヴィル」はマプチェ族の神話に登場する「大地を司る蛇神」。
海を司る「カイカイ=ヴィル」と対立し、カイカイ=ヴィルが大洪水を起こした際には、大地を盛り上げて人々を守ったという伝承がある。
あの「大地の槍」は恐らく、わたしのような「海神」への特効攻撃。
「最終的にティエン=ティエン=ヴィルが勝利した」神話の通り、海を「干上がらせる」概念系の術。
キャスターが「ティアマトを倒すための術」を本気で組んでいたとすれば、この想定は正しいはず。
そしてそれは、未だ序章に過ぎない。
「第二、第三呪――
片方は、以前も使った「配下を自爆させる術」。
もう片方は――ッ!?
(凄まじい勢いで引き寄せられていく……! 重力操作の魔術か!?)
「バクナワ」は、フィリピン神話においてかつて七つあったとされる月を六つ呑み込んだ、“月食の原因”とされた海竜神。
――つまりバクナワは、月六つ分の重力を内包していると解釈できる……ということか!?
「――然り。海の潮汐を起こすは月の引力。“海”たる此方が逃れること能わず……!」
キャスターの声とともに、世界が歪む。
吹き荒れる暴風の中心へと、わたしの身体は強引に引き戻された。
周囲では無数の「自爆寸前」の飛竜たちが、赤黒い軌跡を描きながら迫り来る。
加えて、先程の
自動防御能力を持つ『SSH-008 GIR.TAB.LU.U18.LU』がある程度は防ぐが、限界はある。
仮に飛竜を全て撃ち落とせたとしても、上下から向かってくる「大地の槍」は躱せない。
……もはや猶予なし。わたしは、
「――鳴動せよ、『クサリク』ッ!!」
『SSH-011 KU.SA.RIK.KUM』を解き放った。
それは圧縮した光の粒子を、自身を中心として周囲に解放する「天殻」の兵装。
二度しか発動できないという代償はあれど、強力な攻防一体のエネルギーフィールド。
自爆攻撃もろとも、全てを吹き飛ばす一撃。
――だが。
「言ったはずだ。“逃げ場は無い”と」
「――第四呪、掲揚。
◇
それはスラヴ系の民族、ヴェンド人の伝承に語られる竜神の名。
「黒い竜」にして「魔術・呪術の神」。
「ヴェンド‐サクソン戦争」において、ヴェンド側の旗印として掲げられていた図像に描かれし――「虚構の神」。
現代においてジルニトラは「実在した古代スラヴの竜神」ではなく、十八世紀の学者・作家が断片的情報を再構成し、考案した「疑似神話」の神だとされている。
故に、それを基にした術が掲げし「旗印」がもたらすのは強化や加護ではない。
虚構の神による、「他者を害する」という単純極まりない呪い。
人が創り、人が利用し、人が忘れた罪への報復の呪詛。
「与えられたダメージをそのまま転写し、返す」――持たざる者の、最後の特権。
自身がどれだけ空虚であろうと、「自身を害した相手は、間違いなく実在している」。
――故にそれは、「創造神」に対しての致命的カウンター足り得る一撃だった。
◆
2020.04.06 11:10 UTC / 南極→再現:原初の大地
キャスターは爆風と粒子が晴れるのを待ちつつ、
「自爆」されてしまっては、「キャスターが配下の竜たちを害した」として「報復」の対象になりかねないからだ。
(……
人類の最たる愚行の一つを想起しつつ、キャスターは第五、第六の術を構える。
キャスターの配下が負った傷をそのまま返すため、ルーラーの防御をも容易に貫通するが――
「キャス、タァァaaaaaaaaaaaaaaッ――!!」
「肉体」は傷つけられても、「装備品」や「機械」への干渉はできない。
咆哮と共に、大量のミサイルが飛来する。
更に、粒子の中から光翼の軌跡が飛び立ったのがキャスターには見えた。
「――肉体は動かずとも、“鉄翼”を強引に羽ばたかせたか」
それらはキャスターの「重力」に引き寄せられ、猛スピードで迫る。
だがその軌道は、あまりにも直線的だった。
「――迎撃遂行。第五呪、
「……連呪続行。第六呪、
いつの間にか、岩盤には無数の「石竜の頭部」が突き出している。
中世教会の屋根に並ぶ「ガーゴイル像」の基となった、「火と水で町を脅かし、聖人によって焼き殺された後、首だけ残った竜」――「ガルグイユ」の伝承を模した術式。
そして、もう一つ。
倒れ伏していた竜の死骸が、首だけを持ち上げた。
虚ろな眼孔が一斉に空へ向けられ、この世ならざる声が口腔から漏れ始める。
その残響を司るは――『ゴエティア』における序列二十六番の大侯爵を冠した術。
死体を移動させ、死霊を呼び集める力を持つとされた三首竜の悪魔、「ブネ」。
この荒野と、南極に散った生命の呻きや叫びが寄り集まり――
赤。青。黒。
三色の咆哮が、一点に向けて放たれた。
(全方位からの攻撃は、一方向の「光盾」では防ぎ切れぬ。ならば再度「天殻」を使うか? だが、あの威力では再び配下を巻き込み、「報復」を誘発する。それとも、損傷覚悟で突撃をかけるか……それならばそれでよし。宝具を失ったティアマトの再生能力はないに等しい。“予測”の通り、第七の呪で仕留めるのみ)
キャスターは、「とどめ」の術に向けて照準を絞り始める。
だが、彼の「予測」の景色は少しずつ歪み始めた。
(――情報を更新ッ! まさか、未だこんな機能を……!)
「SSH-001 MUŠ.MAḪ」――「黒翼」が放つ光粒子が、『SSH-006 U4.GAL.LA』のミサイルにまとわりつき、溶け合うように融合していく。
大量の粒子は立体映像のように、「姿」を投影する。
――即ち、ルーラー・ティアマトの残像を。
キャスターの眼前には、無数のティアマトの分身が飛来しつつあった。
たとえ本体は一つに過ぎないとしても、恐るべきことにその速度は同等。
照準は合わず、いくら銃口が多くとも「全方位攻撃」はこれでは成立しえない。
何より、キャスターの「予測」は一人しか目標にできないという制約が致命的に響いていた。
(此の身の目では、正誤の判別がつかぬ……ッ!)
理屈の上では判別方法はいくらでもある。
例えば、「呪いを受けているのは本体しかない」。
だが――あまりにも相手の数が多く、あまりにも相手が速すぎた。
それを補える飛竜の配下たちは、前線においては全滅している。
「ユルルングルの化身」が呑み込めば蘇生の見込みはあるが、今は間に合わない……!
(されど、所詮は残像。此の身に攻撃を仕掛けられるのは本体のみ! いずれにせよ、対処は可能――)
その瞬間、キャスターの脳裏に電流が走る。
ティアマトには、現状を一気に覆す手段があると。
この「分身」は、全てそのための布石。
ならば、「キャスター自身の攻撃が配下を巻き込む」ことを気にしている時間はなかった。
「まずい……! 吹き飛ばせ、
「いいや、もう遅い――!」
キャスターの詠唱よりも早く。
ルーラーの全ての「分身」が、口を開いた。
さながら、その様は――
超大人数の、合唱団そのものだった。
「――
「「「Aaaaaa――
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――ッッッ!!!」」」
その正体は、ミサイルに仕込まれたスピーカー機能。
ルーラーの声を大出力で拡大するのみならず、音程の調整、音声加工を行い、まさに「合唱」として成立させていた。
逆位相による相殺――それは、ある地点へ届く合成波形と、そこへ重ねる反転波形との「一対一」で成り立つ現象。
現実のアクティブノイズキャンセリングも同様で、一点の音は抑えられても、無数の移動音源が場所ごとに作る異なる音場を、限られた発声源だけで空間全体にわたり消し去ることはできない。
二つの口しか持たないキャスターの「二重奏」では、戦場を包む大合唱のすべてを相殺しきれなかったのだ――!
「ぐ……ぬッ……ぐうああああああ……ッ!?」
キャスターだけではない。
「配下」の竜たちも苦悶に沈んでいた。
ルーラーの「収束」ではなく「拡散型」の宝具がもたらしたのは、ダメージではなく強力なバッドステータスの嵐。
狂化の影響下にあろうと、大量の弱体耐性ダウンとスタンを重ね掛けされては、下級の竜では身じろぎすらできない。
無数の竜たちは軒並み地に伏し、呻き声を漏らす。
だが、一切の「報復」は発生しない。
何故なら、あくまでもそれは「ダメージ」ではないからだ。
「――行くぞ、『ムシュフシュ』……!!」
ルーラーは、無数の分身を伴ってキャスターへと迫る。
その手には、「SSH-004 MUŠ.ḪUŠ」が刻印された大剣。
「斬撃」ならぬ「刺突」は、報復で生じた身体の不調にも左右されぬ最短動作。
「ぐ……がっ……!!」
刃はそのまま、キャスターの胴を深々と貫いた。
しかし――噴き出す鮮血と裏腹に、その表情に淀みはなく。
ただその眼が、赤々と輝きを放った。
「……作戦を変更。予呪、
「この痛みは、甘んじて受ける。されど――
キャスターが詠唱を行った途端――その体は炸裂した。
(――何を考えている!? 配下だけでなく、術者当人まで自爆を……!?)
だが、ルーラーの困惑が続く間は与えられなかった。
ポーランド・クラクフに伝わる、人や家畜を食う「ヴァヴェルの竜」――もしくは「ホロファグス」は、彼を倒すために立ち上がった靴職人が仕込んだ「動物の皮に硫黄を仕込んだもの」を呑み、最終的に内側から爆発して死亡したという。
その結末を模した術は、「自爆」によって自身が受けていた――即ち「呑み込んでいた」全てのダメージ、バッドステータスの蓄積を威力に変えて炸裂させる。
即ち、先程の大合唱版『奏で謳うは厄災の調べ』による影響全てを――!
「くッ……『ギルタブリル』、防御を……!」
ルーラーの自動防衛は、一定の閾値を超えるまで攻撃とダメージを無効化する。
しかしそのシステムは、無情な赤アラートを示しつつあった。
このままでは、次の一撃を耐えきれないと。
「――然り。此処が、“連鎖”の終着と知れ……!」
姿を一目見ただけで一族郎党滅びる、夜刀神を殺そうとした家は必ず滅びる、頭を落としても頭だけで仇討ちに来る――
その伝承を元に、キャスターは「自身を見た」ルーラーに「祟りの印」を刻んでいた。
彼女が、自分に致死の一撃を与えたことで効果が発動。
祟印を媒介に、術者の怨念・魔力が加害者の背後へと流れ込み、蛇の群れが絡み合うようにして術者の肉体を再構成。
ルーラーを背後から羽交い締めするような形で、「報復の一撃」のための復活を果たしていたのだ。
そしてキャスターが構えたのは、南部アフリカ、特にソト族に伝わる蛇神――「モニョヘ」の伝承を基にした術。
モニョヘは「巨大な蛇の皮を纏った存在」として語られ、最後には人間の姿に変わるという話が多い。
即ち、竜種相手に使うことで「竜を人へと貶め、その力を分離させる」術としてそれは機能する。
(ルーラーの強さの源は、最大級の「魔力炉心」。それを失えば、兵器の類は電源の供給を全て断たれ、沈黙する! ――行動の「予測」に狂いなし。回避は不可能ッ!!)
「第七連鎖ッ!
ゼロ距離から叩きつけられる必殺の魔術。
避ける余地など、微塵もない。
「――それは、どうかなッ!?」
――本来であれば。
声よりも先に、庇うために「彼」は光の中へ割り込んだ。
キャスターとルーラーのわずかな隙間へ潜り込めるほど、更に小さな体躯で。
「なッ!? 馬鹿な、その姿は……!?」
回転しながら、術をまともに受けたはずの彼は平然と降り立つ。
甲高い声で、年若い少女の――「子供の姿」をしたそれは口角を上げた。
「――どうやらお前の読み通りにできたようだぜ、バーサーカー。調整に時間がかかり過ぎたかと思ったが、キャスターの“予測”を掻い潜るにはちょうどよかったらしい。サイズ的にもな」
背には礼装、「エアリアル・ドライブ」の翼。
両拳には金属の籠手。
足元には――脚を格納し、ジェット飛行する亀のごとき竜の姿。
即ち、タラスクの本体。
「――セイバー・タラスク【マルタフォーム・リリィ】だってよ。冗談もここに極まれりだが……これでお前のコンボもご破算だぜ、キャスターッ!!」
◆
あ? 今度は何をやらかしたのかって?
おいおい、おかしなことが起こったら全面的に俺のせいだと思っていないか?
……素晴らしく大正解だよ、ルーラー。
セイバーから、俺に向けて念話が来てな。
スキル【悪魔の証明】で、キャスターがどんな術を使うつもりなのか教えろってさ。
あのスキルは、俺にすら完全には制御できない「常識の埒外の情報収集能力」だ。
しかし奴は言った。
「契約魔術」による「願いの成就」を被せればいけるだろ……と。
本来なら、前の「三つの願い」を叶えた時点でそれ以上をやるつもりはなかったんだが……
セイバーの「欲望」が、狂おしいほどに美しくてな。
ついつい親心って奴が働いて叶えちまったよ。
無論、「次はない」と釘は刺しておいたが。
悪魔の力に頼りすぎたらどうなるかなんて、そりゃもう分かり切ったことだからなぁ!
さて――セイバーのあの姿は、「竜形態」と「ヒト形態」の両立のため、後者に割くリソースを最低限にした結果だ。
変化の術により竜種の成分をほぼ置いてきた結果、
結果、ギリシャの「機神」とその人型端末の関係のような……
いや、それよりも「巨大・凶暴な怪物本体と、可憐な少女体の疑似餌」に近い「あーそういうモンスターいるよねー」って見た目になっちまったのだが。
さらに奴の両足は今、竜形態の甲羅にアタッチメントで「歩けない」ように固定されている。
雷神トールと同じ「人型」の姿を定義すれば、「足を動かさず、歩いていない」ことを明確にできるからな。
しかし、キャスターの闘志は未だ健在。
竜種魔術のストックもまだある。
いよいよもってお前たちを葬り去るべく、何か手の込んだ準備をしている様子。
お互いに終幕が見え始めた今、一体何を為すのか――最後まで、楽しんで見届けさせてもらおうか。
キャスターの竜種魔術リスト
・『雷奏狂鳴(サカーニィ・ヴィハルハング)』
sarkany ViharHang。
空気振動と雷撃を重ね合わせ、敵陣に“音の衝撃波”を放つ。
ハンガリー伝承の竜、サカーニィを基にした竜種魔術。
「空気そのものが帯電する」ため、この術を受けた者だけでなく、その地点を通った相手はスタン状態となる。
どこぞのエリちゃんの影がちらつくが、源流はこっちである。
・『双渦の咢(イルルヤンカ・シャルマ)』
Illyanka Saruma。
かつて嵐神プルリヤシュを倒し心臓と眼=神としての力を奪ったイルルヤンカシュの逸話を元に、激しい竜巻や嵐を伴ったブレスを叩きつける。
それ以外に特殊な効果を持たないが、むしろ変に効果を付けるより「単純に威力を強めた」術もある方が良い、とキャスターは考えている。
・『隆起せよ、悠久の丘(ティエン=ティエン=ヴィル・アンツ)』
Treng-Treng Vilu Antü。
南チリ・アルゼンチンの先住民族 Mapuche(マプチェ)の神話に登場する「大地を司る蛇神」、ティエン=ティエン=ヴィル(トレントレン・ビルー)を元にした術。
伝承においてティエン=ティエン=ヴィルは海を司る蛇、カイカイ=ヴィル(カイカイ・ビルー)と対立しており、海の蛇が人間の不義・感謝なき態度に激怒して大洪水を起こした際、地の蛇であるティエン=ティエン=ヴィルが大地を盛り上げて人々を守ったという。
このことから、「海から大地を隆起させて地面を増やす」だけでなく、「海神・水神及びその関係者」への特効攻撃となる「大地の槍」を地面から隆起させる術となっている。
・『六月呑みしは彎曲の蛇竜(バクナワ・アニムブアン)』
Bakunawa Anim Buwan。
フィリピンの神話・民間伝承に登場する竜、バクナワを元にした術。
ヴィサヤ地方ではかつて七つの月が空にあったが、バクナワがその月を次々と呑み込み、人々は月を守るために鍋や金属を叩いて大音響を起こし、バクナワを驚かせて月を吐き出させた…という伝承がある。
しかし、現在月が一つしかない以上「六つはバクナワが呑み込んだまま」なのである。
即ち、バクナワは「月六つ分の重力を有している」ことになるため、その重力によって「相手を引き寄せる。海の満ち引きは月の重力によって操作している以上、「海の属性を持つ相手」に対しては覿面に効果を発揮する。
・『虚の黒神はここにありて(ジルニトラ・ファウシヴィ・チャルヌィ・ブラスク )』
Zirnitra, fałszywy czarny blask 。
スラヴ系の民族、ヴェンデ人の伝承に語られる竜神「ジルニトラ」が元になった術。
「黒い竜」にして「魔術・呪術の神」、ジルニトラの図像は「ヴェンド‐サクソン戦争」においてヴェンド側の旗印として掲げられていたという伝承を基にした、軍団の運用の際に使用する黒魔術。
ただし、ジルニトラは「実在した古代スラヴの竜神」ではなく18〜19世紀の学者・作家が断片的情報を再構成し、考案した「疑似神話」であるとされる。
故に、虚構の神が真に齎すのは「加護」ではなく「他者を害する」という呪い。
人が創り、人が利用し、人が忘れた罪への報復。
「加護」を受けた自身の「配下」を倒した者に、与えたダメージをそのまま返す。
・『竜顔楼壁の百咆(ガルグイユ・オ・サン・ルジスマン)』
Gargouille aux Cent Rugissements。
フランスの聖人、ルーアンのロマヌスによって討伐された竜「ガルグイユ」の伝承を基にした術。
ガルグイユは口から火を吹き、水を吐き出して洪水を起こすことで恐れられた――が、ロマヌスはガルグイユを捕らえたのち焼き殺したが、首から上が焼け残ったためにその首をルーアンの市壁の上に晒した。これが「ガーゴイル」の起源だという。
術の発動後「中世教会に並ぶガーゴイル像」のような石竜頭が次々と設置され、それぞれが「火炎のブレス」や「水流のブレス」をランダムに、もしくは術者の命令によって一斉に、敵に向けて放射する。
・『冥廟震わす竜哭の大波(ブネ・ラメンタティオ・スピーリトゥム)』
Lamentatio Spirituum。
犬・グリフォン・人間の、三つの頭部を持つドラゴンの姿で現れるとされる、『ゴエティア』における序列26番の悪魔、大侯爵ブネを基にした術。
ブネは「死体を移動させたり、召喚者が用意した墓地に配下の悪魔を集結させたりする力を持つ」ことから、死者の念や死霊などを集結させて、「竜の咆哮+死者の呻き、絶叫」として叩き付ける。
・『夜刀神・怨屍還噛厄祟式(やとのかみ・かえりばみたたりがえし)』
『常陸国風土記』行方郡の条に登場する蛇神、角の生えた大蛇「夜刀神」の伝承を元にした術。夜刀神は谷・低湿地に群れて棲み、その姿を一目見ただけで一族郎党滅びる、もしくは夜刀神を殺そうとした家は必ず滅びる/頭を落としても頭だけで仇討ちに来る、とも伝えられる。
『常陸国風土記』には「谷の葦原を新田として開墾しようとしたところ、夜刀神が群れをなして現れ、耕作を妨害した」と書かれている。
この術の発動時、「自身を見た相手」に対して祟りの印を刻み、継続ダメージを与える。
祟り印をつけた対象のうち、誰かが術者に致命打を与えた、及び殺害した場合にこの術は真価を発揮する。
祟り印を媒介に、術者の怨念・魔力が加害者の背後へと流れ込み、蛇の群れが絡み合うようにして術者の肉体を再構成。一度だけ、背後からの奇襲攻撃を行う(奇襲攻撃の成否にかかわらず、祟りの印はその時点で外れる)。
この際、相手が「神の領域を侵す者」、すなわち神秘=聖域や自然を開発・侵食するための技術や兵器を手にした存在であれば、奇襲への抵抗力は大きく低下する。
・『竜胆爆涛(ホロファグス・ヴァヴェルスキ)』
Holophagus Wawelski
ポーランド・クラクフに伝わる「ヴァヴェルの竜」を基にした術。
この竜はかつて「ホロファグス(ラテン語で丸呑みするものを意味する)」と呼ばれていたことが術名の由来。
伝承によれば、人や家畜を食う龍を倒すために一人の靴職人が「動物の皮に硫黄を仕込んだもの」を龍に食べさせたという。仕込まれた硫黄や松脂などが龍の内側で燃え、龍は強烈な喉の渇きを覚えて、近くの川へ大量に水を飲みに行き、水を飲みすぎた/燃えている硫黄を水が消しきれなかったために、竜は内側から爆発して死亡した……
ということで、それを元にした「自爆の術」である。
これまで負ったダメージや状態異常を概念的に炸裂させる。
その後、再生系の術で復活する必要がある。そうしないと普通に死にます。
・『竜を剥ぎ、人へ脱す(モニョヘ・メツィ・レトラロ)』
Monyohe Metsi Letlalo
南部アフリカ、特にソト族に伝わる蛇神、モニョヘの伝承を基にした術。
モニョヘは“巨大な蛇の皮を纏った存在”として語られ、最後には人間の姿に変わるという話が多くみられる。
即ちこの術は、「竜(蛇)の皮を剥いで人の姿へと変える」=人の姿へと化ける術でもあり、逆に竜相手に使うことで「竜を人へと貶め、その力を失わせる(分離させる)」としても機能する。
「対竜」としてのメタを張った術。