Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第6話:The Golden Curse

2020.04.01 15:30 UTC / バングラデシュ・マングローブ林 / 視点:シェリト

 

 連戦の傷を癒すために、ライダーは巨大なマングローブ林を休息の地に選んだ。

 「ふたつ脚」どもの痕跡がほとんど存在しない、魔力に満ちた静謐な密林。……竜にとっては、まあ理想的な隠れ場所なんだろう。

 でも、私にとっては……正直、あまり落ち着ける場所じゃなかった。

 せっかく元の棲み処から離れてきたのに、どこにも「輝き」が見つからない。川辺の石や濡れた根が多少光ることはあっても、「だからどうした」としかならない。私が欲しいのは、もっと冷たくて硬い煌めきだ。

 ここには、それが何もない。見渡す限り、濁った水と絡まった幹だけ――そんな、似たような景色。ふたつ脚の棲み処や落とし物どころか、綺麗な石すら見つからない。

 そのうえ葉擦れと水音が絶えず、耳が休まる暇もない。……退屈なだけならまだいいが、ここは私のような小動物にとって、危険すぎる場所だった。川にも陸にも、獰猛な気配がそこかしこに漂っている。

 もちろん、ライダーと比べればどれも取るに足らない存在だけど……彼の庇護から離れた瞬間、どうなるか分かったものじゃない。

 結局私はライダーの背中で惰眠を貪るしかできないのだった。

 

 以前ランサーの領域をキャスターの宝具で破壊して踏み込んだ時は、奴の異常な強さからライダーは素早く撤退した。

 それ自体は、正しい選択だったのかもしれない。

 

 でも、次はどうするのか? とはなる。

 いつか必ず、倒さなければならない相手だ。

 賢いライダーのことだし、何か考えがあると思うけど……

 

 そう思ったところで、私の意識はゆっくりと眠りの闇に沈んでいった。

 そして、夢を見た。

 もしかして、これはライダーの――

 

 

 すべての始まりは、まったくの偶然だった。

 

 昔々ある所に、オッテルという漁師がいた。

 彼はカワウソに化ける術を得意とし、川で鮭を狩る日々を送っていた。

 ある時、旅の途中にあった三柱の神々――ロキ、ヘーニル、そしてオーディンは、正体を知らぬまま一匹のカワウソを仕留めてしまう。

 ロキが投げた石に当たり、獣はあっさりと死んだのだ。

 そして神々は剥いだ毛皮を手土産に、とある館に宿を求めた。

 

 館の主、フレイズマルは烈火の如く激怒した。

 そのカワウソの皮が、自分の息子オッテルの成れの果てと気付いて。

 

 フレイズマルはその地の領主にして有力な魔術師だった。

 それも、ロキやオーディンという大神の力や武具を簡単に封じてしまうほどの。

 フレイズマルは息子たちに命令し、力の弱まった三柱の神々を束縛させた。

 そしてオーディンらを人質として、神々に対し「オッテルの皮の内側と外側を埋め尽くす量の黄金」という莫大な賠償金を要求する。

 命の償いを求めさせるだけでなく、神々に対して「完全なる屈辱」を与えようとしたのだ。

 

 運命は、その強欲を罰したのかもしれない。

 

 ロキは、ドワーフのアンドヴァリから魔法の黄金と「指輪」を奪うことで支払いを成立させた。

 その指輪「アンドヴァラナウト」には、「財産を増やす」という不思議な力があったからだ。

 だが、財産をすべて奪われたアンドヴァリは指輪に対し呪いをかけた。

 その指輪を持つ者には、永遠の不幸が――不和と破滅、そして死が齎されるのだと。

 

 こうして、運命の歯車は軋みを上げて回り始めた。

 ロキから黄金と指輪を受け取ったフレイズマルの息子、オッテルの兄ファヴニールは、そのあまりに眩い財の山に心を奪われた。

 やがて彼は、弟のレギンと共に父の殺害を決意する。

 レギンは彼を「恐ろしく、思慮深く、強かった」と評する。

 だが、彼の欲望という器は――

 本人が思う以上に、あまりにも深く底知れないものだったのだ。

 

 

 炉の火は落ち、赤い余熱だけが微かに燻っていた。

 館の奥、金細工で縁取られた箱の上。

 一つの指輪が、鈍い光を放っていた。

 

 その前に立つ、二つの影。

 どちらも、手に剣を握りしめたまま――

 言葉もなく、ただ床に崩れた父の亡骸を見下ろしていた。

 沈黙は夜よりも濃く、重い。

 

 やがて、その静寂を破ったのはレギンだった。

「父は、黄金の魔力に完全に取りつかれていた。覚えているだろう、兄さん。

革袋の外を黄金が覆った後、父が“まだ鼻ヒゲ一本分残っている”と言ってのけたのを。……その一本を埋めたのが、あの指輪だった」

 ファヴニールは、ゆっくりと頷く。

 その眼は氷のように冷たく、ただ箱の上の煌めきだけを見つめていた。

 

「そうだ。父は神々を相手にしてなお、決して妥協せず賠償金を支払わせる俗物だった。……だが、そこまでだ。富と支配欲で満足する程度が、奴の限界だった」

 兄の異様な気配に、レギンは眉をひそめる。

 

 そこにあるのは、計画を終えた安堵ではなく――まだ、始まっていない欲望の炎。

 

「俺は、さらにその先を行く」

 ファヴニールは、そう告げた。

 

「脆きヒトの身を捨て、呪いすらも呑み干して――世界そのものを我が手に掴む。……この黄金は、すべて俺の物だ」

 

 瞬間、指輪に伸びた手が触れる。

「兄さん、何を……っ!?」

 

 影が、膨れ上がった。

 床に伸びるそれは、レギンの影を呑み込み、館の壁すらも覆う。

 頭には角が、背には翼が。

 夜の闇よりなお深く、光を飲み込む鱗が蠢く。

 

 そして――

 巨躯は天井を突き破り、星すらも見えぬ夜空へと姿を現した。

 父の遺した財宝と黄金、そのすべてを簒奪して。

 

 

 黒く輝ける竜と化したファヴニールは、グニタヘイズの隠れ家にすべての財宝を隠した。

 黄金に呪われし指輪。

 人の心に畏れを刻むエーギルの兜。

 灼けた陽のごとき黄金の甲冑。

 宝剣フロッティを始めとした数多の武具たち。

 それらすべてを、誰の手も届かぬ洞へと抱え込んだ。

 多くの戦士が優れた武具と共に、その隠れ家に挑戦した。

 悉くが、竜の血肉と財宝を増やす結果に終わった。

 

 レギンの養子――シグルドが現れるまでは。

 

 勇者シグルド。

 亡き王シグムンドの息子にして、鍛冶師レギンの養子。

 彼はレギンから「財宝を守る竜」の話を聞き、その討伐を申し出た。

 レギンが、その竜の正体を一切話さなかったことを知らずに。

 

 シグルドは、母から父の形見である折れた剣を託される。

 それはかつてシグムンドが引き抜いた、オーディンの齎した選定の剣。

 その剣――神が与えた栄光は、ある戦場で突如終わりを迎えた。

 戦場に現れたのは、一柱の神。

 天を裂くように振るわれたオーディンの槍は、恩寵の証たる剣をいとも容易く断ち折った。

 それは、己に与えられた加護の終焉。

 シグムンドは自らの死すべき時を悟り、その最期を迎え入れたという。

 

 だが、レギンの手によって剣は再び現世へと舞い戻った。

 竜を殺すという意志を、徹底的に込められて。

 剣の名はグラム。

 古ノルド語で、「怒り」を意味する魔剣である。

 

 

 シグルドは魔剣を手に父の仇を討った後、グニタヘイズを訪れた。

 オーディンの忠告に従い、竜が通る道に穴を掘って潜み――水を飲むために外に出たファヴニールの心臓を、下から一撃で貫いたのだ。

 竜の吐く毒の息を、耐え続けながら。

 

 竜殺しの魔剣に貫かれてなお、ファヴニールは即死しなかった。

 ただ、奇妙なことに――

 最期を悟ったファヴニールは、暴れるでもなくシグルドと問答を始めた。

 ファヴニールはシグルドに名乗るよう言ったが、彼はそれを拒んだ。

 シグルドは、「致命傷を受けた者が、自分を攻撃した相手を名指しで呪うと恐ろしい力を及ぼす」と知っていたからだ。

 その後も問答を繰り広げたのち、ファヴニールは指輪と財宝を置いていくことを勧めた。

 それを持ち帰れば、お前も死ぬことになる。やめておけと。

 しかし、若きシグルドは忠告を無視し、すべての財宝を馬車に詰め込んだ。

 破滅の呪いが込められた、アンドヴァラナウトの指輪と共に。

 

 ファヴニールが力尽きた後、シグルドの前に現れたのはレギンだった。

 彼は竜の心臓を食べてみたいと願ったため、シグルドはそれに応えようとした。

 しかし火加減を確認しようと心臓に触れ、その指を舐めたところ、シグルドは異変に気づく。

 

 彼は、鳥の声が理解できるようになったのだ。

 ファヴニールの心臓と血には、それを可能とする不思議な力があった。

 

 鳥たちはシグルドを見て、口々に話す。

 ファヴニールは元人間で、レギンの兄だったことを。

 レギンは兄を殺すため、ずっと身分を隠してシグルドを育ててきたことを。

 

 ――レギンはシグルドを殺し、ファヴニールのように財宝を独り占めしようとしていることを。

 

 かくして、魔剣は再度振るわれた。

 レギンもまた、黄金の呪いの影響下にあったのかもしれない。

 だが、シグルドが指輪を持ち帰ったことで――

 呪いの連鎖は、彼ら一族の運命をも破滅へと導くことになった。

 

 

「……ねえ、ライダー。自分が手を下さなくても、シグルドは勝手に破滅するって……最初から分かってたの?」

 私は、夢で見た光景について話さずにいられなかった。

 私のイメージするライダーが、黙って死を受け入れるなんてあり得ない。

 彼があの「竜殺し」を心底憎んでいることは、令呪を通じて伝わってくる。

 それでも、直接的な報復はしなかった。

 なら……そうとしか考えられない。

 

「――フン、その通りだ。

業腹ではあったが、奴の一撃はオーディンの加護を受けた魔剣による、あまりにも狙い澄まされたものだった。故に、我は奴の運命を言霊を以て呪ったのだ。

事実、竜殺し共はいずれも破滅の道を辿った。そして強欲の呪いは巡り、“悪竜現象”は起こり続ける。ならば、その連鎖の中に“ファヴニール”は生き続ける――そう考えたまでのこと」

 声には、静かな確信が宿っていた。

 

 なるほど、と思いかけたけど……次々に疑問が湧いてくる。

 悪竜現象? 竜殺し「共」? どういうこと?

「……尋常の生命であれば、理解しがたいだろうな。面倒だ、一度しか説明せぬぞ」

 

 ライダーの話によれば――

 上位の竜種はそもそも現象や概念に近いため、「身に余る欲望を抱く」者が原因で発生する「生きた現象」が「悪竜現象」らしい。

 ライダーという英霊は、「ファヴニール」という概念を中心に構成されているが、それと同質の現象……つまり「複数のファヴニール」たちも、同時に習合されているのだという。

 だから彼は、「シグルド」によく似た「ジークフリート」という別人にも、討たれた記憶を持っている。

 

 ……正直、よく分からないが。

 なんとなく、雰囲気は掴めた。

 たぶん。

 

「言われてみれば、あの後に見た記憶……明らかに別の場面だった。灰色の剣士と激しい戦いを繰り広げたり、炎の剣を振るっていたり……

それに……“ジャンヌ”って子を、ずっと待っていたりとか」

 

「そう――……待て、今何と言った?」

 低く響いた声が、唐突に空気を変える。

「いや、言わずともいい。あの半端者の記憶など、脳の容量の無駄だ。忘れろ。そして話も、これで終わりだ」

 

 ライダーはあからさまに不機嫌な様子で翼を広げ、私を背に乗せて再び空へと舞い上がる。

 どうやら、休息はここまでらしい。

 ……まあ、こうなったらもう話は聞き出せないだろう。

 

 ライダー曰く、サーヴァントの召喚には「触媒」を使う方法と召喚者の「縁」を使う方法があるらしい。今回の聖杯戦争は、おそらくすべてが後者だとか。

 つまり、私と何かしらの「縁」や共通点があるか、似たような性格のサーヴァントが喚ばれるってこと。

 ならば、そこを曲げてくれるような優しい性格のヤツを召喚できるはずもない、という話だ。

 

 ……あの金色の毛と、竜が大事そうに抱えていた「不思議な球体」は、すごく綺麗だったのに。

 それが何なのか――正体を知る機会は、もう二度と来ないのかもしれない。

 なんとなく、そう思った。

 









サーヴァントマテリアル②

クラス:ライダー
真名:ファヴニール
属性:混沌・悪
筋力:A 耐久:A+ 敏捷:A+ 魔力:A 幸運:E 宝具:A

 保有スキル
【騎乗:A++】
あらゆる幻獣・神獣を支配可能。彼の「支配欲」の現れ。自身の飛行時にプラス補正を得る。

【対魔力:B-】
元々人間であった影響か、他の竜種よりやや劣る。しかし『孤毒竜の血鎧』の影響によりそれは問題にならない。

【黄金の呪い:A+】
ファヴニールが抱え込んだ「強欲」と「呪い」の象徴。所持している財宝や宝具の数に応じて自身のステータスを強化するスキル。
そもそも「宝具が多い」のが特性のライダーのクラスと相性がいいだけでなく、相手の宝具を奪う『簒奪竜の呪欲牙』とのシナジーも併せ持つ。
代償として、凄まじい強欲に振り回されることになる。程々で抑えることなどできない。欲しいもの全てを手に入れなければ気がすまない。

【悪竜現象:EX】
身に余る欲望を抱き、邪竜へ変貌した者であることを表すスキル。災厄の具現。【竜種】スキルを複合する。
戦闘対象に「恐怖」のバッドステータスを与え、精神耐性を下げる効果を持つ。
これは彼が父から奪った「エーギルの兜」の効果でもある。
かつて彼は人間であったが、莫大な黄金をせしめるために弟と共に父を殺し、更に弟を追放したのち竜に変貌し巣に籠ったのだという。
また、サーヴァントとしてのファヴニールは複数の「悪竜現象」の集合体でもある。
――当人は認めようとしないが、闘いの果てに邪竜へと変貌した一人のホムンクルスも、彼の一部として含まれている。

【竜の炉心:A++】
自らの心臓が“魔力工場”と化しているため、常時自己魔力供給が可能。長期戦においても魔力切れの概念が存在しない。
これにより、大量の宝具を惜しみなく行使することが可能となっている。

 宝具
・『簒奪竜の呪欲牙(アンドヴァリナウト・グラエイジル)』:A+
種別:対人宝具 レンジ:1~2  最大捕捉:1人
効果:Andvaranautr Græðir。破滅の起源となったアンドヴァリの指輪が由来。
父フレイズマルを殺し、黄金と数々の財宝を奪った逸話が宝具となったもの。
牙による攻撃を受けた対象の宝具を簒奪する。発動には対象が精神的なショックか、ファヴニールからの大ダメージを受けている必要がある。また、奪いたい宝具の真名を知っていなければ効果がない。

・『灼熱竜息・万地融解(アカフィローガ・アルグリーズ)』:EX
種別:対界宝具 レンジ:0〜50 最大捕捉: 1000人
効果:一定以上『簒奪竜の呪欲牙』による宝具の簒奪を行うことで解禁される。
具体的には二つ以上で使用が可能になり、四つ以上で追加効果が適用される。
この世の終焉めいた黒炎のブレスを吐く。焼かれた場所は彼にとっての支配圏「焼けた黄金郷」となり、その地点は物理的・霊的汚染を受ける。
そしてその地点に発生する「灼熱金脈」は「所持している財宝」として扱われるため、更に【黄金の呪い】によるステータス増加効果を受ける。

・『毒竜の血鎧(ブロズハムル・ファヴニール)』:B〜A++
種別:対人宝具 レンジ:0~40  最大捕捉: レンジ内全て
効果:Blóðhamr Fafnir。かつて彼を打倒した「竜殺し」が受けた「祝福」にして「呪い」、その根本。
ファヴニールが負傷した部位から流れる血液は即座に呪的な硬質鎧へと変化し、傷口を封じ、攻撃を反射する。その護りはBランク以下の物理攻撃と魔術を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃でもその威力を大幅に減少させる。
更にその毒血が一定以上流れた場合「呪血の障壁」と呼ぶべき領域が形成され、範囲に入る者は魔力消耗と防御低下のバッドステータスを受ける。この呪いは竜種であっても容易に解呪できず、その身を蝕み続ける。
そして、自身の死亡時にはまともに浴びた相手を即死させる程の呪血を放出する。この際、この宝具のランクは自身を滅ぼすに至った攻撃の威力が高いほど上昇する。

・『黄金貪界・欲竜の宝蔵(グニタヘイズ・アゥズガルズ)』:C
種別:対人宝具 レンジ: 0 最大捕捉:—
効果:Gnitaheiðr Auðgarðr。ファヴニールが所持していた「ラインの黄金」、そして彼のグニタヘイズにあった巣穴が宝具化したもの。
一生遊んで暮らせる「黄金」と、それを自分の手元に置き続けるための「竜の財宝庫」。
本人が念じれば「宝物庫の門」は開き、宝物を出し入れできる。
内部には、ファヴニールがこれまで収集した(主にファヴニールの犠牲者が所持していた)宝物が眠っている。
最も、彼は基本的に溜め込むばかりでそれを活用しないのだが。
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