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2020.04.06 11:16 UTC / 南極→溶岩の海 視点:セイバー
攻撃が終わり、目の前に飛び込んできた光景は。
「……オイオイオイ、五体満足だとォッ!?」
「ウィツィロポチトリ」を庇い、砲撃を全身で受けたその「飛竜」は――ダメージこそ負っていたものの、「形を保ち、生存していた」。
そいつの鱗は黒く石のように光り、炎が揺らめく。そして何より、「後ろ足がなく、下半身が蛇に似た竜の姿」は――どう見ても、キャスターもとい「リンドヴルム」そのものだった。
バーサーカーの念話にも、感心と多少の焦りが混じる。
(だが、キャスターのような規格外の魔力は感じないぜ……!せいぜい、ワイバーンとどっこいってところだ。まるで、キャスターのガワだけを貼り付けたパチモンのような――)
「……バーサーカー、そいつは当たりかもしれねェぞ」
気が付けば、「黒い鱗」のキャスターたちがワシを取り囲むように飛んでいた。現状では数十ってところだが、この調子ではまだまだ増えかねん。
そしてやはり――そいつらは一様に、「見た目だけは」キャスターそのものだった。
「真偽何れかは――“ラプシヌプルクル”の神威、己が身で受けて確かめるがいい!」
キャスターの指示と共に、「キャスターたち」が一斉にブレスを……いや、目からビームを発する。確かに、そいつらの「魔力量」は遠くキャスターに及ばない。
だがその炎は、明らかに様子がおかしい。届く前から分かる、劇毒めいた刺激臭――!
「くッ……動:六、防:四!切り抜けるしかねぇッ!!」
「竜体」を直線飛行モードに切り替え、ジェットでキャスターどもの間を潜り抜ける。
ラプシヌプルクルは、ホヤウカムイの「神名」だったはず。即ち――この炎は、すべて『
(大体、この陣形なら偽キャスター同士で炎を浴び合うことになるんだが――うむ、平気そうだな!ここまで来ると何かの概念防御なんだろーが、キャスターがそういう術を唱えた記憶はないぜ。強いて言えば、外見的にそれっぽい頑丈な竜種は――「ウンセギラ」あたりか?目が燃えているという特徴も一致するしな!)
回避と足元のアタッチメントの修復をしながら、どうにかその名に纏わる情報を思い出す。ネイティブアメリカンに伝わる、たびたび津波を起こして「川や湖の水を海水に変え、人間が使えなくしてしまう」という嫌すぎる性質の蛇……だったはず。
全身が頑丈な「火打石の鱗」で覆われているだけでなく、ウンセギラにある唯一の「弱点」を突き、その下にある水晶の心臓を刺し貫かねば、死ぬことはない。件の外見と防御能力を鑑みると、ほぼ一致と言っていいだろう。
では、その「弱点」とはどこなのか。資料によると、それは――「ウンセギラの、
……はっきり言わせてもらうぜ!
「ど こ だ よ ッ ! ! ! 」
(ちなみに、「頭部の7番目のスポットにある赤い水晶が心臓として機能する(a red crystal in a seventh spot on her head which functioned as her heart)」という説もあるんだよなぁ)
あーうん、補足ありがとよ。情報増えてねー気がする。
つまり、まとめるとだ。
・「特定の場所を“刺す”必要があるため、ブレスや砲撃は効果が薄い」
・「ジークフリートの背中やアキレウスの踵のように、弱点部位が明確じゃない」
・「しかも蛇型のウンセギラと、飛竜のキャスターでは体の形状が違う」
・「そもそも“一体倒せば終わり”って訳じゃない。なのにやたら数が多い」
……えげつないにも程がある。しかも「火打石の鱗」ということは、こちらの物理攻撃にカウンターで火花が散るどころか、爆発する可能性すらある。
何より、ホヤウカムイの毒やファラクの炎に巻き込まれて勝手に数が減る――なんてこともなくなった。これが地味に痛い……!
(ただ、だ。見たところ、キャスター軍団は『
……ふむ?
つまり、バーサーカーの観察が正しいなら――黒キャスター共は『
考察材料は揃ってきたが、どうにも気になる問題が一つ。
「――キャスターは、なぜ自らに“ウンセギラの術”を使わない?」
炎を回避し、それに巻き込まれたワイバーンが墜落する様を横目に見ながら、思わず口に出す。強固な護りと引き換えに、『
違和感はつきまとうが、「それに構う余裕はない」。まず今やるべきことは、「現状明確な脅威」への対処だ。
「とは言うものの、どこから手を付けりゃいいんだ……!?」
『
「オラァッ!」
「ガギャァ!!?」
よし、前言を「可能」に訂正する。巨大剣の切っ先で「七番目あたりをまとめて貫く」という雑な形になったが。
だが剣を縦に咥え、前方に突進して「刺す」動きは、あまりに動きが直線的すぎる。何せ、キャスターには『
「――然り。術の特性を見抜く速度は称賛しよう。されど、二度はない!」
「ぐぬっ、そうだよなあ……!」
命中の直前で、標的が視界から「急速にかき消える」。刃は急に横から現れた「竜の胴体」に弾かれ、巨大な火花が散るのみ。
一方視界の端では、キャスターが「大きく両腕を動かす」光景が見えた。まるで「見えない紐を引っ張る」ように。
……ん?ちょっと待て。エインガナは、人間の「踵に紐を縛り付けた」んだろ。
だが――「リンドヴルム」という竜に、後ろ足はない。無論、「踵」もだ!
(馬鹿、集中を切らすな!下だッ!!)
「――ッ!?この熱気は……!」
障壁越しでも感じる、文字通り「地獄の釜の蓋が開いた」ような高温。溶岩の大地をぶち抜く轟音。
奈落の蛇――ファラクの大きく開いた咢が、真下に広がって――
「――吼えろ、『ウリディンム』ッ!!」
「どわぁああああああああッ!?」
突如、巨大蛇はワシのすぐ横を「せり上がった」。「上に向かって吹き飛んだ」というのが正しいかもしれない。
そのまま奴は、『
「無事か、セイバー!?」
「な、なんとかっス……」
焦った表情で、ルーラーが飛来する。その腕部兵装は、反動のせいか――あるいは、ファラクに触れたせいか。凄まじい高熱を放ち、赤熱を通り越して輝白色になりつつあった。
(あれこそは『SSH-007 UR.IDIM.ME』。現状のルーラーが出せる最高打点だ。左右の掌底部、両足裏に内蔵された集束ビーム砲で、射程を代償に超高火力を実現している。零距離ならA+ランク宝具に匹敵するそれで、ファラクの下顎をぶっ飛ばしたんだなあ)
な、なるほど。下手をすれば、すぐ横を吹き飛ぶファラクの外皮で「おろし金にかけられる」かもしれなかったのだが……言わぬが花だろう。
また、ルーラーは少しも件のフィールドによって「遅くなった」様子はない。「創造神側」であるがゆえだろうか。
「これで、しばらくファラクは動けないはず。今のうちに、あの黒いキャスターたちを対処する」
「あの数を殺るのはかなりキツそうっスけど……何か妙案が?」
飛行しながらそう言うと、ルーラーは首を横に振る。その銃器型の武装に刻まれた文字は、『SSH-003 BA.AŠ.MU』。
「――逆に考えましょう。“殺すことに拘る必要はない”と!」
鋭い噴射音。ルーラーが放った乳白色の液体は、黒キャスターの群れへ扇状に撒かれ――空気に触れた瞬間、その性質を変えた!
飛沫は膨らみ、糸を引き、粘りを増して絡みつく。殺傷するのではなく、「固めて、動きを止める」粘着の網へと。
「そうか、例のフィールド下ならこの速度でも“当てられる”のか!……む?」
その色は白から茶褐色へ。さらに黒く濁り――まるで焦げた樹脂のように硬化していく。
気がつけば、少なくない飛竜たちの翼が固められていた。
そのまま羽ばたくこともできず、次々と地面へ落下していく。だが、どうも「それだけではない」ように思えた。
「こ、これは……!?」
(うーわ、えげつなさなら負けてねーな。あの『SSH-003 BA.AŠ.MU』は様々な毒物を行使できる兵装だ。地球上にある物質なら大体再現できるんだが――ルーラーが選んだのは「マンチニール」と「漆」の性質をもとに掛け合わせた、超自然の毒液だ)
ウルシ……って、確かアジアで塗料に使われる植物だったか?そっちは分かるが、マンチニールとは何ぞ?
(ククク……マンチニールはカリブ海沿岸などに自生する、極めて毒性の強い木でな。ギネスで「世界一危険な樹木」として登録されているほどだ。
有毒成分を含む乳白色の
なにそれこわい。え、神話じゃなくて現代の話だよな!?
(そりゃあもちろん。凄いよな、現地じゃ「この木に捕虜を縛り付ける」だけで立派な拷問+処刑になるんだぜ。
一方、ウルシの樹液は空気中で酸化・重合・硬化して「強靭な塗膜になる性質」を持つ。さっき見たよな?で、ウルシには毒というより、厳密にはアレルギー性の接触皮膚炎を起こす成分が含まれていてな。ラインナップは発赤・腫れ・激しい痒み・水疱と、なかなかなものだ。この二つが悪魔合体し、ティアマトの神秘を受けた結果が――この惨状だよ)
……えげつない、とはそういうことか。
よく見ると地上では、「黒キャスター」たちが痙攣し、血の泡を吹いていた。
あの毒液は、蜘蛛の巣のように飛竜たちを捕らえただけではない。「火打石の鱗」がもたらすのは、強靭な防御力と「特定の弱点以外で死なない」擬似的不死――「だけ」。
だが、「猛毒」の樹液は触れただけで鱗の隙間から即座に浸透し、硬化する。
そして引き起こされる、想像を絶する「痛み」と「痒み」。
(奴らに付与された【狂化】があれば、ある程度の痛みは無視できる。だが、「痒み」はそうもいかん。痛みと痒みは似ているようで、伝わり方が違うんだな)
言われてみれば、その通りだ。
同じ神経の束を走っても、痒みは「別の回路」を起動する。理性があれば「痒みを掻きたい」という衝動を無視できるが、狂化状態では「衝動を抑制する」ことができない。
そして、「痛みを感じない」のならば、痒みを楽にもできないという悪循環。
「死ねば楽になるが、死ぬことすらもできない」。複数の要因が重なり合い、あの黒キャスターたちは、動作を停止したのだ。
「――まだ、ここから。このペースでは、キャスターが仕掛けようとしている“何か”に間に合わない」
ルーラーはワシの「人間体」に向けて、通信機のようなものを投げ渡す。一瞬だけその方面の障壁を解除し、受け取ると――それは、ワシの腕に吸い付くように融合した。
骨伝導で、彼女の声がこちらへと伝わる。
『根本から、一気にすべてを叩きます。……わたしと、おまえで』
キャスターの竜種魔術リスト
・『天をも喰らえ、奈落の熾焔(ナール・アル=ファラク)』
Nār al-Falak(نار الفلك)。
イスラム伝承における、地獄の最下層に棲む竜、ファラクを基にした術。
ファラクは「もし神の恐れがなければ、上のすべて(天地・人間・天界)を呑み込んでしまうだろう」と言われている。
ファラクは神を恐れて抑え込まれているが、「竜の世界」が真となったならば……もはや彼を留めることはできない。その怒りの炎を具現化した術。
「神」が作った既存の秩序を全て破壊せんとする、地獄の炎。
・『夏の禁忌、燼咬の霊蛇(ホヤウカムイ・ラマㇳカシ)』
アイヌに伝わる翼を持つ蛇神、ホヤウカムイを元にした術。
ホヤウカムイには「サクソモアイェプ/サキソマエップ」=「夏には言われぬ者」という別名があり、夏や火のそばで力を増し、寒さに弱いとされる。
近づくだけで草木が枯れ、人間は皮膚が腫れたり、毛が抜け落ち、時に焼けただれて死ぬ猛毒や悪臭を放つという。
この術は季節が「夏」、もしくは一定以上の気温が無ければ発動できない。
猛毒のオーラを纏い、自身を強化する。
このオーラ気温が高ければ高いほど強化され、竜なら耐えられるがヒトなど通常の生物では、効果範囲内に入ってしまうと運が悪ければ即死する。
逆に、雪や氷によって冷やされると無効化されてしまう。
・『生者よ、母なる土へ還れ(コアトリクエ・テテオイナン)』
Cōātlīcue Tēteoh īnnān。
アステカ神話に登場する地母神、「蛇の淑女」を意味する名を持つコアトリクエの力を得る術。
コアトリクエは農業と植物を司り、「絡み合う無数の蛇によって織り上げられたスカートをはき、切り取られた人間の手と心臓が交互に並び真ん中に頭蓋骨がぶら下がった首飾りをつけている」、人間を常食する神である。
これはアステカの世界観、「生命は大地から生まれ、生きるが、それ生命が尽きた時に還る場所も大地」というところから来ている。大地に帰った生命は次の生命をはぐくむ糧となる。生命は大地の顎からは逃げられない。
自身に強力な「対人・対生命」特攻を付与し、「対人」ダメージ値のプラス補正をかける。
また、この術の詠唱後、コアトリクエが単独で出産したことで知られる軍神「ウィツィロポチトリ」の化身を召喚することで、「シウ・コアトル」を使用し、術の詠唱を代行させることができる。
・『霊路踵紐→独坐無辺(エインガナ・マリクンゴル・トゥーン)』
Eingana Malikngor Toon。
アボリジニのポンガポンガ族の神話に登場する虹蛇、「エインガナ」の伝承を元にした術。
エインガナはこの世の始め、たった一人で無限の砂漠に横たわっていたとされる。彼は退屈し、この世の全てを生み出し、最後に人間を産んだ。しかし人間がエインガナのことを考えず逃げ出そうとしたため、人間のかかとの部分をひもで縛った。エインガナは今でもこのひもを握っており、手を離すと人間は死ぬとされている。
この術はエインガナの伝承を部分的に再現しており、術の発動と共に術者の手に紐が出現する。 それは、効果範囲内にいる任意の人間のかかとを縛った状態で結ばれている(紐の先端は見えるが、中間は見えない)。
術者は術を解除しない限りこの紐を手放せないが、ひもを引っ張るなどで相手の動きを縛ることができるだろう。一方、ひもを縛られた対象が自らこの紐をほどいてしまった場合、即死する。他者が解呪した場合は何も起こらない。
・『楽園剥落・豊穣の断絶(カハウシブワレ・バウロ)』
Kahausibware Bauro。
南太平洋・ソロモン諸島に伝わる、蛇の姿をした女の精霊「カハウシブワレ」を基にした術。
かつて「大地に果実がたわわに実っていた」頃、彼女は人間や動物、木々を作ったとされるが、しかし、人に死を齎すのもカハウシブワレだという。
最初の女が産んだ赤子を預かった際、泣き声に耐えかね、思わずとぐろで絞め殺してしまう。怒った女に斧で切り刻まれても身体を元に戻し、「これから一体誰があなたを助けるのだ?」と言い捨てて去った後、人は労働で糧を得ねばならなくなった。
即ち「楽園の終焉・労働の強制」と「加護の剥離」を齎す領域を展開する術。
範囲内にいる自分以外の者の動作を重くし、疲労と魔力消耗を増大させる。
加えて「神から与えられた力」を削ぎ、加護や恩寵由来の能力を弱体化する。「人間」の属性を持つ者ほど効果が重い。
・『四海啸天(スーハイ・シャオティエン)』
Sìhǎi Xiàotiān。
中国の神話において四方の海を治めるとされる、四海竜王(敖廣・敖欽・敖閏・敖炎)を元にした術。
東・南・西・北の方角を司る四頭の幻龍を顕現させ、同時にブレスを放つ。目標となった相手の「四方」から同時に襲いかかるため、回避はほぼ不可能となる。
・『燧は堅く、海は退かず(ウンセギラ・ワンヒ・ムニワンチャ)』
Uŋȟčéǧila waŋhí mniwáŋča(ラコタ語)
アメリカのネイティブアメリカン、スー族やラコタ族に伝わる蛇の怪物、「ウンセギラ」の伝承を基にした術。ウンセギラは炎のような目と牙を持ち、定期的に津波を起こし、水を塩水に変えて人間が使えなくしてしまうという。
更にウンセギラの体は火打石の鱗で覆われ、唯一の弱点である「胴体の、裏側に心臓がある“七番目のスポット”」を刺さなければ殺すことはできない。
術者は「火打石の鱗の鎧」を纏い、防御力が跳ね上がるだけでなく攻撃を受けると「鱗が着火し、巨大な火花が散る」ことで自動反撃を行う。
また、目から炎…というよりビームを放てるようになる。