Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第69話:殷々たる獄鐘の音

2020.04.06 11:26 UTC / ユルルングルの体内 視点:ルーラー

 

「むう、っ……!」

「あの呪詛をすべて耐えましたか。さすがに頑丈です、ね」

 

 降りしきる雨の中、青の戦神は無表情に「炎の蛇」を模った武器を構える。一方、わたしの周囲にはシールドの残骸が無残にも散らばっていた。

 ――ユルルングルに呑まれ、その中枢まで侵入した直後に襲来してきた「無数の蛇の形をした死の呪い」。残り一回の『SSH-011 KU.SA.RIK.KUM』を即座に解放し、衝撃波で吹き飛ばし、『SSH-006 U4.GAL.LA』で無数の弾幕を張り、『SSH-008 GIR.TAB.LU.U18.LU』と『SSH-005 DLAḪ.MU』で防御。

 考えうる最善手を尽くし、惜しみなく戦力を投入し、呪いを凌ぎ切った直後に現れたのは――「ウィツィロポチトリ」の化身体。

 摩耗していたとはいえ、『ラフム』の光盾を一撃で粉砕したその膂力は、実際の神霊サーヴァントに匹敵するものだった。

 

(なるほど、ここで「ユルルングルの存在」が活きてくるか。奴は雷雨の化身にして、「雨季の嵐雲」そのもの。それを、ウィツィロポチトリの対として並び祀られる「トラロック」の座に据えたというわけだ!)

 

 雨・雷・雹・稲妻などの権能で恐れられるアステカの神、トラロック。テノチティトランの大ピラミッド「テンプロ・マヨール」に、太陽と戦争を司るウィツィロポチトリと共に祀られし存在。

 ウィツィロポチトリは「軍事的拡張」、トラロックは「農耕的生存」の象徴。この二つの両立が、「メシカ国家の根幹」として強く結びついているという。

 

「二神を並び立たせることで、その神威を最大まで跳ね上げているのか……!」

「ご明察。――『蒼雷天翔(ツァンレイ・ティエンシィアン)』。褒美に死をくれてあげます、よ……!」

 

 次の瞬間、信じられない速度で戦神が肉薄する。振りかざす「シウコアトル」――刃を持つ蛇状の杖、あるいは棍棒に似たそれを、辛うじて『SSH-004 MUŠ.ḪUŠ』で受ける。激しい剣戟。雨の中だというのに、無数の火花が散った。

 

(今のは、青竜が元の「雷光を纏う」身体強化術だったな。相性がいいのか、かつてキャスターが使った時より洗練されている。全く、軍神の名は伊達じゃないねぇ)

 バーサーカーの念話を聞きつつ、「ウィツィロポチトリがどれだけキャスターの術を代行できるのか」を考察する。

 時間の関係から、ダルグレインにやっていた「回数制限付きの術を埋め込み、魔力消費なしで発動できるようにする」形式ではないはず。とはいえ、無制限だとも考えにくい。

 

(キャスターを見ていると忘れがちだが、あの大盤振る舞いは『終環記章・竜蛇胎蔵界(ドラゴン・リベレイション)』による無限魔力供給ありきだ。一発が宝具に匹敵する大技を撃ちまくれば、神霊の化身でもパンクする。あと二回が限度と見た)

 

 それでも、「自分と別に三発分の宝具を配下に撃たせる」と考えれば破格ではあるのだが……いや、「ウィツィロポチトリがキャスターから魔力供給を受けている」なら、制限はないのでは?

(それはない。なぜなら、ウィツィロポチトリは「シウコアトル」を持っているだけで「竜種ではない」からだ)

 

 ……それは、確かに。

(おそらくだが、『終環記章・竜蛇胎蔵界(ドラゴン・リベレイション)』からの「直の魔力」は竜種にしか規格が合わないんだろう。ダルグレインに供給されている魔力は「膨大ではあるが無限ではない」のが、その証拠だ。コンバーターに類する何かを噛ませることで解決しているんだろうが、召喚してすぐのウィツィロポチトリにもう一度やるには時間がかかる――とすれば、辻褄は合う)

 

「――当ててみましょうか?アナタ達の考え」

 

 念話と思考を断ち切るように、声が響く。斬り合いの最中、ウィツィロポチトリはぼそりと呟いた。

「所詮は正規に召喚された英霊でもない、コアトリクエのおまけで出てきた化身体。時間稼ぎにしかならない脇役、と」

 一際大きな火花を散らし、互いに後退した――その刹那。

 

「確かに、今の私が使える大規模な術はせいぜい三つ。しかし、何事にも例外はあるもの」

 

 瞬時に、これまでキャスターが使ってきた術を頭の中で並べる。――そして、その「例外」を為せる存在が浮かんだ。

「……まさか」

 

「範囲、対象設定完了。――『呑星贖環・竜胎終界儀(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)』ッ!!」

 

 ――術の完成と同時に、青い影が突き刺さった。恐らく、以前の倍以上の速さで……!

「耐えましたか。兵装を――自分の“子”一つを犠牲にして」

 左腕の『バシュム』を、火蛇の舌が貫く。――わたしの体までは、届いていない。そして、副砲の残骸から溢れ出した毒液が、刃ごと戦神を絡め取った。

 

「――穿て、『ウリディンム』ッ!」

 放たれる、自爆覚悟の零距離砲撃。わたしの左腕ごと、まとめて爆破する決死の一撃!

 

(よしッ、よく防いだ!奴の「シウコアトル」は、月の女神コヨルシャウキを滅ぼし、さらにその兄弟四百柱を打ち破った「神殺しの兵装」だ! 恐らく「ラフム」の盾を一撃で粉砕したのは、あれが神性を持っていたからと見た! 今の反撃でぶっ壊せていれば最高だが――)

「――『八首贄法(やつこうにえのほう)』。残念でした、ね!」

 

 砲撃の瞬間、ウィツィロポチトリはシウコアトルから手を離し、わたしの後ろへと飛び下がっていた。さらに、破壊したばかりの武器は「死をなかったことにして」、歪に再生を始める……!

(奴が『八首贄法(やつこうにえのほう)』を適用したのはシウコアトルの方だったのか!?確かにあれは武器であり、稲妻であり、同時に炎の蛇だ。生物として「再生」してもおかしくはないとでも言うのかよ!)

「それよりも、再生速度が尋常じゃない!やはり、さっきの『呑星贖環・竜胎終界儀(ファヴニール・オムニウルス・オロボロス)』は……!」

 

 ウィツィロポチトリの魔力量は、さっきまでの「推定三回分」の時とはまるで異なっていた。テノチティトランに存在する「シウコアトルの巨大彫刻」は、「終わりのない円環の姿」――即ちウロボロスと似た概念。術の相性は抜群のようだった。

 このままでは、キャスターとの戦いの二の舞。好き勝手にされる前に、早く決着をつけなければいけない……!

「『ウシュムガル』――主砲、最大稼働(フルドライブ)ッ!!」

 着地地点を狙い、『SSH-002 UŠUM.GAL』による射撃を数発撃ち込む。シウコアトルは稲妻となり、独自に移動を始めたが――「合流」したいなら回避するしかないはず。

 

「残念、このまま押し切る。――『甲殻陣・重装不退(テストゥード・タラスカエ)』!」

 ウィツィロポチトリの周囲に展開されたのは、亀の甲羅に似た何重もの障壁。名前から、明らかに「タラスク」の伝承がもとになった――「初見の」術。

 

 わたしが『天命記す竜筆の書版(ドゥブ・ナムタルラ・シド・ウシュム)』を無効化したように、セイバー当人がいれば「タラスクの術」は簡単に対処できただろう。神秘の弱点は「既に知られていること」なのだから、「元ネタを誰よりも知っている」本人にはどうしても効果が薄くなる。

 故にキャスターが使わなかった防御の術を、ここで今……っ!

 

(戦闘中失礼!お前の予想通りだったよ、ルーラー。――再生に伴って、ユルルングルの魔力の急激な減少を確認した。以前キャスターがやったのと違い、対象を限定することで術の効率を跳ね上げている!しかも、ユルルングルは竜種だ。これまで奴はウンセギラの術をはじめ、何度も術を使うためにキャスターから大量に魔力供給を受けていた。それを、さらに搾り取っていると見たね!)

 

 神話によればウィツィロポチトリ神は、毎日生贄の血や心臓を要求していたと聞く。アステカのそういった「生贄文化」との相性の良さもあるのだろう。

 電撃のごとく宙を走り、シウコアトルは主の手に戻った。ただでさえ時間がないというのに、このままでは埒が明かない。

 

(だがこれほどの「門番」の存在は、先にある何かを逆説的に示しているはずだ。キャスターが仕掛けようとしている「本命」に!――というわけで、ここは一手打たせてもらう)

 バーサーカーの念話と同時に、腰のポーチが勝手に開く。そこから滑り落ちたのは、円陣が描き込まれた一枚の紙だった。

「……む?何ですか、それは」

 両者ともに困惑する中――突如、通信機からノイズにまみれた混声の唱和が轟く。

 

『我――汝を招き、ここに勧請し命ず。おお、敵対者にして地獄の長よ! 我は天の名を唾棄し、秩序の鎖を断つ者。我は、玉座に列する冥府の諸名――ルシフェル、バアル、ベリアル、レヴィアタン、アスモデウス、アバドンの御名において汝に命ず!』

 

 複数の声が鳴り響いた途端、赤黒い雷光がその場に満ちる。それは、「悪魔を召喚するための呪文」の詠唱だった。

 内容は「ソロモン式」に類似しているが、ことごとくが「神ではなく悪魔を称える」冒涜的な文言へと置き換えられている。

 豪雨は重力に逆らい、「上へ向かって」降り始めた。まさに、天に唾を吐きかけるように。

 それでも例の紙はまだ濡れることなく、異様なほどに乾いていた。

 

『遅滞なく現れよ。黒き王冠と反逆の玉座の名において、汝に命ず。汝速やかに、平穏ならざる姿にてこの場に顕れ、我に対し明瞭なる声をもって真実を語るべし。いかなる偽りもなく、すべての問いに答え、我の望むすべての事柄を成し遂げよ!』

 

 十三の炎が紙から飛び出し、円環を伴う巨大な五芒星(ペンタグラム)を刻む。

 厳密には、悪魔崇拝(サタニズム)の象徴たる逆五芒星を。

 軋み、捻れる空間。硫黄めいた腐卵臭とラップ音の大合唱。まるでこれから、この世の悍ましさがすべて溢れ出るかのような――

 

『偽りの光を退けんがため――サタンよ! 黒き印と冥府の法において、今こそ出でよ!』

 

 その一節を最後に、それらすべてが消え去った。

 厳密には――逆五芒星の中央に立つ「彼」に、あらゆる「悍ましさ」が凝縮されたのだ。

 漆黒の装いに紺色の肌、蝙蝠の翼、山羊の角。そして血よりも紅い、蛇の瞳――即ち、典型的な「悪魔の姿」へと。

 

「我こそは堕天の長。神の敵対者にして、真に“この世すべての悪”たるもの。さあ――楽しい愉しい“喜劇”を始めよう!!」

 

 ……どこまで演出にこだわるんだ、このバーサーカーは。

 

(クァハハハハハ!そりゃ当然、悪魔だからなぁ!)

 








キャスターの竜種魔術リスト

・『地殻破断す深潭の蛇(ナーガ・パドハ・サムドラ)』
Naga Padoha samudra。
東南アジア神話における巨大な海蛇、「ナーガ・パドハ」の伝承を基にした術。
創世神話において、シヴァの化身とされる英雄バタラ・グルが最初の地面を作ろうとし、それを壊そうとしたのがナーガ・パドハである。バタラ・グルが抑え込むことで海蛇は海底に沈んでいったが、逆に言えば「シヴァがいなければ大地を破壊することができる」のだ。
術の発動後、自身が触れた大地を「振動・隆起」させ、破壊することさえできる。
ただし、この術は「シヴァの関係者」もしくは「シヴァに類する、もしくは匹敵する力を持つ者」であれば抵抗し抑え込むことができるという縛りがある。

・『万蛇王権・七層の神秘(シャーマラン・ヒュクム・イェディ・カトル・イェラルトゥ)』
Şahmeran’ın Hükmü・Yedi Katlı Yeraltı。
中東・アナトリア一帯に伝わり、千夜一夜物語等に登場する半人半蛇の女王、知恵の女神「シャーマラン」を元にした術。
術者自身を「蛇の王」として定義し、別の術式を自身の配下の蛇に移植・委託して使用させる=知恵を授ける術。
今回の場合、『大地を呑め、夢時の虹(ユルルングル・ワグィル)』によって召喚した「ユルルングルの化身」が術の代理人となる。
更に、自身の配下たる蛇たちと霊的に接続する。
術の発動条件:シャーマランの存在や「蛇の王国」は本来秘されている。そのため、秘密が漏洩する状態では使用できない→今回の場合「ユルルングルの体内」が術式の場であるため、それを「第三者が見ていない」限り「露見」は起こらない。
秘密が暴かれた場合、術は効力を失うことになる。
ただし、シャーマランの秘密を暴いた者には伝承の通り災厄が降り注ぐことになる。
(暴いた者には「猛毒の上澄み」たる死の呪詛が襲い掛かる)

・『甲殻陣・重装不退(テストゥード・タラスカエ)』
testūdō Tarascae。
タラスクの伝承を基にした防御の術。「亀甲陣」の如く防御を固め、敵に向けて前進する。
セイバー・タラスクの『盾鋼の聖獣(クストーディア・タラスコニス)』は「自分と味方を守る」盾の宝具だが、こちらは「自身の守りを徹底的に固める」術と言える。
キャスターがセイバー相手にこの術を使わなかったのは「竜種魔術の伝承の元ネタ相手では無効化されやすい(神秘は「知られていない」時が一番強いため、相手は自分自身のことを良く知っている=既に知られてしまっている術は効果を発揮しにくい)ため。


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