◆
2020.04.06 11:32 UTC / ユルルングルの体内 視点:ルーラー
「……あなたが話に聞いていた“バーサーカー”、ね。――『
「ほう、いったいどんな風に聞かされて――」
凄まじい爆風に、バーサーカーの声は途中で途切れてしまう。ウィツィロポチトリは困惑しつつも、すぐ攻撃に移っていた。それも、「事実上回避不能」な竜王たちによるブレスを。――しかし。
「クク……いい攻撃だ。あくまでも“いい攻撃止まり”だがな。これじゃあ俺は殺せないぜ?」
黒煙が晴れ、無傷の悪魔が姿を現す。……私の魔眼には「その前に肉体と衣装を修復する」姿が見えていたが、確かに「あれでは死なない」のは事実だ。
「概念防御……いや、限定的な不死!?」
「さぁて、どうかな?その様子じゃキャスターも“完全な解明”はできていないらしい。もしくは教えられていないのかな?それならじっくり考察してほしいところだが――まずはお返しだ。『
「続け、『ウム・ダブルチュ』!バーサーカーの援護をッ!」
バーサーカーの宝具に合わせ、『SSH-009 U4.MI DA.AB.RU.TI』で風を送り込む。放たれた業火はウィツィロポチトリを逃がすことなく、『
「くっ、この炎は……!」
ウィツィロポチトリは障壁を解除……というよりも、「障壁に炎を押し付ける」ことで脱出した。さらに、ユルルングルの豪雨を「呼び戻す」ことで残った炎も消そうとするが――
「ざァァん念! こいつは正真正銘の“地獄の炎”だ! 雨で消火する気なら、“創世記”の洪水くらいは持ってくるがいい!ついさっきファラクがもたらした炎熱と本質は同じなんだが……ああ、キャスターの庇護下にいたお前は知らなかったかァスマンスマン!」
「……っ!『
怒りを滲ませながらも、ウィツィロポチトリが発動させたのは「火によって肉体を再生させる」術。確かに、火の精霊たるサラマンダーは「炎への強固な耐性を持つ」のだったか。
そしてその姿を見て――バーサーカーは、演説でも始めるかのように、大きく腕を広げた。
「今の流れで確信したよ、ウィツィロポチトリの化身。やはり――やはりお前は、“正しく適切な思考”を持っている。機械的な対応でない、狂化とも程遠い細やかな判断能力を。さすがは軍神と言うべきか。そうでなければ、最高峰の英霊と敵対して有利に立ち回れるわけがない!」
先ほどの粗暴な「煽り口調」と違い、バーサーカーの賛美は研ぎ澄まされた歌にも似ていた。ウィツィロポチトリは困惑しながらも攻撃を続行するが、出力を回復した『SSH-004 MUŠ.ḪUŠ』の大剣でそれを抑え込む。
彼の意図を把握した以上、それを邪魔しないのがわたしの役目だ。バーサーカーは一つ頷くと――愉悦を浮かべた視線を向けた。
「ならば、どうしてなんだウィツィロポチトリ。なぜお前は――今の状況に甘んじているのか?なぜ、一つの駒としてキャスターに従っているんだ?恐らく、何らかの
「……ッッ!『
シウコアトルの炎が急激に威力を増し、さらに術の効果を得て射程を著しく伸ばす。わたしの剣もすり抜けて、バーサーカーへと直撃するが――
「クァハハハハハハ無駄無駄無駄ァ!大魔王サタン様を殺すにはまだまだ足りやしない!聖書とか読んだことないのか?ないだろうなぁ!そりゃあ、自分たちの国を滅ぼした征服者たちの宗教だもんなァ!!」
……怒りに震えながらも、ウィツィロポチトリは的確に炎の蛇を鞭のように操る。だがバーサーカーは拘束されようと、その都度「脱皮」のように服を残して脱出してしまう。それでいて「毎回服を着直す」余裕まで見せつける様は、さらに軍神を苛立たせるのに十分なものだった。
「“青”のテスカトリポカは、都市を守護し、休息を認め、ケツァル・コアトルを揶揄うのが大好きな“楽園の神”。“黒”のような、残忍で冷酷な戦いの神とは違う。お前が怒りを抱くのは、守るべきものを持つゆえ――だからこそ、俺は再び問いかける。“お前は本当に、それでいいのか”と」
「……」
「分かっているんだろう?キャスターの最終目的は、“竜の因子による世界の再構築”。ヒトが存在しない、竜のための世界。それが完成したならば――お前たちは今度こそ、完全に忘れ去られる。祈りも、歌も、文明も、名前も。何も残らず破壊され、崩れ去る」
「……止めろ。それ以上、ッ」
「その様は――お前たちが忌み嫌ってやまぬ
……それこそは、間違いなく「とどめの一撃」だった。
「悪魔の言葉」は、異様なほどの鋭利さで心に突き刺さる。彼の話し方、雰囲気作り、心理学・読心・知識に基づいた、強烈な精神攻撃。さっきの「召喚の演出」にあそこまでこだわったのも、「雰囲気とハッタリ」による後押しのため。経験者が言うのだから間違いない。
そして――軍神の「無言の、形容できないほどの殺意」という形で、的確に成果は示されていた。
「――クク。俺が憎いか?滅ぼしたいか?だが、今のお前では無理だなぁウィツィロポチトリ。侵略者から民を守らんとする、誇り高き守護神であればワンチャンあったかもしれない。だが今のお前では可能性はほぼゼロだ!――誰かに使われる“犬”では、俺は殺せない」
「……ええ。そのようです、ね」
そう言うと、突如ウィツィロポチトリは――自身の武器を、「床」に突き立てる。即ち、ユルルングルの身体に!
「むっ、この振動は……!なるほど、限界までユルルングルの魔力を吸い上げるつもりか!」
翼を広げ、バーサーカーも宙に避難する。外で虹蛇が暴れていることが容易に察せられる蠕動は、天変地異と言って差し支えない振動だった。
一度揺れるたびに、シウコアトルの輝きは飛躍的に増していく。その閃光に照らされただけで、下級の悪魔では滅びかねないほどに。
「正直に言いますが、その不死のカラクリは未だ不明瞭なままです。しかし、その本質が“影”ということは見えた。故に――最大の光と炎で、影すら残さず焼き尽くすッ!」
ウィツィロポチトリは太陽の神だ。それがもたらす「光」という概念が最高潮に達したならば、問答無用で「影」や「闇」を討ち滅ぼすことができてしまいかねない。
ましてや、その武器が「神殺しの火蛇」であるならば……!
「オイオイいいのかぁ?そんなことをすれば、ユルルングルの方が干からびかねんぞ!“ご主人様”に逆らっちゃっていーんですかねェ!?」
「私への
――仮に追加で命令されたとしても、きっと通じはしない。無防備なように見えて、「今攻撃しても炎に呑まれてしまう」とも、わたしの「戦場解析ユニット」は告げていた。
そして、その輝きは頂点に達し――!
「来たれ、第三の太陽! ナウィ・キヤウィトルよ!『
解き放たれんとする、太陽の石刃。
その寸前、わたしは後ろ手に隠していた「それ」を取り出す。煌めきの中、右手に構えたのは――
「――な、……っ!?」
ありふれた、鉄製のフライパンだった。その上には、できたてのオムレツが焼けている。
想定外にウィツィロポチトリは目を見開くが、わたしはいたって大真面目だ。
「行くぞ『キングゥ』――【変容】、起動ッ!!」
戦場解析ユニット『SSH-EX DKIN.GU』が持つ、一度きりの隠された効果――「自分が過去に受けた魔術・スキル・宝具のコピー」。
「発動せよ!『
それはキャスターがマリアナ沖で、わたしから「令呪を奪う」ために使用した術。対価を得て、黒猫が宙を舞った刹那――刃の矛先は反転した。
わたしの右手に絡みつく、真名解放直後の燃え盛る「石の蛇」。その咆哮を止めることは、もはや当人にすらできはしない……!
◆
「うおッ、なんだありゃ!?」
セイバーは驚愕と共に振り返り、見た。暴れ狂う虹蛇の内側から溢れ出す、太陽のごとき炎の軌跡を。
◆
2020.04.06 11:3■ UTC / ユルルングルの体内(→精神空間) 視点:ルーラー
「とまあ、俺の役目はウィツィロポチトリをひたすら煽り、全力を出させることだったワケ。縦横無尽に術と時間を使われてはたまらないからな!」
「……それで私の意識を惹きつけた間にやることが、卵の調理ですか。“あまりの突拍子のなさ”に、一手遅れたことは否定しませんが」
「クク……“まさか”、だろう?熱源なら十分あるし、魔力も使わない。いやァ、ルーラーの“母親修行”がこんなところで役立つとは」
「――だが、肝心の『
あの時、確かにわたしは見た。――青き戦神が、自ら武器を手放した瞬間を。
バーサーカーの挑発に、ウィツィロポチトリは実のところ……何を思っていたのだろうか?
「ま、その心理描写の掘り下げは今更野暮だろーよ。“あえて答えを確定させない”のも優しさだぜ?」
「どの口が言うんだ?」という視線を受けつつも、バーサーカーは結論づける。
確かに、最高火力の『
わたしの「機能」にバーサーカーの知略、そしてウィツィロポチトリの矜持が合わさった勝利だった。そういうことにしておく。
……だが。
「――ちょっと待て。どういうこったこいつは……!?」
その余韻に浸っていたはずのバーサーカーの様子が、徐々に変わり始める。
「“門番”の撃破を経て、隠されていた箇所をすべてチェックしたんだが……特に何もないぞ!?」
「な……!?」
そんなはずは、と言いかけて――思い至る。
そもそも「本命がある」と断定できる要素は、最初から揃っていない。揃っていたのは、断定したくなる「材料」だけだ。
まず、キャスターの魂が一部欠けており、以前も『
その魂を、専門家のバーサーカーがいくら探しても見つけられなかったこと。
そして最後に、術を委託されているユルルングルは外側から内部を走査できず、口は神話をなぞらねば開かず、侵入すれば即死級の呪詛と門番が待っていたこと。
「“これだけあって、何もないわけがない”。“これだけ状況証拠が揃っていれば、ユルルングルの体内にキャスターの魂に絡んだ『本命』が存在するに違いない”。そう“思い込ませ”、時間を稼ぐことこそがキャスターの作戦だった……?」
「いやいやいやいや、迂遠にもほどがあるぜ!?だいたい“それ”を、奴ができるとは思えない!」
「む?それはどういう……」
バーサーカーの動揺の意味を掴みかねていた、そんな時だった。
「――『誤認こそが我々だ。誤解こそが、我々の世界だ』」
ウィツィロポチトリが、口を開いた。バーサーカーに向ける視線は、先ほどまでの「怒り」ではなく――「無知への憐憫」。それが一番近いと、なぜだか感じた。
「キャスターは術を仕組んだとき、そう口にしていました。数多の魔術師の中でも、特に注視していた“神秘の解体者”の言葉だそうです」
バーサーカーは、唖然としている。まるで、先刻“フライパンとオムレツ”という想定外を見てしまった軍神と同じように。
「……確かに、それこそが神秘の本質だ。人間は大河に蛇を、雷に龍を、柳に幽霊を、暗闇に怪物を『誤認』した。パターン認識が欠落情報を補完し、畏れや祈りを呼び、神秘・伝承として定着したんだ」
呆然としながらも、バーサーカーは推理を続けていた。もはや、意識せず行っているかのように見える。
――「アダムとイヴに知恵の実を食べるよう仕向け、知の獲得を促した」サタンは、悪魔という神秘の怪物そのものでありながら、「神秘を摩耗させる側」という特異な存在だ。
何より「神の敵対者」であるために、探偵のように「非現実的な“神秘”を暴かずにはいられない」。
「その“誤認という神秘”に光を当て、解析・解体するという行為は――神秘を衰退させる、幻想種にとっての自殺行為そのものだ!だからこそ俺は、キャスターが『秘匿を餌にした誤誘導』を自覚的にやるはずがないと無意識に思い込んでいた……ッ!?」
人は、自分が見たものを特に信じる。だが見たものが真実である保証はない。まして、見えないものは訂正されない。たとえそれが、魔術師ならざる「手品師」によるものだとしても。
「……まあ、やっちまったもんは仕方ないな!ウィツィロポチトリ、お前から情報を引き出すことでプラスにさせてもらう!」
「ご自由にどうぞ。ただ、一つヒントを出すならば――私は、キャスターの居場所を知っている。それでも“あなたは”どうやっても発見できないでしょう、ね」
「……???」
最後に、挑戦状を一つ残して――青い神の影は、消失していった。
◇
「どういう置き土産なんだか……ひとまず、解析を始めよう」
宝具直後の不思議空間が解除され、意識が現実に戻る。目の前には、焼け焦げた大穴。このまま、消滅しかかっているユルルングルから脱出できそうだ。
――バーサーカーの顔は、未だに厳しい。彼ならば、ウィツィロポチトリが知る情報すべてを即座に精査することも容易なはず。だが、「キャスターの居場所を知っている」と宣言されていたにも関わらず、それを掴めていないようだった。
「……ルーラー、データを『SSH-EX DKIN.GU』に回しておく。今はセイバーとの合流が先だ」
「何か収穫はあったのか?」
「ああ。このままだと、色々まずいことになりかねん……!」
――送られてきたデータを確認して、思わず言葉を失う。
これが本当だとすれば……セイバーは、一体どうなってしまうんだ!?