Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第72話:人よ、神を繋ぎ止めよう

2020.04.06 11:35 UTC / 南極→溶岩の荒野/大河の上空 視点:セイバー

 

「――来いッ、『聖鋼一閃・忠義の剣(グラディウス・フィデス・サンクタ)』!!」

 宝具の大剣を出現させ、咥える。こいつの「自動カウンター」が発動すれば、キャスターが背後を取ろうと「後方へのカウンター斬撃」で即座に振り向いて反撃できる。

(その一撃で、接近した奴の首を刈り取る。バーサーカーの試算では、ボイウナの術が【対魔力】を突破するのに必要な時間は最低でも十秒。その前に、視線を無理やり後ろに向かせてやる……!)

 もちろん、奴が双頭な以上「片方への対応」では足りない。だが、要は光を浴びなければいいのだ。――斬撃の直後、エアリアル・ドライブの爆風が光を攪乱させる。その隙に「人間体」のワシを「竜体」が呑み込み、体内に潜伏すれば、もう術を受けることはない。そのままルーラー、バーサーカーと合流し、数の利でキャスターを仕留める。

 そんなプランを練りつつ、剣を構えた次の瞬間――剣が、動いた!

 

「そこだ、キャスタァァァァァーーーーッ!!」

 剣の閃きが光を裂き、血飛沫が乱れ舞う。敵意の視線に反応し、斬撃は「尾」の側にある首を刎ね飛ばした。

 

 だが、ワシの誤算は――

「――『火花散る七首の怯迫(テジュ・ジャグア・ポチ・サピカ)』」

 その「目」が放つのは「光」ではなく、正しくは「炎」だったこと。そして、一瞬でも見れば効果がある術だったことだ。

 

「ボイウナじゃ……ないッ!?」

 キャスターの背後に「七つの首の怪物」めいた影が見えた刹那、ワシの動きが完全に「停止」する。純粋な、恐怖の視線によって……!

 

(……やられたッ!セイバー、「テジュ・ジャグア」はグアラニー神話に登場する、悪霊タウと人間の女性ケラナから生まれた七つの子で最も悍ましい――「目からは炎が迸り、視線そのものが恐怖となる」怪物だ!タウがケラナを奪ったことに激怒した月の女神が、「その子孫は皆醜い怪物となる」呪いをかけたからだそうだが……それを元にした術が、お前すら止めるほどだとは!)

 

 バーサーカーの念話が脳裏に伝わる。だが、それすらも「響かずにすり抜けていく」かのようだった。

(だろうな……!人間の脳は進化的に、危険・異常・醜悪なものに対して強い反応を示す。「危険なものを無視したら死ぬ」と判断し、どんな勇者だろうと無反応ではいられない。「反射的に目を逸らして逃げ出す」か、「思わず注目してしまう」!――たとえ怪物の実態が、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 

 まさか、そのせいで『聖鋼一閃・忠義の剣(グラディウス・フィデス・サンクタ)』も、「より危険に見える」テジュ・ジャグアの術を発動した首に誘導されてしまったのか!?

 ワシの「人間体」は動けず、退避は間に合わない。だが奴が、本来の頭部から「ボイウナの術」しか使えないならば、エアリアル・ドライブを妨害することは――

 

「――忘れたか。『顕現・急瀬水廊(ミシッピゼウ・ギチガミ・ジービ)』は、既に発動しているッ!」

 

 砲撃の雨は、降りそそぐ直前で巨大な渦に阻まれた。真下にある川から噴き上がるそれは、ワシとキャスターを中央に隔離する……!

(さっきの川はそれだったのか!ミシッピゼウは、スペリオル湖周辺に住むネイティブアメリカン、オジブワ族に「蛇の祖」として信じられている非常に強大な精霊(マニトゥ)。原初の大洪水を起こしたとされる存在だ!……お前の礼装だけでは、その神秘に届かない!)

 バーサーカーの念話を知ってか知らずか、キャスターは無表情に言い放つ。

 

「人は、自分が発見したことを正しく、価値があると思い込む。あえて軍神に忍ばせたボイウナの情報が、此方らの思考を縛った――悪魔ならば、熟知している類の手口であろうにな!」

(こ、こんの野郎……!表情一つも変えねえでそんな煽りを!!)

 

 既にキャスターは術を完成させ、その瞳は怪しく光を放つ。後は、その名を唱えるのみ……!

「浮上せよ、マェ・ド・ヒオの神秘――『黒蛇眼胎:水底より満つ(ボイウナ・オリーニャ・グラヴィダ)』ッ!!」

 

 ――だが、同時に鳴り響いた「声」がもう一つ。

『PURGE PROTOCOL: EXECUTE.』

 

 次の瞬間、赤黒い風が視界を塞ぐ。

「むっ……!?」

「うおわぁああああああああああッッ!?」

 

 ――耳元の通信機が、突如盛大に自爆したのだ。鼓膜への大ダメージと引き換えに、その爆風は僅かに光を遮った!

(コマンド、通ったぞ!爆点基準――方位270、距離240、高度同一!そのまま直線でぶち抜いてやれッ!!)

 指令に続くのは、文字通り巨大な壁を抉り抜く刺突。凄まじい、海鳴りのような怒号を伴って……!

 

「らぅああああああああああああああ――ッ!!!」

「……ぬうッ、『龍環閉塞・天地封鎖(ヴリトラ・アーヴァラナ)』……!」

 

 堰界竜の結界が、「ムシュフシュ」の剣を食い止める。ルーラーが「海」の属性を持つ以上、「流れを堰き止める」力を持つヴリトラは相性的には厳しい。そしてそれ以上に、あの距離では『黒蛇眼胎:水底より満つ(ボイウナ・オリーニャ・グラヴィダ)』をまともに受けてしまうぞ!?

 

「おい、ルーラー!?」

「構うものか!わたしは元より『全生命の母』たるもの。孕み産む回数が、一度増えたところでどうということはない!セイバー、おまえが辱められる必要など……!」

 

 ルーラーの翼、『SSH-001 MUŠ.MAḪ』が光を完全に抑え込む。その隙に、ワシの「人間体」は「竜体」の口内へと滑り込んだ!

「ど……どうなった!?」

 光と爆風が晴れ、顔を上げる。そこには――

 

「……な、」

 何も、起こっていなかった。

 ルーラーが着ているのは、いわゆるパイロットスーツ……体にフィットし、曲線がよく見える衣装。なのに、その腹部に一切の異常はなかった。

 

「――やはり、な」

 混乱の中、唯一キャスターは冷徹に口を開く。

 

「裁定者ティアマト。まさか、忘れたわけではあるまい――此方が既に、己が本質たる宝具を……『始源の海、幼年の終わり(タムトゥ・エンウム)』を喪っていることを」

「……っ、あ」

 

 雷に打たれたかのように、ルーラーの動きが止まる。

「何の臆面もなく、『全生命の母』などとよく口にできたものだ。此方はもはや――我が術を以てしても、“子を産むことが叶わない”というのに」

 止まったのは、彼女の動きだけではない。その武装に流れる魔力も、輝きを失い始めて……!

 

「断言してやろう。己が子を産むことすらできぬ此方は、もはやティアマトではない。そして――『母を名乗る資格は、ない』」

 

 

「――詭弁だッ!!おいルーラー、しっかり気を持て……ッッ!」

 

 キャスターの暴言は、よく考えれば「成り立つ」ようなものではなかった。

 それこそ、出産・育児後に「病気で出産関連の臓器を摘出」した者だっている。彼女らを「母親ではない」と言い張るような詭弁だ!

 しかも大前提として「サーヴァントは受肉しない限り、生理的現象は起きない」――何よりそれ以前に、ルーラーは「ヒト」ではない。女神で竜種だ。強力な【対魔力】もある!

「『黒蛇眼胎:水底より満つ(ボイウナ・オリーニャ・グラヴィダ)』なんざ、そもそも無効にできてたかもしれねえだろ……!」

 

 だがいくら正論を並べても、呼びかけに彼女が応じることはなかった。機械の翼は浮力を失い、少しずつ落下していく!

「駄目だ、完全に戦意と意識を失っているッ!悪いがセイバー、あとは任せたぞ!!」

「任せたって……一体何を!?」

 遅れて大渦を突破し、飛来したバーサーカーがルーラーを回収したかと思うと――その姿が消え、魔力となって武装へ流れ込んでいく。

 

(お前の言った通り、キャスターの言は詭弁もいいところだ。実際俺も、「条件が合わないせいで効かなかった」だけだと思う。だが、実のところ……会議室の段階で、ルーラーは「宝具を喪った自分は、母としての資格がないんじゃないか」という疑念に駆られ続けていた。それでも少しでも、「母らしくあろう」として作ったのが、お前に渡した「弁当」だった。……そこからキャスターは、ルーラーの不安を見抜いていたんだ)

 

【異常事態発生。母艦『SSH-000 DTI.AMAT』の緊急停止を確認。――旗手『SSH-EX DKIN.GU』により、再起動を実施します】

 

「な、何だ何だァ!?」

 激しい駆動音を鳴らしながら、緑と紫の魔力を伴って――ルーラーの体が反転し、落下から復帰する。

 その険しい表情は、明らかに先ほどとは異なっていた。

 

「……分かったよ。それが、僕の“意味”か」

 異常を察知したキャスターと、ルーラー?が距離を取って睨み合う。

 

「……バックアップを仕込んでいたか。さすがに用意周到だな、悪魔めが」

「そういうことだ。――僕がいる限り、『天命記す竜筆の書版(ドゥブ・ナムタルラ・シド・ウシュム)』も使わせない」

 

 うおお、そういえばそうじゃねぇか!あの術の発動が差し止められているのは、ルーラーの異議申し立てがあってこそだ。『天命記す竜筆の書版(ドゥブ・ナムタルラ・シド・ウシュム)』が通ってしまえば、「時間の加速」が再開して即ゲームセットだということは変わっていない……!

 

「……完全に忘れていたって顔だな、お前。これ以上は失望させてくれるなよ、セイバー……!」

「お、おう……!」

 

 ――『SSH-EX DKIN.GU』。

 つまりは、ティアマトの息子の一人にして第二の夫、「キングゥ」の名を冠したユニットだろう。

 神話においても、キングゥは権威の象徴たる「天命の書版」をティアマトから授けられている。それをなぞるからこそ、こいつは「権威の代行者」として『天命記す竜筆の書版(ドゥブ・ナムタルラ・シド・ウシュム)』の発動を阻めると見た。

 とはいえ、さすがにあれが「キングゥそのもの」とは考えにくい。恐らく、ルーラーをサポートするための仮想人格か何かだろうが……

 なんつーか、妙にワシへの言葉に棘がねぇか?

 

「おい“キングゥ”、何か手があるのか!あとお前、初対面だよな!?」

「……当然、手はある。二つ目の質問にはノーコメント」

 そう言って、そいつは銃を構える。

 

【『SSH-001 MUŠ.MAḪ』『SSH-002 UŠUM.GAL』を除く、全武装を一時停止。リソースを再分配――『SSH-EX DKIN.GU』、再点火。スキル【変容】により、過去に受けた攻撃のコピーを実施します】

 

 その主砲から放たれたのは――竜の鱗をも溶かす、熱線の類ではなかった。

「――『模倣・嘆きの氷河に果ては無く(グラシエイト・コキュートス)』ッ!!」

 

 そして、一瞬で大河は凍りついた。

 








キャスターの竜種魔術リスト

・『樹上伏撃の竜槍(イアキュルス・インシディアエ・ラミス)』
Iaculus ramis insidiae。
叙事詩「ファルサリア(Pharsalia)」に言及されている翼のある巨大な蛇、「イアキュルス」の伝承を基にした術。
高い木に登り、枝の中に身を潜め、獲物が通りかかると背中に飛び乗って首に噛み付き息の根を止めるとされ、イアキュルスという名前は「槍」を意味する。
ここから、「自分の姿が見えていないとき、敵への背後からの奇襲を絶対に成功させる」術となっている。ただし、「この術を知らない相手にしか効果が無い」「あくまで奇襲を成功させるだけで、その後は術者次第」という制約がある。

・『火花散る七首の怯迫(テジュ・ジャグア・ポチ・サピカ)』
Teju Jagua Pochy Sapica。
パラグアイを中心とするグアラニー神話に登場する、悪霊タウと人間の女性ケラナの最初の子「テジュ・ジャグア」の伝承を元にした術。
神話によればテジュ・ジャグアは七つの犬の頭を持つトカゲであり、目からは炎が迸る、視線そのものが恐怖の対象となる、七体の怪物の兄弟の中で最もおぞましい怪物だという。
これは月の女神アラシーが、悪霊タウがケラナをさらったことを怒り、 「その子孫は皆、醜く怪物的な姿になる」という呪いをかけたため。
――なおその実態は、果実や蜜を主食とする温和で基本的に無害な存在である。

術が発動すると、術者の背後に「テジュ・ジャグア」の影が現れ、相手を睨みつける。
それは空気を歪ませ、火花を散らすほどの恐怖の視線であり、耐えられないものは逃げ出すだろう。
しかし、その醜悪さ・恐怖は尋常なものではない。「反射的に目を逸らす」か、「思わず注目してしまう」。無反応ではいられない。
人間の脳は進化的に、危険・異常・醜悪なものに対して強い注目反応を示すようにできている。ネガティビティ・バイアス(負の情報への優先的注意)と呼ばれる現象で、危険そうなものを無視したら死ぬので、脳が勝手に「見ろ、確認しろ」と注目を奪う。
つまり、いずれにせよ「テジュ・ジャグアの視線に晒されたものは、最低でもワンテンポ反応が遅れてしまう」ことになる。

・『顕現・急瀬水廊(ミシッピゼウ・ギチガミ・ジービ)』
Mishipizheu Gichigami-ziibi。
スペリオル湖周辺に住むネイティブアメリカン、オジブワ族に信じられている非常に重要な精霊(マニトゥ)、「ミシッピゼウ」の伝承を基にした術。
発動と同時に、術者を中心として地表に大規模な川が出現する。これはミシッピゼウの支配圏たるセントルイス川の一部の召喚である。
「川幅・水深・流速・渦の発生を任意に操作」、「水面、水中の高速移動」、「攻撃を受けた際の流血・欠損・飛散が大量の小蛇へと転じる」といった効果を適用する。
ただし、「その川がちゃんと流れていなければ」それらは十全に発揮されない。

・『黒蛇眼胎:水底より満つ(ボイウナ・オリーニャ・グラヴィダ)』
Boiúna Olhinha Grávida。
ブラジルのアマゾン川流域を中心に語られる蛇の女神、「ボイウナ」の視線を元にした術。
「自分が川の中にいる」時にのみ発動可能。
術者の光る目によって睨まれた人間女性は、性行為を伴わずに「妊娠した状態」になってしまう色んな意味で恐ろしい術。
これは光を介して「呪術と竜の因子による“疑似的な胎"の構築」を行うため、相手がエーテル体で出来ているサーヴァントでも基本的に効果を及ぼす(霊基に「霊的構造体が食いこんでいる」状態に近い)。一体何が生まれるんだー!?
・適用対象は「人間の女性」のみ。神格や人外に効果があるかは個別判定。
・目標は戦闘行動全般に大幅な行動制限(体調変化/腹部違和感、体重増加/集中力喪失など)、精神的負荷を受けることになる。
・対魔力スキルによってレジスト可能。
・解呪によって無効化できるが、そうした場合「お腹の子はどうなるのか?」は術の対象が選んでもよい。

方向性としては『西遊記』における「子母河の水」に近い。あくまでも全年齢ドラゴンです。
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