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竜種における
地球と同じ、四十六億年の時を生きたとされる――幻想の頂点。だが、数多の輝かしい称号に対して、その結末は侘しいとすら言えるものだった。
汎人類史において神代が終わりに差し掛かった時、多くの竜は幻想が失われる前に、「世界の裏側」へと移った。しかし、アルビオンはそれでもブリテン島に残ることを選んだ。
その理由は、もはや誰も知らない。だが神代が終わり「もはやここは人間の世界だ」と受け入れ、世界の裏側に行こうとした時には――既にその孔を穿ちようがないほどに、神秘は衰退しきっていた。
アルビオンは諦めず、「物理的に穴を掘る」ことで神秘の残る地底へと潜ったが、それでも「裏側」への到達は叶うことなく……八十キロほどで力尽きた。
(余談だが、現状で人類が科学技術を用いて最も深くまで垂直に掘り進めたのは、1989年におけるロシア・コラ超深度掘削坑の約12km。深部での温度は二百度以上になるからな、技術的に色々と大変なんだよ。それを踏まえると80kmってマジで凄いんだぜ)
こうして「最強の竜」はこの世を去った。だが全長二キロにも及ぶ遺骸と、それが掘った跡はそのまま巨大な地下迷宮――「霊墓アルビオン」と化した。
魔術協会における三大部門の一角「時計塔」が栄えたのも、その地下に広がる迷宮から産出される魔術資源や研究成果の影響が大きい。
……ここまでは、「汎人類史」における話だ。
ある並行世界の2017年、剪定されたはずの「行き止まりの人類史」が形となる事象――「異聞帯」として汎人類史を攻撃する、通称「濾過異聞史現象」が発生。
その「異聞帯」の中に、ブリテン異聞帯……「妖精が住まう、幻想の世界」があった。そして、この世界においてアルビオンは「世界の裏側」、即ち「星の内海」までの道を拓き切り、しかし「通ることができなかった」ために死亡。
だが、その魂は「霊墓」に留まり続けていた。
(もちろんキャスターは、この並行世界も観測している。奴はその情報をもとに「アルビオンの遺骸」「異聞帯のアルビオンの魂」にアクセスし、その神秘を抽出することに成功したんだ。
かくして『
(……黙って聞いてりゃ、何から何まで無茶苦茶すぎるだろッ!?言いたいことは無数にあるが……何より!キャスターは一体どうやってそんなことを、誰にもバレずにできたんだよ!?)
(うむ、実に同感だ。まずはその疑問から片付けていくとしよう。――ところでセイバー、「現代で最も知名度のある竜」って何だと思う? 魔術的にじゃなくて、一般人の視点で答えてみてくれ)
(えっ!?……リヴァイアサンは聖書に出てくるし、ホッブズの著書タイトルになってるしでいい線行けるか……? いや、何の話なんだよ!?)
(回答としては悪くないな。俺の考えとしては、「ネス湖の怪獣」――通称「ネッシー」を候補に挙げたい)
(……ネッシーって、あのUMAの?確かに、竜っちゃあ竜だがなぁ……)
(うむ。だが、その困惑こそが術の本質とも言えるのさ)
――「スコットランドのネス湖には、首長竜が生息している」。
科学が進歩し、神秘の衰退が加速した二十世紀において、そのロマンある噂は大いに世間を騒がせた。
(だが調査と研究の積み重ねにより、湖に巨大生物がいるという「決定的証拠は存在しない」と否定されてしまう。……そしてキャスターは、その事象すらも術に取り込んだ)
――『湖に首長竜は存在せず(ノー・ディフィニティブ・エビデンス・オブ・ア・モンスター)』。
「首長竜の不在証明」を逆手に取った、非常に強力な隠密術。
「ネッシーの不在を確信する」観測者から、術者の姿・気配・魔力反応を一切遮断できてしまうほどの。
(当然、万能のステルスじゃあない。術者が攻撃態勢に移ったことで「存在」が証明され、偽装が解けてしまったんだ。さらに言えば、この術は「ネッシーの不在証明について詳しくない者」には効果がない。だから、現代のUMAなんて知らないウィツィロポチトリには通らず、俺のような「知恵者」には最悪の相性となったわけだ)
(自分で言うな、自分で!――それで。そうしてまで、奴は具体的に何をしていたんだ?)
◇
姿を隠し、「霊墓アルビオン」に突入したキャスターが最初に使ったのは、『
フランスに伝わる怪物、「ヴィーヴル」の額に宿る紅い宝石にして第三の瞳を再現する術。これが「宝石魔術」の器として、術式を八つ封じ込め、一斉起動を可能とした。
(その結びつきを強化するのに使ったのが、「伏羲」の『
(『
(正解だ。伏羲の印が「目標同士を“同じ枠組み”に入れて、結びつけ、まとめて扱う」ことで、「キャスターの魂の欠片」は必要な術すべてを送り届けることに成功した)
かくして、冠位の竜を迎えるため――八つの光が瞬いた。
第一の術、『
世界樹の根を齧る北欧の大蛇「ニーズヘッグ」を「世界という大樹の根幹に干渉し、不要とされた時間軸を“啜り上げる”竜」として定義。剪定され、消滅したはずの「過去の断片」を吸い上げ、現実世界に一時的に重ねる術。
第二の術、『
道教における創造の女神「女媧」が「天を繕い、世界を修復した」逸話に基づく術。『
第三の術、『
アルメニア高原に実在する古代の巨石碑
第四の術、『
日本の道成寺縁起に語られる、情念の末に蛇竜となった少女「清姫」に由来する追跡術。「異聞帯のアルビオン」への道が拓かれた後、あらゆる遮断・偽装もすり抜け、その魂を決して見逃さない。
第五の術、『
中国の民間伝承「白蛇伝」に語られる白蛇の精、「白娘子」に由来する環境適応術。蛇から人へと姿を変え、時代ごとに物語の意味すら変えて「生き残ってきた」性質に基づく「自身の構造と存在位相を最適化する仙術」は、霊墓アルビオンの極限すらも踏破する。
第六の術、
仏教における福徳・財宝の女神「弁財天」、及びその源流たる「サラスヴァティ」に由来する術。「財宝に関わる魔術全般」を増幅し、最大開放時は一度だけ「最も価値ある因果」を引き寄せる。術者にすら制御できない、何らかの形で。
第七の術、『
中国神話の悪神にして洪水をもたらす黒き竜、「共工」の伝承をもとにした術。
怒れる共工が不周山にぶつかり、天を支える柱を折って世界の流れを傾けた逸話に基づき、一定範囲における「流れ」のすべてを一本化する。その間、「天地を傾かせ星々にすらも干渉する巨獣」に対して、いかなるものも干渉できない。
第八の術、『
『ゴエティア』における72柱の魔神の一柱「ボティス」に由来する術。
術者に対して「過去と未来についての知識」をもたらし、「敵同士を和解させる」ことを可能とする。
(……最後だけピンと来ないんだが、どういうことだ?)
(実にいい質問だ。アルビオンについてだが、このような言葉が伝わっている)
――『白き竜と赤き竜は相克し、また同一』。
(アルビオンの語源はラテン語の
(えー、つまり……キャスターは、本来なら交わらない白と赤の力を「和解させる」ことで、その両方を手に入れた……ってことなのかよッ!?)
(大正解。こうなった以上、もはや耐えられる可能性は万に一つもない。しかも「天から目標を狙い撃つ」性質上、回避も困難。今から「世界の裏側」に逃げる余裕もない。つまり、発動前にキャスターを倒し切るしかないが……残された時間は、多く見積もって三十秒だ)
(……マジかよ。いや、それ以前に『
(いいや、邪魔できないのは「『
一度言葉を切り、悪魔は笑みを湛えながら続ける。
(――セイバー・タラスク!お前の「あの秘策」ならば、間に合わせることは不可能じゃないッ!!)