ウマ娘 地上の輝く星   作:ステイタキオン

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URA賞授賞式

 都内の一流ホテルの大ホール。シャンデリアの眩い光が、格式高い絨毯とドレスアップした出席者たちを照らし出している。

 

 この年は、国内外のビッグレースで歴史的な大記録が次々と生まれた、まさに「黄金期」とも言える非常に濃い1年だった。

 その主役たちが一堂に会したURA賞授賞式は、トゥインクルシリーズ史に残る華やかな式典となっている。

 

 年度代表ウマ娘にはジェンティルドンナが選ばれた。

 二年ぶり二度目の年度代表ウマ娘に輝き、この年は春に海外の「ドバイシーマクラシック(G1)」を快勝。

 そして何より「有マ記念」を見事に制し、劇的なラストランで日本中を感動させた。

 授賞式は、彼女の偉大な足跡を称えるセレモニーのような、どこか温かい空気に包まれていた。

 

「世界一」の称号を引っ提げて登壇したのは、最優秀シニアウマ娘のジャスタウェイだ。

 三月の「ドバイデューティフリー(G1)」を圧巻のレコードタイムで圧勝。日本トレセン学園として史上初となる「単独世界一位」という偉業を成し遂げ、国内外にその強烈な末脚を見せつけた歴史的なシーズンだった。

 

 さらに、最優秀ダートウマ娘には、チャンピオンズC、川崎記念、東京大賞典を怒涛の勢いで制した砂の覇者ホッコータルマエ。

 最優秀短距離ウマ娘には、芝とダートの境界線を文字通り白く染め上げたスノーフォール、スノードラゴンが選出され、クラシック戦線を盛り上げたイスラボニータとハープスターの二人が、最優秀クラシックウマ娘の栄誉を分け合った。

 

 華やかな式の終盤、次世代を担う若き才能たちを称える「最優秀ジュニアウマ娘」の発表へと移る。

 阪神ジュベナイルフィリーズを鮮やかに制したショウナンアデラが拍手の中で登壇する。

 

 そして――もう一人。

 壇上にその名が響き渡った瞬間、会場の空気がわずかに張り詰めた。

 

 最優秀ジュニアウマ娘:スターズシャイン

 

 ミリタリーアレンジの勝負服から、漆黒のフォーマルドレスに着替えた青鹿毛のウマ娘が、堂々と胸を張ってステージへ歩を進める。

 その背後には、いつも通りの特徴的な帽子を被り、不敵な笑みを浮かべたトレーナー・矢萩流星の姿があった。

 

 トロフィーを受け取り、フラッシュの嵐を真っ直ぐに見据えるスターズシャインの瞳が、爛々と輝いていた。

 

 

――――

 

 

 きらびやかなシャンデリアが放つ光のシャワーと、ひっきりなしに焚かれるカメラのフラッシュ。

 最高級のワインや豪奢な料理の香りが混ざり合う都内一流ホテルの大ホールは、まさに今年のトゥインクルシリーズを支配した勝者たちのための聖域だった。

 ジェンティルドンナ、ジャスタウェイ、ホッコータルマエ。テレビの向こう側でしか見たことのなかったような、一時代を築き上げた絶対的な主役たちと、彼らを影から支え、栄光へと導いた名伯楽たち。

 そして、彼らの一挙手一投足をも逃さまいと群がる、鋭い眼光をした百戦錬磨の報道陣。

 その圧倒的な熱気と格式の高さに、矢萩は喉の渇きを覚え、無意識のうちにネクタイの結び目に指をかけていた。

 

「ふぅ……」

 

 思わず小さく漏れ出た溜息。

 どれだけ中央トレセン学園の厳しい試験を勝ち抜いたとはいえ、自分はまだ実績のない地方上がりの新人トレーナーに過ぎない。

 この場に満ち満ちている「選ばれし者」たちのオーラに、正直、矢萩は足元から萎縮してしまいそうになっていた。

 自らの小心さを自覚し、小さく肩をすぼめたその時、隣から静かだが妙に腹の底に響く声が届いた。

 

「俺と組んでいるというトレーナーが、俺以外のものに萎縮するな」

 

 ドレスの裾をわずかに揺らし、シャンパングラスを片手にしたスターズシャインが、前を向いたままそう言った。

 彼女の横顔には、歴戦のシニアウマ娘たちを前にしても一歩も引かない、堂々たる「一等星」のプライドが満ちていた。矢萩の胸の内にある微かな動揺を、彼女の鋭い野生の勘は見逃さなかったらしい。

 

「すまないな、小心者なんでね」

 

 自嘲気味に苦笑する矢萩に対し、スターズシャインはグラスを軽く傾け、悪戯っぽく、しかし絶対的な確信を込めて言葉を繋ぐ。

 

「目に映るものに目を輝かせてさえすればいい。ま、俺の前では世のすべてが霞んで見えるだろうがな」

 

 あまりにもいつも通り、いや、模擬レース場で大演説をぶちかました時以上の傲岸不遜な物言いに、矢萩は一瞬呆気にとられ、次の瞬間にはフッと吹き出していた。

 張り詰めていた肩の力が、嘘のように抜けていく。そうだ、目の前にいるこの青鹿毛の怪物こそが、世界を驚かせるために自分が選んだ相棒なのだ。周りの名声がどれほど眩しくとも、自分が信じるべき輝きはすぐ隣にある。

 

 矢萩はポケットから、びっしりと予定が書き込まれた手帳を取り出し、声を一段低くした。ここからは、ただの華やかな夜ではない。未来をひっくり返すための、本当の作戦会議だ。

 

「来年は芝のレースも走ってもらう。ダービーを目標とするなら……」

 

 年明けのローテーション、芝適性を証明するための初戦の選択。トレーナーとして練り上げてきた青写真を伝えようとした矢萩の言葉を、スターズシャインはピシャリと、冷たく遮った。

 

「それを俺に報告してどうする。トレーナーとしていかに動くかはお前が決めろ」

 

 突き放すような物言いに、矢萩は思わず目を丸くする。しかし、彼女の瞳にあるのは拒絶ではなく、トレーナーへの絶対的な「役割の全う」を求める強い光だった。

 

「俺にできることは俺がやり、お前のできることはお前がやる。そして、現場のことは現場の人間に任せる。そういう方針だっただろう」

 

「……そうだな」

 

 矢萩は静かに手帳を閉じ、不敵に笑う相棒の顔を見返した。

 

「この世で最高の娯楽が俺の美貌を見ることだと気づいたか? よかろう! 許す! 存分に俺をねめまわし、先祖代々!称え続けるがいい!」

 

 漆黒のドレスの裾を華麗に翻し、無数のフラッシュが焚かれるカメラの前に堂々と立ちはだかって、自信満々にこれ以上ないほどキメキメのポーズをとるスターズシャイン。

 その姿は一等星の輝きというより、もはやただの暴君、あるいは極上のナルシストのそれだった。

 

「ってやっぱなんだこいつ」

 

 さっきまでの感動を返せと言わんばかりに、矢萩は心の中で盛大にずっこけ、顔を手で覆った。

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