GⅢ共同通信杯(トキノミノル記念)
東京レース場の芝1800mで行われるレースであり、皐月賞のトライアル競走ではないが近年ゴールドシップ、イスラボニータが本競走の勝利を経て皐月賞も制している。
春のクラシックレースへ向けた重要な前哨戦となっている。
「外から八番ドゥラメンテ、内から一番リアルスティールがいく。リアルスティール二連勝降臨! ドゥラメンテ二着!」
リアルスティールは好スタートから道中は好位のインでじっと脚を溜める完璧なレース運び。
直線でスムーズに外へ持ち出すと、力強い伸び脚で抜け出し、見事に無傷の2連勝で重賞初制覇を飾った。
一番人気に支持されたドゥラメンテは、道中でかなり行きたがる仕草を見せ、ポジションを少し下げるシーンがあったが、直線ではメンバー最速となる上がり三ハロンを見せた。
負けはしたものの、「負けてなお強し」を印象付ける怪物っぷりを見せつけた。
「ドバイに行った福長トレーナーに代わり、代理に入った矢萩トレーナーの采配が光りました」
実況がそういうように、本来リアルスティールはチームを結成している福長トレーナーのチームに所属しているが、福長トレーナーはエピファネイアと共にドバイに行き、その代理として矢萩が今回代理トレーナーとして入っていた。
インタビューを終え帰り道の途中担ったスマホの画面には「スターズシャイン」の文字が激しく明滅していた。
通話ボタンを押すや否や、スピーカーから耳を突き刺すような、凛とした、しかし最高に機嫌の悪そうな声が響き渡る。
『おい流星!! 他所のウマ娘を勝らせて、随分といい顔でテレビに映っていたな!』
「お前なぁ、一応お祝いの言葉とかさ……」
『黙れ! 誰が他所の優等生を褒めるか! 貴様がねめまわし、先祖代々称えるべきは、この俺、スターズシャインただ一人だろうが!』
相変わらずの暴君ぶりに、矢萩は思わず天を仰いだ。だが、彼女の言葉の裏にある、狂おしいほどの闘争心を矢萩は敏感に察知していた。
「お前こそわかっているんだろうな、次は……」
「わかっているよ、俺の次走るのは……」
GⅡ弥生賞
三着までのウマ娘に皐月賞の優先出走権が付与されるトライアル競走。
皐月賞と同じ舞台の中山レース場・芝2000m
クラシック戦線に直結する重要な前哨戦として位置づけられる。
その中山の控え室で、スターズシャインの前に立っていたのは、独特の情熱的なオーラを纏った女性だった。
中山レース場の控え室。出室美緒は、いつも通りの堂々とした態度で佇む青鹿毛のジュニア王者を興味深げに見つめながら、ふと問いかけた。
矢萩流星が共同通信杯のリアルスティールに続き、他のサポートで手一杯になっているとはいえ、クラシックの最重要トライアルで担当を外れるなど、普通ならあり得ない。
「いや、流星はダービーまで俺の担当をしないって言ったんだ」
スターズシャインは、ドレスから着替えた勝負服のグローブをきゅっと締め直しながら、事も無げに返した。
「担当が変わるってなっても落ち着いてるんだね」
「あいつのできることはあいつがやる。俺のできることは俺がやる。それだけだ」
そこには焦りも、トレーナーへの不信感も微塵もなかった。ただ、互いの役割を限界まで全うするという、歪で、しかし強固な信頼の絆だけがあった。
「ふふ、なるほど。なら、私も私のやることをするまでだ。世界一の走りを教えてあげるよ」
出室は満足そうに微笑むと、鋭い勝負師の目になってスターズシャインの背中を押した。
GⅡ弥生賞のゲートが開いた。
レースはジャストフォーユーが果敢にハナを奪い、中山のタフな馬場状態を考慮すると平均的なペースで引っ張る展開となった。
一番人気に支持されたシャイニングレイは好位の2番手を追走し、出室のもう一人の愛弟子であるサトノクラウンは中団の五、六番手でじっくりと脚を溜める形を選択する。
初めての芝の重い馬場、そして独特の急コーナー。スターズシャインは砂の上とは違う芝のキックバックとフットワークの狂いに、道中わずかにもがくような仕草を見せていた。
四コーナーにかけてウマ娘達が一斉にスパートを開始する中、サトノクラウンは抜群の手応えで進出を開始。
直線に向くと、馬場の中央から力強く抜け出したサトノクラウンが、後方から猛追してきたブライトエンブレムの追撃を一馬身半差で退け、メイクデビュー、東京スポーツ杯ジュニアステークスに続く無傷の三連勝で重賞二勝目を挙げた。
『一着はサトノクラウン! 皐月賞の視界は良好! 一番人気のスターズシャインは八着という結果になりました!』
悲鳴とどよめきに包まれる中山のスタンド。
砂の無敗王者が、初めて味わう完敗の味だった。
「んで、トレーナー、俺の敗因はわかるか」
だが、スターズシャインは悔しそうな顔で、冷静に出室に自分の敗因を聞いた。
「距離……適正距離が合っていない」
適正距離。
それは、ウマ娘にとって重要な要素。
広い範囲の距離を得意とするウマ娘もいれば一つの範囲のスペシャリストとなるウマ娘もいる。
「君は全日本ジュニア優勝の時、1600mでレコードを出した。君の本来の脚質はマイル」
「そっ、流星も似たようなこと言ってた。だから出るのは皐月賞ではなくて、NHKマイルカップ。それまでよろしくな」
出室の中で感じたある種の闘争。
既にトレーナー同士の水面下の戦いは始まっている。