第1話
高貴なる闇の血を引く、氷のように厳格な母。マグル生まれの、やけに容器でおおらかな父。
その正反対の二人の間に、私はぽつんと生まれ落とされたんだ。
私の皮膚の下には、相容れない2つの血が、まるで冷たい泥と燃える日が混ざり合うみたいに流れていた。あまりに過剰な繊細さと、あまりに無鉄砲な情熱。それが一つの体の中で絶えず私を切り裂いていた。自分という存在の形がどこにも見出せないし、人とどう関わればいいのかもわからない。誰かに触れようとするたびに、自分の尖った心が相手を傷つけてしまうような気がして、いつも怯えていたっけ。
だから、私は道化(ピエロ)になった。
最初はただの偶然。なにかヘマをして、誰かに笑われたんだよね。今となっては何だったのかも思い出せないけれど、それは嘲笑と言うほど冷たいものではなくて、その人はただ可笑しくて笑っていただけなのだと思う。不思議なことに、その人が笑っただけで、私に居場所が与えられたような気がしちゃったんだ
それから、おっちょこちょいと言われるようになった。はじめは嘘。ただのお芝居だったかもしれ兄。けれども、嘘ってものは本当に恐ろしいよね。いつしかそれが私の骨肉に染み込んで、ただの癖になって、私の本当の輪郭を消してしまっていた。
そうして私は、本物の道化になったってわけ。
そんな道化の私が、今での忘れられない冬の日があるんだ。
ある日、パパが怪我をして帰ってきた。ママはパパの傷の手当もしないで、ただひたすらにパパを責め立てていたっけ。まだ子供だった私には、二人が何を言っているのかちっともわからなかった。だけどさ、ママはこれまで一度も見たことがないほどの剣幕でパパに向かっていったんだ。
パパといえば、いつものようにヘラヘラと笑っていた。でもね、目は全然笑っていなかったし、いつもよりも過剰な冗談を言っていた気がする。まるで、自分の流している血も、ママが怒り狂っている理由も、全部まとめて煙に巻こうとしているのが見え見えな具合。子どもの私を、その暗い渦から必死に遠ざけようとするみたいにさ。
外は雪だった。
庭にこんもりと雪が積もっていて、外に出たいとねだったけれど、ママは絶対に許してくれなかった。
最後に外に出たのは、一体いつだったのだろう。
ママは、パパがいれば外に出ていいよって、昔はそう言っていたんだよね。だけどあの日を境に、我が家には新しい決まりができた。パパも、私も、何があっても絶対に外に出ては行けない。ただそれだけ。
パパは退屈しのぎのつもりか、何度も外へ抜け出そうとした。でもそのたびに、ママが本当にすごい剣幕で怒るんだ。パパだって、きっと本気で抜け出そうなんて思っていなかったんだと思う。半分はただの悪ふざけで、ママを笑わせようとしただけ。なのに、ママはいつだって、本気で、死にそうな顔をして怒っていた。
子供の私には、外で何が起きているのかを教えてくれる人はだれもいなかった。ただ、世界のすべてが凍りついたみたいにピリピリと張り詰めていて、大人たちはみんな、死線の上で必死に私という「子供」の領域を守ろうとしていたんだ。彼らにとって、自己犠牲なんてものは、わざわざ口にするまでもない当然の義務だったってわけ。
そんな暗闇の冬が明けて、ようやく外に出ることを許されたのが、ホグワーツへの入学許可証が届いた日だったんだ。
ママは最初、自分一人だけでダイアゴン横丁に行くと言い張った。でもさ、珍しくパパが冗談の一つも言わずに、三人で行くんだって一歩も引かなかった。そこからはもう、ママとパパの口論がずっと、ずっと続いていたんだよね。夏中ずっと言い争っているんじゃないかって錯覚するくらい。
このまま行くと、私は教科書も買えないし、ローブも杖も手に入らない。ただこの家の中に閉じ込められて、二人の出口のない泥仕合を永久に見届けていなきゃいけないんじゃないかって、本気で暗澹たるきもちになったってわけ。
だから私、言ったんだ。「行きたい」って。
別にロンドンの街が見たいとか、きらきらしたお店を除きたいなんて子供らしい理由じゃないよ。ただそうしないと、入学に必要なものが何一つ買えないって思ったから。至極現実的な判断ってわけ。
私のその一言で、パパは勝ち誇った顔をした。ママはまるで獣みたいに歯をむき出して反撃をしたけれど、結局のところ、とうとうママが折れた。
そうして、ホグワーツ特急が出発するちょうど二週間前。
私たちは三人で、あのダイアゴン横丁に行くことになったんだ。