学園仮面ライダー ダークサイド 〜サマーナイトパーティー〜   作:大島海峡

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 俺の名前は天空寺(てんくうじ)タケル。

 六歳の頃に眼魔(がんま)の世界に迷い込んで生死を彷徨った末にアドニス様に救われた俺は、その身も魂も、眼魔世界の存続のために捧げ続けてきた。

 

 世界が融合する、その日までは。

 ディケイド、という仮面ライダーの消滅後、無尽蔵に増大する並行世界。無限に分岐するタイムライン。そしてそれらを統括し、未熟なライダーを養成するライダー学園。

 

 その混沌の渦中に、俺は燻っている。

 

 〜〜〜

 

 足下に蔓延る小さな擬似生命を、キバット科二年、ゴースト族の化野(あだしの)九一(くいち)は爪先で払った。

 菓子箱の如きその群れの名は、ゴチゾウ。改造グラニュートのガヴ器官から精製される眷属である。

羽毛の如く命軽き者どもなれども、踏み潰して散らしてしまうこともあるまい。咎めるべきは、それを無作為に生む者である。

 

「K。おやつは一日一種類まで。そう言ったはずだ」

 ライダー学園、旧体育館倉庫。

 不良生徒のグループ『ヴァニタス』拠点。

 そのソファに寝そべって占領しているのは、中性的かつ幼い顔立ちの、少年である。巻き毛の上に丸メガネを掛け、ふてぶてしい面構えでチョコクリーム塗したポテトチップスを摘んでいる。

 そのシャツはやや下の丈が短く切り詰められ、臍があらわとなって……いる代わりに、黒い獅子舞のごとき補強装置が取り付けられている。

 ゴチゾウ科一年。通称K。純粋なグラニュートでもなく、かといって人間でもない。所謂、人造の生命体だ。

 

「だからコレで一個でしょ」

「嘘つくな。だったら、こいつらはなんだ」

 絨毯といいテーブルといいひしめく種々様々なゴチゾウたちを片端から指で示しながら、冷ややかに問いただす。接種したお菓子の数だけ腹より排出されるこれらこそが、不逞の証拠だ。

 

「うるさいなぁ。だいたいえーと、何だっけ? そう、夏休み? だとかで、みんな出払ってんだから、こんぐらい良いじゃんか」

 

 ただいま、ライダー学園は夏季休暇に入っている。

 家族や友人との久闊を叙すもの。そうした人間がすでに居なくても、誓いをあらたにするために帰郷する者などは、一時的に自分たちの世界へと帰っていた。

 他ならぬ、いつ散ると知れない身の上だからこそ。

 

 そして、そうしたことに興味のない学生や、帰る場所のない者などが、いま学園に残って、余暇を謳歌していた。

 

「タガの外れた状態で自分に甘くなれば、不摂生は加速する。ボスが不在の今、己を律しろ」

「そのボスがアレじゃん」

 

 口を尖らせてKが指し示すのは、自分たちのリーダーの特等席。バーカウンターのようなその卓上に、

『ちょっとインド旅行行ってくるわ! ナマステ!』

 という、この世の全てを舐め腐ったような字体と文言が立てかけられている。

 

「……ボスは良い。あれが自然体だ」

「えーずっる! てか、なんでボスには甘いわけ?」

 

 その非難を受けて、無言で九一は想起する。

 半開きの目の向こう側に映るのは、夜と雨。その中で頽れる己。そして、腕を差し伸ばす、自分たちのボス、楔引(くさびき)六鹿(りっか)の幻影。

 

「……関係ないだろう、お前には」

「……フーン」

 

 それ以上の追及を拒む響きを帯びた、九一の声の低さと冷たさに、Kは首を窄めた。

 

「じゃあボスは良いけどさ。あとでアイツも叱っておいてよ。一緒に食べてたんだから、ボクばかり叱られるんじゃ不公平だ」

 

 そう言って、寝そべったままに指で示す『アイツ』は、隣に増設された、シャワールームで軽快な水音を立てていた。

『立ち入り、覗き一切厳禁!!』

 などという、ポップな字体のプレートを扉の前に立てかけて。

 

 〜〜〜

 

 歌う曲目は好きなゲームの、アップテンポなOPテーマ。完全個室型のシャワーは亜麻色の髪と、肉体の曲線を経て、その勢いと水筋をなだらかに変える。

 果たして許可や基準を満たしているか怪しい。そんな簡易的なシャワーを浴びているのは、ガシャット科一年萬頭(ばんづ)廿日(はつか)。ただいまこの休暇においては、ヴァニタス残留組の紅一点である。

 

「防音室、やっぱここしかないの不便だなぁ……かと言って、寮は壁薄すぎるし、風呂の時間限られてるし」

 

 ヴァニタスのアジトに併設、共有されている収録兼演奏環境にて、副業の配信業を切り上げた彼女はそう愚痴を水音に紛れさせ、流していく。

 

「ん……?」

 ふと、壁の外に気配を感じた。

 二人が覗きに来た――? 否、気配は脱衣所の方ではなく、外側の壁向こう。

 しかも、足音が無かった。シャワーの音で聴こえなかった、というほどに鈍重ではない。

 

 ただ、気配のみが、近づいてくる。徐々に、数を増している気がする――。

 シャワーを蛇口を捻って閉じて、そっと耳を壁に寄せた、次の瞬間だった。

 

 斧刃が、壁を突き破ってシャワー室にめり込む。

 

 刹那、本能的な絶叫が、廿日の喉から絞り出された。そこから頭部をねじ込んでくる。黒い顔面、貼りつくシンプルな青い両目。赤い毛髪――斧眼魔である。

 

 だが、間を置かず脱衣所側のドアが蹴破られた。

 九一とKが、乗り込んでくる。

 Kがその腹部より、黒い大剣、ビータガヴガブレイドを吐き出し、射出する。

 悲鳴を続ける廿日のすぐ横に当たり跳ね返ったところを、Kは手早くキャッチ。上半身が未だ抜けきれぬ眼魔の首を一閃。怪人は、黒い霧に変じて散っていく。

 

「なにコレ?」

「分からん。だが、とりあえず、異変が起こったことは確かだな。アジト外の状況を確認しておくべきか」

「あの、あのー!」

 

 駆けつけてきた男子二人、今の今まで湯浴み中であった女子一人。ぎゅうぎゅう詰めになったシャワー室の角で、腕を前に置いて屈み込んだ廿日は、恨めし気に、

「助けてくれてどもスけど……素っ裸の女スルーしといてハナシ進めて、何か思うこと無いんスか?」

 と、問う。

 ややあって二人は答えた。

 

「間食の量のわりに体型は維持できていると言いたいが……不摂生は表出していてライフエナジーの質も悪い。生活習慣を即時改善することだ」

「マズそう」

「ぐっ……このヒトデナシども!」

 

 廿日の悪態に、「何をいまさら」と九一は低く返しつつ、Kを伴い、脱衣所へと引き返す。

 そして今度は、アジトの入口を開けて立つ人影に気づき、目を尖らせて歩み寄る。

 

「ヒトデナシ、こっちにも追加」

 

 そうKが揶揄を飛ばした先、マッシュルームカットの若者が険しい表情で佇んでいる。

 夏服の上から、将校を想わせる黒いケープコートを羽織る異装にて。

 

 同じ顔の人間(そんざい)は、学園内に数いれど、そのような恰好と陰鬱な表情は、ただ独り。

 (ほむら)寮二年。眼魂(アイコン)科――天空寺タケル。

 

 その手首には、変身デバイスたるメガウルオウダーが、すでにセットされていた。

〈Yes, Sir〉

 そして自身の眼魂をセットするや、強く踏み込んだ。

 

〈Tengan! Ghost! Megauloud!〉

 潜水服のような十字のマスクが、パーカーゴーストと共にそのから生成され、その彼を覆う。

 

 仮面ライダーネクロムゴースト。

 それが、正史より大きく外れた彼の、眼魔世界の戦士としての名だ。

 

 そしてパーカーを取り外すと同時に、さらにデバイスに追加コマンドを入力。

 

〈Daitengan! Ghost! Omega Uruoudo!〉

 身構える二人の横をすり抜けるや、オレンジ色の流体金属クァンタムリキッドを凝縮した左拳で、虚空を……そこに潜伏していた何者かを、殴り抜ける。

 

 透明化・幽体化を強制的に解かれたそれの姿が、露わとなる。

 同じく彼とは似て非なるパーカーを頭より被った、異形の鬼面――アナザーゴースト、と呼ばれる怪人だ。

 予期していなかった側頭部へと攻撃をまともに受けたそれは、テーブルに叩きつけられ、その上に置かれていたものを巻き込んで破壊しながら、昏倒した。

 

 先の眼魔と同じく、黒い霧となって姿が消滅していく。だが、今回は後に、倒れ伏す若者の姿があった。着衣しているのは、ライダー学園の制服。喪神しているその横顔は、

「あれ、同じ顔じゃん」

 ネクロムゴーストの彼とは面構えこそ違うものの――天空寺タケル、そのものだった。おそらくは、生徒のうちのひとり。

 

「どういうことか説明しろ、天空寺」

 ……少々錯綜してややこしいことを承知のうえで、九一はあえてその名を呼び、ネクロムゴーストの変身を解くように目で促す。

 それに従いパーカーゴーストとの融合を解いたタケルは、

「知るか。俺もいきなり襲われたんだ」

 と冷ややかに返した。

 

「それより、さっさと侵入口を塞いだほうが良い――奴らの仲間入りしたくなければな」

 

 彼が目と顎で示す先、アジトの外。

 そこにはすでに、無数の怪人やライダーたちが、所在なく腕を垂らしながら、一帯を埋め尽くし、うめき声の大合唱とともに徘徊していたのだった。

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