学園仮面ライダー ダークサイド 〜サマーナイトパーティー〜   作:大島海峡

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 すでに日が暮れ、旧体育倉庫だけが、煌々と電気を灯していた。

 

 脱衣所のドアが半分開く。その隙間から丸眼鏡をかけた廿日がじっとりと他の三人を睨んできたが、ややあってから完全に姿を見せた。

 

 学校指定のものをパステルチックアレンジしたジャージをまとい、髪を団子にまとめて結い上げて。

 

「シャワー室は塞いだか?」

「えぇ、えぇ。急場凌ぎってレベルじゃないっスけどね」

「なんで、誰もこうなるまで気づかなかったんだ」

 咎めるような鋭さで問うタケルに対して、

 

「ゲーム配信して、シャワー浴びてました」

 と廿日。

「菓子食って寝てた」

 とK。

「…コーヒーのブレンドをしていた。カレーに合うやつ」

 九一でさえ、この為体である。

 

 しかし、かくも外界より孤立していたことが、逆に今まで騒動に巻き込まれずに済んだのだろう。

 

「で、なんなんスか。この状況」

 

 廿日が言うところの『この状況』というのは、ノビたままの天空寺タケルをソファに寝かせて検分している状況を言うのか。それとも外部で亡霊やゾンビめいた連中がひしめいていることを指すのか。おそらく両方だろう。

 

「彼自身の気質とは異なるライフエナジーの残滓が感じ取れる。アナザーゴーストの紛い物となって正気を失ったのは、これが原因だろう」

 

 気絶している方のタケルの頬に触れながら九一が言った。

 ライフエナジーとは読んで字の如く生命力のエネルギー。寄り集まれば人を怪物に変え、死者を蘇らせたり怪物となって具現化することもあるだろう。

 

「と言うことは、さっきの眼魔や外の連中も?」

「おそらく、高濃度のライフエナジーの実体化および、それに取り込まれたことによる一種のトランス状態だな」

「でも、そんなもん一体どこから……」

「死んだ奴らがお盆だから帰ってきたとか?」

「にしては半月ほど早いな」

 

 Kの揶揄を適当に受け流しつつ、九一は外に向けて目を凝らした。

 

「だが、偶然にそうなるものではない……この先に、大量のライフエナジーが渦巻いている。おそらくこの騒動を人為的に発生させている存在は、そこだ」

 

 入口に設けたバリケード越しに、九一が指で示した先、そこは各寮から等しく中心地。中庭に通じる道。

 ただし、その道程にはすでに物言わぬ有象無象がひしめいている。一体一体は特に脅威とはならないが、数を恃んで押し包められては、詰みとなる。

 接近しない限りは、積極的に襲ったりすることは無いらしいのが幸いか。

 

「先生たちは?」

「諸先生は、休み中の生徒の任務の穴埋め中で全員で払っている……学園長は、例のごとくこちらからのコンタクトは難しい。件の未来予知で自分が出張らずとも問題ないという判断だろうよ」

「マジスカ」

 硬い声音で、廿日は嘆いた。

 

「そんで、どうすんのさ」

 Kがタケルを寝かせるソファの背もたれに肘を置きながら問うのに対し、九一は親指と人差し指を立てて見せた。

 

「対応としては、大きく分けて二つ。一つは、この場で籠城を続け、先生やボスたちの帰還を待つ。ただそれがいつになるかは不明なうえ、ライフラインがいつ断たれるかも分からない。食料もすでに心もとない」

「えーっ!? なんでスか!?」

「もっとお菓子買い込んでおかないからっ!」

「……お前らが勝手にバクバク食ってたからな」

 九一は冷ややかに二人の後輩を見遣った。

 自分たちは補給無しでも保つだろうが、困るのは不平を慣らしたこの二人だ。

 

「で、あえて訊くまでもないことだが……もう片方の方法は?」

 タケルが問う。

「打って出る。ここにいる四人でチームを組み、元凶を直接叩く」

「そのための算段は?」

「遠目で見る限り、中庭に続く棟のゲートは封鎖されている。これを開ける必要がある」

「面倒だから、ブッ壊しちゃえば?」

 こともなげに言い放つKに、九一はにべもなく返した。

 

「ここがライダーたちの学園だってことを忘れるな。ゲートにはそれ相応の防御力がある。力づくで突破できないことはないだろうが、時間がかかり過ぎる」

「だとしたら、開ける方法は?」

「隣接する管理施設に侵入し、内側のコンソールから閉鎖を解除する。予備電源自体はまだ生きているはずだ」

「あのー、それが出来ないから困ったってハナシじゃ?」

「……俺なら、それが可能だ」

 

 そう言って九一は自らの、人間としての擬態を解いた。

 野球帽の奥に物憂げさと精悍さと理性を帯びた顔立ちが一転、能面のようなのっぺりしたマスクに白いボロ布をまとった姿が浮かび上がり、蜃気楼のようにその輪郭は曖昧なものになる。

 

 他の連中に、嫌悪も驚きもない。

 その程度で動揺していたら、ライダー学園では到底やってはいけない。

 

「ただ、やはりそれでもある程度はゲートに接近する必要がある。だからまず真一文字に切り込み、乱戦に紛れて先行。中からゲートを開けて後はわき目を振らず残りの三人が飛び込み、ふたたび閉じて追手を防ぐ」

「所要時間は?」

「先行を開始して、邪魔さえなければ三分程度といったところか? そこは、俺を信じてくれとしか言いようがないが」

「ずいぶん、慣れてるんだな」

「これでも、元3WAだ――今となっては、何の意味も無い肩書だがな」

 

 タケルは、品定めするよう目つきで、人の姿に戻った九一を見据え、ややあってから

「……良いだろう。その作戦に、俺は乗る」

 と賛意を示した。

 

「しゃーないスねぇ……はぁ、シャワー浴びたばっかなんだけどなぁ」

 と、消極的(いやいや)ながらも、廿日もそれに乗ってきた。

 

 Kは、あえて意を確かめるまでもない。

 どんな作戦を採るにせよ、暴れるだけだから。自分が死ぬつもりなどという考えなど微塵も過ることがないから。

 

 ただ、ぶっきらぼうに

「ところで、コレどーすんの?」

 と、眼下のタケルを指で示す。

 

「――別のに憑かれて背を襲われても面倒だからな」

 軍服姿のタケルが踵を返して、それとあらためて対する。

「まったく、まるで自分のクローンでも見てる気分だ……この学園には、俺がいっぱいだ」

 と陰鬱げに呟くとそっと目を閉じる。

 

 突然、彼の姿が、光に溶けて消えた。

 その光は、核となる眼魂に吸われ、もうひとりのタケルの胸部に吸い込まれていく。

 

 直後、昏睡状態にあったはずの彼は、目を開け、上体をもたげた。だが険しい表情は、本来の彼ではなく、眼魔世界のタケルの、憂えと陰を帯びたものだった。

 

「ひとまずはこれで良いだろう。さっさと始めるぞ」

 学生服の襟元をただすようにして起き上がり、一体となった天空寺タケルはそのまま歩き始めたのだった。

 

「――人ならざる怪物たちが、学園の人々の危機を救うか……それもまた一興だな」

 珍しく情感を込めて苦笑した九一と、Kがそれに従う。

 

「……いや自分、人間なんスけど」

 取り残されそうになった廿日は、自身の顔を指しながら小さくこぼしたのだった。

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