学園仮面ライダー ダークサイド 〜サマーナイトパーティー〜 作:大島海峡
「待った、天空寺」
「なんだ」
「失敗は許されない。突破前に、それぞれ準備するべきだ」
九一の提言に、従うかたちとなる。
彼自身は垂らした手足をしきりに揺らし、Kは冷蔵庫を物色し、タケルは目を閉じて瞑想し、廿日は念入りなストレッチを行う。
「俺も、人間だけどな」
とタケルは言った。先のぼやきを拾っての、彼なりのフォローらしい。
「あーっ、ハイハイ。眼魔世界のヒトって、基本アバターなんでしたっけ? こないだ授業で習いました。だからそーゆー芸当もできると……ん? ってことはつまり、ある意味リモート留学ってコトなんスかね」
「りもーと……? よく分からないが、本体はコールドスリープ中だ。だから、食事にも睡眠にも煩わされることなく、自分の使命を全うできる」
「だから、休みも取らずに飲まず食わずで夏休みにまでここで勉強してるって?」
はぁー、という呼気と共に胸を押しつぶし、屈伸する。
その反応のいまいちさに、タケルは不服げに、
「どうやら思うところがあるようだな」
と廿日に質す。
「いやいや、理解はできてるっスよ。てか自分ンとこがそうだったんで」
「なに……?」
「自分の世界では、バグスター療法ってね……人間をバグスター、つまりデータ生命に変換することで、寿命や病気とか飢えだとかを克服しようって政策が推奨されてたんスよ。まぁー、そう言うのが必要だとか、そうでもしなきゃ生きてけないヒトがいってのも、まぁ分かりますよ? でも、自分はそういうのイヤだったんで、半ば逃げ出すカタチで
「……愚かなことだ。食べることも、生きることも、他者の犠牲を上に成り立つ罪深い行いだ。その宿業から逃れることも、出来ただろうに」
「じゃあKちゃん、それだったらもう何十回と地獄に堕ちてますよ」
ケラケラと笑声を転がし、身を起こして、
「お前に言われたかないよ」
Kは、冷蔵庫からコーヒーゼリーを抜き取った。『九一』と書かれたカップから一口でその中身を干すと、
「……苦」
低く毒づく。九一はちょっと傷ついた顔をした。
「ボクはおとーさんに、死なない生物として生み出された。だから、ボクには誰よりもよく食べて、遊ぶギムとケンリがある。そう教わってきた。良いか悪いかなんて、考えたこともないし、地獄に堕ちるつもりもない」
そう滅茶苦茶な理論を展開するKに、
「だ、そうです」
廿日は表情なく、肩をすくめてみせた。
「ま、Kちゃんのは極論だとしてもね、人が何かを感じ取れるのって、神様が与えてくれた恩恵だと思うわけっスよ。それを神様気取りの誰かさんが世の中便利にしたからってそれをカンタンに捨てていいとは思わない……そう思いません?」
「……俺は」
「そこまでだ、萬頭……善悪や常識といった曖昧なものに、価値観の押し付けるのは良くない。特に俺たちのような奴らはな」
九一がそこで口を挟んだ。
はぁい、と気の抜けた返事と共に、廿日もそこで会話と体操を打ち切った。
そして『四人』が、並び立つ……一瞬のみ。
次には駆け出したKが、内からバリケードを蹴破り、外へと躍り出た。
それに反応した直近の怪人たちが飛びかかってくるのに向けて、左右に携えたデバイスを抜き放つ。
ヴァレンバスターと、ベイクマグナム。かつて先達が使っていた、二丁の銃器。その引き金を絞ると、光球が飛び出てそれらを吹き飛ばした。
〈フォンダン・セット〉
その内の、右手に持ったヴァレンバスターの装填口に、フォンダンショコラを司るゴチゾウが自ら飛び込む。
倒れ伏した怪人たちに、尋常ならざる速度で駆け寄り蹴りつけて、二つの銃口を押し当てながら、Kはニィ、と限界まで両の口端を押し広げた。
「変身」
と謳う。
〈フォンダン・サクドロ〉
ふたたびトリガーを弾いた瞬間、機械音と共に、泥の如きものが銃口から溢れ出る。その高熱がそのまま敵を焼き潰した。
ドーム状に広がった後、その泥……もといチョコレート状のエネルギーフィールドは放熱により固まり、割れる。
と同時に、半ば溶けたような、独特の流線型の外殻に身を包んだ、茶褐色のライダーが両手を地につけるように背を屈めながら現れた。
仮面ライダーザイク。
それが、人間でありながら人を人とも思わぬ所業に手を染めた、狂気の科学者の最高傑作だった。
〈ヤバイヨヤバイヨー〉
小型ボットが、翼とも擦り切れたボロ布ともつかないパーツをか顔の両サイドで上下させて羽ばたく。
平坦な声で己が耳元で囁きかけるのを、九一は掌を下に向けて、上からわし掴みにする。
と同時に腰に展開した鉛色のベルトのバックルに、
「変身」
という掛け声と共に、吊るす。
〈へ~ん~し~ん~や~〉
調子の外れた音声と共に人魂めいたものがその四方に浮かび上がり、九一の総身に纏わりつく。焼成させた赤銅色のアーマーに、頭から三角型の頭巾を鎖で縛りあげた、宝石質の双眸を持つライダーが鉦を打ち鳴らすような音と共に現れた。
それが仮面ライダーウィスパー。
かつて彼の世界で繁栄
〈ジュージューバーガー!〉
抗体を持つガシャットを起動状態にした廿日は、それをゲーマドライバーにセットし、腰にセットする。
「二段、変身」
と気だるげに呟くと、バックルを上下に挟み込むようにポージングをとった後、走り出す。
〈レベルアップ! バンズにレタスにトマトにチーズ! ジュージューバーガー!〉
抑揚をつけて歌われたとおりのトッピングをイメージしたカラーリングのアーマーが胸部を補強し、メットともキャップともつかないオレンジのパーツが額から頭頂にかけてを保護し、その後ろからはケチャップ色の尾のごときものが垂れる。
デフォルメされた目が青く閃く。
肩やスカート型のパーツなど要所要所にはフリルがあしらわれたそれは、ダイナーメイドの趣がある意匠となっている。
仮面ライダーパイル。ゲームプレーヤーとしての、彼女の姿だった。
そして、ローラースケートを滑らせ、ゆるやかに加速を始める。
〈Standby, Loading〉
タケルは、なおもメガウルオウダーを使用する。
肉体の方がふだん使用しているであろうゴーストドライバーも、おそらく使用することは可能だが、慣れた装備が一番だろう、という判断だった。
「変身」
メガウルオウダーを起動状態に組み替え、片手の指を交差して印を結ぶ。
〈Tengan! Ghost! Megauloud!〉
眼魂に緑の雫を滴下した時、タケルの姿はふたたび、霊衣を纏いて、ネクロムゴーストの姿へと変わった。
そして、亡者と怪物入り乱れる、戦闘が始まった。