学園仮面ライダー ダークサイド 〜サマーナイトパーティー〜 作:大島海峡
オーズが手で空間に引いた一線が、そのまま爆火に変わり、四人を焼いた。
ヒャアと頓狂な声をあげて廿日は両膝から下を曲げて浮かせて跳ね上がり、Kは溶けゆくアイスに対し「あーあー」と未練がましそうに嘆いて見せつつ、それを躱す。残る二人は、執拗に蛇の如く追い縋る火炎を、正当に、正面から、凌いでいく。
「ふん」
『映司』は、線を描いたその手を、今度は広げてみせた。
すると、その掌の面から突風が生まれた。それが炎を煽り立て、勢いは増して、及ぶ範囲は拡張される。
それに押されるかたちで、学園のライダーたちは四方に散った。
だが、パイルはすでに、校舎の壁にローラーをつけて滑走し、オーズの頭上高くに跳び上がっている。その過程において、すでに完成させているバーガーを数個、投擲する。
だがそれは、オーズの握り固めた裏拳に触れた瞬間に無数の硬貨へ、セルメダルへと換えられた。
それに向けて指先でなぞる様な所作をすると、そのセルメダルが盛り上がり、さながら白銀の波の如く群れを成し、Kを押し流し、壁へと叩きつけた。
自らの掌を、オーズは今度は地面へと突き入れる。
だが、その手の先が通じているのは、地中ではない。
紫の亀裂から片手斧を引き抜く。恐竜の咆哮めいた異音と共に振りかざされたその得物……メダガブリューは、その全容を見せた瞬間に、九一へと投げつけられた。
水平に回転しながら迫るそれは、あまりに速く、重い。不意を打たれたこともあって、弾くのが精一杯だった。
浮かび上がったメダガブリューを奪って封じるべく、ネクロムゴーストが浮遊する。だがその前に立ち塞がったのは、オーズ。広げた翼を旋回させてタケルの身を打って墜落せしめると、急降下。再び掴み取った斧で、ウィスパーの胴を薙いで火花を散らす。
コンマ数秒でも、停止していたら骨身に達してその身は上下に分断されていただろう。だが、幸いにしてこの身は只人の肉体ではなく、咄嗟の判断で刃の軌道に合わせて身を捻り、力を受け流していた。致命傷を、免れた。
「……紫のメダルを含めた、各グリードの力を使いこなしている」
冷静な分析か、あるいは悲観ゆえか。後ろに飛び退きつつ淡々と、九一は漏らした。
「だったら、どうする?」
不時着気味にその傍に降り立ったタケルが、低く問う。
虫を潰してはしゃぐ子どものように、オーズは武器を奮って、今度は後輩たちを追い回している。いや、心情としては間違いなく、それに近いのだろう。実際自分たちが力を束ねたとて、超強化されたオーズとの差は、それほどの開きがある。
体感数瞬、九一は構えは解かず思案を巡らせた。
「……勝てないな。諦めることが肝心だ」
「おい」
「勘違いするな。『諦める』とはすなわち、観て明らかとすることだ。寺の息子ならそれぐらい読み解け」
「……それは『俺』のことじゃない。そして、言葉遊びに興じている暇はない。つまりは、何が言いたい?」
「勝てないまでも、手こずらせることは出来る。粘って、オーズを焦らせ。勝機はそこにこそある」
「で、具体的には? どうしたら良いのさ」
Kが口を挟んだ。廿日も、そこへ合流した。
「別にどうも。お前はそのまま戦え……どうせ、説明したところで聞き入れんだろ。それで死んでも骨ぐらいは拾ってやる。跡形が残っていればな」
「ったく、根に持つね、と!」
一塊となった四ライダーを一気に屠らんと、斧から放たれた紫光が半月状に飛行した。
彼らは、それをやり過ごし、再びオーズを囲み、挟み込むかたちで離散した。
爆発に紛れて、ウィスパーはオーズへと肉薄した。
果敢にして無謀なる接近戦を挑んだ。
何度も拳を振るい、オーズの胴へと叩き込む。オーズは一切の防御行動を取らない。それら一切が、己に通じないことを知っている。返ってくるのは、硬く分厚い感触で、逆に拳の方を痛めそうだ。
(人間の感触ではない……やはり、大量のセルメダルをも取り込んでいるか)
そして逆に、オーズの斧による攻撃も、霊体化によってある程度は無効化できる。
お化けと妖の騙し合いだ。その隙に、パイルが背に迫っていた。
だが容易くその脚を掴むや、ウィスパー目掛けて投げつける。
九一はやむを得ず実体化し、彼女を抱き留めた。
が、その隙を見計らい、炎の球が、彼らへと叩きつけられた。
諸共に爆破を受けて、地に倒れる。
「す、スンマセン」
「構わん。そのまま攻め続けろ」
萎縮しかけた廿日を、九一は静かに叱咤して、再び送り出した。
そして自らも、タケルに一言囁くと、戦線に加わった。
タケルもまた、それに応じて眼魂を入れ替える。
出し惜しみ無し。持ちうる最強の一手を、投入する。
〈Loading〉
共通音声と共に、だがその赤雷を帯びた衣と、コリント式の兜は、他とは一線を画す覇気をまとっていた。
それを頭から被ると、
アレキサンダー眼魂。眼魔の眼魂でありながら、同時に英雄の資質を十二分に持つ。
この天空寺タケルの所持する中では扱いが難しくも、最も破壊力を有する。
着装と同時に黄金の大剣を召喚した彼は、そのまま正面から斬りかかった。
そこに先行して横合いに回り込んだ九一が、助攻する。通用せずとも、敵の注意をタケルから逸らすために。
「だから無駄、だっての!」
〈エタニティスキャン!〉
スキャナで読み込まれたスピナーが、極光の渦を描く。
それを大きく振り回せば、高次元エネルギーが螺旋となって辺りを一掃せんとした。
ウィスパーが身を屈め、その資格で、ローラーを回転させながら足下に廿日が滑り込む。
「置きバーガー、どぞーっ!」
本気か冗談か判別できない調子の言葉通り、通り過ぎざまにさらに完成させていたバーガーを投げ込む。
それらが爆ぜた。オーズの下半身は、大崩れしないまでも、わずかに揺らいだ。
そうして軌道の逸れた必殺の螺旋に、
〈Bite ゼリー……Bite ゼリー……!〉
自らのガヴに、カップ型のゴチゾウを噛ませつつKが向かう。
メガネをあしらった意匠の、黒いゴチゾウ。それは、九一のコーヒーゼリーを摂取して、生成した彼の眷属。
その特性を全身に行き渡らせた彼のかざした手に、エネルギーが吸い込まれていく。無へと帰す。
そして伸び上がったタケルの剣が、肩口に到達する。一気に渾身の力で振り下ろせば、烈しい斬撃が生じ、無数のセルメダルが、血や火花に代わって零れ出る。
――チェックメイト・フォー。ある種皮肉なワードを、九一は想起した。
たとえ駒の動きや役割がバラバラであっても、それぞれがそれぞれの持ち回りで詰めに向かって動けば、たった一人しかいない対手が撹乱されるのは自明の理だった。
「ったく、鬱陶しいなぁ!」
苛立ちを隠さず唸ったオーズが、その指先にカードを挟んだ。
〈Attack Verse:Gara!〉
怪鳥とも恐竜ともつかない異形が描かれた、一枚。
それを胸のエンブレムに添えると、吸い込まれていく。
同時に、王の鎧から、彼が取り込んできたであろう大量のセルメダルがあふれ出し、原型を無くす。
際限なく膨れ上がる輪郭が、やがて頭上の
中庭を埋め尽くさんばかりの、七彩の長躰。さながら楼閣のごとくその背に貼りつくサバトの名残。八本に分かたれた前後の肢。三つに輪となって重なった目が、鋭い嘴の上についた、異形の顔。
人の要素の一切をかなぐり捨てたオーズが、野太い咆哮を天地に響き渡らせた。