学園仮面ライダー ダークサイド 〜サマーナイトパーティー〜 作:大島海峡
獣が暴れる。王が荒ぶる。
その複腕の振るわれるところ砕かれないものはなく、身じろぎのみで甚大な被害を周囲にもたらす。
これが、真なるオーズ。本当の王。
ただあえて攻撃の意思や姿勢を見せずとも、絶大な威をもってライダーたちを薙ぎ倒していく。
如何なる小手先の技術など、弄したところで、一緒くたに、撃ち破る。
では、渾身の反撃ならば、どうか。
ネクロムゴーストと、ウィスパーが、息を合わせて左右より飛び掛かる。
〈ウェイクアップ!〉
〈Daitengan! Ghost!〉
自らの鎖を巻き込んだ必殺の蹴撃が叩き込まれる。
覇王の大剣よりの剛断が、地を裂きながら奔っていく。
それらは、防がんとした両の腕を吹き飛ばした。
だが、それ以外の腕がすぐにそれを補い勢いを相殺し、切断されたはずの腕も、コンクリートから変換された夥しいセルメダルが損傷箇所を埋め、隆起し、元のそれと一切遜色なく生え変わった。
「くだらない。それで終わりか!?」
という一喝、一閃。
ネクロムゴーストは校舎の壁の際まで吹き飛ばされた。
(削れはした。だが、コアには届いていない。すぐに損傷は修復されてしまう)
壁より力無くずり落ちながら、タケルはその絶望的な事実を、噛み締める。
(……『諦める』か)
その意味を、それを言い放った男の意図を、彼なりに理解した。
吸――。
長く伸びた首を限界まで反らす。
その息遣いのみで嵐を呼び、渦の中にライダーたちを絡め捕える。
そして彼と我らとの間に、輪宝のごときものが形成される。それを道筋として嘴より発せられた光の帯が、三人のライダーを飲み込み、火柱があがった。
それぞれに自分の有しうるテクノロジーとテクニックの中から、最適にして最大の防御行動を採った、はずだった。
〈鋼鉄化! 鋼鉄化! 鋼鉄化!〉
〈ゼリー!〉
〈Tengan! Galileo!〉
だが、それをもってなお、その威力は甚大だった。
変身解除、とまではいかずとも……その場に倒れ臥す。精製した剣を支えに、懸命に我が身をぬいとめる眼魂が一瞬で力を失いパージされたがゆえに、緊急避難的に通常フォームに一瞬で戻して頽れる。
そして一体は、
「待って……化野サンは!?」
その姿を、見せなくなっていた。
廿日の動揺に、Kが剣把を掴んだままに肩をすくめた。
「あーらら、自分が跡形もなく消し飛んでりゃ世話ないっての」
「そんなこと言ってる場合スか!? キミってば、どんだけ……っ」
「『ヒトデナシなんだ』って?」
「こんな状況で言い争いをしている場合か! 次が来るぞ!」
そしてタケルは言葉で彼を、援護する。
「これだから、群れることさえまともに出来ない連中は。こんな時でさえまとまりを欠く」
呆れと嘲りが多分に乗った声音と共に、オーズは再び首を逸らす。
「でも良いよ。そんなまとまりを欠いてバラバラの感情、僕が絶望の一色で塗り替えて一飲みにしてやるよッ!」
そう嗤う先で、光輪を重ね熱の暴流を渦巻かせた。
『まとまりを欠くのは、お前も同じだろう』
それを止めたのは、彼の内から響く声だった。
「なんだと……!?」
『オーズ』は、自らの内を
無数に蠢くメダルの坩堝。その中に、吹き飛ばしたはずの、
「霊は、化けて出るものだろう?」
と嘯きながら。
「やはり、ダメージを負えば周囲をメダル化して取り込んだな。グリードの本性は容易には取り払えん、ということか」
「まさか……セルを取り込んだ際、あえて自らを霊体化させて紛れ込ませたっていうのか!?」
それには答えない。それしか、彼がそこにいることの答えはないのだから。
「そしてお前は本来であれば相反する異物さえも、己の内に容れている。おそらくは、他のコアメダルの力を御すかたちで、絶妙な均衡を保っているんだろう」
砂利を踏みしめるように確かな足取りで、無数の銀貨の内を闊歩しながら、何かを探る。
そしておもむろに立ち止まるや、その内壁へと手を突っ込み、渾身の力で引き抜いた。
「そのバランスを崩されれば、どうなるか」
そのウィスパーの手の内には、三枚の恐竜のメダル。
と同時に、一定の法則性をもって渦を巻いていたメダルたちが、拒絶反応じみた、幅揺れを見せて互いを打ち鳴らし始めた。
「や、やめろ……!」
『オーズ』に、外から見て明らかな動揺が見えた。もっとも、外からでは突然に攻撃を止めた怪物が、身悶えする
「な、なにが……?」
状況を掴めていない廿日が当惑の声音をあげた。Kは状況を本能で知ってか知らずか、
「まっ、あっちもたいがい、ヒトデナシだからね」
と言ってのける。
そして誰あろう、タケルは知っている。
――あいつは、内側から崩す。時が来れば、一気に仕掛けろ。
そう、事前に言い含められていたがゆえに。
今が、その時ということか。即断を下したタケルは、残る力を振り絞って駆け出した。
借り物の肉体だが、まだ動く。だが、
ヴァニタスのメンバーも、それに続いた。
「ふざけるな、お前たちのような、格下が……っ」
内部でウィスパーを絡め取り排出しようと、セルメダルが塊となって襲い掛かる。だがそれは、彼の身体をすり抜けていく。
「本物の火野映司やアンクであれば、あるいは本来のお前であれば、その格下である我々相手に、こんなうかつな判断は下さなかっただろうに――格下、大いに結構。ゆえにこそ未熟なる我々は、
そう言い捨てるとともに、フェイクフエッスルを再び、ササヤキバットに噛ませる。
〈ウェイクアップ!〉
という意気と共に、片足を持ち上げる。それを、頭から移った鎖が巻き取る。
巻き上がる銀貨の中、軽く放り投げた紫のメダルたちを、足裏で蹴りつける。
「拾い食いをしてはいけない。食べ過ぎは体に毒……そんなことは、うちのKでさえ理解していることだ。その教訓を噛みしめて――あの世へ逝け」
脚部に充溢したエネルギーを推進剤として射出されたそれらは、互いに距離を取りながらも輪形を描き、他のメダルへと激突。そこに、ブラックホールにも似た力場を発生させた。
そしてそこに生じた亜空間の孔が、セルとコアの区別なく、内側から呑み喰らい、無へと帰していく。
そのメダルの渦の中に、ウィスパーは再び手を差し入れた。
一方で、外でも全員が、内側からひしゃげていく巨鳥を目の当たりにして、それを勝機と確信した。
数多のゴチゾウを喰わせたビータガヴガブレイドをエネルギーで頭に括り付け、銃器を両手に、Kはなけなしの抵抗で飛んでくる怪光線をかわし、撃ち落とす。彼がそうして開けた埒の隙間を、パイルが滑り抜けていく。
〈ジャンプ強化!〉
ローラーを浮かせつつ、手に入れたエナジーアイテムで脚力を強化。
背に飛び乗ると、サバト部分に、ビル解体で爆弾で埋めるが如く、バーガーを押し付けた。
彼女が滑走すると同時に、爆ぜる。尖塔のごときそれが、根本から折れて傾く。その断面に、入れ替わりに乗り入れたKの、二つの銃口が光熱を帯びてねじ込まれてる。
〈フォンダン!〉
〈バーニング! フルエクスプロージョン!〉
マグマにも似た黒き焦熱が、さらに傷口を焼き広げていく。その頭上を、ネクロムゴーストが飛来する。
〈Daitengan! Ghost! Omega Uruoudo!〉
空中ですでに操作を終え、突き出した拳が、夕陽の光輝を背の孔に突き込まれる。
奇しくもそのタイミングで、内側からもウィスパーの手が突き出た。メダルの塊となっていくその奔りの中で、開通した傷口から現れたウィスパーは、小脇に大きな影を抱えていた。
それは、火野映司。奪われていた、肉体。
『そんな……僕が、僕の、コアがぁぁぁ……ッ!?』
おそらく核となっていたであろう彼から剥離したタカのコアメダルが、断末魔を張り上げながら、半分に割れて虚無の渦に飲み込まれていく。
映司の手を掴み上げた九一は、自分たちも巻き込まれまいを踏ん張りながら、タケルに彼を託す。
タケルは、その身柄をメダルから完全に抜き出させ、地面へと放り投げた。
パイルが、落ちるより先に掬い上げるようにしてキャッチした。
そしてタケルは、あらためて九一自身の腕を掴み取って、渾身の力で引き上げる。半身を霊体化させることで難なく離脱したウィスパーは、ゴーストとともに中空に身を踊り出した。
統制を失った欲望の怪物は、大きく膨張と収縮を繰り返しながら、限界に達した炉が如く、大きく爆ぜた。
逆にその爆発が、空に開けられた虚孔を塞いだ。
だがもはや、そこにアンクの意思は感じられない。死の概念さえない、物の集合として爆風に巻き上げられる。
欲望の銀雨が降り注ぐ中、四人のライダーは、体勢を整えて並び立ったのだった。