学園仮面ライダー ダークサイド 〜サマーナイトパーティー〜 作:大島海峡
眼魔世界。
無限に広がる世界の一つ。数多ある眼魔世界の一つ。
そこで、一つのカプセルのハッチが開いた。
そこから身をもたげたのは、一人の若者の肉体。
久々の、自分自身の、『天空寺タケル』の身体。感覚。タンクトップ姿が少し肌寒く、軍の更衣室より予備の軍服を失敬して着込んでから、ある場所に向かった。
祈りの間。偉大なる存在『グレートアイ』と交信を行う場。
そこで一心に願う、白服の男に、タケルは目通りを求めた。
堂々たる体躯と威厳を兼ね備えた、いかにも指導者然とした男。
この世界の偉大なる統治者であり、未知の世界に迷い込んだ自分を救い、育ててくれた人物。
「おぉ、タケルか! 久しぶりだな。よく帰ってきてくれた」
アドニスはその偉丈夫ぶりとは裏腹に、優しく声をかけた。
「いえ、訳があってあちらで眼魂が壊れまして……新しいものが調達出来次第、すぐに戻るつもりです」
「そうか……イーディスにすぐに手配をさせよう――しかし」
重く大きなその手を、タケルの肩に置いた。
「良い顔をするようになった」
と、暖かい眼差しと共に。
「以前のお前には、己の命を焼かんばかりに、必要以上に思いつめるところがあったのでな。その業火が少しでも和らいでくれれば良いと、人間世界に送ったアデルやアランとは別に、かの学園に通わせることにしたのだが」
「すみません。つい、気が緩んでいたのかもしれません」
「悪い変化ではないと言っている……良い友に巡り合えたらしい」
「――どちらかと言えば、悪い方かもしれません」
直近の記憶ゆえか、ふと思い浮かんだのは、かのヴァニタスの面々だった。
生真面目さしか取り柄のなさそうな幽霊男。
無神経な菓子食いの化け物。
それと食い意地で張り合うかのような、怠惰な女子。
「身勝手で団結力がなく、我執を捨てられずすぐ目先の欲に奔る」
散々な酷評の後に、ふと表情が、ひとりでに綻んだ。
「自分を曲げず、本当に大事なもののために、命を燃やせる、そんな奴らです」
と続けた。
そうか、と短くアドニスには相槌を打つ。彼の表情が、大きく動くことはない。だがその声音には、その表情の機微と、声の明るさを、噛みしめるような深い調子があった。
「すぐ戻るといっても、時間はあるだろう。せっかく元の肉体に帰ってきたのだ。ともに食事でもしようではないか」
「……はいっ」
返事をした彼の目には、年相応の、溌剌とした光が宿っている。
そして赤黒い澱みが消え失せ、青い空が見える外へと、並んで歩みゆく。
俺の名前は
六歳の頃に
世界が融合する、その日までは。
けれど歩んできた今までが、燻りながらも学園で暮らす日々が。
自分と似た誰かと比べて、間違いだったとか、不幸だったなんて、決して思わない――
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「ほら」
「ありがとう!」
九一が手渡した握り飯を、『天空寺タケル』は、嬉しそうに受け取って頬張った。
あらためて自分自身を取り戻した彼は、先までの険しい表情から一変、温和で素朴な少年のものになっていた。
「ていうかなんか、ごめんね。迷惑かけちゃったみたいで」
「気にするな」
「俺もまだまだ未熟だな。こんなだから、父さんから『英雄として修業を成し遂げるまで帰ってくるな!』なーんて、言われちゃうんだ」
などとタケルは、はにかみながら頭を掻いて見せる。
顔かたちは同じなのに、表情や性格、あるいは今日に至るまでの経験で、かくも印象が違うものかと、一同はシニカルな苦笑を見合わせた。
「まぁ、こんな状況だ。いずれ皆目覚めるだろうが、今は人手が足りない。挽回したいのなら、介抱を手伝ってくれ」
その九一の言葉を聞いたタケルの面持ちに、ふと陰りが生じた。
「それ、難しいかも」
と、かすかな苦さを帯びた声調で呟く。
「難しい……?」
小首をかしげた廿日に、タケルはその表情のまま首を振り向けた。
「目覚めるって、まずそこのところが」
「何か、より踏み込んだ事情を知ってるらしいな」
タケルは重々しく頷いた。
彼の語るところでは、こうだ。
ライフエナジーに当てられて、気が付けば、自分はよく分からない空間に閉じ込められていた。少なくとも、実感としてはそうだった。
人の半身が彫刻となって縛り付けられたような、神秘さと不気味さを備えた無数のドア。
ほぼ無意識のうちにそのうちの一つに手をかけて開けると、そこにはガレージと執務室が組み合わさったような――廃屋があった。
罅割れて何一つとして無事なものがない電光掲示板は、時折思い出したかのように多言語で何かがメッセージが流れ、あらゆる時刻を表示させるも、そのどれも一致するところがない。
最奥の窓には何も映らず、虚無の空間が広がっていた。その手前に、無惨にも朽ち果てたバイク。叩き割られたスパイ映画のDVDやそのパッケージがテーブルに放り出され、足の置き場もないほどに、カプセルが地面を埋め尽くしている。
そして中心のベンチに、一人の男が背を曲げて腰かけていた。
屈強な上半身を、くたびれた白いシャツで包み、ほつれた黒いハーネスで縛り付けた、異質な存在感を持つ中年男。
ゆっくりと顧みたその横顔は、精悍ながらも無気力で、眼光だけが異彩を帯びている。
――それをほんの一瞬垣間見、本能的にタケルは危機感を覚えた。
「破ッッッ!」
即座に印を結び自らの邪念を払い、精神を清める。
そうしてその異空間と自らを切り離し、気が付けば今に至るのだという。
「俺は運よく浅瀬で済んだけど、多分あれは、集合意識……つまり、あの男の作り出す
なるほどな、と九一は頷き返した。
「まぁ、妙だとは思っていた。いくら高濃度のライフエナジーに当てられたとして、学園のライダーたちがかくも無抵抗に昏睡状態に陥るわけがないと」
「つまり?」
アイスキャンディー片手に目を眇めて、Kは問いただす。
「ディサイダーズどもの『
タケルと九一の語ること。廿日とKの困惑。それはなお苦しい現実……否、悪夢を示唆していた。
精神に干渉してくる敵。そしてそれは、敵の領域だ。こちらの力の持ち込んで戦うことさえ、ままならないだろう。しかも、強化変異体というからには単体で相当の、それこそ今回戦ったオーズに匹敵する戦力を有しているはずだ。
「……そんな相手、どうしたら」
ぽつりの漏らした廿日の背後で、ほう? と興が乗ったような声が響いてきた。
「思いがけず、雪辱の機が巡ってきたようだな。俺に万事任せておけ。何しろ俺は、神に代わり剣を振るう男だからな」
そう勇ましく宣ったのは、学園指定のものではない、白い詰襟姿の男子生徒だった。端正な顔立ちに、胸のポケットに薔薇の花一輪を挿している様は、学生ながらにまるで一流のホストのようでさえある。そして腰のベルトに、金の刃と紫色の柄を持つ両刃の大剣を、抜き身のまま佩いている。
聖剣科三年、
名門ディスカリビル家の流れを汲む、剣士であり、聖剣の資格者である。
「いや、意味わかんないし、それこそアンタ寝てたでしょうが」
「……まぁ、持ち主に悪夢の未来を啓示するというその
「なんだその名は。これは、我が家に伝わる聖剣ディスカリバーだ」
「……そうか」
九一は関係ない話を流すことにした。
とまれ、これ以上は方策無し。
オーズもといライフエナジーの援護も無くなり、タケルや剣のように、その支配下から脱した生徒も出始めている。
あとは、実力と対抗手段を持つ生徒が揃い次第、バトンを引き継がせるだけだ。
とりわけ成算があるのは、九一と同様に、ハングリーさには欠けるものの安定した精神性を持つがゆえにそういった攻撃に耐性のある
「うわっ、すごい状況。なんです、コレ?」
その九一のすぐ真横で、軽く驚きの声があがった。
むしろ仰天しかけたのは、九一の方だったが。
のけぞる彼に、相好を崩し向けた蓬髪の若者が、「や」と軽く声と片手をあげる。
彼こそ、今九一が思い浮かべた男、
楔引六鹿にとって気兼ねない友人であり、静水寮の長にして学園最強クラスの戦力。
「……ってか、初めて見るけど……アレ?」
タケルは、その彼と、依然身を横たえたままの火野映司の寝顔とを交互に見比べて、きょとんとした顔で誰に向けたものでもなく、茫洋と問うた。
「ひょっとして――同じ顔……?」
毎回恒例、特に回収するつもりがない展開と設定。特に続きません。
以上をもって、幕引きでございます。
以後は大人しくリクエスト作の消化に従事させていただきます。