そして、後世には奪還者とも呼ばれた。
この物語は一つの終焉と始まりの物語である。
ふっと自分の中で宇宙規模のオリエンタル要素の代表といえば、あの漫画家という感じをふくらませたらこうなりました。
結城友奈は絶体絶命の危機に陥っていた。
人は死ぬときに走馬灯のように過去の記憶を一瞬で振り返ることがあるというが、何故か彼女の脳裏に浮かんだことは半分忘れかけていた何気ない別れの話であった。
それは彼女が中学に上がる前の話である。
車弁慶という男が友奈の近所にちょくちょく現れていた。
彼は熊のような大柄な体格であったが子供に好かれるような性格をしており、近所の人々と仲良くやっており、休日には野球などを子供やその保護者に教えていた。
何処に住んでいるのかは誰もわからなく最初は警戒されていたものの馴染むうちに誰も疑問に思わなくなった。
「なあ、あの娘なのか」
「ああ」
ある、友奈が目撃した弁慶は誰かと話していた。
その男は弁慶よりも身長は高めで細めに見えるが、それでも普通の人間と比べると屈強な体をしている。
さらに特徴的なのは目。
まるで、鷹や鷲のような猛禽類のような鋭い目をしていて、その目から友奈の顔を突き刺すような視線を出している。
「そう睨むなよ」
「ふん、目付きが悪いのは元々だ」
「すまんな。こいつ悪いやつじゃあない……よな?」
「聞くな」
「とにかく、俺の友達だから」
「は、はい」
愛嬌がいい方である弁慶と比べてその男はどう見ても堅気には見えない。
弁慶の付き合いがいいから友人になったのか。
弁慶の不明な身の上がじつは…………疑っても仕方ない事はわかっていても気にせずにいられなかった。
「ごめんな。どうやらしばらく皆に会えそうにもないや」
「え? 弁慶さん引っ越すの?」
「……仕事でね。これ……お守り」
弁慶が友奈の手に緑色の結晶のペンダントを渡す。
友奈にはそれが何なのかは分からなかったがとてもきれいな緑色で宝石のようにも見える。
「いいんですか? こんな高いそうなものを」
「いやあ、作るのにそこまで大変なものじゃないから高価なものじゃないよ」
「俺達が作ったものだ。売っても二束三文だ」
手に受け取ったそれを眺めながら「ガラス細工かな」と友奈は考えたが、とてもきれいなそれは空へ、太陽へかざすと星のように輝いてその光を見ていると力が湧いてくるのを感じた。
友奈はお守りにはぴったりだとありがたくいただくことにした。
「それじゃあ……また、あったらよろしく」
弁慶が友人と一緒に友奈から離れていく。
その途中何かを話しているのは友奈の耳にも聞こえていた。
「なんか……悪いな」
「これからもっと大変なことになるんだ。むしろ助けだ」
「でもよ…………」
「ここで終わるならば、ここで終わらせてやるほうが親切ってやつだ」
「さすが地獄を見せる男だな」
どんどん、弁慶達が離れていって話も聞こえなくなっていきやがて姿が見えなくなった。
その後、弁慶が言うとおりに引っ越したのか出会うことはなかった。
お守りは今でもなんとなく持っていて疲れた時や落ち込んだ時に時々お世話になることもあった。
結城友奈の意識が覚醒する。
気を失っていたのは地面にたたきつけられるまでのほんの数秒にすぎなかったらしい。
そして、友奈の前にあの時のお守りが転がっていた。
「お願い力を貸して!」
結晶が緑色に輝き友奈を包み込む。
機能を失った部位の足に緑色の玉石がはめられた紅い脛当てが纏わり、そしてより力が湧いていつも以上に動く。
そして、手には同様の篭手があらわれ、胸当てに赤のラインと緑の宝玉がまたあらわれる。
その滾る力の奔流は100万倍の力を得たかのようだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
この状態でさらに満開を行おうとする。
いつも以上の力が漲りこれまでの満開とは様子が違う、全体的に紅に染まり、あちらこちらから緑色の光が溢れてあたりを照らす。
いつもの満開とは異なり巨大な腕にふさわしい巨大な斧が携えられ、友奈の背中には紅マントが羽織られていた。
「そうか……そうだったの……ならば!」
友奈は自身の命と魂の燃えるような奮えを感じながら、振り向くことなく駆け出した。
友奈は太陽のようなバーテックスへと体を向けてマントをなびかせて天高く飛び立つ。
友奈は一心不乱に敵へと突撃し、その軌跡に緑色の燐光がホタルのように虚ろに宙を舞っていく。
「友奈ちゃん!」
最初に友奈の変化に気づいたのは親友の東郷で風、樹の姉妹が東郷に続いた。
そして、視力と聴力を失ったはずの夏凛もただならぬ気配に気付く。
「うわあああああああ! 私は――」
巨大な斧が友奈の意志に応じるかのように緑色の光を放ちながら巨大化をする。
その大きさは遥かにバーテックスを超え、もうひとつの太陽かのように煌々と光を放っていた。
神話では光の柱とともに神が降臨したと言われるものがある。
そして、今この光柱の下にいる結城友奈は勇者である。
その光の斧は敵へと振り落とされる。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
叩きつけられた巨大な斧がバーテックスへと食い込む。
巨大な力と力の衝突に暴風が生じ、それを支える東郷達勇者部は吹き飛ばされないように踏ん張りながらも懸命にバーテックスを食い止め続ける。
『みんな! 離れて!』
友奈の叫びを合図に勇者部はバーテックスから離れた。
その叫びはなぜか耳が聞こえないはずの夏凛にも聞こえた。
鼓膜を震わす振動ではない、心を震わすような思いで伝えられたかのような声だった。
「おおおおおおおおおお!」
そして、勇者部が離れ切ったと同時に斧は振り落としきられて。
太陽のようなバーテックスは二つに斬り落とされて小さい爆発を繰り返し、最後に大きく爆ぜて消滅した。
そして、緑色の光が放ちながら友奈の姿は讃州中学の制服の姿へともどり落ちてきた他の勇者部のメンバーのもとへと駆け寄る。
「すごいわね……」
部長の風が腹ばいになりながらも唯一立っている友奈へと呟いた。
友奈以外の勇者部の面々は力を使い果たして地面に倒れているだが、全員友奈の方向を見ていて無事であることを確認した友奈は微笑んだ。
「みんなごめん」
「そんな、謝るような――えっ!?」
辺りの空間の様子が変わる。
結界の隙間から外の様子がはっきりと見え、バーテックス以外のもの――――空間を割くように巨大な裂け目が――否、異形の口が現れる。
その口から醜悪な異形たちが侵入してくるように無数に現れる。
その大きさは先程の敵を遥かに超えて惑星に匹敵しているかもしれない。
その異形たちはバーテックスとも異なるものを勇者部のメンバーは感じたが立ち上がる力さえ残っていなかった――――――――――――友奈を除いて。
こころの折れる光景に友奈は変わらずに敵を見ていた。
「なに、あれ?」
「地獄そのもの……宇宙にはバーテックス以外にも敵がいます」
「友奈? なにか知っているの?」
友奈が別の方向へ指をさす。
そこにはなにもない虚空の宇宙が広がっていた。
「そして――――――――――――味方も!」
虚空をまるで壁をぶち抜くかのよう友奈のそれをはるかに超える巨大な鋼の腕が飛び出す。
そして、空間の裂け目ごと、そこから出てきた異形も握り潰してやすやすと破壊する。
「…………っな!」
次元が違いすぎるという言葉すらぬるい。
眼の中に広がるものだけで全くもって終わりではないと言うのだろうかと勇者部は友奈と夏凛を除いて絶句している。
聴覚と視覚を失っている夏凛は状況を全て把握しているわけではないが何かを肌で感じ取って力を振り絞って立とうともがいていた。
異形共を完膚なきまでに握りつぶした鋼の腕が友奈へと伸びる。
だが、その手は先ほどと違い攻撃的ではなく友奈を招くように差し伸ばされている。
なぜか、それを見た者は親が子供の手をつなぐような安心感すら感じ取れた。
「いったい何が起きているの? これから何が起きるの?」
「とっても素晴らしいことだよ!」
戸惑い友奈を止めようと手を差し伸ばす東郷の腕を友奈は握る。
そして、勇者部一人一人の手を友奈は握っていった。
「来て! ジャキオー……じゃなかった牛鬼、火車――邪牛王!」
友奈の精霊が融合し合いながら膨張して、巨大な牛の武人となる。
その姿は地獄の亡者を屠る極卒の牛頭を連想させる。
その頭に友奈は腕を組んで乗り勇者部を一瞥する。
「私達はきっと――また会えるから」
友奈が勇者部へと向けた笑顔は見るものを元気にさせるような咲き誇る花のようであった。
その目には緑色の炎が爛々と輝きながら渦巻いていた。
――――そして、勇者部が最後に見た友奈だった。
その日すべてが変わった――
そう、東郷は夜空を見上げてぼんやり考えていた。
あの日から数ヶ月が過ぎた。
散華で失ったものは徐々に帰ってきて、東郷も歩くこともできるようになってきていた。
そして、バーテックスが攻めてくることはなかった。
おそらく永久にないだろう。
バーテックス自体が幻のように消えていたのだ。
天の神が人類を許したのだろうか。
太陽のようなバーテックスを撃破したことが原因だろうか。
あの機械の神がバーテックスをあの後全滅させたのだろうか。
それとも、バーテックスが攻めてくる理由がなくなったのだろうか。
答えが出てくることは永遠にないのかもしれない。
ただひとつ確かなのは結城友奈はこの世界から消え去った。
どこを探してもいない、見つかったのは友奈のお守りの緑色のお守りが東郷を始め勇者部の皆の手の中にそれぞれ握られていただけだった。
勇者部は友奈に残されてしまったのだろうか。
あのときの「ごめん」はそういうことであったのだろうか。
「友奈ちゃん……待てって! 私は……私達はきっと追いつくから!」
それは永遠に等しい時間を待たないといけないかもしれない。
人類の英知では到達できないような次元なのかもしれない。
だが、諦めない。
なぜならば、勇者部五箇条には―――――――――
友奈と自分が勇者部である続ける限り、いつか――きっと。
東郷は友奈が残した結晶を夜空へとかざすと光を受けて星々のように輝いていた。
「友奈ちゃん。また会おう」
大宇宙の中に内包されるいくつもの宇宙が消えては生まれ、生まれては消える輪廻を繰り返す。
内包される宇宙にさえも宇宙に幾億もの銀河が生まれ、幾億もの銀河が消える輪廻が繰り広げられ。
その銀河の中にも幾億もの星が生まれ、幾億もの星が消える輪廻が続けられ。
更にその星の中に幾億もの生命が存在し、生まれ、育ち、営み、そして消えていく輪廻もまたあった。
それらは自分たちの存在をかけた支配の戦いの記録でもあった。
いまから繰り広げられるのはその戦いの一つでしかない、虚無の宇宙で繰り広げられる戦い。
かつて、神とも言われた異形の存在が戦うのはかつて人間と呼ばれていた機械と融合した存在達。
その存在はどちらも悪魔、神、魔獣とも形容するのにふさわしい存在であった。
幾億が幾兆、幾兆が幾京、幾京が―――と宇宙を埋め尽くす。
否、自分たちが宇宙を支配するための戦闘を繰り広げていた。
命を喰い、宇宙を喰い、確立した自分という支配した空間でのぶつかり合い。
超能力、法力、神通力、科学力どの手段を用いても辿り着く先はどれも一緒の自分で世界を塗りつぶすこと。
ぶつかり合う異形の生物と異形の機械は全てが辿り着く先に行き着いた存在達。
その戦いはどちらかを完全に虚無にするまで終わらない。
数億隻の銀河を遥かに超える戦艦から恒星に匹敵する戦艦が無数に出撃する。
さらにその戦艦から惑星規模の大きさの戦艦がまた大量に出撃する。
その戦艦からも山より巨体の機械の神々もまた出撃する。
数億体の銀河を遥かに超える異形から恒星に匹敵する異形が無数に吐き出される。
さらにその異形から惑星規模の大きさの異形が大量に吐き出される。
その異形からも山より巨大な異形の神々もまた出撃する。
その一つ一つの戦いの余波すら恒星系が瞬時に消滅するに匹敵するエネルギーが放たれる。
そして、それぞれの総大将である機械の皇帝と異形の皇帝も向かい合い戦いを始める。
この二体の皇帝の戦いに比べれば他の戦闘は埃が舞っているようなものである。
向き合って睨み合っただけで数万の銀河が蒸発。粉塵あるいは気化したそれらが無量大数を凌駕する質量によって生じる引力により二体に吸い込まれていく。
すべての始まり――宇宙開闢を遥かに超える規模の力を持つ二体が組み合う。
機械の手と異形の手の間で発生したエネルギーは物質化し星すら瞬時に幾億も生まれ。余波で砕け散るをまた同様に瞬時にして繰り返す。
二体が同時に頭突きを繰り出し、激しい閃光によって宇宙が光に満たされ星雲が幾京も誕生し崩壊する。
その閃光に紛れて機械の皇帝に向かう一つの異形がいた。
人間の少女に見えるが六本の腕を持ちそれぞれの腕に金剛杵、金剛剣、金剛斧、羂索、輪宝、宝棒などの武器を持ち方には灰色の翼を備え、その後ろの背に虹色に輝く円光を背負っている。
その異形の少女は東洋の龍のような怪物の頭部の上で座禅を組んでいた
異形の少女と龍は機械の皇帝の額へと光を遥かに超えた速度で真っ直ぐに突き進む。
そして、その異形の少女と鏡合わせのように突き進む桃色の閃光の気配を感じ取り固く閉ざしていた目を見開いた。
その桃色の閃光の正体は異形の少女と年の頃が近い少女と巨大な牛の武人。
虚空から巨大な斧をそれに見合った巨大な鋼の腕を出現させ掲げ巨大な牛の魔人の上に自らの腕を組んで異形の少女と佇んで対峙していた。
「でたな……でたな人類! 我こそは親衛隊一番槍」
「勇者部! 結城友奈!」
友奈の巨大な斧へと異形の少女の金剛杵と金剛剣がぶつかり合う
――斧と異形の少女の金剛杵と金剛剣が蒸発し霧散して消える。
「まだまだあああああ!」
友奈が星々を震わさんばかりに叫ぶ。
――鋼の右腕と異形の少女の金剛斧と羂索が粉砕して虚空へ消える。
「くらえええええええ!」
異形の少女は銀河を砕くように吠える。
――鋼の左腕と異形の少女の輪宝と宝棒が閃光へと崩れて掻き消える。
「勝負はここからだああ」
異形の少女は六つの拳を友奈へと向ける。
それに対する友奈は拳を異形の少女へと向ける。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
二人は宇宙が崩壊しかねない程の気合が込められた絶叫をぶつけ合う。
そして、勇者である彼女の拳に力が入り、その拳は虚無を穿ち、そして粉砕する。
――大宇宙を覆う絶望とは?
――この命をかけた戦いの意味とは?
――この戦いの先に待つものとは?
――自分たちの存在とは?
――全ては大いなる意思が知っている。
真の答えを求め戦い、その真理がどんなに残酷でも虚無への戦いを魅了されるかのように続ける。
――諦めない。
勇者であるかぎり。
その胸に熱き祈りの嵐を抱き続けるかぎり。
それが勇者の宿命ならばその拳の光が闇を祓う。
ご覧いただき誠にありがとうございます。
うん、ゲッターじゃなくて虚無戦記よりになっちゃった。
このSSではビターエンドっぽくなってますが、原作はこの先、いろいろあるでしょうが一応はハッピーエンドでよかった。