──5月。1年Dクラスは4月の振る舞いにより入学当初に1000もあったクラスポイントを0にまで落とし、毎月1日のプライベート支給で0ポイントを振り込まれてようやくこの学校の現実を知った。
授業を真面目に受けることを余儀なくされ、4月では雑談や遅刻・欠席の多かった授業中も今は静かになっている──
「──バァッ!!!」
「…………」
オレの左隣には窓しかなく、そちら側から聞こえるはずの無い声が聞こえ、顔を窓に向ける。
そこにいたのは、笑みを浮かべた逆さまの状態の遠坂先輩がいた。
胴体に縄を結んでいることから、バンジージャンプのように上の階から飛び降りたのだろう。普通に危ない行為をしないで欲しい。
クラス中から視線が突き刺さる中、オレは先輩も視線も無視して机の上に目を落とした。
「あれー? おーい、反応薄いぞ清隆くんー!」
……が、遠坂先輩は仮にも授業中であるはずなのに下級生の教室の窓をゴンゴンと叩き、オレを呼びかける。
「……茶柱先生、少しだけ時間を貰えませんか」
「……5分だけだ。それまでに追い返せ」
頭を押さえながら許可を出した茶柱先生。
オレは窓を開けて先輩に声をかけた。
「遠坂先輩、今は授業中ですよ。先輩のクラスもそのはずですが」
「そうだな。けど俺に授業なんて必要ないぞ? そんなもの無くても100点しか取れないのに、授業なんて受ける意味あると思うかね清隆くん」
入学してから全てのテストで100点満点。
運動能力も常人を超えた動きを見せ。
整った顔立ちで女子生徒を魅了──してはいたが、すぐさま女子生徒は遠巻きに眺めるのみになったらしいのはともかく。
そんな顔良し頭良し体良しの唯一にして最大の欠点──常識というものを捨てた奇行の数々。
1年生のオレ達にすら入学1週間程度でその奇行の数々にどん引きし近寄りたくない生徒No.1に輝いた生徒──遠坂素晴。
そして、オレはそんな遠坂先輩に気に入られ振り回される日々が続いていた。
「ところで、小テストはどうだったかな清隆くん」
「……95点でした」
月末に実施された抜き打ちテスト。最初は中学生レベルの問題ばかりだったが、最後の3問は逸脱した難易度だった。
しかし、オレはその小テストで先輩から言われた『いいか清隆くん。平穏な学校生活を送りたいならテストは最後の1問だけわざと間違えて後は全部正解を書くんだ。そうすれば平穏な学校生活を送れるぞ』との言葉に素直に従い、最後の問題だけ間違えて後は全て正解を書いた。
そのおかげで、オレは95点とDクラス内で1位に輝いてしまった。普通の学生を過ごしてみたかったのに、一瞬にしてクラス内一頭の良い生徒として注目されることになった。真に遺憾だ。
「……恨みますよ先輩」
「あーあー何言ってるか素晴くんわかんねー。ところで清隆くんたち、ポイント支給されなかったらしいじゃん! ウケる(笑)。普通に考えてあり得ないって分かるはずなのにな〜」
「……先輩、煽りに来ただけなら帰って貰えませんか」
クラスの大多数の生徒の先輩を見る目が睨みつける視線に変わる。隣の堀北なんて今にも人を殺してしまいそうで近くにいるだけで心臓がバクバク音を立ててしまう。
「知ってるか清隆くん。2万ポイント払えば授業を1時間サボっても内申にもクラス評価にも影響しないんだぜ。そして20万ポイントでその日1日サボっても公欠扱いしてくれるんだ。今から今日の授業サボって遊びに行こうぜ!」
「……オレは20万ポイントも持ってませんよ」
「大丈夫、俺が20万出すから」
「先輩って今いくらポイントを持っているんですか」
「700万ちょい。去年荒稼ぎしたから大量に持ってるぞ。ま、これでもポイント所持数ランキングは2位なんだけどな(俺調べ)」
寧ろ1位の生徒はどうやれば大量のポイントを持てるんだ。遠坂先輩は1年生の時に手当たり次第に部活動に入部し、圧倒的な身体能力を持って大会に出て優勝し大量の賞金を貰い、その後すぐに退部するを繰り返したことで大量のポイントを獲得し、一時期は1000万以上ポイントを持っていたとか言う噂まであったらしいが……。
「と、言うわけで! さえちゃんせんせぇー!」
「うるさいぞ遠坂……。綾小路の公欠手続きをすればいいんだな」
「ポイントどぞ!」
遠坂先輩は茶柱先生にポイントを支払う。どうでもいいが先輩は今も逆さまのままだ。
「んじゃ清隆くんよ、ケヤキモールに集合な! バァイ!」
そうして先輩は上に──先輩から見れば下?──に器用に戻っていった。
「……綾小路、お前も大変だな」
茶柱先生の同情が心にぐっと来た……。
実を言うと、遠坂先輩とオレには共通点がある。
ホワイトルーム。オレの父が運営する人工的に天才を作る実験施設にて先輩が3期生、オレが4期生として教育を施されていたという共通点。
遠坂先輩は3期生の中でトップの成績を保っていたが、ある日成績を落として脱落した。
今の姿を見る限りわざと落ちたのだろうが、まさかこんな場所で元ホワイトルーム生と会うことになるとは流石に予想外だった。
更に先輩は何故か、オレを一目見ただけで同じホワイトルーム出身の人間だと気づき声をかけてきた。その日から振り回されるようになったのは仲間意識からなのだろうか。理解に苦しむ。
遠坂先輩とケヤキモールで合流し、カフェで昼食を取っている。他の客はいたとしても大人なので制服姿の自分達に怪訝な視線が向けられるが、先輩は気にせずに料理を平らげる。
「ところで清隆くんや。クラスポイント0ということはポイントが振り込まれなかったってことだけど、ポイントに余裕はあるのかい?」
「今のところ問題はありません。殆どのクラスメイト達は散財してしまったようですが、オレは散財するような欲しい物もありませんでしたから」
「へぇ、厳しいようならポイント貸してやろうと思ってたけど、必要ないならいいや。しかし散財するような欲しい物もないって、清隆くんはゲームとかしないのか?」
「生憎と興味は持てないですね」
「趣味はあった方がいいぞ清隆くん。ゲームがダメなら本とか」
「そうですね……考えておきます」
遠坂先輩は奇行が目立つ人だが、オレに対しては親身に接する人でもある。これも仲間意識から来る感情なのだろうか。
正直、変に取り繕う必要もないので先輩と一緒にいるのは悪くないと思っている。オレといる時まで理解不能な行動を取るのは辞めてほしいとも思うが……。
「ところでさ、ちょっと前に1年の女子が這いつくばってテントウムシを観察してる状況に居合わせたことがあるんだけど。今思い返しても変な子だったなー。清隆くんも変な子を見かけたらそっとしておいてあげるんだぜ?」
「…………」
そんなことを語る遠坂先輩だが、この前モンシロチョウを1時間以上観察していたことがある。少なくとも変というのは遠坂先輩にも言えることだ。