今や過ぎた夏の数さえ   作:Rayu278

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第二話「遊園地、冬空の下」

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 見渡す限り、人。人。人。その隙間から、或いは人々の頭上には。メルヘンチックな、絵本の中の世界みたいな。細部まで凝った世界観が、所狭しと散りばめられた夢の空間。

 

 あっちからは軽快な音楽が鳴り響き、こっちを見れば着ぐるみが生徒と自撮りのツーショット。むこうから香るジャンキーな香りに意識を向けていると、うしろから轟音と共に楽し気な悲鳴が響くお祭り騒ぎ。

 

「……あのさ」

 

 まさかまた、これを着ける事になるとは。着け方工夫しないと猫耳が動かしづらくて窮屈なんだよ。ちょっときついからつけっぱだと痛くなるし。

 

 週末、日曜日。学校が休み。生徒にとっての至福の時間。アイリの誕生日の翌々日。直前まで、私のカレンダーに無かった予定。

 

「なんで?」

 

 つぴ。鼻を擦りながら、何度目かの問いを投げる。

 

 時刻は午前11時。放課後スイーツ部4名、防寒に余念はなく。

 

 衝動に突き動かされるまま。私達は今、一昨日ナツに見せたあの写真の遊園地に居る。

 

 

 

 

 

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────『明日朝6時、時計塔前駅集合』

────『遊園地行くわよ。4人で』

 

 ドライヤーで髪乾かしながら歯磨いてた所で、洗面台の上でぶぶ、と震えたスマホに見えた通知。うがいする前に咥えてた歯ブラシ吹き出しちゃって最悪だった。

 

 見返したらヨシミからの連絡の表示は『23:26』。いや無理だろ普通に。舐めてんの?って返そうかと思った。そしたら。

 

────『おっけー』

 ……他でもないナツが、1分後に。二つ返事で。

 

 

 

「何回聞くのよ。さっきも言ったでしょ」

 

 今朝から4回目ぐらいのやりとり。しょうがないじゃん、時計塔前から一番遠いの私んとこなんだから。まだねむいっての。

 

 理由は分かったけど、それはそれとして不満をぶつけたい。そんな乙女の「なんで」を額面通りに受け取ったヨシミが。もうなんか慣れた感じに。はぁーやれやれ、とか言いながら。ご丁寧にアイリを引き連れ、私とナツの前に陣取って。

 

「ナツとの思い出を引きずり起こすため!」

「ナツちゃんと新しい思い出を作るためっ!」

 

「揃えて来いって」

 

 この一幕も本日4回目。擦りすぎて変なポーズまでつき始めた。マンネリ懸念するなら中身に変化球加えた方が楽だよ?

 

「ぷ、くく」

 

 そんで、ツボりすぎ。あんたはなんで?……って言おうとして。変な拾われ方したら5回目に突入しかねない事に気づき、静かに飲み込む。ノリッノリのヨシミと違ってアイリの方はキャパが限界そうだ。弱々しく身を竦めて、私の隣に戻ってくる。

 

 ……その逆で、ナツが笑ってる。心底楽しそうに。

 

 

 

 二人の意見は対照的。でも、どっちに転んでも良いよね、というのは先生の言葉らしい。

 

 誕生会の片付けの時。私がナツと話してたあの時間、ゴミ捨てに行ってた二人の話題は、当たり前だけどナツの事でもちきりだったという。それらしい素振りは全く見せなかったけど、聞くところによるとちょっと喧嘩したとか、なんとか。

 

 ナツとの思い出を引きずり起こす為。ナツと新しく思い出を作り直すため。前向きか後ろ向きかというのは見る方向次第だけれど、お互いにナツの事を思っての意見の相違、だったんだと思う。

 

 要は今後の方針。ナツの記憶を取り戻す方面で動くか否か、という事。

 

────『どっちでもいいんじゃないかな』

 

 偏向報道もいい所な切り取り方。ヨシミに見せて貰った先生とのやりとりの、一言目。

 

────『思い出作りの最中に思い出すかもしれないし』

────『思い出せない間にも思い出は積み重なってる』

 

────『大事なのは、皆が一緒にいる事だと思うよ』

 

 ……ずるいよなぁ、大人って。うんうんと、ヨシミと一緒に電車内で頷きながら。

 

 その後の先生が迷わず遊園地のチケットを4人分取って送り付けてきたことを聞き、明らかになった今日の寝不足の元凶に静かに怨恨を募らせる。今度アポなしで押しかけてやろう。

 

 

 

 

 

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「……ナツ、手寒くない?手袋、着けてないじゃん」

 

 テーマパークといえばと聞かれたら、皆はなんと答えるだろうか。案外、「待ち時間」と答える人は多そうな気がする。テーマパークあんまり行かないからわかんないけど。

 

 お揃いのポップコーンバケットを肩から提げて、アトラクションの列に並び。チケットの確認を終えて、モバイルバッテリーを繋いだスマホを降ろす時に。ふと気付いた。

 

 季節は冬真っ只中。吐いた息が白く色付いて大気に溶けていく。寒くて、切なくて。みかんが倍美味しい季節。

 

 私はネックウォーマーに手袋。アイリはマフラー、手袋はお揃で買ったやつ。手袋を着けてないのはヨシミもだけど、こっちはカイロでお手玉してる。寒そうに両手を組んで擦り合わせてるのは私の左隣の、ナツだけだ。

 

「前のアトラクションだかで落としちゃったみたい。ちょっと寒いけど……中入ったら暖かそうだし、だいじょう……ぇ」

 

 ぽい。と。左手の手袋を抜き取って、ナツに。大きめの弧を描く様に投げ渡した。籠った熱に包まれていた素肌が外気に晒されて、一気に冷え込む。温度差があるせいで余計に寒く感じる。

 

「それ、着けときな」

 

「え、いや。そしたら、カズサが──」

 

 言い終わる前に。内側を向いた私の左手で、ナツの右手を握る。

 

「うわ、冷た……大丈夫じゃないでしょこれ」

 

「うぇ、カズサ……!?」

 

 反射で手を引こうとするナツを、逃がさないようにぐっと力を込める。

 

「……こっちは私が温めてあげるから、着けな。あんたも私の手、温めて」

 

 なんか、照れくさいな。そんな事を思って、少しだけ目を逸らした瞬間、後ろのヨシミがひゅうと口笛を吹いた。うっさい、やめろ。そういうんじゃない。

 

 アイリはアイリで、マフラーで口元を隠して。顔を赤くしながら、ちっちゃい声で「カズサちゃん……!」とか言ってる。マジでやめて。

 

 ……病室で、目覚めたナツに泣きながら抱き着いたのも、バラされてるらしい。本人の口から。癪だから、痛い痛いと喚いてもぎっちり握り締めてやる。おら。アトラクション乗るまで我慢しろ。

 

 冷たい手は。私の熱をゆっくりと奪いながら。流れる血に温められて。丁度いいぬくもりに、落ち着いていく。

 

 

 

 

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「……あっ」

 

 不意に、ナツが足を止めた。後ろからその後を追って歩いていたアイリと、隣を並んでいた私も止まる。気づかず少し歩いた所で、ヨシミがこっちを振り返って不思議そうな顔。

 

「なに、どしたの?」

 

 声をかけながら、ててて。コートの裾と大きなツインテを揺らして近づいてきたヨシミが、一足遅れて私たちの目線の先を追う。

 

 目線の先には、この遊園地目玉のジェットコースター。山海経だかの山がモチーフになってて、洞窟の中から山の外周をいったりきたり走る、大人気の絶叫マシンだ。

 

「ナツちゃん、あれが気になるの?」

 

 呆然とジェットコースターを眺めるナツの顔を覗き込むように、アイリが指を指しながら声をかける。赤ん坊じゃないんだから、とは思ったけれど。

 

「げっ。マジ?そこは変わんないのね……」

 

 絶叫苦手なヨシミが、嫌そうな顔。そういえば、前来た時も……と思い返した辺りで、はっと気づく。

 

「……ナツ。みんなも。あれ乗る前に、写真撮らない?」

 

 ナツに見せた写真。その背景。

 

 その時も、絶叫を死ぬほど嫌がるヨシミをみんなで押さえつけながら、撮ったな。って思い出して。

 

 ナツが、こっちを向いた。嬉しそうに、目を細めて笑いながら。

 

「流石、カズサ。わかってるねぇ」

 

 にひ。と笑うナツは。その姿は、物言いは。

 

「────」

 

 これまでと何も変わらない、等身大の柚鳥ナツで。

 

「……"ロマン"だからね」

 

 液晶越しに目を向けてつぶやく。ナツは多分、私の言葉選びの意図を分かってなさそうに笑ってる。

 

 内カメ。映り込む四人の顔。かしゃり、とシャッター音。

 

 思い出はまた、形になって。

 

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