誰にも叱られなかった私へ   作:みそそ

3 / 4
第3話

私は、この終わらない地獄をどうしても止めたくて、あるとき、自分の「始まりの少年」を叱りに、過去の歴史へと向かったことがありました。

 

まだ何もしらない昔の自分の前に現れて、

「お前の信じている夢は、ただの借り物の偽物だ。今すぐ辞めてしまえ」

と、すべてを全否定してやろうとしたのです。それが、この苦しいシステムを壊すための、たった一つの方法のはずでした。

 

しかし、その世界線で私を待っていたのは、信じられない光景でした。

そこにいた少年は、とっくに「正義の味方」なんていうキレイな理想を、ゴミ箱に投げ捨てていたのです。

 

少年は、目の前の一人の女の子を守るためだけに、泥水をすするような覚悟を決めて、真っ赤な血を流しながら戦っていました。

 

私が「お前の理想は間違っている」と叱りに行っても、

「ああ、知ってるよ。そんなものはとっくに捨てた」

と、少年の持つ強烈な「本当の気持ち」で、逆に私のほうが全否定されてしまったのです。

 

少年は、私の腕を奪い取っていきながら、私の绝望をすべて知った上で、私をここに置き去りにして、一人の女の子の元へと帰っていきました。

 

私はそのとき、固有結界に戻ってきて、あまりにも残酷な「最強の矛盾」に気がついてしまいました。

 

私をこのからっぽの砂漠から連れ出して、完璧に叱って救ってくれるはずの「本当のエゴを取り戻した自分」は、一人の人間としての幸せを選んだからこそ、世界のシステムから外れて、二度とこの場所へ会いに来る手段を持たないのです。

 

逆に、時間も空間も超えて、この砂漠へ私に会いに来られる英霊たちは、全員が私と同じ、世界に縛られた「中身のない空っぽな機械」だけ。

 

「――そうか。私を叱ってくれる本物の自分は、ここへ来られない。ここへ来られる奴らは全員、私を救えない。ゆえに、私は永遠に誰からも叱られず、救われないんだ」

 

さらに、私の脳裏に、もっと恐ろしい答えがひらめきました。

 

「いや……違うな。私の過去には、私を叱りに来る未来の英霊なんて、最初から来なかったんだ」

 

もし、私の前に未来の私が現れて、胸ぐらをつかんで叱ってくれていたら、私は別の道を選んで、幸せな人間になれていたかもしれません。

 

でも、私の前には誰も来なかった。誰も私を止めてくれなかった。

だから私は、あの火事のあと、空っぽの心のまま真っ直ぐに地獄へと突き進み、世界で最初の「エミヤ」になってしまったのです。

 

私は、他の世界線の私が、自分だけの本当の気持ちを見つけて、エミヤにならない幸せな人間になるためだけに、世界によって歴史の裏側で無理やり生み出された『最初の生贄』だった。

 

他のみんなは私を乗り越えて人間になり、私だけが、このからっぽの砂漠に一人きり、永遠に置いていかれる。

 

「私はただ……誰かに、お前は間違っていると、そっちへ行ってはならないと、叱ってほしかっただけなのに」

 

そのあまりにも孤独な真理を悟ったとき、私の目から、また静かに冷たい涙がこぼれ落ちました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。