私は、この終わらない地獄をどうしても止めたくて、あるとき、自分の「始まりの少年」を叱りに、過去の歴史へと向かったことがありました。
まだ何もしらない昔の自分の前に現れて、
「お前の信じている夢は、ただの借り物の偽物だ。今すぐ辞めてしまえ」
と、すべてを全否定してやろうとしたのです。それが、この苦しいシステムを壊すための、たった一つの方法のはずでした。
しかし、その世界線で私を待っていたのは、信じられない光景でした。
そこにいた少年は、とっくに「正義の味方」なんていうキレイな理想を、ゴミ箱に投げ捨てていたのです。
少年は、目の前の一人の女の子を守るためだけに、泥水をすするような覚悟を決めて、真っ赤な血を流しながら戦っていました。
私が「お前の理想は間違っている」と叱りに行っても、
「ああ、知ってるよ。そんなものはとっくに捨てた」
と、少年の持つ強烈な「本当の気持ち」で、逆に私のほうが全否定されてしまったのです。
少年は、私の腕を奪い取っていきながら、私の绝望をすべて知った上で、私をここに置き去りにして、一人の女の子の元へと帰っていきました。
私はそのとき、固有結界に戻ってきて、あまりにも残酷な「最強の矛盾」に気がついてしまいました。
私をこのからっぽの砂漠から連れ出して、完璧に叱って救ってくれるはずの「本当のエゴを取り戻した自分」は、一人の人間としての幸せを選んだからこそ、世界のシステムから外れて、二度とこの場所へ会いに来る手段を持たないのです。
逆に、時間も空間も超えて、この砂漠へ私に会いに来られる英霊たちは、全員が私と同じ、世界に縛られた「中身のない空っぽな機械」だけ。
「――そうか。私を叱ってくれる本物の自分は、ここへ来られない。ここへ来られる奴らは全員、私を救えない。ゆえに、私は永遠に誰からも叱られず、救われないんだ」
さらに、私の脳裏に、もっと恐ろしい答えがひらめきました。
「いや……違うな。私の過去には、私を叱りに来る未来の英霊なんて、最初から来なかったんだ」
もし、私の前に未来の私が現れて、胸ぐらをつかんで叱ってくれていたら、私は別の道を選んで、幸せな人間になれていたかもしれません。
でも、私の前には誰も来なかった。誰も私を止めてくれなかった。
だから私は、あの火事のあと、空っぽの心のまま真っ直ぐに地獄へと突き進み、世界で最初の「エミヤ」になってしまったのです。
私は、他の世界線の私が、自分だけの本当の気持ちを見つけて、エミヤにならない幸せな人間になるためだけに、世界によって歴史の裏側で無理やり生み出された『最初の生贄』だった。
他のみんなは私を乗り越えて人間になり、私だけが、このからっぽの砂漠に一人きり、永遠に置いていかれる。
「私はただ……誰かに、お前は間違っていると、そっちへ行ってはならないと、叱ってほしかっただけなのに」
そのあまりにも孤独な真理を悟ったとき、私の目から、また静かに冷たい涙がこぼれ落ちました。