重力に逆らう魂 ―不屈のハネ毛と、お嬢様の執着―   作:みそそ

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第2話

「ええわ、その喧嘩買ったる! ウチが勝ったら、速攻で大阪に帰せ。それと……二度とうちの道場を『パフェ屋にする』とか不吉なこと抜かすなよ!」

 

飛鳥はベッドから飛び降りると、素足で大理石の床を踏み締めた。

対するリリは、待ってましたと言わんばかりに優雅な格闘ポーズを取る。

 

「受けて立ちますわ。ですがここは私の屋敷……。少しでも調度品を壊したら、即座に没収してアイスクリーム屋に改装して差し上げますわよ?」

 

「やかましい! 行くぞ、お嬢様!」

 

飛鳥が鋭い踏み込みと共に拳を繰り出した、その瞬間だった。

 

「おっと、失礼。少々床が汚れておりましたかな」

 

どこからともなく現れたセバスチャンが、驚異的なスピードで飛鳥の足元にモップを滑り込ませた。

 

「えっ、ちょ――!?」

 

超高級ワックスで磨き上げられた床に、さらに水分が加わる。

飛鳥の軸足は面白いほど綺麗に滑り、彼女の拳はリリの鼻先数センチを空しく通過した。

 

「な、なにするんやジジイ! 邪魔や!」

 

「いえいえ、お客様が転んでお怪我をなさらぬよう、清掃を徹底しているだけでございます」

 

セバスチャンは無表情のまま一礼し、風のように姿を消す。

飛鳥が体勢を立て直そうとすると、今度はリリが華麗な回転蹴りを放ってきた。

 

「逃がしませんわ!」

 

「くっ……!」

 

飛鳥がバックステップで回避しようとすると、背後に絶妙なタイミングで『18世紀のアンティーク椅子』が置かれる。

 

「あだっ!?」

 

ふくらはぎに硬い木彫りの感触。飛鳥がよろめいた隙を、リリは見逃さなかった。

 

「今ですわ!」

 

「ぐわぁぁぁ!」

 

リリの強烈な体当たりが飛鳥の腹部を捉える。

 

さらに、倒れ込む飛鳥の背中を、セバスチャンが「お疲れ様でございます」とフカフカのクッションで受け止めた。

 

……が、そのせいで飛鳥は反撃の機会を完全に奪われ、そのままリリにマウントポジションを取られてしまった。

 

「……私の、勝ちですわね、アスカ」

 

目の前でリリが勝ち誇ったように微笑む。

 

飛鳥は、セバスチャンが差し出してきた「汗拭き用の最高級タオル」を顔面に押し当てられながら、もがくことしかできなかった。

 

「……卑怯や、卑怯すぎるぞロシュフォール家……っ! 今の絶対ノーカウントやろ!!」

 

「あら、屋敷の管理が行き届いているのも、私の実力のうちですわ。さあ、約束は約束。……セバスチャン、アスカをダイニングへ。最高の『淑女教育』の準備をなさいな」

 

「御意に、お嬢様」

 

セバスチャンに脇を抱えられ、まるで捕まった宇宙人のように食堂へと運ばれていく飛鳥。

 

「放せ! まだ終わっとらん! ああもう、道場がパフェ屋になるーーっ!!」

 

朝の静かな廊下に、飛鳥の悲痛な叫びが無情に響き渡った。

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