重力に逆らう魂 ―不屈のハネ毛と、お嬢様の執着―   作:みそそ

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第6話

「……終わりましたわ。完璧、完璧ですわアスカ! これこそ私が夢にまで見た『ロシュフォール双子コーデ』の完成形ですわ!」

 

リリは鏡の前で、恍惚とした表情で両手を頬に当てた。

 

そこに映っていたのは、漆黒のレースに縁取られたゴシック・ドレスを纏った飛鳥の姿だった。

 

リリの白と対になる、夜のような黒。

嫌がっていた飛鳥も、数人がかりのプロの手によって、人形のように美しく飾り立てられている。

 

「……うう、肩凝るわ、この服。おまけに頭が重い……」

 

「我慢なさいな。さあ、最後は仕上げですわ。セバスチャン、例のものを」

 

「はっ。こちらに」

 

セバスチャンが恭しく差し出したのは、ロシュフォール家が開発したという、最新鋭の形状記憶ヘアジェルだった。

 

リリは自らクシを手に取り、飛鳥の頭で威勢よく主張している「あのハネ毛」に向き合った。

 

「さあ、おとなしくしなさいな。私の世界に、不規則なハネなど不要ですのよ」

 

リリがジェルを塗りたくり、クシでピシッとハネ毛を寝かせる。

 

一秒、二秒……。

鏡の中の飛鳥は、完璧な「深窓の令嬢」に見えた。

リリが満足げに頷こうとした、その時。

 

――ピョコンッ。

 

「……なんですって?」

 

何事もなかったかのように、ハネ毛が元の角度へと跳ね返った。

 

「あ、言うとくけど、それ無駄やで。ウチの寝癖、しつこいねん」

 

「黙りなさい! 私に直せない髪などありませんわ!」

 

リリは顔を真っ赤にして、今度はヘアアイロンを最高温度に設定した。

ジューッという音と共に、強制的にハネ毛を矯正する。

スプレーを一缶使い切るほどの勢いで固め、リリは額の汗を拭った。

 

「……ふう。これで、今度こそ――」

 

――ピョコッ。シュバッ。

 

アイロンの熱を嘲笑うかのように、ハネ毛はさらに勢いを増して復活した。

 

それどころか、スプレーで固められたせいで、より鋭利な「凶器」のような質感を帯びて輝いている。

 

「な……ななな、なんですのこれ!? 重力は!? 物理法則はどうなっていますの!?」

 

「知らんがな。ウチの魂が曲がっとらん証拠やろ、これ」

 

「認めませんわ! こんな、こんな毛のせいで私の『完璧』が汚されるなんて……! セバスチャン、産業用接着剤を持ってきなさい!!」

 

「お嬢様、流石にそれはお客様の頭皮が危ううございます」

 

狂ったようにクシを振るうリリ。

しかし、何度押さえつけても、ハネ毛は不屈の精神で「ピョコン」と立ち上がる。

 

三十分後。

リリは力なく膝をつき、鏡を見上げて絶望の声を漏らした。

 

「……嘘。……私の負け、ですの……? 財力も、権力も、最新技術も……たった一本の、アスカの汚いハネ毛に屈するなんて……っ!」

 

「誰が汚いねん。……ま、ええやん。髪型くらい、元のままでも。服は着てやったんやし、それで手ぇ打てや」

 

飛鳥は鏡の中の、ドレス姿にいつものハネ毛という「アンバランスな自分」を見て、少しだけ満足げに鼻を鳴らした。

 

リリは「解せませんわ……絶対に解せませんわ……!」とブツブツ呟きながら、魂が抜けたようにソファーへ倒れ込んだ。

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