内容は薄めですがようやく2話目です!
この世の中の男性の中に、一度でも独りぼっちだった経験があると言う人は恐らくいないと俺は常日頃から思っている。
共学ならば恐らくは男子生徒が集う場を設ける機会が山程あるだろうし、そもそも男性は一人で生きていくということは中々に困難でリスキーな行動なのだ。
仮に一人で男子生徒がポツンと教室内で孤立していたとしよう。ならばどうなると思う?
答えは簡単──分を刻む前には既に女子生徒に囲まれているだろう。そして身の上話を聞き出そうとしたり過度なスキンシップを取ろうとしたり中には無理やり唇を奪おうとする生徒もいるのではないだろうか。
これはあくまで仮定の話だが、実際に夜道を一人で歩いていた男性が猥褻な行為をされたというニュースが絶えないのだ。しかも犯人の動機は欲求不満によるものが殆どで、男性を尊重すべきだと謳い始めている社会に対する疑念の声も上がりつつある。
とまぁ、男性が一人で生き抜くことの難しさが今言ったような問題を鑑みれば理解できるだろう。しかしそんな問題以前に男子と男子はお互いに目と目が合えばその時点で友達だ。
同じ苦労を分かち合える家族以外の存在──運命の人と捉えても差し支えはない。現にそんな男子達と俺は巡り合って来たのだから。
男性の関係性がこんな硬く結ばれたものならば、女性はどうだろうか?
俺は憂や姉ちゃんやのどかさんが持つ関係の善し悪しは既に善いものだと判断できてはいるが、彼女達のように堅実な関係性を持たない女子もいる。
例えば男子生徒と恋仲になった女子生徒が次の日から蔑まれ暴言を吐かれ無視され……など、この世の中では尊重すべき尊い関係性を潰すものもあれば、逆にこれは稀な事例だが、男性と関係を持ったことのない女子が主に男性との顔が広い女子に仲間外れにされるものもある。
紹介したこれらは俺は実際に目にしたことはないが報道で知ることが多々……女性も女性で生きづらい世の中でもあるのだと捉えられる実態だ。
長々と話したが、俺は今話したような問題が起きない為の集会──桜が丘高校の男子新入生が一堂に会する場に足を運んでいる。学校に入学したのならばまずはこれから始まるのが世の常だ。
「……こんなとこでやる必要ってあったの?」
「トイレだと小さいじゃんか? かと言って家に押しかけるのもどうかと思うし……」
「めっちゃ見られてるのはどうなのさ……」
まぁ、主催したのは俺なのだが……どうやら校舎前広場という会場の場所に賛否が分かれているようだ。と言うか否定派しかいないねこれ……だがこれは不可抗力。教室は狭いし体育館裏だと逆に人目につきやすい、講堂は文化部が使用していたから今日は無理だった。
日程を変えた方が良かっただろうか?
「うわぁ〜すっご……男子全員いるんじゃないあれ?」
「ほ、ほんとだ……」
「はぁ〜っ! 年下男子があんなに……!」
「ああ、あそこが
「いけるかな?いけるかな? いっちゃってもいいのかな?」
「よし後で待ち構えて……」
恐らく今まで女子校だった上の学年の生徒たちだ。面構えが違う……なんて言っている場合ではないか。男子達が続々と身を震わせているし、最早集会どころではない。
「お、おいもう帰ろうぜ……」
「◯鬼のたけしみたいなこと言わないでよ」
「何の話だよ!?」
「どっか別の場所ないのか本当に……! 寒気がするぞここ!」
「地下水道とか?」
「……最悪アリだな」
「えっ嘘でしょ??」
「っていうか平沢お前なんでそんな平静を保っていられるんだ……!?」
まぁ俺は動揺しない『不動のケイ』で有名だからね。そもそも価値観が真逆なのに加えて姉妹がいるから冷静さは昔から磨かれていると自負している。
しかしまぁ、この周回はもうお開きにして別の日に講堂を予約させてもらおうか……まだ10分くらいしか経っていないんだけどなぁ。
「別の日にする?」
「そうだなうん! 自己紹介とかはできたしメアドも交換できたもんなうん!」
「俺草むら抜けて帰るわ……」
「冷静に何を言ってるの」
「だって見ろよ!? 校門で待ち伏せされてんだぞ!?」
「あほんとだ」
「お、俺も草むらから帰る! 虫嫌いだけど背に腹は変えられないもんな……」
「あ、じゃあ俺もそっちから帰ろうかな」
「もう皆で帰るか……」
***
「──っていうことがあってさ〜」
「もう皆と仲良くなったの!? 凄いね!」
「そ、そうね……」
「……のどかさん。あんまり無理はしないでね」
「えっ!? だ、大丈夫よ!?」
「そっか……」
この学校に入学して早二週間──ようやく学校の構造やシステムに慣れて来てはいるが、俺と姉ちゃんは未だに部活に入部していない。
そりゃあんながっつかれたら躊躇うよねって話で……手取り足取りが思いっきし物理的な意味に聞こえてくる不思議。
教室内では男子か今のように姉ちゃんとのどかさんと話したりするのが日常なんだけど……のどかさんはやっぱりまだ男性耐性がついていないみたいだ。
姉ちゃんの背中に隠れて顔をひょっこりと出しながら可愛らしく話す姿は普段の真面目な姿とのギャップを感じさせる。
「そういや姉ちゃんは部活決めたの?」
「あぅ……それがまだなんだよね〜……」
「け、ケイ君はやっぱり入らないの?」
「今のところは……かな」
「あ、他の男の子はどうなの? 皆部活入るの?」
「いや、皆まだ部活もバイトも決めてないから男子で新しく部活作るか同じバイトするかで迷ってるんだよね」
とは言え男子で部活を作って何をするのかって話だけどね。女子が寄って来そうで逆効果しかなさそうだし……バイトに関しては同じバイトを大人数でするのは迷惑だし、そもそも好待遇なバイトを見つけるのも困難だろうし。
ほんと難しい世の中でっせ……普通に男子で集まって遊ぶとかの方が全然楽しそうだし長続きすると思うがね。
別に強制入部ではないし……かと言って何もしないと言うのもねぇ。
「……あ、そう言えば先生に呼ばれてるんだった」
「あ、そうだったね!」
「そ、そうなの……? それなら早く行ってきたら? 先生に時間取らせるのもだし……」
「だね。行こっか」
「うん!」
確かに先生に学校生活についての面談に呼ばれているのを不意に思い出した。恐らくは男子生徒は皆呼び出しを喰らっている筈……他の男子から聞いたからね。
う〜ん……丁重にもてなしてくれるのはいいけれど、度が過ぎても肩身が狭いってものだよね。
***
「──せんせ〜」
「──あ、来たわね……ごめんなさい。ちょっと面談があって……」
「あ、そうなんですね?」
姉ちゃんと談笑しながら職員室へとやって来た俺たち。姉ちゃんの呼ぶ声に呼応したのは音楽教師の
担任が今日は体調不良で欠席している為、誰かの他に担当がいないものかと探した結果山中先生が割り当てられたということだ。
中々に美人な先生だが……男性耐性があるのか微妙なラインなんだよねこの先生。堂々とはしているけど内心結構焦ってそうな意外とポンコツなイメージが初回授業でのやり取りで定着してるんだ。
「そ、それじゃあ頑張ってね──軽音部」
既に二人の女子生徒と話していた先生はすぐに話を切り上げ、語尾にそう付けて俺たちへと歩み寄ってくる。
軽音部……か。部活紹介の掲示板には掲載されていなかった筈だが、新入生を簡単には受け入れない厳格な体制でも取っているのだろうか。
そんなことを思いながら恐らくは軽音部であろう女子生徒達に視線を向けると──黒髪ロングの生徒はたじろぎ始め、前髪をカチューチャで上げた山吹色の髪の生徒は困惑してる……のか?
そりゃあ初対面の生徒にまじまじと見つめられるのは嫌か……変に詮索するのはやめて面談に集中しよう。
「び、びっくりしたぁ〜っ……!」
「な、なんで
「だ、だってあたし慣れてなくて……」
「お前にはさとしがいるだろ……!?」
「か、家族と初対面の男子は違うんだぞ
「わ、私の方が慣れてないって……あ、あんな見られたら……」
「な、何であんな見つめてたんかな……わ、ワンチャン一目惚れとか……!」
「お前は何で弟がいるのにそんな発想になるんだ……!」
「だ、だから家族とは別物なんだってば……!」
「多少は分かるだろ……!」
……なんかすっごい勘違いされてる?
本人達は小声で話してるつもりだろうけど姉ちゃん以外には多分聞こえてるよ……共学初年度となれば男性耐性のない女子が多いのは仕方がないことではあるが。
弟か……姉ちゃんももしかしたら初対面の男子に会ったらあんな感じに……はならない気がするね。
天才の天然という一種の才能があるし、そういうキャラでもないしね。
憂はああなりそうだけど、姉ちゃんがああなったらキャラ崩壊以外の何物でもないよ。
「そ、そそれじゃあ行きましょうか……」
(やっぱ耐性ないのかなー……)
***
「──私、軽音部に入ってみる!」
「唐突すぎない?」
「お姉ちゃん、音楽やるの?」
面談が終わってから何日か経った後の夕飯中。突如として姉ちゃんから意気揚々と発せられたのは先生が話していた軽音部に入る旨だった。
唐突過ぎて色々と追いついていないのだけれど……姉ちゃんって今まで楽器とか演奏したことあったっけな。まぁ初心者でも部活に入ってから上達するなんて事例は山程ある訳だし、反対はしないけども……
山中先生に『軽い音楽と書いて軽音部』と言われて何を思ったのかは想像に難くない──恐らくはカスタネットとか鍵盤ハーモニカとか、そこら辺だと思っているんじゃないのかな。
一応この世界にも当然音楽は存在するが……男性アーティスの数は滅茶苦茶に少ない。そもそも芸能界自体に男性が少ないからね……そりゃあ大勢の女性の前に立ってしまえば顔も割れている訳だし、襲われても仕方がない業界なんだ。
だからわざわざ志願する人もおらず、年々男性芸能人の母数は減少傾向にある。
その上でも芸能界で日々切磋琢磨している男性を見るとこちらも勇気を貰えるようで何だか感慨深い。何一つ関係性がないのにそう思ってしまえるのがこの価値観なのだ。
話が逸れたが、軽音か……流石に家族だから考えていることくらい多少なりとも理解しているつもりだが、変に言って姉ちゃんのやる気を下げるのも酷な話だよね。
「軽音部って部員募集してるの? 前掲示板にはなかったけど」
「今日見たらあったんだ! なんて書いてあったかは忘れちゃったけど……」
「何でこんなスタートダッシュが遅いのかね……」
「もしかしたら新入生が作った部活なのかも?」
「ああ、その可能性もありそうだね」
「軽い音楽だからきっと簡単なことしかやらないよ〜。口笛とか……?」
「あ〜……」
大分曲解して伝わってるなこれ。でも軽音部の実態を知らないし、軽音は気軽に聞ける。っていう由来もあった筈だからあながち間違いではない可能性もあるけれど……メインがギターやドラムだった筈だから……
流石に簡単なイメージは俺にはないけれど……でもなぁ。折角姉ちゃんが興味を持っているんだし、一回体験入部でもしてもらった方がいいよね。
興味を持ったことならとことんのめり込む体質だから特に。おっちょこちょいだけど意外と器用な面もあったりするからね。
集中力が一つの事象にしか向かない体質でもあるけどね……
「そんなら明日体験入部でもして来たら?」
「えっ? もう入部届出しちゃったよ?」
「早っ!」
「だからケイも一緒に行こ〜っ?」
「えーっ」
「おねが〜い?」
「まぁいいけどさ〜……」
「やったぁ!」
「ふふっ……」
こういうところでは何かと行動力の化身になるのを忘れていた。軽音部か……今のところ男子は誰も部活に入っていないと聞いたし、部員も全員女子生徒なんだろうな……不安だ。
耐性がなくとものどかさんみたいな穏やかな雰囲気の人がいてくれたら嬉しいんだけどね。
姉ちゃんと同じくらいのどかさんには助けられて来ているから……強引なタイプはこの世界じゃ大半を占める勢いだろうし、俺の希望は潰えるかもしれないや。
***
「音楽室音楽室……」
「けっいおんっ♪ けっいおんっ♪」
姉ちゃんが軽音部入部を希望した翌日。俺たちは早速軽音部の部室である音楽室へと足を運んでいた。
来て早々だけどやっぱり軽音ってのがどういうものなのか説明した方が良かったと今更ですが後悔してます。
部室の前にいざ来ると……中々敷居が高そうな雰囲気が漂っているし、部員もこの雰囲気のど真ん中いるんだと考えるとかなり緊張する。
多分この雰囲気は部室に来るまでの道のりで『オカルト研究会』とか『ホラー同好会』とか異色過ぎる部活の数々があったせいだと思うんだけど……共学で男子でそこに入る人は果たしているのだろうか。
だけど……来てしまったものは仕方がないし、もう引き返せない。
一抹の不安を抱えながら俺は音楽室の扉へと手を掛け、開けた──
「こんにちは〜……」
「──おっきたきた! もしかしてあなたが平沢── へぇっ!? 男子ぃぃっ!? あっしかも前めっちゃ見つめて来た男子!!」
「──どうしたんだよ律。そんなにおどろ── のわぁぁぁっ!!?? だ、男子男子がぁぁっっ!?」
「──ど、どうしブフーーーッッ!!」
「……」
「あ、あわわ……」
──帰ろうかな。