悪の組織の下っ端研究員に就職しました。〜銀髪巨乳の女幹部さんがチラチラこっちを見てくるけど全く身に覚えがありません〜   作:ベニサンゴ

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第24話「圧倒的な敗北」

「ヤーーッ!」「ヤーーーーッ!」「ヤッ!」

「ヤーヤーッ!「ヤーーーッ!」「ヤァッ!」

 

 人の気配の消えた街に、どこからともなく全身真っ黒な奴らが現れる。頭部に白い塗料で歪なニコニコマークを描いた細身の人間のようにも見える彼らは、一様に甲高い奇声を上げながら、手当たり次第に建物を破壊していく。

 それは黒い洪水、全てを飲み込む激流だった。電柱を押し倒し、建物の壁を破壊し、屋根を落とす。個々の暴力性を遺憾なく発揮し、数百という数が脅威となる。

 黒い怪人の群れは混沌のなかに統率を持ち、猛烈な勢いで街を食い破っていく。

 

「来たな、悪の秘密結社∀NE! 貴様らの悪行、見過ごすわけにはいかない!」

 

 だがその時。ビルの屋上からよく通る朗々とした声が響く。

 怪人たちが一斉にその方角へ顔を向け、敵意を剥き出しにする。そこに並んでいたのは、七つの人影。彼らはそれぞれに鮮やかな光を身に纏い、怪人たちを睥睨する。

 

「世に暗雲が立ち込める時、天より眩い光が降り注ぐ。赤き光は烈火の光! 迷う者らを導く光! ――ブレイズレッド!」

 

 七人のうち、中央に立つ一人が猛々しい口上を立ち上げる。

 頭から足先までを包み込む赤いスーツに、炎を模った仮面。全身が全て隠れていながら、鍛え上げられた肉体が如実に浮かび上がっている。

 

「ゆらめく火影は弱者を包み、広がる熱波は悪を焼く。 ――フレアオレンジ!」

「その閃光は千里を駆ける。全てを貫き全てを救う。 ――ビームイエロー!」

「輝く未来を守るため、輝く光で敵を切る。 ――シャイングリーン!」

「波濤の勢い凄まじく、抗う者も薙ぎ払う。 ――ウェーブブルー!」

「人の瞳に輝きを。歩む旅路に光耀を。 ――グロウパープル!」

「天の光が翳っても、月の明かりが途切れても。そこに俺は現れる。 ――エクリプスバイオレット!」

 

 赤い男に続いて次々と名乗りを挙げたのは、それぞれのカラーに統一したスーツを着込んだ男女六人。彼らは思い思いのポーズを取り、ビルの上から威圧する。

 その存在を捉えた途端、怪人たちはそれまでの侵攻をやめてビルの方へと進路を変えた。外壁を登り、階段を駆け上がり、我先にと男たちの元へと殺到する。だが、怪人の群れが屋上に到達する前に、七色の光が放射状に広がった。それは鉄筋コンクリートや分厚い鉄板すら容易く貫通し、怪人たちを退ける。ある者は熱線で貫かれ、ある者は熱波に包まれ、ある者は内部から弾け、ある者は閃光と共に切り刻まれる。頑丈な躯体も意に介さぬ攻撃は、鎧袖一触に怪人を屠る。

 

「我ら、世に極彩をもたらす者。極光戦隊、セブンレインボーズ!」

 

 七人の声が揃う。

 セブンレインボーズのポーズがしっかりと決まり、ビルに群がっていた怪人は一瞬で殲滅された。あっという間に夜の街に静寂が戻り、もはや脅威は去ったかと思われた、その時。現れたヒーローたちに向かって敵意を露わにする女の声が響き渡った。

 

「セブンレインボーズ、私の邪魔ばかりする害虫どもめ! 今日こそその息の根を止めてやる!」

「何者だ!」

 

 セブンレインボーズが光を放つ。七本の光線が夜の街並みを巡り、対面するビルに立つ銀髪の女を捉えた。

 赤い仮面で素顔を隠し、全身を黒いラバースーツで覆った女。緩く波打つ銀髪がビル風にたなびき、セブンレインボーズの光を受けて輝いている。女の背後には、彼女を守る騎士のように、七枚の大盾が浮遊している。

 

「出たな、鉄血将軍オルディーネ!」

「ここで会ったが百年目! 今日こそ貴様の所業を裁く時!」

 

 その存在を認めた途端、セブンレインボーズも殺気立つ。

 極光戦隊セブンレインボーズと悪の秘密結社∀NEは、長年熾烈な争いを繰り広げてきた犬猿の仲だ。どちらも一進一退の攻防で鎬を削りながら、お互いに恨みを募らせている。

 気炎を吐くレインボーズに対し、オルディーネは余裕のある笑みで応じる。彼女の背後、ビルの下、あらゆる場所に無傷の怪人たちが次々と溢れ、席巻していた。一見すると一対七の構図に見えるが、その実、∀NEの勢力は数百を遥かに超える。量としての利がどちらにあるかは、火を見るよりも明らかであった。

 

「今夜こそ決着を付けましょう。あなた達の死によってねぇ!」

「ヤーーーーッ!」

 

 オルディーネが鋭く手を突き出す。その合図を受けて、怪人達が一斉に走り出す。巨大な虫に群がる蟻のように大通りを覆い尽くし、ビルを食い破りながら迫る。

 セブンレインボーズは七方向へ散開し、怪人の勢力を分散させた。だが、オルディーネはそれは悪手だと嘲笑する。

 

「自ら連携を捨てるなど愚の骨頂ね。あなた達がのんびりお散歩している間に、私は自由にさせて貰うわよ!」

 

 赤い大盾が一枚、彼女の足元へやって来る。オルディーネは軽やかにそれに飛び乗り、夜の街へと飛び出した。向かう先にあるのは四角いビル群に紛れる一つの建物。トウミメディカルの社屋である。

 

「さあ、お宝、機密、その他諸々。頂くわよ」

 

 空中に浮かんだオルディーネが、真紅の唇を弧に曲げる。彼女が滑らかに手を動かすと、鋼鉄で補強されたビルの壁面があっけなく剥がれ落ちた。ミニチュアのドールハウスのように側面が丸裸にされたビルは、もはや何も阻むものはない。

 オルディーネはその中で最も守りの厳重そうな階層に狙いを付けて、建物へと近づく。

 

「ふん、かかったな!」

「なにっ!?」

 

 その時、あるはずのない声が響き、オルディーネを驚愕させる。咄嗟に大盾を翻して身を守った彼女を襲ったのは、眩い黄金の光線だった。

 

「ビームイエロー! なぜここに!」

「私だけじゃない。お前はもう、取り囲まれている!」

 

 ビルの縁に立った黄色いスーツの女が誇らしげに叫ぶ。次の瞬間、また別の方向から熱線がオルディーネを襲った。

 オルディーネは呼び寄せた盾を周囲に展開し、四方八方から迫る熾烈な攻撃に耐える。同時に怪人たちを呼び寄せて反撃も試みる。だがそこで、彼女は強い違和感を抱いた。

 

「怪人が……ッ!」

 

 猛々しい憤りさえ感じる怪人達の気配が消えていた。胸部に埋め込まれたコアを通じて繋がっているはずの数百の部下たち、その蠢きが感じられない。この一瞬で全てが倒された? 否、そんなはずがない。

 怪人は個々が平均的な超能力者を凌ぐ実力を持つ。その身の実に40%が削ぎ落とされても活動を続けるほどのタフネスを有し、また数百キロの鉄塊すら投げ飛ばす怪力を持つのだ。

 如何にセブンレインボーズの七人が圧倒的な超能力を有しているとはいえ、この一瞬で数百の怪人を殲滅することなど不可能だ。

 

「まさか、貴様ら!」

「――お得意の怪人は全て“没収”させてもらった」

 

 正面に降り立ったブレイズレッドを、オルディーネは禍々しく睨む。彼女の思い至った推測を首肯する男の背後に、歪な笑顔を浮かべた黒づくめたちがずらりと立ち並んでいた。

 怪人達を統率するネットワークがクラックされた。あの一瞬で制御権を奪われた。

 オルディーネは形勢が絶望的なほどに逆転したことを理解する。

 

「ネットワークを形勢するのは通信。つまり波であり光だ。俺たちは貴様以上に彼らの研究を進め、その統率を纏めるものを解き明かした。――さあ、孤独な将軍よ、貴様はどうする?」

 

 ブレイズレッドの仮面の下に笑みが浮かぶ。直接目視できないそれを如実に感じ取ったオルディーネは、悔しげに奥歯を噛み締める。

 数百対七が、刹那の瞬間に一対数百へと逆転した。気がつけば、オルディーネは荒波の打ち付ける断崖へと押し込まれていた。

 

「――舐めるなよ、この七光がぁっ!」

 

 オルディーネは弾丸のように飛び出す。両手を大きく動かし、能力を励起させる。いくつものビルが轟音と共に薙ぎ倒され、地表を覆う道路が剥がれる。そのダイナミックな破壊に、怪人達が飲み込まれ、ヒーローが驚愕する。

 次々と光が迸り、熱が広がる。怪人が焼け、瓦礫が舞い上がる。夜の街に破壊と蹂躙の応酬が繰り広げられた。

 

━━━━━

 

『覚えてなさい! 次こそ悪が勝つのだから!』

 

 ――その日。オルディーネさんはセブンレインボーズに負けた。

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