※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
「王の虎」の老人とレイの「修行」は続いた。
何度も技を打ち込まれ、その技を瞬時に返し、それでも老人には届かず、連日レイは叩き伏せられる毎日だった。
「ぐ、ぐ、ぐ・・・」
「まあ、中々良く保ったな。もう少し保つかと思ったがこれまでか・・・」
老人は手を掲げた。
その手が振り下ろされた時、レイの生命も終わるであろう事は簡単に想像できた。
(ふざけるんじゃねえ!こんな所で、何もしないまま、何もできないまま死んでたまるか!)
『眼』によって目の前に迫る拳がはっきりと見える。
必死で跳ね起きたレイは、辛うじて両掌を重ねて老人の拳を受け止めた。
だが、老人の一撃は途轍もなく重く、受け止めた両掌をそのままに、身体ごと背後の岩肌にレイの身体を叩きつけた。
「ぐぅぅぅっ!」
岩肌に叩き付けられたレイは呻き声を上げる。
老人は拳をレイの両掌に押し付けたまま力を加え続けた。
「この程度も返せんのであれば何の意味もない。このままここで死ぬがいい」
そう言うと老人は両掌で受け止められた拳の力を強めた。
レイが岩肌に押し付けられる力がさらに強まる。
岩肌にヒビが入り、身体が岩にめり込む。
「ガッ!」
必死に抵抗するが、老人の力は圧倒的で、そのまま押し潰されるように、レイの身体は岩肌にめり込んでいった。
「ぬっ!?」
そのまま岩肌にめり込んで、押し潰されて終わりかと思われた時、レイの身体が岩肌にめり込むのが止まった。
それどころか逆に、徐々に老人の拳を押し返していた。
ジリジリと老人の拳が押し戻されて行く。
それは信じられない光景だった。
体格的に二回りは大きい老人の身体を、小柄な細身の少年が『力』で押し返しているのだ。
「ウォォォォォ!!!」
完全に老人の拳を押し返したレイは、拳を掴んだまま真空波を纏った蹴りを放った。
拳を掴まれたままでは片腕の老人では蹴りを防ぐ事は出来ない。
その筈だった。
しかし、冷笑を浮かべた老人は掴まれた拳を余裕で振り払い、逆に一撃を打ち込もうとした。
しかし、レイは「決して逃すものか!」とばかりに、老人の拳を握る手に、握り潰さんばかりに力を込めていた。
それを悟った老人は力ずくで無理矢理レイに掴まれた拳を振り払い、一撃を打ち込む事なく、一瞬早く身を躱した。
身を躱した老人の眼前を真空波を纏った蹴りが通り過ぎ、その直後に逆方向から放たれた同じ真空波を纏った蹴りが老人の眼前を通り過ぎた。
《双龍脚》
左右の回し蹴りを瞬時に、同時に行う天才のみに可能な、近代空手の絶技だった。
左右から同時に回し蹴りを叩き込まれれば、技の威力は中心に集中する。
例え片方を防いでも、もう片方を防ぐ事は出来ない。
レイはそれを真空波を纏った蹴りで実行したのだ。
老人が一撃を打ち込もうとしていれば、レイの《双龍脚》を躱す事は出来なかったであろう。
「面白い。先程の『力』といい、お前なら『例の件』に選ぶ価値があるようだな」
レイが老人の拳を押し返した『力』。
それは肉体の持つ可能性を100%引き出す、陸奥圓明流の“真の奥義”だった。
レイは老人の拳を押し返す為に後先考えずに“力”を解放していた。
しかしそんな無理がいつまでも続くはずがない。
レイは再度老人によって地面に叩き伏せられた。
「ぐ、ぐうううっ・・・」
呻き声を上げて何とか身体を動かそうとするが、しかしレイの意思に反して手足はぴくりとも動こうとしない。
辛うじて顔を上げると空が見えた。
そしてそこには存在しない筈の、天に向かって伸びる何本もの巨大な鎖の姿がレイの『眼』には見えた。
その中の一本はまるで心臓のように赤黒く脈打ち、禍々しい気配を周囲に振り撒いていた。
ドクン!
その鎖を目にした途端、心臓が跳ねた。
ドクン!ドクン!
赤黒い鎖を見た途端、全身の血が沸騰するような感覚を覚えた。
ドクン!ドクン!ドクン!
その鎖の姿が掻き消えるように見えなくなる頃、レイの全身から力が抜けた。
「さらばだ」
老人が手を振り落とした。
老人の放った技が地面を打ち砕いた時、レイの身体は老人の背後に回り込んでいた。
それは《クルダ流交殺法 影門最源流技
そのままレイは老人に空中からの回し蹴り《影門死殺技
「ほう?」
慌てずそのまま片手で《
それは正に獲物を前にした虎の笑顔だった。
「フン!」
「!?」
老人の放った真空波を纏った蹴りがレイを吹き飛ばした。
同じく真空波を纏った蹴りで受け止めたものの威力の差は如何ともし難かった。
「ハア、ハア、ハア・・・」
「その歳で《
「《
「お前が使っている真空波を纏った蹴りだ。
それは我が流派の技でな。
蹴りの瞬間から真空波を生み出すので中々役に立つ。お前はまだまだ楽しめそうだな」
「ふざけんな!チクショー!」
「まあ、これを乗り越えれば取り敢えず合格という事にしてやる。儂をがっかりさせるなよ?」
そう言うと老人はレイの懐に飛び込んだ。
小柄なレイよりさらに低く、地に接する程の高さから伸び上がるようにレイの胸元に掌底を叩きつけた。
叩きつけられた掌底の五指から真空波が放たれた。
それは到底人の身で可能な技ではなかった。
遠く離れた地でさえ地震と見紛うばかりの振動が大地を揺るがし、放たれた真空波は空を切り裂くように五本の巨大な牙の痕を残し、
虚空の彼方へと消えていった。
「これがクルダ流交殺法陰流 口伝絶命技 《
生きていれば使ってみろ」
そう言って老人ー王虎は倒れ伏すレイに一瞥もくれずその場を離れていった。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
片腕の老人ー王虎の使う技は《クルダ流交殺法 陰流》でした。
レイは陰流の生み出された目的、聖地の、そして世界の成り立ちに関わっていく事になります。
次回お楽しみください。