影技異伝~連環の幻影~   作:台風200号

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※前書きです。

本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
遂にレイと王虎の闘いの決着です。
どうぞお楽しみください。





第25話 手繰り寄せた奇跡

 

 

 

レイは自分の胸元に迫る王虎の掌を『眼』で見ていた。

 

拳ではなく掌

 

自分の懐に踏み込んできた

 

つまり“霊悪(レイア)”ではない

 

あの体勢からくる技は・・・

 

 

“空牙(クウガ)”だ!

 

 

王虎の掌が胸元に触れると同時に、レイはパンチを払いのけるボクシングのディフェンス技術“パリィ”で王虎の掌を払いのけると、

全力で“神移(カムイ)”を使って“空牙(クウガ)”を躱した。

 

 

空を切り裂く巨大な“空牙(クウガ)”の牙痕を背にして、大きく距離を取ったレイは、今度は逆にそのまま王虎の懐に飛び込んだ。

 

「ぬっ!」

 

王虎はこれを“刹那”で迎え打った。

超高速の貫手と衝撃波の連撃。

 

『どんなに素早い踏み込みでも、周囲を“面”で打ち抜く“刹那”であれば捉える事は可能』

 

それが王虎の判断だった。

飛び込んだレイにはカウンターとなり、躱す事など出来ないはずだった。

しかし“刹那”の間合いに入る直前、レイは急停止し、右手を前に、左手を腰溜めにする構えを取った。

それは昔ながらの伝統派ではなく、時代に合わせて進化した近代空手の構えだった。

カウンターとなって放たれた“刹那”を、レイは“足の親指、足首、膝、股関節、腰、肩、肘、手首”の全身八箇所を連動させた近代空手の到達点、“マッハ突き”で迎撃した。

“生身の人間が音速を超える速度を放つ”という近代空手による奇跡の体現を、レイはクルダの地で実現して見せた。

“刹那”による貫手も、それに伴う衝撃波も、音速を超える拳と、それに伴うソニックブームによって全て叩き落とされた。

“刹那”によるカウンターを突破したレイはそのまま王虎の懐に飛び込んだ。

ドラゴンフィッシュ・ブローを打ち込んだ時と同じように、またしてもリバーブローが王虎の胴体に向かって放たれる。

 

(何度も同じ事を・・・)

 

冷笑して王虎はリバーブローをブロックせずに躱して“刹那”を打ちこもうとした。

 

ぞくり。

 

その時、王虎の背に今まで感じた事のない悪寒が走る。

リバーブローは途中で止められ、代わりにレイの右手が王虎の胸に押し当てられていた。

 

(偽打ち?今度は右手であの強打か!)

 

瞬時にそう判断した王虎は、右手で放たれたレイの“虎砲”を躱していた。

レイでさえ不完全とはいえ、接触した状態から放たれた王虎の“空牙(クウガ)”を躱す事が出来るのだ。

王虎にとって例え密着した状態であっても、放たれた“虎砲”を躱すのは難しい事ではなかった。

 

(終わりだ!小僧!)

 

全身の力を使って“虎砲”を放った事によって動きの停まったレイに向けて、王虎は“霊悪(レイア)”を放とうとした。

 

“ドクン”

 

その瞬間、王虎の身体に予想もしなかった衝撃が走る。

身体が、頭が、腕が、足が自由に動かない。

 

レイが王虎に打ち込んだのは“虎砲”ではなく《陸奥圓明流奥義 無空波》だった。

王虎は放たれた無空波の拳そのものを躱す事は出来た。

しかし押し付けられた拳から瞬間的に伝達された振動波を躱す事は、王虎をもってしても不可能だった。

常人であればその場で意識を刈り取られる修羅の技を、クルダ人の力で放たれればその威力は言うまでもない。

しかしその技を受けたのは王虎だった。

 

「!!!」

 

王虎は数瞬の間ふらついただけで、すぐに身体の自由を取り戻しつつあった。

陸奥圓明流の奥義を、クルダ人の身体能力で実行しても王虎には届かなかった。

 

しかし、例え一瞬であっても王虎の身体の自由を奪う事は出来た。

 

(今しかない!)

 

その一瞬、無空波を放って動かない身体を無理矢理動かしたレイの両掌が、身体の自由を取り戻そうとしていた王虎の頭部に、挟み込むように軽く当てられた。

 

「ぐふっ!」

 

次の瞬間、王虎の口から、両目から、両耳から鮮血が噴き出していた。

 

“菩薩掌”

 

相手の頭部を僅かな隙間を開けて掌で挟み込み、左右の掌の間での連続した頭部への打撃によって脳を頭蓋骨に激突させ続ける、一瞬で数百発の拳を打ち込むに等しい絶技である。

真空波でも、打撃でもなく、肉体の強靭さだけでは防御不可能な、唯の人の身でしかない“天才”が生み出した技だった。

この「本気でやれば頭蓋が割れる」とまで言われた技をレイは手加減抜きで使用していた。

 

さすがの王虎でも数瞬の間、意識が途切れる。

だが、それでも王虎の身体は無意識にレイへ攻撃を続けようとしていた。

 

次の瞬間レイは自分の『全力』を繰り出した。

 

 

「我は無敵なり!」

 

 

武技言語。

それは『言霊』の高速催眠による自己暗示と、それによる潜在能力の解放、

そしてそれによって相手に「畏怖」や「萎縮」をもたらし、一瞬静止する事を強制させる事により、

自分の攻撃を「必ず当てる」という、『世界への干渉』に等しい超絶技法だった。

 

 

「我が拳にかなうものなし!」

 

 

レイはどうやっても『世界への干渉』はできなかった。

しかし、武技言語によって自分の力を数倍に高める事は可能だった。

 

 

「我が一撃は無敵なり!」

 

 

その『力』が王虎に対して解放された。

 

「ウオォォォォォォォ!」

 

咆哮と共にレイは“神移(カムイ)”によって王虎の正面から突っ込んだ。

 

“菩薩掌”によってもはや意識が混濁しているであろう王虎は、それでもレイの動きを捉えていた。

 

(小僧が儂の隙を見逃す事などありえない!

最速の技“神移(カムイ)”で突っ込んでくるはずだ!

例え“神移(カムイ)”であっても突っ込んでくる“瞬間”が分かれば捉える事は出来る!)

 

それは王虎の今までの膨大な戦闘経験によるものだった。

“刹那”では“マッハ突き”で迎撃される。

ならば放とうとしていた、近距離で最大の威力を誇る“霊悪(レイア)”が最適だ。

 

(今だ!)

 

王虎の膨大な戦闘経験は、本来捉える事が不可能な筈のレイの“神移(カムイ)”による移動の瞬間を捉えていた。

 

間髪を入れず、王虎は全力で“霊悪(レイア)”を放とうとした。

 

“ヴォン”

 

(何い!)

 

王虎が“霊悪(レイア)”を放つ瞬間、眼前に“神移(カムイ)”によって姿が消えるのではなく、逆に四人に増えたレイの姿が現れていた。

 

《陸奥圓明流 四門》

 

只人による四分身を可能とする、陸奥圓明流の奥義のさらに上にあるものの総称である。

レイは“神移(カムイ)”で移動しながら、さらにその上で“四門”を実行してのけた。

もちろん“神移(カムイ)”で移動しながらの四分身など一瞬でしかない。

しかし、

菩薩掌のダメージによる視野と思考の狭窄。

膨大な戦闘経験により、本来捉える事が不可能な“神移(カムイ)”を「捉えた」と思った事。

“霊悪(レイア)”の威力への自負。

四分身により目標を絞る事が出来ない事。

“霊悪(レイア)”を全力で放つ直前であった事。

さらにレイの『“神移(カムイ)”で移動しながら、四分身を行う』という“あり得ない驚愕”。

それは王虎の動きを、一瞬にも満たない、僅か半瞬の間であっても停めるには十分だった。

そして僅か半瞬であっても動きが停まれば、“神移(カムイ)”を捉えるのは不可能だった。

もはやレイの分身は姿が見えるのに王虎を持ってしても触れる事は出来ず、“実体を持つ幻”に等しかった。

 

正に《黒い幻影(ダーク・ミラージュ)》の“字名(あざな)”そのものだった。

 

そしてやはり“菩薩掌”のダメージは大きく、もはや意識が混濁し、驚愕で半瞬動きが停まり、再度全力で繰り出した王虎の放った“霊悪(レイア)”が貫いたのはレイの影のみだった。

 

王虎の放った“霊悪(レイア)”が幻影を貫いた瞬間、レイは“神移(カムイ)”で移動しながら王虎の右から心臓に向かって“徹し”を打ちこんだ。

さらに“神移(カムイ)”で左に移動し、心臓に向かって“徹し”の一撃。

最後に“神移(カムイ)”で背後に回り込み、やはり心臓に向かって“徹し”を打ちこんだ。

 

傍で見ている者がいれば、三人のレイが王虎を取り囲んで同時に心臓に一撃を加えたようにしか見えなかったであろう。

 

二千数百年後に第59代修練闘士(セヴァール) 影技(シャドウスキル)が“神流羅(カルラ)”という、二連続の“神移(カムイ)”という驚愕すべき技を編み出していた。

それは『“神移(カムイ)”によって相手の防御を打ち砕き、同時にさらに“神移(カムイ)”で移動し、無防備になった相手に一撃を与える』という正に『第59代修練闘士(セヴァール) 影技(シャドウスキル)にのみ可能な技』と言えた。

 

しかし、レイが使用したこの技は“四門”によって王虎の“霊悪(レイア)”を躱した動きを含めれば“四連続神移(カムイ)”とも言うべき絶技であった。

 

さらに武技言語を使用して打ち込まれた“徹し”は、ほぼ同時に三方向から心臓に集中する事になった。

 

顔面から血を流し“霊悪(レイア)”を放った体勢のままピクリとも動かなかった王虎の身体は、やがて糸が切れたように大地に倒れ伏した。

 

それは、初歩的な技である“刃拳(ハーケン)”や“爪刀(ソード)”も使えぬ少年によってもたらされたとは信じられない光景だった。

 

動きを見逃さない『眼』、

近代空手の到達点である“マッハ突き”、

リバーブローを繰り返す事による「思い込み」の誘導、

天才の技、

陸奥圓明流、

四門、

近代ボクシング、

骨法、

クルダ流交殺法の真髄である武技言語。

 

レイが自分の持つ“全て”を全力で注ぎこんで手繰り寄せた奇跡だった。

 

 

 

 

 

 

 

 







※あとがきです。

お読みいただきありがとうございます。

本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。

レイと王虎の闘いの決着でした。

次回、この二人の死闘の結果は、予想もしない結末を迎えます。

次回お楽しみください。


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