※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
剣士は正面から突っ込んできた。
その踏み込みは鋭く、レイが一歩踏み出す時には既に眼前に迫っていた。
そのまま上段から袈裟懸けの一閃。
常人ならば何も認識できないまま真っ二つにされていただろう。
しかしレイはその剣を一歩退いただけで躱してみせた。
剣士はそのまま連撃を続けた。
中段を薙ぎ払い、下段から斬り上げ、上段から振り落とし、正面から突きを放った。
しかしその尽くが空を切った。
剣が当たらない事に不満の声を上げていた観客も、それが5分、10分と続くと異常に気付いた。
当たらない。
相手は小柄な、ほんの子供でしかないのに剣士の剣が当たらない。
汗を流し、息を弾ませた男は遂に剛剣死(士)を現出させた。
「「殺」の一文字を心に懐け―
さすればその一文字は「牙」となる!」
「キシュラナ流剛剣死(士)術 殺文字
前後から、左右から、男の剣と剛剣死(士)の剣が交互にレイに襲いかかる。
しかしそれでもレイを捉える事は出来なかった。
特別早く動くわけでもない。
レイは間違いなく目の前にいる。
しかし、剣を振るえばまるで幻のようにすり抜けるだけであった。
男は混乱した。
そして恐怖した。
自分は一体何と闘っているのか?
コイツは何者だ?
まるで幻。
『黒い幻影』と闘っているようだ!
剛剣死(士)と対峙するレイは必死に冷静さを保っていた。
相手の動きを見失えばそれで終わりだ。
慎重に注意深く相手の動きを見極めろ。
自分にそう言い聞かせ相手の次の動作に集中する。
剛剣死(士)は確かに強い。
剣士が斬りかかり、剛剣死(士)が逃げ場を塞ぐ。
剛剣死(士)が防御し、剣士が攻撃する。
二人を同時に相手にするようなものだ。
普通の闘士では相手にもならないだろう。
しかし、余程の達人でなければ一人で二つの事を同時に行う事は出来ない。
「限りなく同時に近づける事」は出来ても「完全に同時に行う事」は出来ない。
それは剛剣死(士)を使う限り、剣士の一撃は本気の全力に劣る、という事だ。
剛剣死(士)同士の試合であれば問題ない。
互いに剣士同士の技量と剛剣死(士)を操る技量によって勝敗は決するのだから問題にならない。
しかし、敵が剛剣死(士)以外で、技量が自分と同程度であれば?
本気の全力の一撃でなければ倒せないような相手に、全力を出せずに勝つ事が出来るのか?
答えは言うまでもなかった。
他流派で自分と同程度の相手であれば剛剣死(士)の優位は動かない。
剣士が対峙している時に剛剣死(士)を繰り出せば実質二対一だ。
負ける筈がない。
やはり剛剣死(士)が本領を発揮するのは戦場で多数の敵を相手にした時であろう。
剛剣死(士)で背後を防御すれば、剣士は攻撃に全力を傾ける事が出来る。
戦場の主力は一般兵である。
戦場で剛剣死(士)が全力を出さねばならない敵と遭遇する事などまずあり得ない。
キシュラナが勢力圏を大きく広げる事が出来た理由である。
だが、レイの“眼”をもってすれば、剣士が剛剣死(士)でどこを攻撃しようとしているか推測するのは容易だった。
慣れぬ甲冑を身に付け、剣を振り続けた疲れの為か、速度の落ちた剣士の懐に向かってレイは跳び込んだ。
剣士は剛剣死(士)でレイに向かって斬撃を繰り出した。
剛剣死(死)が岩をも斬り裂く斬撃を振り落とす。
それよりも速く踏み込んだレイの渾身の一撃、《クルダ流交殺法 表技
剛剣死(士)を打ち砕き、眼前に迫ったレイに剣士が剣を振り抜こうとするが遅い。
甲冑越しにレイの全力を込めた一撃。
《陸奥圓明流 無空波》が叩き込まれた。
常人が無手で甲冑越しの相手を倒す為に生み出された技が、クルダ人の身体能力で使用されたらどうなるか?
答えは甲冑姿の剣士が崩れ落ちた事で示された。
歓声と怒号が巻き起こっていた闘技場は、いつの間にか物音ひとつない静寂に満たされていた。
“
この闘いの後、レイが呼ばれるようになった『
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
レイの『眼』と前世の知識、そしてクルダ人の身体能力によって、新たな『
この後、レイの“
それはクルダのみならず、アシュリアーナ全体へ広がる事になります。
次回お楽しみください。