フラグマン製機体に!!!勝ちたい!!!!!! 作:雨傘なななな
■【機械工】ノーイ・デクステル
「…………………………………?」
仮面が、床に落ちている。
間違いなく先程まで僕とクラウディアを監視していた特務兵のモノだが、仮面単体で落ちているのはおかしいだろう。
間違いなくあの僕を置いて帰りやがった怪獣は彼を踏み潰して殺していたはず。
「死体が……ない?」
確かティアンが死ぬと死体が残ったはずだ。
昔知り合った【死霊術師】の友人曰く、ではあるが……嘘や間違いを人に話すような人ではなかった。
では仮面だけが残されている現状、考えられる可能性は3つ。死んでいなかったか、特務兵の格好がそもそもブラフでティアンですらなかったか、エンブリオが関わっているか、だ。
「血の跡もなし。ますます不穏だな」
僕は探偵じゃなくて時計技師……でも今はないか、ただの【機械工】なんだけど……。
ただ、僕の第六感がここでなんの情報も掴まず帰ればどこかで詰みを引き寄せると告げている。
指輪型アイテムボックス……ないんだよな。素手で触るのは本意じゃないけれど仕方ないか。
仮面を持ち上げ、表と裏をひっくり返して観察する。
……なんの変哲もない仮面だね。
「個人生存型のマスターがこの仮面から復活するって話でもなさそうだ」
そういうタイプのエンブリオとして扱うには意匠が平坦過ぎる。
《鑑定》でもこの仮面がただ装備者のJOBを隠蔽するための装備であることを告げている。
「次、怪物の踏みつけ後だけど……こっちも床が割れてる以外におかしな点はない。」
専門家に確認させればまた違う意見が出るかもしれないが、この場合なんの専門家を求めればいいのかすら分からない僕には無理な話である。
「けど、マスターがこんな仮面を装備して正体を隠す理由がないってのも事実」
後は……この場所がどこなのか、指輪型アイテムボックスの行方、組織内の事務資料でもあれば色々判明するんだろうけれど。
そう考え、先程あの怪獣が開けた大穴ではなく本来の扉を空けて廊下へと出る。
「……………………なる、ほどね」
長めの廊下には3人のティアンの死体が転がっている。
それぞれ首と胴体が泣き別れとなった状態だ。きっと既に何時間か経過しているのだろう。明らかに全身分の血が流れ出て廊下を真っ赤に染めて、血の気の引いた眼球が全く同じ方向を恨めしく見つめている。
「見つめてるのは……あの部屋か」
その見つめられている十メートル近い廊下の突き当たりにある扉には、血がびっしりと塗りつけられていた。
しばらく躊躇った後、仕方なく床の血を踏み締めて廊下へと出る。
「怪獣の仕業じゃない。アレは多分ティアンを殺すことを躊躇わないだろうけれど、暴れた後には廊下の原形なんざ残らない」
じゃあ誰の……?
疑問を一旦後回しにして、突き当たりの部屋を調べる前に一通りそのティアンの死体を確認する。
格好は【変装王】と嘘つき女の者と酷似しているし、腕章からも皇国特務兵のもので間違いない。
殺された後服を着替えさせられたような跡もなし。
装備は全員銃……魔力式銃器だ。ティアンの技術者達の所で見習いをしていた時に何度か目にしたものと同じタイプ。多分……うん、氷属性だ。
「基本的に兵士には魔力式銃器として炎と氷の2種類の属性が支給される、だったっけ。つまり……全員があえて氷を選択する理由がある。……氷結して拘束したい敵だったって所かな」
首の切断面が極端に汚いな……苦しめて殺したかったのか、チェンソー系の武器使いか……まぁそこの断定は【探偵】でもいないとしんどいね。
血がべっとりと付着した魔力式銃器を護身用に拝借し……あ、腕章も持ってくか。クラウディアに頼めば身元が分かるはず。そうじゃなくても後で墓ぐらいは建てたいし。
「まぁ今は喪に服してる場合じゃない」
彼らを殺した犯人が何時間もここで待機しているとは思わないが、何の情報も得られず死ぬわけにも行かない。
血の道を通り抜け、扉の前に辿り着いた。
「鍵……はかかってない」
警戒を緩めることなく魔力式銃器を構えて、扉を空ける。
「…………さっきの3人で耐性つけといて良かったかな」
かなりの大きさの事務机に、人間の頭部と二対の腕が並べられている。
既に机どころか床まで血が広がっており、少なくとも……うん。机の上の書類は全部ダメになってるね。
「腕以外の胴体は……持ち去られてる。なんで??」
頭部を持ち去って身元を分からなくするってことならまだ理解の範疇なんだけどな……。
机の引き出しは……ダメだ。ここも満杯まで血が詰まってる。明らかに1人分じゃない量の血。……ふーん。この事務室の書類にわざわざ隠蔽する理由があるってことね。血で隠蔽するなんて悪趣味な手法じゃなくて良さそうだけども。
「……書類が血に浸ってる……けど、読めるな?コレ」
机の上に広げられている書類は5枚。
「──────ラインハルト・C・ドライフ殺害計画」
クラウディアの姉、【機械王】ことラインハルト・C・ドライフ……あの時限爆弾入りの手紙の差出人の名前か。
「普通に考えれば、あの手紙の実際の差出人はラインハルト皇太子ではないんだよな」
僕を殺そうとした人と、僕に超級職を譲りたい人が同一人物である理由がない。
二枚目の書類は……クラウディア・C・ドライフの拉致計画。
こっちは殺害計画じゃないんだ。同じ皇族で扱いを分ける理由ってーと……男女で次期皇王の継承順位に差があるとかその辺り?
三枚目の書類はノーイ・デクステルの拉致、ついでに殺害計画について。
ジェムの発注から運用する特務兵の選択、戦闘予定地点の地図に至るまでが細々と描かれているが……身に覚えがあり過ぎるな。【変装王】、【悪魔王】、外部協力者のマスター【執筆王】、ね。
「これ読めて良いのか? もっとちゃんと隠蔽するべきだろ」
が、これでこの死体となっている男が僕とクラウディアを拉致した犯人であることが確定した。
……この書類の存在そのものがフェイクである線も捨てはしないが、一旦後回しだ。
4、5枚目は完全に血に濡れきっていることでほとんど文字を拾うことすらできないが、5枚目の辛うじて読めた部分に【執筆王】という文字があったことから先程僕を殺害するために派遣されたらしい外部協力者のマスターとやらが他の計画にも関わっていることが想定される。
「で、一番目につくのがこのラインハルト・C・ドライフ殺害計画だよな」
その内容とは、人質により【機械工】ノーイ・デクステルを利用し爆殺するというものだが……そのためのクラウディア拉致計画、なのか?
ついでに最近現れた【獣戦鬼】ベヘモットの戦力調査とクラウディアの保護……保護???
「こんがらがって来たな……」
つまるところ、僕を殺そうとした計画と僕を利用する計画があった、と。
流れ的には一旦僕を殺した上で、復活までの3日間でクラウディアを拉致、僕にラインハルト皇太子を殺させると言った所かな。
「まぁまぁ杜撰、少なくとも皇太子を殺そうなんて計画にしては酷すぎる」
僕が皇王宮に吹き飛んでいった日に発足された計画……ねぇ。
あれ見て「おっ、アレ暗殺にちょうどいいな!」って思ったんならそいつは間違いなくバカです。あれはただの事故。
「それを踏まえて、この組織の構成員を殲滅した第三者がいる」
その第三者に予想される立場としてはラインハルト皇太子を守るための組織なんかが有力だろうけれど、にしては殺し方に含まれる悪意に違和感がある。
そもそもそんな大義を持った者の行動なのであれば、全うな法律の元全うに彼ら組織を全滅させられるはずだ。
「推測に推測を重ねすぎてるか。実際どうかはさておき……」
さて、ここまでの書類から察するに、ラインハルト・C・ドライフから僕へ送られてきた【機械王】譲り渡しの手紙はフェイクだったということになる。
つまり、間違いなく皇族の親書としての体裁を保っていたあの手紙を受け取った僕がラインハルト・C・ドライフの元へ辿り着くことでこれらの計画が露呈するのを【変装王】達は防ぎたがっていた、と。
…………欲しかったなー【機械王】。
そこまで含めて考えると今回の一連の事件の犯人は間違いなく皇族の誰かなんだろうね。敵になったものがデカすぎるんですけど……さいあく……。
「というか皇族の拉致を計画する特務兵ってなんだよ。殺害は皇位継承権がどうってので納得できなくはないけども」
「────────良い推理ですね」
背後から突如、声をかけられた。
怪獣が去った後の現場確認として誰かは来るだろうと予想していた分、そこまでの衝撃は無いが……。
「………【変装王】か」
「正解です! それで、この惨状の犯人に目処は付きましたか?」
「お前」
そう言って振り向けば、クラウディアの外見をした【変装王】がそこにはいた。
「まーーじか。そのレベルの要人変装って何にでも使えるだろ」
「そうですね。特務兵として使うことすら勿体ない人材と言っていただける機会は多いですよ」
「あっそ。」
コイツの身の上話などどうでも良い。
会話から一応クラウディアでないことを確認し、魔力式銃器を向ける。
「………………本当に私だと?」
「………チっ」
見透かしたような視線をコチラに向ける【変装王】にあからさまに舌打ちして、ここまでの考えを整理する。
【変装王】はこれらの計画が露呈するのを防ぐために行動していた以上、間違いなく廊下の死体や目の前に置かれたバラバラ死体の身内だ。
殺す理由が……なくはない、か?
「お前が組織に入り込んでいたスパイって線はある」
「ま、それを否定する理由はありませんね」
「で?僕を殺しに?」
「いいえ。……貴方はその書類を見ましたね?」
「うん。」
「しかし、私はその計画を知りませんでした」
「うん?」
……【変装王】など、使いようによってはもっと楽な暗殺手段がいくらでもあるはずだ。
それこそ今日の襲撃時のようにクラウディア付きの武官につけばそれだけでラインハルトの下へ辿り着けるだろう。
それにも関わらず、この計画に加えられていない……?
「先程、貴方を襲撃した際に連携していた【悪魔王】の特務兵との連絡が途絶えて1時間が経過しました。」
「……………うちのエルブレイン君に負けた可能性は?」
「ありません。逃げ延びたという連絡はあったので」
「なるほど」
「また、外部協力者の【執筆王】のマスターとも連絡が取れていません」
戦闘力がないとはいえ、敵である僕を目の前にして【変装王】が何かを慮るかのように目を閉じる。
「私はとある皇太子のため、他の皇太子の力が強くなるのを防ぐ計画だと聞かされていました」
「おぉ。そっちが本当の計画でこの書類が第三者による偽物の可能性もあるけれど」
「偽造系列のプロである私であれば、その書類が間違いなく組織のものであることなど一目で分かります」
あぁ、と納得する。
とはいえ元の計画も中々杜撰だ。わざわざ変装の王を動かしてすることが扇動や情報操作ではなく非戦闘職の殺害計画だとは。
「つまり、アンタも知らない何者かが裏で動いている、と?」
「肯定しますよ。私はその何者かに辿り着く必要がある」
「……………なぜ?」
ピクリ、と【変装王】が眉を動かした。
理由は言いたくない、ってことか。
なんらかの弱みか、僕に言うべきでない隠し事があるわけね。
「…………そのため、貴方に協力を願いたいわけです」
「あっ、そうなるのか。えっ?僕??」
見ての通り1ミリも戦闘能力ないんだが。
僕の困惑を気にかける様子もなく、彼女はクラウディアの変装を解き、どこぞの町娘のような外見になった。
「凄いな、本当にタイムラグもなくそのレベルの変装ができるのか」
「私に戦闘能力はありません。その分、ということです」
彼女が、着ていた特務兵の装備の内ポケットから僕の指輪型アイテムボックスを取り出してコチラへ差し出す。
「私と共に来てくれるのであれば、これはお返ししましょう」
中身はそこまで大したものでもない。
一月か二月もあれば取り返せるものばかりだろう。
つまり、あのアイテムボックスとは関係なく僕の感情だけで行動を決めれば良い。
「…………ラインハルト・C・ドライフの殺害を行うつもりは?」
「私は道具として、兵士として任務を全うしていただけですから。その枷がこうして消えた今、私にそれを行う理由はありませんね」
「………………………………契約の内容を聞こうか」
・クラウディア・L・ドライフ拉致計画
とある派閥の皇国特務兵5名、外部協力者のマスター2名の計7名で行われた中規模作戦。
外部協力者マスターが有能だったがゆえ成功した……わけではなく、ベヘモットによる救出まで含めてクラウディアの想定内だった。