Unclassified   作:氷雪しあん

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プロローグ 接触

 夜神月によく似た顔の造形、男性にしては長い黒髪、落ち着いた印象の眼鏡。背丈が変わらないからこそ、不健康さが際立つ。警察官だった夜神月とは似ても似つかない、儚く線の薄い体型。だからこそ体のラインがわかりにくい服を好むのだろうか、とニアは考えた。

 

「……そういうことなら、兄さんの遺品は早めに返して」

 

 キラ、夜神月よりわずかに高い声、柔らかな話し方。夜神月の2つ年下、22歳の青年はL、キラ、死神のノート、そして兄がキラだったと知らされその死をキラを追っての殉職と装うと聞かされて、取り乱すことなく出た言葉が、それだった。

 ニアはこの青年について多くを知らない。

 

夜神――

夜神家次男。夜神月の弟、夜神粧裕の兄。22歳男性。

京土大学理学部4年。

京都で一人暮らし。

弥海砂、高田清美とも面識がある。

キラ事件については知らされていない。

大学院進学予定。

 

 ワイヤレスイヤホンの向こう、ニアの耳元でメロが呟く。

 

「結論に至るのが異常に速い」

 

 それに、目立った動揺もない。兄の死には動揺を見せたが、兄がキラだったと聞かされて崩れ落ちるでもない。

 おそらく、夜神月と同程度の頭脳の持ち主だ。ニアも警戒段階を上げる。

 

「なぜ」

 

「殉職した兄の遺品を身につけるのは普通のことでしょう? まったく返ってこなければそれはそれで憶測を呼ぶ」

 

 合理的だ。ニアもメロも夜神月の遺品は早々に彼に引き取ってもらうつもりだった。予定通りではあるものの、結論の速度だけが印象に残った。

 

 

 

 ニアが遺品の返還を承諾し注意深く観察していると、日本捜査本部の松田が割って入る。

 

「もう話は終わりですよね。彼は遺族です。こんなところに引き留めるべきじゃない」

 

 ニアやSPK、日本捜査本部の捜査員達から庇う形で、松田は彼を連れて部屋を出て行った。去り際にニアに嫌悪を向けるのも忘れなかった。

 

 

 

 2月上旬。夜神月の遺品、ネクタイピンや腕時計を受け取って確認した後、彼はふと撤収作業を進めるジェバンニの手元を見つめた。

 

「あの、それ、ちょっと効率悪いかもです」

 

 声をかけられたジェバンニは画面を見返して、あっと声を上げる。

 

「本当ですね、……こういうの、得意なんですか」

 

 警戒と驚きの入り混じる声に、彼は何でもないことのように返した。

 

「兄さんに教わったので少しわかるくらいです」

 

 静かにニアが立ち上がり、ジェバンニの作業画面を見つめる。

 

「たしかに、これかなり効率悪くなってますね。少し見ただけで気づけるのは……異常です」

 

 彼から特段悪意は感じられない。能力を誇示する気も特になさそうだ。ただ疲れている人がより時間を食いそうだから負担を軽くできるやり方の存在を伝えた。本当にそれだけだ。

 ニアは椅子に戻って彼を見つめる。

 ジェバンニに「余計なお世話とかだったら本当にすみません」などと言うものの、自身の見立てを疑っている風はない。

 興味深い。

 傍にあったPCにアクセスログを表示させ、彼に示す。巧妙に偽装されたもの。

 

「これの異常も、わかりますか」

 

 画面を眺めて、すぐに偽装箇所を指差す。

 全部を観測しているわけではない。どこを見るべきかを見極めてそこへ飛ぶ。

 

「この辺りですね」

 

「……おもしろい」

 

 ニアの視線を受けてもその意味に気づいていない。ニアが示したものがどれほどの難易度か、彼は気づいてすらいない。

 

「何か……?」

 

「……また連絡します」

 

 ジェバンニが驚いてニアを見る。

 

「えっ、まだ何か僕が見なければならないものでも……」

 

「いえ。夜神月の件はもう終わりです。今はあなたが観察対象です」

 

 彼の混乱は表情を見れば明らかだったが、ニアはこれ以上の説明を加えなかった。どうせ必要ないからだ。

 

 

 

 京都に戻り遅れての大学卒業に向けて動き出した彼に、ニアは毎週2、3件のアクセスログの偽装検出やデータ解析を依頼していた。SPKの面々の心配や警戒をよそに、彼は淡々と成果を返し続けた。

 キラが裁きを行わなくなれば、様子を見るかのように犯罪が増えた。すなわち、Lの仕事も増えた。高田清美誘拐の際に二度目の火傷を負ったメロは未だ治療中で、手が足りない。

 

「それは言い訳だ」

 

 メロが通信越しに笑う。

 

「おまえ、夜神月の弟に興味があるんだろ。それにある程度実力も認めてる。そうじゃなきゃ解析を任せたりしない。おまえはそういうやつだ」

 

「夜神月に情報処理を教わったと言っていたので、警戒は必要かと」

 

「病弱だったから部屋で仕事できるように技術を身につけた、だったか。別におかしな話じゃない」

 

「……専門が情報科学でないのは不自然ですが」

 

「それは俺も思ったが、聞く限りただの血液のオタクだろあれ」

 

「時折変な状況になっている以外は優秀です」

 

 ニアは彼との通話を思い返す。

 

「ちょっと待って今顔面出血してて。自転車で通り走ってたら転んじゃって。あ、顔面出血って見た目ほどは深刻じゃないから大丈夫。聞こえるから続けて」

 

「病院に行ってください。また後日連絡します」

 

 また別の日。通話越しに解析している彼の独り言はめちゃくちゃだった。

 

「これってどう見ても冥界下りじゃん」

 

「赤血球のへこみには夢が詰まっている……」

 

「春で花粉だから外に出たくないんだけど、心が抹茶を求めている」

 

「あ~これ見るべき階層が違う」

 

「クロワッサンみあるなこの構造」

 

 画面上では解析が進んでいく。飛ぶ、連鎖する、飛ぶ。

 彼にだけわかる連想ゲームが解析を紡いでいく。

 何度思い返しても異様な光景だった。

 

「……あの人はいったい何なんでしょうか」

 

「さあな。切れるやつ、キラのように敵対する気はなくむしろ協力的、変人。こんなところだろ」

 

 メロも彼に興味を抱いているのがわかる。

 

「おまえと意味は違うが、あいつから目を離さない方がいいのは俺も同意だ」

 

「監視、いえ、接触継続ですね」

 

 ニアは興味深い知性として彼を観測する。メロは喪失を抱えた危うい存在として彼を注視する。

 異なる思惑の視線が彼を捉えていた。

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