「は、僕が……退学、ですか……?」
とある教室。一人の男子生徒の、震え声。教壇に立つ担任の教師は、冷徹な目で手元のタブレットを見つめたまま、事務的に、冷徹に告げる。
「そうだ。今回の試験における君の成績は、目標の基準を下回っていた。規則通り、君には本日付で退学処分が下る。速やかに荷物をまとめなさい。」
「そんな……っ、待ってください! まだ入学したばかりですよ!? 親にも頑張ってくるって、伝えたばかりなのに…!そうだ!追試を受けたいです!僕なんでもやります!」
男子生徒は教壇にしがみつき、涙を流して懇願した。周囲のクラスメイトたちも、あまりの事態に青ざめ、息を呑んで見守ることしかできない。
(……やれやれ。泣き言を言う暇があるなら、少しは頭を使ったらどうだ?)
教壇の上で、教師は泣き叫ぶ生徒を冷ややかに見下ろしながら、内心で深く溜息をついていた。
(誰もスマホを差し出してこない……か。この学校における『プライベートポイント』が何たるかを、1ヶ月経ってもまだ理解していない証拠だな。)
(今この場で、クラス全員が持っているポイントをかき集めて「彼の1点を買い取りたい」と私に交渉してくれば、規約上、私はそれを拒めないというのに。誰もその救済措置に気づかないか……。まぁ、教える義理などないがね)
実力至上主義という名の地獄。それが、この『高度育成高校』の本当の姿だった。
――そんな高校でこれから起こる戦いを彼は1ミリも知る由がなかった。
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「よしっ! 制服のボタンもヨシ!襟ヨシ!ネクタイもヨシ!」
ごく普通の一般的な家庭の一室。
洗面台の鏡に向かって、俺、水瀬晴人は身だしなみを何度も整えていた。
今年から親元を離れ、全寮制の夢の高校へと進学する。
「ワン!」
身だしなみを整え、洗面所から出ると、ポメラニアンに吠えられる。うちで飼っているポテチだ。チャチャチャと可愛い足音で近寄ってくるポテチを俺はわしゃわしゃと撫で回した。
「ポテチ!俺さ、高度育成高校って言う、学費0、施設も綺麗、あと!すっごい大企業?の就職も夢じゃないっていう学校に行くんだ!凄いだろ!」
「ヘッヘッヘッ」
「そんな凄い学校に合格が決まった時は信じられなかったけど、青春の高校生活…俺頑張ってくるよ!」
「ヘッヘッヘッ」
「………うぅ〜…ポテチ〜俺寂しいよ〜。3年間、俺がいなくても元気でやってるんだぞ…」
「ヘッヘッヘッ」
ポテチを愛でていると、階下からお母さんの元気な声が響く。
「晴人ー! そろそろ出ないと遅れるわよー!」
「はーい! 今行く!」
俺は大きく返事をすると、真新しいスクールバッグを肩にかけ、トントンと軽快な足取りで階段を駆け下りた。リビングに入ると、いつもより豪華に並んだ朝食と、少し寂しそうな顔をした両親がいた。なんだかこっちまで切なくなってくる。
「うわ、美味そう! いただきまーす!」
俺はこれから3年間寮生活。ここで悲しんでちゃいけない。気を取り直し、元気よく手を合わせ、豪快にご飯を頬張る。そんな俺を見て、お母さんがクスクスと笑いながら口を開いた。リビングの空気がパッと明るくなった気がした。
「晴人、向こうに行ってもちゃんと三食食べるのよ?あと、困ったことがあったらすぐに先生か友達に相談しなさい。」
「分かってるって、お母さん。もう高校生だし、自分のことは自分でできるよ。」
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玄関に着き、靴を履く。俺は最後に父親を振り返った。父親は温かい目で俺を見つめ、俺の肩にそっと手を置いた。
「親バカかもしれないけど…晴人はとっても良い子に育ってくれた。どうやら卒業まで連絡が取れないみたいだけど…お前なら乗り越えられると信じているよ。」
「二人ともありがとう!行ってきます!」
最高の笑顔を残して、俺は玄関のドアを開けた。
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スマホと資料を頼りに移動し、ついに高度育成高校の最寄り駅へと到着した。駅前のバス停には、すでに同じ制服を着た新入生らしき集団が行列を作っていた。俺もその列の後ろに並び、やってきたバスへと乗り込む。
車内は、新生活への期待と緊張だろうか?独特の静けさに包まれていた。幸いにも、俺は空いている席を見つけ、ほっと息をついて腰を下ろした。窓の外の景色を見つめながら、「本当に新しい生活が始まるんだな……」と、胸を小さく昂らせる。
バスが停留所に止まる。(到着までもう少しか…)と思っていると、荷物を重そうに抱えたお婆さんが乗ってきた。バスは満席。お婆さんは謝りながら集団を掻い潜り、スペースの余裕がある自分の席の近くまでやってきた。
(……お婆さん、辛そうだな。誰か…………譲りそうにないな…。)
スマホの画面に目を落としたまま気づかないフリをする生徒や、窓の外を向いて音楽を聴き始める生徒など、車内には「見て見ぬ振り」の空気が流れている。
(よーしっ!落ち着け!余裕だ余裕!)
俺は小さく気合を入れると、座席から勢いよく立ち上がった。そして、お婆さんに向かって小声で呼びかける。周囲の視線が一斉にこちらを向き、恥ずかしかったがお婆さんのためだ、無視だ無視。
「お婆さん! こっちの席、空いてますからどうぞ!」
「おや……まぁ、いいのかい? 坊や」
「はい!体力だけは有り余ってますから!全然平気です! どうぞ!」
お婆さんは、ぱぁっと表情を明るくし、「ありがとうねぇ」と、何度も頭を下げながら自分の譲った席に腰掛けた。
「ふぅ……」
手すりにつかまりながら、小さく息を吐いた。沢山の視線の中で感謝され恥ずかしかったが、それ以上に胸の奥がじんわりと温かくなる。「良いことをしたな。」と胸の中で満足感が広がってくる。
そんなことを思っていると前の座席からクスクスと笑い声。自分の近くに座っていた金髪の男が笑いながら話しかけてきた。
「フフフ…やるねピュアボーイ。他人のために自らの快適なシートを差し出す行為……私には到底理解できないね。」
「(…?あっ俺に言ってる?)は、はぁ……。ありがとうございます?」
急に話しかけられ、それとなく返事をすると、そこで会話は終わった。こっちは、お婆さんに喋りかけようとしただけで、かなり緊張したのに、この人は堂々と話をしていて凄いなと思った。(小学生並の感想)
筋骨隆々で、座ってはいるが明らかに背が高い…。先輩だろうか?いやバスに乗っているということは同級生か。本当に同級生か?こんな迫力がある人が去年まで中学生だったなんて、とても信じられないけど…。
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高校生活のシュミレーションを頭の中で考えて、時間を潰していると、バスはついに高校の正門前へと到着した。プシューと扉が開き、生徒たちが次々と降りていく。朝から色々あったが、いよいよ始まる、夢の高校生活。
「よしっ!俺も行こう!!」
先ほどのお婆さんに小さく手を振り、俺はバッグを強く握り直し、バスを降りた。
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「わぁー!…すっごいなぁ!」
高校の様子は、インターネットやパンフレットで予習済みだが、実際に見てみるとやっぱり違う。中学校とは比べ物にならない、デカい校舎・お金がかかってそうな綺麗な施設・学校に似つかないショッピングモールなどなど、圧巻される。まるで一つの街みたいだ。集団についていきながら、観光を楽しんでいると、トコトコと一人の女子生徒がこちらに向かって歩み寄ってきた。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「え?わっ、はい!なんでしょう!?」
(うわすっごい美人さん!)
振り返ると、そこにはピンク髪の綺麗な女性が立っていた。見惚れてしまい、一瞬ドギマギしてしまう。
「あはは、そんなに緊張しないで! さっきのバスの中でのことなんだけど……あのムードの中でおばあちゃんに声をかけたの、すごいなぁって思って!優しいんだね!」
「そんな、全然だよ!お婆さん凄く苦しそうだったし、バスが揺れて転んだら危ないな、って思ったら、居ても立っても居られなくて…普通のことだよ!」
「うううん。その普通が中々難しいんだよ。もっと自分を誇っていいんだよ!……あっ!まだ名前言ってなかったね。私、一之瀬帆波。よろしくね!」
「俺は、水瀬晴人。よろしくね!一之瀬さん!」
「よろしく水瀬君!ねえ、もし良かったら、一緒に行動しない?初めての場所だから、緊張して心細いんだよね…。」
「構わないよ!こちらこそ頼むよ、一之瀬さん!」
一之瀬さんと、行動を共にすることとなった。高校生活1日目の序盤も序盤。いきなり友達ができて、幸先の良いスタートだ。
歩きながら他愛のない話をしていると、男子生徒の何人かがチラチラと一之瀬さんの方を見ていることに気づいた。どうやら一之瀬さんに見惚れているようだ。凄いな、一之瀬さん。中学時代はさぞモテモテだったんだろうな。
しばらく歩いていると、列の流れが掲示板の前で止まった。どうやらクラス分けの張り出しが貼ってあるらしい。
「水瀬君!クラス分け見れた?私はBクラスだった!」
「そうなんだ!俺のクラスは、えーと…」
変なところがあったり、展開とか設定とかが他の作品と被ってたりしてたら教えてください!すぐ直します!