冷笑なんてぶっ飛ばせ!   作:リアル充実

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開いてくださりありがとうございます!



バスケバトルだ!

 

 自己紹介を終えたAクラスは、入学式に参加するために体育館へと向かった。既に他クラスが到着しているようで、会場は物凄い人数の生徒でごった返している。他クラスにはどんな人がいるんだろう、と周りを見渡していると、見覚えのある生徒が一人。朝仲良くなった一之瀬さんだ。すると、向こうもこちらに気づいたようでお互い目線が合った。

 

(あっ手振ってくれた。嬉しい。)

 

 大変失礼な話だが、入学式の校長先生たちの話は、ほとんど右から左へ聞き流してしまった。この後、広大な校内をどう探索するかで頭がいっぱいだったからだ。ごめんなさい偉い人達。

 でも、途中で登壇した生徒会長の話だけは強烈に頭に残った。確か、堀北学先輩。眼鏡をかけた、もの凄くオーラのあるカッコいい人だった。クラスの葛城さんといい、堀北先輩といい、人の上に立って周りを導くことができるなんて本当に尊敬に値する。俺には絶対だ、一生縁のない話だろうな。

 

____________________

 

 入学式が終わり、教室へ戻るとすぐに解散となった。待ちに待った放課後だ!まだ空が明るい内に学校が終わるなんて最高すぎる。やりたいことはただ一つ、この学校の探索だ。ここは広すぎて、まるで一つのテーマパークみたいだから、楽しまなきゃ損だよね。

 

食堂、図書館、学生寮、ケヤキモール、公園……。

 

 色々見て回ったが、どこも楽しそうだ。大雑把だが頭の中でマッピングができてきた。そして現在いるのがスポーツエリアだ。ちょうどバスケットゴールで一人で練習している生徒がいる。

 

「ちっ、ミスった……。っ!おい!ボールそっち行ったぞ!避けろ!」

 

「へ?」

 

 跳ね返った角度が悪かったのか、フェンスを飛び越えて、ボールがこちらを目掛けて真っ直ぐ落ちてくる。まずい、ぼーっと見てたから完全に初動が遅れた……!

 

「大丈夫です!任せて!―― へぐっ!?

 

 格好良くキャッチするつもりが手に収まり切らず、顔面でモロに受け止める形になってしまった。指と鼻の頭がめちゃくちゃ痛い。…これ絶対突き指したやつだ。鼻血とか出てないよね?

痛みを我慢しようと体勢を低くして、その場にうずくまる。

 

「やべっ!? 怪我さしちまったか……? チッ、おい、お前大丈夫か!?」

 

「アハハ……余裕余裕!」

 

 涙目を必死にこらえて顔を上げ、笑顔で返事をする。赤髪のいかつそうな男子が慌てて近づいてくると、慣れた手つきで俺の手を取り、まじまじと指と顔を見つめてきた。…男の人にここまで至近距離で見つめられると、ちょっと恥ずかしいな。

 

「この感じなら、折れてはねえな多分。しばらく痛むかもな……チッ、驚かせやがって! 初日から怪我人出したと思ったじゃねえか!」

 

「すみません…」

 

 怖い顔で睨まれる。確かに、無理に受け止めようとせず、避けるかガードすれば良かった。彼に余計な心配をかけて申し訳ない。

 

「…つかお前、ボール受け止める時どんな風にやったよ?」

 

「えっ? こんな風に……?」

 

手を横に向けて、両手を前に突き出す。いわゆる『前へ倣え』のポーズだ。

 

「…あのなぁ? 普通に考えりゃ、手を横にしたらボールがそのまま指に正面衝突するだろ下手クソ!手は縦だ! 縦!」

 

「……なるほど、確かに!」

 

 言われた通りに手を縦に向けてみる、うわ、本当だ。これならボールが滑って、指をグキッとやる危険が減りそうだ、賢い。

 

「ったく、お前もうどっか行ってろ。練習の邪魔だ」

 

「あっごめんなさい! 色々教えてくれてありがとうございました! ……えーと?」

 

 赤髪の男子は名前を中々教えたがらなかったが、俺がじーっと期待を込めた視線を送り続けると、鬱陶しそうにため息をついて口を開いた。

 

「…………須藤だよ。1-Dクラスの」

 

「1年!?俺も1年のAだよ!水瀬って言うんだ!よろしくね!」

 

「うっせえな!わかったからどっか行け!もう落ち着いたろ!?」

 

「うん!ありがとう、須藤!」

「!…そうだ!せっかくなら俺と一緒にバスケの練習しようよ!」

 

 須藤は「お前は何を言っているんだ?」と本気で不審がるような目を向けてきた。だけど、俺の意思は変わらない。せっかく出会った同学年の新しい友達だ、一緒に身体を動かしたい!それに、運動は得意じゃないけど好きだ。そのため、さっきボールを綺麗に取れなかったのが、ちょっとだけ悔しかったのだ。

 

「お前、バスケ経験は?」

 

「あんまりないかな!友達とたまに遊んだくらい!」

 

「それで練習になるかよ……。まあ、ディフェンスのサンドバッグくらいにはなるか」

 

「サンドバック……? アハハ、お手柔らかに……?」

 

______________________

 

ルールは簡単。ドリブルしてくる須藤君を頑張って止め、シュートを防ぐ。これが笑えるくらいに難しい!

 

「オラァ!」

 

「うわっ!」

 

身体を張って止めようとしても、すり抜けられる。

 

「ウスノロ!」

 

「あれ?」

 

 ボールを叩こうとしても、俺の腕が空を切るだけで、気づいた時には須藤君はもう遥か後ろだ。数十分経ったけど、ボールを奪える気配がミリもない。それに、身体が死ぬほど重い……。須藤君はまだ汗一つかいていないような涼しい顔なのに。

 

「ハァ……ハァ……っ。須藤は……疲れてないの……?」

 

「お前は無駄な動きが多すぎるんだよ」

 

「そうかなぁ…ハァ、全力でやってるつもり、なんだけど…」

 

流石はバスケ部志望だ。俺は限界を迎えてベンチに崩れ落ちる。

 

「お前死にそうだぞ。もういいから帰れ。」

 

「もう…あと、数分だけ…」

 

 せっかくの勝負だ。このまま一回も止められずに終わるなんて、絶対に嫌だ。気持ちを入れ直して、再び須藤君の前に立つ。技術も体力も圧倒的に負けている。普通にやってもボールは奪えない。なら、残された手段は一つだけだ。

 

「いくぞ!」

 

「っ!」

 

須藤君がトップスピードに乗る前、ギリギリまで距離を詰めて泥臭くへばりつく!

 

「バテバテじゃねえか、よ!」

 

すぐに横を抜かれる。だけど――、

 

「まだっ!」

 

「!」

 

 悲鳴を上げる足を無理やり動かして、先回りするように回り込む。俺の最大の武器、それは『気合い』だ。これまでの人生、だいたいの壁は気合いとノリで乗り越えてきたんだから!

 

「やればできんじゃねえ、か!」

 

また抜かされる。だけど食らいつく。

 

「そこだぁ!」

 

 抜き去ろうとする須藤君の手元へ思い切り手を伸ばした。パスン、とボールに指が触れる音が響く。ドリブル自体は止められず、ボールはまだ彼の手の中にあったが、確実に体勢を崩すことには成功した!須藤君の目が驚きに丸くなる。しかし彼は動きを止めず、そのままゴール前で身体を沈め、綺麗なシュートフォームに入った。

 

「今だあああああああああ!」

 

 残ったすべての力を足に込め、地面を蹴る。須藤君がボールを放つ直前、その真横から決死の思いで飛び込み、最高到達点でボールを思い切り叩いた。

パカァン!! と乾いた音が響き、ボールはコートの外へと吹き飛んでいく。

 

「…へっ、やるじゃねえか。」

 

「やったあ!」

 

コートに大の字にひっくり返りながら、俺は天に向かって拳を突き上げた。

 

 これで完全にコツを掴んだ――と思ったのも束の間。その後、もう一度ディフェンスを続けてみたものの、完全にエネルギーを使い果たした俺は、ただのカカシと化してしまった。見かねた須藤君から「お前もう邪魔だ、座ってろ」とベンチへの強制休憩を言い渡され、今日の練習は幕を閉じたのだった。

 

_______________

 

 

 寮への帰り道。最後のプレイを認めてくれたのか、須藤は一緒に帰ることを許してくれた。ついでに連絡先も交換できた。何やら「部活が始まるまで、毎日俺のサンドバッグになれ!」だそうだ。あんなに格好よくブロックしたのに、まだサンドバッグ扱いなの?と苦笑い混じりに聞いてみたら、「あれは、たまたまだろ」とぶっきらぼうに一蹴されてしまった。

 

「あー動いたから小腹すいちまったなぁ。水瀬、コンビニ寄ろうぜ。」

 

そう言うなり、須藤は小走りで俺を置いてどんどん進んでいく。

 

「あ!待って!俺もう本当に足がクタクタで……」

 

 久しぶりの激しい運動だったため、体力は完全に限界だった。こんなことなら、何かトレーニングでもしておくべきたった。

 

「体力無さすぎだろ、情けねえ。先行くぞー」

 

「えぇ〜……」

 

 途中で待ってくれる優しさを期待したけれど、須藤の背中はあっという間に小さくなり、本当に置いていかれてしまった。俺はトボトボと情けない足取りで、コンビニへと向かった。

 

______________________

 

「一年だからって舐めてんじゃねえ、あぁ!?」

 

 ようやくコンビニに追いついたと思ったら、急な怒声。入り口付近では、ただならぬ危険な雰囲気が漂っていた。まさか喧嘩!? 入学初日なのに!?しかも、喧嘩していたのは、須藤だった。さっきまであんなに楽しくバスケしていたのに…。どこか不良っぽい印象があるなとは思っていたけれど、いきなりトラブルを起こしてしまうなんて。

 彼と相対しているのは、入学式では見かけなかったガラの悪い3人組の男子生徒。おそらく上級生か?

 

「お前、Dクラスだろ?」

 

「だったらなんだっていうんだよ!」

 

 須藤の肩が怒りで激しく上下している。今にも先輩たちに殴りかかりそうな一触即発の空気。このままだと大ごとになる……!俺は意を決して、両者の間に割って入った。

 

「待ってください!」

 

「なんだ? Dクラスのお仲間が来たか?」

 

「……? いや、俺は……Aクラスです!」

 

 素で答えると、上級生3人組は一瞬だけ呆気にとられたように顔を見合わせ、それから意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべた。

 

「おいおい、Aクラス様がこんな底辺のゴミとつるんでんじゃねえよ。格が落ちるぜ?」

 

「なっ……! てめぇ、誰がゴミだ!!」

 

「駄目だ! 須藤!!」

 

「離せぇ! 水瀬ぇ!」

 

 掴みかかろうとする須藤の前に立ちはだかり、全体重をかけてその行く手を阻む。俺は須藤を必死に抑え込みながら、振り返って先輩たちに言葉をぶつけた。

 

「入学初日の新入生を捕まえて、酷い言葉ばかり…先輩として絶対に間違ってます! 先輩たちだって、最初は1年生だったはずですよね!? どうしてそんな悲しいことを言うんですか?」

「彼は俺の大事な友達です! ゴミなんて言われる筋合いはありません! もし先輩たちに何か嫌なことをしてしまったのだとしたら……俺も一緒に謝ります!」

 

 胸の奥から湧き上がる怒りをそのまま言葉にして叫ぶ。上級生たちは、毒気を抜かれたように呆然と固まった。

 

「ハッ! お優しいことで……いこうぜ」

 

「逃げんのか!?」「須藤!!」

 

 これ以上刺激しないよう、必死に須藤の身体を掴む。

 

「吠えてな、Dクラス! お前はこれから地獄を見るだろうからな! ――Aクラスのお前も、そのおめでたい頭のままだと、長くなさそうだ!」

 

 捨て台詞を残し、3人組は逃げるようにそそくさとコンビニの奥へと去っていった。先輩たちの姿が見えなくなったのを確認して、ようやく須藤を抑える力を緩める。その瞬間、胸元を強く突き押され、俺はバランスを崩した。

 

「うわっ!」

 

 尻餅をついた俺を、須藤は激しい怒りの入り混じった目で見下ろす。

 

「余計なことしやがって! ……んだよ! クソが!」

 

 ムシャクシャが収まらない様子の須藤は、傍らにあったコンビニのゴミ箱を思い切り蹴り飛ばした。ガシャーンと大きな音が響き、中身が散乱する。

 

「あ! 須藤――」

 

「うるせえ!」

 

 呼び止める声も虚しく、彼は荒々しい足取りでコンビニから離れていってしまった。あっという間に姿が見えなくなる。

 あまりの展開に頭が上手く回らず、俺はその場に座り込んだまま、ぽつんと呆然とするしかなかった。

 

(俺、余計なことしちゃったのかな……。でも、あんなの絶対におかしかったし……)

 

 ぐるぐると胸の中で悩みが渦巻く。だけど、考えていても始まらない。まずは、散らかしてしまったこれをどうにかしないと。俺はため息を飲み込み、倒れたゴミ箱の前に膝をついて、散らばったゴミを拾い集め始めた。

 

「……手伝うぞ」

 

「えっ? あぁ、ありがとうございます!」

 

 虚しい気分で片付け作業をしていると、不意に頭上から声をかけられた。先程の喧嘩で荒んでいた心に、その優しい言葉がすうっと温かく染み込んでいく。顔を上げると、そこにいたのは茶髪の、少し眠たげな無表情の男子生徒だった。

 

「バスの席を譲ったことといい、今のことといい、お前は良いやつなんだな」

 

「譲ったって……もしかして、同じバスにいた?」

 

 彼が小さく頷く。そうか、お婆さんに席譲ったの見てたのか。まあ、あのバスにはたくさんの人が乗っていたし、こんな偶然もあるか。

 

 話を聞くと、綾小路は、須藤と先輩達との一部始終を見ていて、既に状況を把握していたらしい。一緒に協力したおかげで、散らばったゴミの片付けはすぐに終わった。コンビニの店員さんに「お騒がせしてすみませんでした」と二人で謝罪をして、一緒にコンビニを出る。

 

「本当にありがとう、助かったよ。えーと……」

 

「綾小路だ。1年Dクラス。さっきの須藤と同じクラスだな」

 

「ありがとう、綾小路! 俺も1年でAクラスだよ!そうだ、今日はもう遅いから無理だけど、いつかちゃんとお礼がしたいから、連絡先交換しようよ!」

 

「別にお礼なんかしなくてもいい。……まあ、そうだな。一応、連絡先は交換しておこう」

 

 お互いに携帯を取り出す。相変わらず無表情な綾小路だったけれど、通信を終えたその瞬間、ほんの少しだけ彼が嬉しそうに見えたのは、気のせいだろうか。

 

「ねえ、綾小路、色々手伝ってもらっておいて悪いんだけど、良かったら明日、クラスで須藤の様子を見てくれないかな?」

 

 俺の突拍子もないお願いに、綾小路が首を傾けた。

 

「……須藤の? あんだけキツい態度をされたのに、お前はまだあいつのことを気にかけるのか?」

 

「うん! 出会ったばかりだけど、もう友達だし!」

 

 そう言い切った俺に、綾小路はしばらくの間、完全にフリーズしてしまった。

 

「それにさ、須藤、バスケのことになるとすごく真剣な目をしてたんだ。絶対に悪い人じゃないよ。だから、あんな風に怒ったままなのは心配なんだ」

 

俺の言葉を聞くと、綾小路は無表情のまま目をわずかに見開いた。

 

「……おお……。……そうか。お前は、本当にそういう奴なんだな」

 

「え? なにが?」

 

「いや、なんでもない。……分かった、明日それとなく須藤に声をかけてみる。お前が心配してたってことも伝えておけばいいか?」

 

「本当!? ありがとう、綾小路! 助かるよ!」

 

「気にするな。じゃあ、俺はこれで」

 

綾小路の去っていく彼の背中を見送る。

激しいバスケに、初めての喧嘩、そして新しい友達。波乱万丈すぎる入学初日だったけれど、紆余曲折あって、なんとか俺の高校生活は幕を開けたのだった。

 

________________________

 

 

「……なぜ階段で寝ているのですか? 水瀬くん」

 

 坂柳さんが、心底困惑したような声をかけてくる。翌日の早朝。俺は校舎の階段の途中で、力尽きたように突っ伏していた。朝起きた瞬間から薄々気づいてはいた。

長距離の移動、須藤との全力バスケ、喧嘩の仲裁、そしてゴミ拾い。日頃の運動不足が祟り、俺の身体は恐ろしいほどの筋肉痛によって限界を迎えていたのだ。一歩動くたびに足に激痛が走り、なんとか校舎まではたどり着いたものの、ついにこの階段で力尽きた。俺の高校生活はここで終わりのようだ。

 

「ごめん……気にしないで、坂柳さん……。あっ、鞄持ってあげようか!?」

 

 せめてもの空元気で、階段の下にいる彼女に手を伸ばす。

 

「結構です。返ってこなさそうなので。それより、具合が悪いのであれば保健室へ行かれては?」

 

 杖をコツンとつきながら、至極冷静に返される。ありがたい提案だけれど、今日は1回目の授業。大した授業はせず、説明だけで終わるはず。それくらいなら、席に座っていれば参加できる。そう判断して、俺は首を横に振った。

 

「大丈夫、座ってれば治るから……!」

 

「そうですか…他人に置いていかれることはよくありましたが、まさか私が他の方を追い抜く日が来ようとは思いませんでした」

 

 坂柳さんはクスリと苦笑し「無理はなさらずに」と言い残して、トコトコと優雅に階段を上って去っていった。

 

 その後。

 階段の真ん中で「ううー……」と呻きながら芋虫のように固まっている俺の醜態は、登校してきた色んなクラスの生徒たちにバッチリ目撃されることになった。

 

「水瀬…授業初日から恥ずかしいと思わないのか?」

 

 最終的に、呆れた顔をしたAクラスの葛城・戸塚・天樹に荷物のように教室へと運び出されたのだった。

 




綾小路「おお…これが陽キャってやつか…」
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