異界渡り、ビカム -伝説のエルフは今日も勝手に深読みされる-   作:鹿紅 順

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第二章 第8話「推理」

「……そういう、事なのだな?(つまり、死――)」

 

「ああ、アンタのお察しのとおりだ。――あの婆さん、転職したんだ」

 

「……(――あ、ああ、てっ、転職ね……)」

 

 落胆の理由をあっさり見抜いたビカムだが、さしもの美剣士も意外だったのか、玲瓏な(かんばせ)がどことなく狐につままれたように見える。

 さもあらん。生まれながらに自身の天命――世界を流離(さすら)う宿命を悟っていたであろうこの男にとって、職を変えるなどという俗世の事情は遠い世界の話であろう。

 

「前々から誘いの話はあったらしいんだが……」

 

 ――人間で占星術を扱える者は極めて少ない。

 ゆえに人間の術師は様々な勢力から身柄を狙われる立場にあり、既に術師を有する勢力は手厚い保護を行う。

 術師にとっても、欲望を剥き出しにした輩に四方八方詰め寄られるよりは、強力な庇護者が居る方が何かと便利だ。……まあ、庇護者が監禁犯に変貌する事例も往々にしてあるが。

 

 ともかく、ヨランパ=メグゥにとって冒険者ギルドこそが庇護者であった。国家と強く結びついた組織の後ろ盾は、彼女にとって都合が良い存在たりえた。

 ギルドも彼女の力を借りるだけでなく、ヨランパの存在そのものが交渉のカードとして隠然たる影響力を発揮した。

 今までは(・・・・)

 

 おもむろにガイゼンが顔を窓に向けた。

 リンがつられて見た先、窓硝子の遥か向こうには堂々たる威容を誇る城――王城イリム・エスタードが鎮座していた。

 

「魔法学校を卒業した孫娘が王城に就職したってんで、宮仕えにあっさり鞍替えしやがった。見返りに一代限りの法衣貴族の爵位も貰ったらしい。あの婆さんが今ではヨランパ卿だとよ! ギルド(ウチ)とは良い関係を築けてたと思ってたんだがなあ……孫の力ってのは偉大らしい」

 

「……まったくだ(テスカ殿といい、ヨランパ殿といい)」

 

 ビカムの脳裏に、口の達者な罠猟師の老婆が浮かんだことは想像に難くない。

 ……しかしながら、まだ万策尽きたわけでもない。

 

「ギルド長名義で王城に使者を出そう。少なくとも無下にされることはないだろう。あとは貴きお方々の存念次第だ、ヨランパの力を貸してくれるかどうかは」

 

「……この礼はいずれ(ありがとね)」

 

「そう思うんなら異世界行脚(あんぎゃ)もホドホドにして、もうちっとマメに顔を出せ。アンタを手ぐすね引いて待ち構えてる女どもがうるさくてしょうがねえ」

 

「……(手ぐすね引いて待ち構えているから来たくないんだが……)」

 

 答えるに及ばす。ビカムは席を立った。神々ですら縛ることを躊躇う美の化身をいったい誰が自由にできようか。

 さほど期待していなかったのか、ガイゼンもやれやれと息を吐く。

 

「なあ、嬢ちゃん」

 

 代わりに、ビカムを追って立ち上がったリンの背中に声を投げかけた。

 

「しばらくこっちにいる予定なら、いつでも俺を訪ねてくれ。チキュウ世界の話、興味がある。二人きりでゆっくり話そうや」

 

 好意的に笑いかけるギルドの長に、リンもまた鋭く砥いだ微笑みを返した。

 

「ええ。――天井裏に誰もいないなら、喜んで」

 

 ゆっくりと、天井に一瞥をくれてから、慇懃にお辞儀をする。

 

「……(リン殿……? 普通、天井裏に誰もいないだろう……)」

 

「失礼します」

 

 ――ぱたり、と扉は閉じられた。

 

 

 

 

 

 ギルドの建物を出て大通りを進んでいく二つの人影。

 自然と割れゆく人波を、ガイゼンは窓際で眺めていた。

 その背後で天井の一部が外れ、軽やかな動作で一人の女性が降り立った。

 

「――申し訳ありません。気づかれてしまいました」

 

「構やしねえよ。(はな)からビカムには気取(けど)られてたさ。だが何も言ってこなかった。こっちの狙いが嬢ちゃんを測るもんだと知って目こぼししてくれたんだろう」

 

 ガイゼンの慰めに、だが女性は面目なさそうに顔を伏せた。

 彼女は秘書のクラウディア。普段はギルド長の業務を補佐する傍ら、元冒険者にして一流の斥候という経歴を生かし、密かに忍び働きを行う影の者でもあった。

 

「最初から、ですか。……底の知れないお方です」

 

「ったりめえだろ。生きる伝説だぜ? 王族ですらアイツには気を遣う」

 

 実のところ、ガイゼンも飄々とした態度に見えて、内心ではヒリつくような緊張に苛まれていたのだ。

 

 冒険者として幾度も修羅場を潜った彼といえど、()し掛かってくるような凄味と重圧に怯みそうになる。

 相手は二百年前に冒険者ギルドが誕生した頃から所属している最古参。ギルド長(若造)の権威など通じるはずもなく、まるで鎧を剥がれた丸腰の状態で立ち会った気分であった。

 

 クラウディアを潜ませたのは、ビカムの同行者がチキュウ人だと見抜いたから。無礼だと怒りを買う覚悟のうえで。

 だがビカムは終始何も言わなかった。

 あのリンという少女が指摘しなければ、おそらく最後まで素知らぬフリを貫いて部屋を出て行ったことだろう。

 いくらでも誤魔化す手段はあったろうに、あっさりとリンがチキュウ世界出身だと明かしたことも含めて妙だったが、今になって合点がいった。あれは全て敵意や危険が無いことを示すためだったのだろう。

 

 基本的にチキュウ人は注意すべき存在だ。少なくともリンダリアル世界の常識では。

 ゆえに、ヨランパの力を借りたいと願い出る手前、後からチキュウ人だと知られて不信感を抱かれるより、先に事実を話すことで信用を得ようとしたのだ――あのビカムが(・・・・・・)

 まったく、なんとも誠実な男ではないか。

 

「……どんなに怪しかろうとアンタがごり押ししてきたなら、俺に断るつもりはなかったんだがな。自分の持ってる権威に自覚が無いのかねえ……」

 

 そう結論付け、納得しようとしたガイゼンの脳裏に違和感という名の警鐘が鳴る。

 

(……本当に? それだけなのか?)

 

 ガイゼンはその小さな違和感を無視しない。現役時代、それに幾度も命を救われたことを知っているから。

 こちらが無断で潜ませた監視者に気づかないフリをし、加えて下手に出るような気の回し様……。

 

(何か別の狙いがあったはず……)

 

「それにしても」クラウディアが感慨深そうに言った。「あの少女、無害そうに見えて油断ならない強者でしたね」

 

「ん? ああ、お前の気配に気づくとは大した――」

 

(――そうか! それが狙いだったか……ッ!)

 

 ガイゼンはソファの背もたれに体重を預け、笑い声を漏らしながら天井を仰いだ。

 

「くくく……」

 

「ギルド長?」

 

「クラウディア、俺たちはどうやらだし(・・)に使われたらしい」

 

「だし?」

 

「あの嬢ちゃんさ。ビカムは嬢ちゃんが天井に潜んだお前に気づけるか、わざと口にしなかったのさ」

 

「それは……何のために?」

 

「推し測るに、今の嬢ちゃんの戦士としての力量を調べるため。あるいは隠れ潜んだ相手の気配を探れるようになるための修行の一環か。確信は()えが、大きく外してるとも思わねえ」

 

 ビカムとリンの関係性は、会話を交わしても(つい)ぞ分からなかったが、単純な連れ合いというわけでもなさそうだ。

 こちらに信用を抱かせ、一方で少女を見定め鍛える。

 これが何百年と世界の最前線を生きる男の遠謀深慮といったところか。

 舐められているとは微塵も思わなかった。侮られているとも。都合が良いから上手く利用しよう、そんな意図を感じた。

 それでも不快感を覚えなかったのは、心底から彼我の圧倒的な差を認めているからなのだろう……。

 

(悔しい……と思うのは傲慢なのかねえ)

 

 憮然とした表情を浮かべるクラウディアを見て思う。悔しさは裏返せば、自分も同じ高みに立てるという驕りにも似ている。

 爽やかな諦観を抱く自分と、悔しさが湧き上がる彼女との違い。

 

「若さかな……」

 

 その言葉で片付けきれないものが世の中にあると自覚しながらガイゼンは執務室を出て行く。無性に外の空気が吸いたくなった。

 

 廊下と繋がる扉を開けると、女性職員たちが行儀よく並んでいた。

 代表するように受付嬢のリーナが一歩前に出る。

 不穏な空気を感じつつ、ギルド長の威厳は崩すまいとガイゼンは堂々と問うた。

 

「何だ?」

 

「ギルド長……ビカム様を引き留めず、あっさり帰されたんですって……?」

 

 しまった、と(ほぞ)を噛む。

 だが「はい、すいません」と言うわけにはいかない。ガイゼンにも立場があるのだ。

 

「ああ? 引き留めるも何も、アイツの用事はもう終わったからな。アイツもだらだら居座る性格じゃねえし……」

 

「そういう事じゃありません」

 

「じゃあどういう事だよ」

 

「――警告しましたよね? 〝独り占めしないでください〟と」

 

 ――若き頃、無謀にも一人で竜と対峙した時に劣らない悪寒が背筋を貫く!

 

「……ぎょ、業務中の公私混同は、」

 

「クラウディア先輩――いや、会員番号63番、ギルド長を拘束しなさい」

 

「はい、リーナ会長(・・)

 

 持ち前の隠密能力を十全に発揮した有能秘書は、狼狽える四十路男を背後から容赦なく羽交い絞めにした。

 

「お前っ⁉ どっちの味方だ!」

 

「美しいものの、です。……今日、ギルド長の予定は、夜、外務副大臣との会食のみです」

 

「じゃあ……それまでゆっくりお話しできますね」

 

 ぞろぞろと女性職員がギルド長執務室へ踏み入っていく。

 幸いな事に、この光景を目撃した他の職員はいなかった……正確には急遽人手不足に陥り、それどころではなかった。

 ギルド長の尊厳は保たれたのだ!

 

 ――ぱたり、と扉は閉じられた。

 

 

 

   ***

 

 

 

 ビカムが宿を取った『黄金(こがね)の鷹の止まり木亭』は王都でも指折りの高級宿である。

 

 王都に邸を持たない富貴なる主人は、大抵ここを定宿とする。歴史も格式もある宿場ゆえ、当然のごとく一見客はお断りだ。働く従業員も、生家の家格や能力で厳しく(ふるい)にかけられた、超一流のみが在籍を許されている。

 その分、部屋の設備も一級品。たとえば魔道具を利用した温水シャワー設備。これは普通の宿には存在しない。ましてや個室ごとに付いているなど。大抵は(たらい)に水一杯と渇いた布を渡されて終わりである。

 

 従業員が入口の扉を恭しく開き、ビカムたちは楚々と中に足を踏み入れる。

 ロビーは既に人払いが済んで静寂に包まれていた。普通なら客たちの怒りは免れない宿側の対応も、かの美剣士が来店するとあっては、進んで彼らは快く部屋へ引き上げるか市中へと繰り出していった。

 

「ようこそ、いらっしゃいませ」

 

 受付近く、佇んでいた品のある老紳士が頭を下げる。礼の行き届いた所作である。

 

「……世話になる(支配人自ら毎度毎度……気を遣わなくていいのに……)」

 

「お連れ様の部屋は、お隣に用意させていただいております」

 

 いかなる仕儀か、ビカムに連れ合いがいることは関知のうえらしい。

 この会話中もビカムは立ち止まることなく、受付の貨幣皿に二人分の金貨を、流麗な手つきで流し入れる。

 空いた手で二人分のルームキーを受け取ると、ロングコートを颯爽と翻し階上へ姿を消す。

 

 二階の最も奥まった位置にある部屋がビカムの部屋(・・・・・・)だ。

『黄金の鷹の止まり木亭』は彼以外の客を誰もその部屋に泊めない。彼から宿泊代を貰うこともない。しかし彼の善意から手渡された代金は、王都の孤児院に寄付することになっている。

 

 それがずっと昔に交わされた、古い約束だった。

 

 

 

 

 

 頭頂から肌を伝った熱い湯が床に落ち、排水溝へと流れていく。

 

「はぁぁぁ……」

 

 久方ぶりに浴びた湯の熱さに、リンの口から思わず溜息がこぼれる。

 体の汚れを落とす以上の魅力が風呂にはあるとつくづく思う。

 

 最後に風呂を浴びたのはいつだったか……〝ゲート〟を潜り、リンダリアル世界で夜を明かし、冒険者ギルドで用を済ませ、王都の宿屋に入ったのがおよそ一時間前。いや、チキュウ世界で輸送車の復路の護衛に就いた時から含めると、およそ二日に近い。乙女にとっては致命的だ。

 

 付け加えるなら、リンが宿に入ってすぐ風呂にありつけたわけではない。

 風呂場に直行したリンは手慣れた手付きで腰の後ろにあるカバーを外し、内蔵されていた紐を引く。たちまち強化外骨格(エグゾスケルトン)の装甲が開き、脱皮するように科学の鎧を脱いだ。抜け殻となった強化外骨格は、非装着時は自立する構造になっている。

 

 脱いで終わりではない。次いでリンは四つに分解したパーツを組み合わせ、輪を作った。

 輪の中に強化外骨格を収めると、ふくらはぎ部分の装甲から接続ケーブルを伸ばし、輪と接続する。

 最後に強化外骨格の内と外に満遍なく水を掛けて完了だ。

 

 間も無く輪の円周部分から極薄のポリマー樹脂が生成、上へと押し出されていき、瞬く間に半透明の円筒を形成した。

 すると、シュー……、という音と共に円筒内部に水蒸気が立ち込めていくではないか。

 これは強化外骨格が吸入した水に熱を加えて蒸発させ、高温蒸気洗浄を行っているためである。本当は然るべき場所で然るべきクリーニングを受けるべきだが、携帯式簡易洗浄が可能な機能も備えている。

 

 その一連の間も、リンは別の作業を行っていた。首元から爪先までぴっちりと覆うレザースーツを苦労して脱ぎ、風呂場備え付けの桶に張った湯に浸けると、スーツ専用液体洗剤を溶かし揉み洗いする。

 最後に水を軽く振り落とし、適当な場所に引っかけておけばいい。速乾素材のスーツは強化外骨格の洗浄が終わる頃には乾いているだろう。

 

 ここまでやって、ようやく人間の番である――壁から突き出た把手(とって)を捻ると、天井に空いた孔から熱い湯が降ってきた。異世界のシャワーだ。

 本当は湯に浸かりたかったが自重する。今、疲れ切った体で入浴すれば、たちまち意識は夢の彼方に飛んでいってしまう。それはダメだ。まだ考えるべき事があると自分に言い聞かせる。

 

「…………」

 

 ……この世界に来て感じるのは、チキュウ世界に対してリンダリアル世界が抱く、拭えない不信感。

 

 リンがチキュウから来た事実を知ったリンダリアル人は皆、次の瞬間には警戒度を最大限まで引き上げる。

 中にはビラートやテスカのように誤解を解いてくれた人たちもいるが、ファーストインプレッションは警戒で共通していた。

 二つの世界の関係性は良好とは言いがたい。それはリンも理解していた。

 ただし、冷え切った両者の間には無視できない温度差が横たわっている。

 

 チキュウ人的感覚において、リンダリアルとは例えるなら〝非友好的な隣人〟とでも言えばいいのか。

 挨拶を交わすことはなく、ただ必要があれば話をするし取引もする、そんな関係。

 

 だが、どうだろう。

 リンダリアル人が見るチキュウ人はまるで……〝汚らわしい侵略者〟そのものではないか。

 いかにリンが気高きサムライの矜持を体現しようとしても、チキュウ人というだけで十把一絡げに唾棄すべき対象と見なされる。

 

 それは、あまりにも――

 

「……いや」

 

(逃げちゃいけない)

 

 リンの心に去来したのは、目を背けるなと叫ぶ内なる自分の声であった。

 いかに自分が当事者ではなかったとしても、知っておかなければならない事がある。

 過去の罪を背負うとまでは言わないが、当時何が起きたか分かっていなければならない歴史がある。

 

〝大衝突〟

 

 全ては、そこから始まった。ならば、知るべきはそこにある。

 シティの教育機関はリンダリアル世界について何も教えない。チキュウ人類はあまりにも無知であり、同時に無関心すぎた。

 少なくとも自分はそれが許されない。こうして異世界に身を置く以上は。

 

 把手を捻り、頭上からのシャワーを止める。幸いにして教えを請うにうってつけの相手がいるではないか。

 リンは思考に沈みながら、じっと、レザースーツが乾くのを待った。

 

 

 

 

 

 ビカムとリンが各々の部屋に別れてから小一時間ほど経過した頃。

 ガイゼンが王城に使者を遣わしてくれたとはいえ、早々返事が来ることはまずありえない。少なくとも一日は無聊(ぶりょう)(かこ)つことになるだろう。

 

「……(今日は色々あり過ぎた。もう外に出たくない。着替えないといけないが……面倒だな……)」

 

 入室してすぐさまビカムが行ったのは、着の身着のまま寝台へと背を投げ出すことであった。

 寝衣へ着替えるのが煩わしかったなどと……そんな的外れで恥知らずな邪推をする者はおるまい?

 

『――貴方にしては迂遠よね』

 

 久々の電子音声が高級宿の一室に響いた。

 

「(今イイ感じにうとうとしていたのに……)……何がだ?」

 

『わざわざ占星術なんて怪しげな術法に頼ろうだなんて。――襲撃の目的はともかく、黒幕の目星は(・・・・・・)もうついてるのに(・・・・・・・・)

 

「……(全然、目星ついていないが……)」

 

 ビカムの注意が左腕の機械鎧、アイに向けられる。

 

「(いったい誰が黒幕なんだ?)……アイの推理を聞こう」

 

『どうして? 貴方だって、もうとっくに気づいてるんでしょう?』

 

「……(まったく気づいていないなんて口が裂けても言えない……)」

 

 ビカムから(いら)えは無い。

 有無を言わさぬ主人の態度に、相棒の人工知能は『はあ……』と溜息を出力した。

 

『……〝クリーナー〟。あれは都市間戦争を見越して設計された兵器の一つよ。シ民を取り締まる警備ロボットなんかとはわけが違う。それをシティ内部で火器解禁のうえ暴れさせるなんて、余程の権力がないと不可能だわ。命令者は企業上級役員に自動的に絞られる』

 

「……(ほう……)」

 

 企業――シティを運営する母体。

 新時代において滅亡した国家に代わり地上を支配する存在。

 

『そしてシティから脱出する際、門のコントロール権を奪い合った時に感じた途轍もないマシンパワー……あれはシティ中央演算室からの攻撃で間違いないわ。一千万人以上の人間の生活を維持するための莫大な演算能力を、極一部、一瞬とはいえ、個人を攻撃するためだけに割いた。そんな事、たとえ上級役員だろうと許されることじゃない――たった一人を除いて、ね』

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