異界渡り、ビカム -伝説のエルフは今日も勝手に深読みされる-   作:鹿紅 順

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第二章 第14話「王獅子」

 ありえないと理性は断じるが、本能は警鐘を鳴らし続けている。

 

 相対するだけで圧倒される存在感。

 空気は急激に冷やされ、呼吸は体内の熱を奪う自傷行為へと変じた。

 

「おお、竜が出たのは初めてですよ。貴方たち、実は結構強いのですか?」

 

 煽りなのか、それとも真面目に感心しているのか。

 いずれにせよカイラスたちに反応を返す余裕など無かった。

 

「全員逃げ――」

 

 迅速な判断、正しい決断。

 どれだけ理想的だろうと、全てが無に帰す理不尽な状況が存在した。

 

 霧の竜が自身の真下に向けて息を吐く――竜の吐息とはこの世に存在する恐るべき攻撃の一つであり、今、極寒の冷気となってあらゆるモノを凍らせた。

 放射状の暴風となって吹き荒れたマイナスの熱量により、あらゆる草木は凍結し、地表は白く息絶え、極小の氷河期が生命を襲ったのだ。

 

 唯一まともに対抗手段を講じられたのはミィスフェルナのみであった。痛む体に鞭を打ちながら冷気を遮断する魔法障壁を展開。防御が間に合ったのは自身と、比較的近くにいたミニーニャしかいなかった。しかし障壁を展開してなお貫通してくるこの冷気を思うと、仲間たちは……。

 

 最悪の想像を振り払い、凍える風が晴れゆく周囲に目を凝らす。

 

 カイラスは力なく横たわり、その全身を余すことなく霜が覆い尽くしている。

 アインは片膝を着き、頭は垂れて荒い息。意識はあるものの、体には霜が貼り付き、戦闘を続けられるとは到底思えない。

 バックロゴンは鉱窟人の頑健な種族特性ゆえ、意識はハッキリとあるが体の大部分が氷に覆われ身動きができない状態。

 そして直撃を免れたミニーニャは、しかし朦朧と地に臥せっている。元より寒さに弱い猫獣人。ミィスフェルナの魔法障壁をもってしても防ぎきれなかった冷気は、彼女の体力を奪うに充分過ぎた。

 

「み、んな……」

 

 まともに戦えるのが自分一人。

 対する敵は三人とも万全の状態、それもまだ本気すら見せていない。

 絶望的とはまさにこの事であろう。

 

「さあて、私たちは誰とお話(・・)をしましょうかねえ……」

 

 ニタニタと、ローブに覆われて見えないはずなのに、間違いなく愉悦に表情を歪めているであろう敵の声音に、ミィスフェルナはビクリと背筋を震わせた。連中の言うお話(・・)がまともな手段ではないことぐらい容易に想像がつく。

 

「……レベト平野だ……ッ!」

 

「アイン……」

 

 おぞましい凶行が行われる前に飛び込んできたのはアインの叫び。

 生命維持に関わるほど冷却された体をおして、彼は敵が欲する情報を渡す決断をした。

 無論、仲間を守るために。

 

「今朝、美剣士ビカムは王獅子を倒すために、レベト平野へ出発した。今頃はもう到着しているはずだ。……ミィス、すまない」

 

「いや、私こそ……辛い役目を、押し付けてしまった……」

 

 ミィスフェルナは仕方なしと頭を振った。自分が敬愛する相手の情報を渡したことに、アインが責任を感じないよう祈りながら。

 

「いやいや、何を終わったような空気を出しているので! ククク、さあお楽しみはこれからで――」

 

 なんと悪辣!

 〝鬼術師〟の体毛に覆われた指が嗜虐的に蠢いた。情報を吐けば命まではとらないと宣いながら、最初からいたぶる魂胆だったのだ!

 

 しかし、彼の視界に入り込んできたのは、〝鬼怒女〟と〝黒鬼士〟があっさりと得物を納める光景であった。

 

「……おや? 〝鬼怒女〟殿、腰巻(・・)はよろしいので?」

 

 悪逆なる術師は名残惜しそうにミニーニャを指差す。

 

「フン、冗談に決まっているだろう。会話の機微も分からんのか貴様は」

 

「……貴方に言われると向かっ腹も一入(ひとしお)ですねえ。〝黒鬼士〟殿も……はあ、やれやれ」

 

 とことん趣味の合致しない同僚を説得することを彼は諦めた。

 そうして〝四鬼天〟は霧の竜の幻影へと騎乗する。

 

「貴方がたはまったく良いものを恐怖してくれました。これなら目的地まで長くはかからないでしょう。まあそれに免じて見逃してあげますよ。では、さようなら」

 

 巨大な翼の羽ばたきが巻き起こす旋風に顔を覆う。

 風が止んだ頃には、竜の姿は蒼穹に小さく消えゆこうとしていた。

 

 ミィスフェルナは膝から力が抜け、無様にへたり込む。

 今日はたまたま機嫌が良いから殺さないでおく――そんな軽々しいふざけた理由で、しかし命を拾うことになった。

 一等級冒険者が相手に痛痒(つうよう)すら与えることができず、お慕いする偉大な方を売り渡す極限の罪を犯した。後悔と慙愧(ざんき)が両の瞳から涙をあふれさせる。

 

 だが、彼女にむざむざと時間を無駄にする権利は残されていない。まずは傷ついた仲間に回復魔法で応急処置を施し、王都に取って返す。

 そして美剣士ビカムを狙う危険人物の存在をいち早く知らせねばならない。

 

「……ビカム様、どうか……」

 

 エルフ族の生きる伝説である剣士が敗れるとは寸毫たりとも疑っていないが、それでも一抹の不安を感じざるをえない。

 視線は自ずと遥か地平の彼方を追っていた。

 

 レベト平野……物語の鍵を握る登場人物たちがいよいよ雌雄を決しようとしていた。

 

 

 

   ***

 

 

 

 王獅子。魔獣の中でも特に脅威となる一体。

 

 その生態について、リンは事前にビカムからレクチャーを受けていた。

 異名の〝鎧纏いし(たてがみ)〟が指し示すとおり、ただでさえ強靭な毛皮をさらに(よろ)うのである――息絶えた獲物が最期まで身に纏っていたものを。

 世界がまだ原始の時代の頃は爪牙や(かわごろも)を、人類が火と文明を手に入れてからは武器と防具を。

 

 単純に防御力を上昇させるためか、はたまた雌個体へのアピールのためか……真相の追究は魔獣研究者に任せるとしても、戦う側からすれば厄介極まりない性質と言える。

 

 しかし、ただそれだけであれば似たような習性を持つ生物は他にもいる。環境物を利用して自身の生存を有利にしようとする例は枚挙に暇がない。広義的には拾った道具を使う知性を持つ獣も当てはまると言える。

 

 ならば、王獅子がそれらとは隔絶して脅威と見なされる所以(ゆえん)は――

 

 

 

 

 

 背中から剣山のごとく屹立した幾多の槍が放たれる。

 それは放物線の軌道を描いた後、情け容赦なくリンへと襲いかかった。

 

 身を投げ出すように回避、そのまま勢いを利用して連続ローリング――瞬きほどの間の後、飛来する槍が大地に突き刺さっていく。その威力が人体に致命的であることは抉り抜かれた地面の惨状を見れば明らかだろう。

 

 標的を外した槍の群は王獅子の咆哮を合図に、独りでに引き抜かれ、王獅子の背中へ戻っていく。

 その隙を、背後の死角を突くべくビカムの影が疾駆する。

 

 だが狙いを嘲笑うように、王獅子の肩からスパイクのように突き出た四本の魔法杖が自動的に迎撃の光弾を機関銃のごとく連射する。美剣士は深追いせず華麗なステップで攻撃圏内から抜け出た。

 

 分かるだろうか? この魔獣との異常なる戦闘、その驚異が。

 

(――この獣、武器を使いこなしてる……!)

 

 想像以上の強敵にリンは歯噛みせざるをえない。

 巨体を裏切らない膂力、見劣りしない速さ、それはまだいい。それだけの獣であるならば、時間はかかろうともこの二人ならば必ず仕留めていたはずだ。

 そうならない理由は、先の光景が全てである。

 

 この恐るべき魔獣は略奪した武具をあろうことか人のように使用するのだ。

 武術の冴えなど見るべくもないが、ただ振るい、突き、薙ぐ程度の動作なら武器を操り、遠隔操作も交えて繰り出してくる。

 魔法杖に至っては、刻まれた魔法文字を自身の魔力で励起して発動させるほど。ただの獣と侮れない知能の高さ。

 

「シッ――!」

 

 尻尾の先端に取り付いた鎌の一撃をブレードで弾き飛ばす。続く前脚の振り下ろしをギリギリで躱し、纏わりついた防具へ斬撃を撃ち込む。リンの攻撃の度に鎧が、武器が、王獅子の支配から解放され、重力を思い出したように地に転がった。

 美剣士も負けじと霊剣フェーレを二閃三閃。煌めき走る刃はその度に武装を剥がしていった。

 

 しかし……

 

 ――グオォオオオオオ‼

 

 王獅子が一吼えするや、剥いだはずの武具は再び彼奴(きゃつ)の体に纏わりつき、元の木阿弥と化すのである。

 

 終わりのない攻防に、リンは突破の糸口はないかと王獅子の全身をつぶさに観察する。

 だが非常なる現実がリンの網膜に映し出したのは、隙間なく鎧われた王獅子の全身であった。

 

 この手の敵に対する常套の攻撃箇所である両目は盾でしっかりとガードされ、狙う気配を見せるだけで敏感に反応する。口内に至っては咆哮の時以外固く閉じられている始末。噛みつき攻撃は期待するだけ徒労に終わるだろう。

 王獅子も自らの弱点を完全に理解して手を打ち、隙を見せないよう用心している。

 

 とはいえ……リンはまだ絶望に落ちてなどいない。

 彼女の心を支えていたのは〝予想よりも戦えている〟という実感であった。

 

 開戦直後は圧倒的重量差に捻り潰される自分の姿を幻視したものだが、今に至るまで攻撃をくらうことなく戦い続けられている。

 それは勿論、ビカムがかけてくれた魔法と、彼との共闘の賜物であると認識しているが、それなりに戦えるという自信がリンに勇気を与えてくれた。

 

 (らち)の明かなさは獣にとってもそうだったのか、王獅子は大胆にも距離を取り、ゆっくりとした足並みで円を描くように歩く。こちらにとっても一息入れるまたとない機会。

 

「ビカム、どう?」

 

 美しきエルフの下に合流したサムライガールは非常に抽象的な問いを投げ掛けた。

 

「……然程、手強くはない(これぐらいなら時間はかかっても勝てそうかな……?)」

 

 ポツリと漏れるように呟いたビカムの言葉に、リンは無意識に喜色を浮かべてしまった――それこそが慢心だというのに。

 彼が敵に強いだの弱いだの寸評を贈ろうが、それが人間(・・)にとってどれだけ当てにならないものか……。

 

 答え合わせをするように、王獅子の全身から突き出た魔法杖が励起し、刻まれた魔法を発動する。

 リンが魔力を知覚できたならば、王獅子の肉体が、鎧ではなく複数の力場を纏う光景を目にすることができただろう。まるでベールを被るがごとく。

 

 極めつけは背筋に沿うように背負った巨大な剣――おそらく巨人族(ティタン)の戦士から強奪したのだろう――が浮遊し、王獅子の顎が柄を咥える。

 

 邂逅した瞬間から意識していた最大の得物がついに抜き放たれてしまった。

 

(ここからは大振りの広範囲攻撃が来る。より注意して回避を……)

 

 そう心中で呟いた直後――リンの視界が目まぐるしく変動した。

 

 いや違う、これは……自分がブッ飛ばされたのだ!

 

 ガラスが砕けるような音を置き去りにして吹き飛んだリンの体は水きりの石のように地面を何度も跳ねた後、土埃を派手に巻き上げながらようやく停止した。

 安全ベルトのない高速アトラクションに、脳味噌を激しくシェイクされながらも即座に跳ね起きたのはサムライの超人的三半規管の賜物か。しかし、あれだけ地面を転がされながらも少女の体には汚れこそあれ、直接的なダメージの痕跡は見られなかった。

 

 これこそビカムが施した魔法――【生きとし生ける被造の殻よ】の効果、一度きりの致命傷回避魔法である。

 一撃で即死するような攻撃を受けた際、この魔法が身代わりとなってダメージを完全にゼロにする。

 高性能なのは、致命的攻撃によって引き起こされた連続する事象も含めて身代わりとなってくれる点で、リンが殺人的速度で地面を転がされても無傷だったこともこれで説明がつく。

 

 つまり……この魔法が発動したということは、リンは既に一回死んでいる(・・・・・・・)という事実なのである。

 

「なんッ、何が……!」

 

 遅ればせながら先の光景が甦る――これまでの比にならない速さで接近した王獅子が、その咥えた大剣で自分を撫で斬りにする光景が。

 

 浮遊感。

 

 いつの間にか接近していたビカムがリンを抱え上げて飛び退く。直後の空間を颶風(ぐふう)を纏った巨人用の大剣が通り過ぎた。

 

「……奴は身体強化の魔法を多重行使した(ちょっと聞いてないなこの強さは……)」

 

 人間の利器が魔獣をも利する方向に作用してしまった!

 一般的に魔法使いは、剣士などの前衛職と比較して肉体の鍛錬度合いが低い傾向――といっても体力勝負の業界なのである程度鍛えてはいるのだが――にあるため、身体強化の魔法を素早く行使できるよう杖に刻んでおくことが多い。

 

 王獅子は剥いだ武具を操る能力で、杖に刻まれた魔法を一斉励起したのだ。

 

 身体強化魔法も法則の例に漏れず重ねがけするほど膨大な魔力を要し、また肉体への負荷も莫大なものになる。

 それを自身の魔力量で強引に(まかな)い、最上位魔獣という生物の強度で耐えしのぐ。

 

 ビカムは王獅子から離れた位置にリンをそっと降ろした。

 

「……そこで見ていてほしい、奴と私の戦いを(さすがに危険だから、私一人で戦わないと)」

 

 返答すら聞かずビカムは駆け出した。

 追いかけたくなる衝動を(こら)え、リンは抑えつけるように太腿に手を重ねる。私の戦いは終わっていない、今はビカムからの作戦指示を守る時――自身にそう言い聞かせながら……。

 

「……【見よ、慄け、我が風の衣に】」

 

 一方のビカム――翔ける、翔ける、速い!

 

 追い風の魔法の衣を纏った体は黄金の残像を生む疾風と化し、瞬く間に王獅子と伍する速度へ到達した。

 王獅子が攻撃に前脚を振るうならば、ビカムはその間に十の斬撃を見舞い、剥がれ落ちた武具が空中に散逸する。魔獣がわずかながら怯む気配を見せた。

 

 だが、さしもの敵も勇心の象徴とされる獅子の名を冠するに恥じぬ意気。尻尾を巻くぐらいなら自ら首を切り落としてトロフィーにくれてやらんとばかり、突如として戦闘のギアを上げたビカムに苛烈な反撃で返報する。

 攻撃魔法の刻まれた魔法杖、攻撃を反射する盾、自動追尾する弓矢、炎や氷を迸らせる魔剣……最早今のビカムは無数の名だたる戦士たちと矛を交えているに等しかった。

 

 しかし美剣士も負けてはいない。左手はいつの間にか抜き放っていたハイテク銃のグリップを握り込み、精密な早撃ちで迫り来る剣矢を撃ち落としながら、右手の剣は王獅子の鎧を剥がんと黄金の軌跡を絶えず宙に刻む。

 

 眼前の光景をリンは目に焼き付ける。

 

 幾多の攻防が剣戟の火花を散らし、魔力の発散光が乱舞する――それは幼い頃、両親に連れられて訪れたOILAND(オイランド)の開園記念バーチャルリアリティ・ナイトパレードで見た幻想的光景めいていた。

 

 唐突に、磁石が反発するよう両者遠のき、

 

「……【(とうと)き五つの星は巡る。」

 

 風を()み、ビカムが絶対的口調で言葉を紡がんとする。

 それは誰も知らない未知の魔法。魔法詠唱でありながら文学作品の一節の切り取りと言われても信じてしまうような美辞の連なり。

 

「……星下(せいか)にありし超越の輝き。」

 

 火、水、風、雷、地。世界の根幹を成す五大要素がビカムの掌中に収束し、創世期、天空と大地と海原に切り別たれる前の混沌が疑似現出する。

 

 王獅子はこれから吹き荒れる破壊の気配を感じ取ったのか、大技を繰り出さんとする。咆哮に合わせて体を覆う武具の大部分が分離(パージ)。巨剣を芯に空中で合体し、より巨大な剣を形成した。そこへさらに魔法杖の効果付与(エンチャント)が加わる。

 

「……人界に芽吹きし新たなる(のり)を照らせ。」

 

 混沌の輝きは内包された力の膨大さを示すように眩さを増していく。

 巨大剣の切っ先はビカムへと向き、七色の螺旋の渦を巻く。

 

「――天地融け合う開闢の光よ】!」

 

「――――――――――‼」

 

 世界創成の熱量を帯びた光条(ビーム)と、質量と魔法による暴威の刃が衝突した。

 衝突地点を中心に、大地は捲り上がり、大気は悲鳴を轟かせた。

 

 間違いなく互いの大技をぶつけ合った――その結果は。

 

「……(ええ……これでも倒せないの……?)」

 

 グルル……、と獣の唸り声、そして何事も無かったように立ち尽くすビカム。

 相打ち……勝敗を決するには至らなかった。

 ビカムの魔法は巨大剣を崩壊させるに留まり、王獅子の攻撃もビカムまで到達しなかった。

 

 辺りに散らばった武具が王獅子の体に再び纏われていく。

 その時、おそらくこれも巨人族の武具だったのだろう巨大な大盾が王獅子の胸に貼り付くのをリンは見て取った。

 

「……もしかしたら」

 

 見ていてほしい――ビカムからの指示により観察に徹していたリンの脳裏にアイデアがよぎる。

 

 針のようにか細い隙を突く作戦。

 だが……もし……上手くいったならば……。

 功名に走ったのではない。純粋に、この戦いを終わらせる好機を活かさんと、サムライの少女は声高に言った。

 

「ビカム! 私に考えがあるわ!」

 

 ビカムが顔だけでわずかに振り返る。その仕草だけでリンは心の安堵を感じた。無視されていたら、この場においてリンは戦力として役立たずだと見なされている証左になっていたから。

 

「上手くいけばアイツを倒せる」

 

「……失敗すれば?」

 

 間を置かず問われる。

 

「……死ぬかもしれない」

 

「……では」

 

「でも!」

 

 逆説の接続詞を口にしたリンは、一度口を閉じ唾を呑み込んだ。

 今語るべきは戦いに身を投じる心意気ではなく、王獅子を倒すための具体策だ。

 

「奴の胸の一際大きい盾、アレを剥がすの。そうしたら……」

 

 その先を告げれば……今度こそビカムは危険すぎると自分を戦場から遠ざけるだろう。

 だが、それを言わないということは『何も訊かずに私を信じろ』と言うも同義だ。

 お互いに信頼を培った相棒が相手ならまだしも……、ここで強気に出られる厚かましさはリンに存在しなかった。さりとてビカムを説き伏せられるような理屈も。

 

 果たしてビカムは――

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