異界渡り、ビカム -伝説のエルフは今日も勝手に深読みされる-   作:鹿紅 順

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第二章 第17話「怪物の煙」

   ***

 

 

 

 戦いは一方的な展開で進んでいた。

 ラクシュナの棍棒による暴力の権化のごとき連撃を、ビカムは霊剣フェーレを巧みに用いて受け流し、マズダーの召喚する生物の横槍を魔法で対処する。

 

「どうした、避けてばかりいては勝てんぞ!」

 

 棍棒の一撃が大地を抉り、礫は散弾と化して撒き散らされる。

 あのビカムが防戦一方……。霊剣は未だその身を敵の血で汚すことなく燦然と陽の光を反射している。

 

 剣劇の合間に挟まる噴炎は、ラクシュナの得物から生じていた。

 ラクシュナがマーカスに雇われて以降、実験的に製作された武器『DIAMOND(ダイヤモンド)CRUSHER(クラッシャー)』。

 棍棒の片面縦一列に噴射口を備えたソレはラクシュナのスイングに合わせて内蔵燃料を燃焼・噴射し、尋常ならざる膂力にさらなる破壊エネルギーを添加する。

 噴射口の反対、打撃面には最新科学の超合金を採用。企業秘密の成分比に基づき配合された鋼とレアアースが驚異的な強度と靭性を備えた合金を生み出し、ラクシュナの人知を超えた一撃にも耐える性能を実現させた。

 

 さらにダメ押しとばかりに身体強化の魔法も使用済み。鬼は正面からの殴り合いを尊ぶ種族であるが、だからといって魔法に造詣が無いわけではない。闘争をより過激に加熱する方法にはむしろ勤勉で貪欲だ。

 

「英雄の看板が偽りならば、我が虚飾を引き剥がしてくれよう!」

 

 久方ぶりの骨のある獲物に相対し、ラクシュナは興奮を抑えられない。

 しかしそれは攻撃が浮つくことを意味せず。

 むしろ、かつてないほどに冴え渡っている。棍棒を振るう度、己の中の眠っていた技量が花開いていくような高揚感が湧きあがる。

 

 なるほど、自分は戦いの腕を磨こうとしているのに、足下の虫を踏み潰すことに懸命になっていたのか――餓えた鬼はようやく自身の間違いと好敵手の意味に気づいた。

 

「……(これは、まともに打ち合ったら力で押し込まれる……!)」

 

 ビカムは無言のまま霊剣を振るい続ける。表情には苦悶も焦燥もない。あの破壊の嵐に相対して、それは驚異的なことであった。

 

 わずかに足裏が地を離れた瞬間を逃さず、ラクシュナの棍棒がビカムを打ち据え、突風が巻き起こる。

 当然それはビカムに防がれたわけだが、予想に反した手応えの弱さにラクシュナは舌打ちしつつ着物の袖の中をまさぐった。先の風は、おそらく風魔法で進行方向に体を押し出すことで衝撃を削いだのであろう。

 

 粗雑に取り出した物の包装を牙で噛み破り、中身を咀嚼する。それはラクシュナ専用に作られたエネルギーバー『CY・BAR(サイ・バー)―LimitBreak!―』である。

 

 鬼族の欠点の一つは燃費の悪さ。絶大な戦闘力を発揮するために莫大なエネルギーを欲する彼ら。基礎代謝量自体も高いため、飲まず食わずで餓死する危険性は他種族の比ではない。

 

 その問題の解決にチキュウ科学が手を差し伸べた。

 仕事に娯楽に忙しいシティ市民から不動の人気を獲得する、高速栄養調整食品『CY・BAR』シリーズ。

 異なる日常シーンや様々な味の要望に応える形でたくさんの種類が製造されているが、『LimitBreak!』は唯一市販されていない。

 

 それもそのはず、シティがわざわざラクシュナのためだけにメーカーに命じて開発させたそれは、何と一本で驚異の一万キロカロリー! 取り出し、噛み砕き、嚥下するわずか十秒以内で彼女が一日に必要な摂取カロリーの半分を賄える。

 

 これがラクシュナの強さを支える最後のピース。狩りと食事の煩わしさから完全に解放された彼女を闘争から阻む障害はもう存在しない。

 

 再び鬼の影が躍る。

 

「ははは! ハハハハハハハハハハ‼」

 

 抑えきれない歓喜が哄笑となって漏れる。

 棍棒を振るう度に心の(おり)が吐き出されていくのを感じる。

 

 己はここまで世の中に()いていたのか――!

 ずっと、ずっと戦い続けていたい。伝説の美剣士と命のやり取りを終わらせたくない。永遠に戦いに身を置きたい!

 

 ……ああ、でも、この男もどうせ壊れてしまう。

 

 最後は血塗れの私が、独り大地に立つ。

 

 

 

 

 

〝――汝の行く末に慈悲を示そう〟

 

 誰一人として、この無聊を完全に終わらせる者は――

 

〝――願わくば、恐怖を乗り越え、見事なる昇華に至らんことを〟

 

 

 

 

 

 ――黄金の軌跡が、ラクシュナの腹を一閃した。

 

「……?」

 

 こぼれ落ちる(はらわた)

 それを見ながらラクシュナは疑問に首を傾げる。

 

 負傷は問題ない、すぐに再生する。現に動画を逆再生するように内蔵はずるずると腹腔へと引きずり込まれていき、たちまち傷は塞がった。

 

 (たかぶ)りのあまりビカムの剣筋を見逃したか――常人では致命的なミスも、常識離れした再生力の持ち主であるラクシュナには些末な事である。すぐに棍棒と霊剣の応酬は再開する。

 

 左頬を斬り裂かれる。――再生する。

 

 右太腿を斬り裂かれる。――再生する。

 

 左腕が肘から切断される。――反対の手で断面を押し付けて繋げる。

 

 右目を抉られる。――目だったものを引き抜いて再生する。

 

 喉笛を斬り裂かれる。――血を飲み下す。再生する。

 

 攻撃が……ビカムの攻撃が体を刻み始めた。

 こちらの攻撃は魔法のように当たらない。落ちる木の葉を斬りつけようとして剣の巻き起こす風圧が遠ざけてしまうように、ひらひらと流麗に美剣士は躱してしまう。

 

「この……ッ」

 

 数えるのも屈辱なほど棍棒は素振りのごとく空を打ち、黄金の剣が身体に軌跡を生んでいく。

 

「やめろッ――」

 

 ラクシュナは思わず口走っていた。

 何を? 躱すのを、それとも反撃を……?

 

 自分は敵に……まさか……懇願しているのか……?

 

「やめろッ――!」

 

 やめさせる方法は確信している。

 この棍棒を打ち下ろすのを止めればいい。チキュウ科学の技術が存分に詰め込まれた、目の前の敵すら潰せないこの役立たずの棒を手放せば。

 代わりにその行為が打ち砕くのが、己の矜持であることを除けば。

 

「やめ――」

 

 

 

 碧い瞳が、鬼を射抜いた。

 

 

 

 ラクシュナの体は『DIAMOND・CRUSHER』を振り上げたまま、彫像のごとく固まった。

 

(怖い)

 

 それは呪いのような未来。自分が攻撃せんとすれば、相手の刃は必ず自分を切り刻む。

 

 ビカムは霊剣の切っ先を地面に落とし、左半身をこちらに向け、ともすれば悠然と感じられるほど力みなく佇んでいる。

 しかし、ラクシュナがその気になって(・・・・・・・)身動ぎしようものなら、知覚する間もなくあの刃は我が身を裂くに違いない。自分はそれを防ぐことも避けることもできないだろう。

 

(怖い)

 

 今さらになってズキズキと全身が痛む。外傷は癒えているが、記憶を再生しているかのように黄金の剣が薙いだ部位が激痛を訴える。

 これを最早戦いとは認識できなかった。戦いが成立していると自分自身が認められなかった。

 

 こんなものは……棍棒を振るえば体を斬られるという、遊戯だ。

 

(怖い)

(怖い)

(戦うのが――怖い)

 

「……来ないのか?(急に止まった……⁉)」

 

「ひっ……!」

 

 清涼な呟きが風に乗ってラクシュナの耳朶を打ち、しかし彼女は耳元で猛獣の唸り声を聞いたかのように狼狽(ろうばい)し、戦いの前の凛々しさが嘘のようにみっともなく後ずさった。

 

「なっ、なんでっ、当たらない……? 我だけ……斬られる……?」

 

 当然の疑問。

 美しきビカムは、それに当然の回答を与える。

 

「(なんでと言われれば、まあ)……慣れた(あれだけ打ち合っていたら)」

 

(慣、れ――?)

(そんなふざけた、理由で――?)

 

 この闘争の天才とも言うべき鬼にとって、その返答は理解の範疇の外にあった。

 

 ことラクシュナにおいては無理からぬ話であった。

 何を隠そう今日に至るまで……ラクシュナとまともに渡り合えた敵はビカム以外にいなかったのだ。

 技の冴え、戦闘の経験値……確かにラクシュナを上回る、彼女より格上の相手はいたのだろう。

 

 しかし、規格外の膂力と人外じみた再生力、闘争を尊ぶ鬼の本能を前にして命を長らえた敵はいなかった。

 文字通り肉を切らせて骨を断つカウンターに倒れた強者たち……彼らが本領を発揮できていたならラクシュナの戦闘経験もまた違っていたかもしれない。

 だが恵まれた肉体と天性の才能が、挫折の経験を積むことを許さなかった。

 

 ゆえに戦闘中において当然に起きる事――相手の攻撃の癖を掴み、隙を突くという戦法(・・)を理解していなかったのだ。

 

「何をしているのです、〝鬼怒女〟!」マズダーの叱咤が飛んだ。「臆したか! 忌み鬼子の名が聞いて呆れますぞ!」

 

 何を言われようとしかし、ラクシュナの足は縫い付けられたように動かなかった。普段なら激昂するような嘲りも、恐怖に凍り付いた心には届かない。

 そんな隙を美剣士が見逃すわけもなし。

 

「……来ないならば――()くぞ(よく分からないが、今のうちに……!)」

 

 元より多対一。状況も、経緯も、動機も、敵に汲むべき事情も無い。

 正々堂々ならざる戦いに、慈悲は一片も存在しなかった。

 

「あ……」

 

 ラクシュナの双眸はその網膜に黄金の軌跡を映し出す。

 直後、噴き上がった鮮血が視界を真っ赤に染めた。

 

 顔面を縦に割られた彼女が、ドサリと力なく膝を着く音が響いた。

 

 

 

   ***

 

 

 

 ラクシュナが(くずお)れる光景を目の当たりにして、マズダーの内心に怒りはあれど焦りはなかった。

 

(なにを慣れた(・・・)と事も無げに。その全てが神業だ……!)

 

 怒りの矛先は、今まさに同僚を屠った美剣士ビカムへと向いていた。

 確かにマズダーにとって、ラクシュナは単純で扱いやすい存在だった。直情径行を絵に描いたような戦闘狂者(バトルジャンキー)。面倒臭い暗殺(仕事)は言葉を弄してよく押し付けてもいた。

 

 しかし、決して彼女を見下していたわけではない――むしろ間違ってもそんな邪念を抱かないよう、立場は対等であると常々自らに言い聞かせてきたくらいだ。

 奸計謀略ならいざ知らず、こと戦闘において翻弄できる相手ではない、と。

 

 突き抜けた破壊力は暴虐の嵐。イカサマじみた再生力は悪夢そのもの。いかにマズダーとて、そして十全に魔法を用いたとしても、本気で殺し合えば死にかねないと理解していた。

 

 ――それを剣一本でいなし、あまつさえ恐怖で縛り付け身動きさせぬまま斬り殺すなど、常人の為しうる結果ではない。

 

 だがラクシュナは十分な仕事を果たした――あのビカムから時間を奪うという大仕事を!

 既に、印は組み終えた。

 

「――さあ見せてください、貴方の恐怖を!」

 

 マズダーの魔法がビカムの深層心理を読み解く……!

〝鬼術師〟マズダーが最も好む、最も悪辣な魔法。

 

 ――対象が心の底から恐怖する存在を再現する。

 

 犬が怖いというなら狂暴な犬を、虫が怖いというなら夥しい虫を。

 竜が怖いというなら――想像しうる限り凶悪な竜を。

 

 何が出てくるかはマズダーにも知りえないが、それは問題ではなかった。相手の心に恐怖を思い出させ、精神的優勢を得た後でじわじわと追い詰め、味わうように嬲り殺すことを目的とするこの男にとっては。

 

 悪逆非道に生き、他者を害する。

 それこそがこの世界への復讐なのだから。

 

 そして恐怖が、顕現する――

 

「…………!」

 

「こ、これは……!」

 

 現れたものに、マズダーは驚愕を帯びた声を漏らした。

 

 予想では想像を絶する強大な存在――それこそ、百五十年前に魔獣を束ねて人類を侵略した魔王すら呼び出せるのではないかと半ば期待していた。

 しかし、結果は予想を裏切ったものであった。

 

 ――人。

 

 人、人、人、人――

 人間がいる、獣人がいる、鳥人がいる、蜥蜴人がいる、鉱窟人がいる、エルフがいる、見たこともない知らない種族もいた。

 種族も、性別も、年齢も、格好も、何もかも統一されていない無数の人類。

 彼らが、美剣士ビカムと〝鬼術師〟マズダーを取り囲むように立ち尽くしていた。その輪の中心に自分たちがいた。

 

 統一感のない彼らに唯一共通しているのは、一様にこちらへ視線を投げかけていること。

 

 マズダーは理屈も理由もなく悟った。

 この人間どもは皆、ビカムだけを見つめている。

 

(何だ……? こんな事は初めてだ。意味が分からない。まさか、こんなものが怖いとでも? あの英雄ビカムが。ただ佇むだけの、無力(・・)な者を――)

 

 ――そこまで思考し、マズダーは辿り着いてしまった。

 

 背筋の芯から凍るような、恐怖を抱かずにはいられない真実を。

 

「ま、まさか――ありえない‼ 自分が最も恐怖する存在を――無害な一般人だと、咄嗟に思い込んだのか……ッ⁉」

 

 不可能か可能かで言えば、可能なのだろう。

 自己暗示と呼ばれる行為がある以上、自分を騙し、偽りや虚構が本当であると疑いなく思い込ませることは、理論上出来るのだろう。

 咄嗟に、土壇場で、魔法の効果を見抜いたうえで……そんな枕言葉が付かない限りは。

 

 時間を費やして組み上げた魔法が無に帰した瞬間だった。

 

(まさかこんな攻略法が……。いや、こんなものを弱点(・・)と呼んでたまるか! とんだ術師泣かせがあったものよ!)

 

 心中で思いつく限りの悪罵(あくば)を吐きながら、その手は素早く動き、首元の鎖の留め金を外す。

 

 マズダーが首から提げていた香炉。

 いつの間にか火の灯されたソレは既に怪しげな紫煙をくゆらせていた。

 さらに頭上で回転翼(ローター)のごとく振り回され、香炉は空気と反応し激しく煙を上げる。

 

「……【道に果て無し、空に蓋無し、追いすがる風は無窮のごとし】」

 

 煙と見るや否や、ビカムの魔法が唱えられた。王獅子の霧を吹き飛ばした、暴威の追い風。

 

 ――だが激しい風が吹きすさぼうと、その紫の煙だけは何の影響も受けず揺蕩っている。

 

「……ほう(何だアレ)」

 

「ククク、貴方にはお見通しでしょうが、分かったところでどうにもできない。そういう類のものですよ、これは」

 

 これこそがマズダーの有する三つの切り札、そのうちの二つ目。

 

 最初の一つ、恐怖具象化の魔法は無為となった。

 ならばこれは、より暴力的手段に訴えるものである。

 

 紫の煙がビカムの周囲を取り囲んだ。

 こういう時こそ冷静さに深みが増すのは、いかなる人生を歩んできたのか……余人なら忙しなく周囲を見回すところを、ビカムは純粋に佇むのみ。あえて隙を曝しているとしか思えない泰然自若ぶりだ。

 

 美剣士の読み通り、その美しき背の後ろで煙は不自然に(こご)り、巨大な狼の顎と化して迫る――!

 

 暗闇を裂くような黄金の一閃が、次の瞬間には顎を上下に斬断する。美しい。振り向きざまに剣を薙ぐ姿は艶すら帯びているのではないか。

 

「……(あッッッぶな――⁉)」

 

 あっけなく不意打ちを防がれたマズダーに驚愕の様相はない。

 

 これが彼の切り札、マズダーが手ずから生み出した魔法生物……『怪物の煙』。

 

 魔法生物とは人類が人工的に創造した、魔法によって編まれ、魔力をエネルギーとする生き物。

 百二十年前、〝魔法生物原器〟が発明されたことにより、それをベースに誰もが自由に魔法生物を創り出すことが可能になった。

 

 魔法生物(・・)とはいったものの、その在り方は精霊とは異なる。

 むしろ近しいのは、チキュウ世界の低級AIだ。創造の際に組み込まれた使命を遂行するため、ある程度柔軟な自律思考が可能だが、自我と呼べるほどの感情は持たない。

 

 ならば、この『怪物の煙』に吹き込まれた使命とは何なのか?

 それを雄弁に物語るために、周囲の煙は次々と凝集し禍々しいものを作り出していく――あるいは湾曲した鉤爪、あるいは飢えた(くちばし)、あるいは昆虫の鎌、そして(よだれ)を溢れさせた顎。

 

 すなわち、解析、再現、そして記憶(・・)

 過去に読み取った恐怖の象をストックし、複数同時に顕現させる。

 

「さあさあ、遠慮なく馳走に与ってください。斬るそばから湧く恐怖の巣、退屈はさせませんよ!」

 

 マズダーの声を合図にして、それらは一斉に襲いかかる。

 全方位がビカムの敵となった。

 

 

 

   ***

 

 

 

 ――時は少し遡る。

 ビカム、〝鬼術師〟、〝鬼怒女〟から十分離れた位置に、二人の剣士は立っていた。

 

 サムライ、リン・ツカモト。

 シティの刺客、〝黒鬼士〟。

 

 互いに遮るものがない平野にて、尋常ならざる剣気が充溢していた。

 

 長い黒髪を後頭部で一つ結びにしたリンは、首から下の全身を密着して覆うレザースーツに強化外骨格(エグゾスケルトン)を纏った格好。得物は高周波ブレード。少女の若々しさと凛々しさが同居した出で立ち。

 

 対する〝黒鬼士〟は一分の隙も無く全身をアーマーで(よろ)っている。その意匠はかつて歴史に実在した武者鎧に酷似しており、総毛立つような威圧感を放射していた。同じく手には高周波ブレード。しかしこちらの刃は黒く塗りつぶされている。

 

 どちらも無言のまま佇み、風が身を撫でるに任せている。

 

 否、既に戦いは始まっていた――どちらとも、相手の集中が切れたわずかな隙を切り裂かんと、気という刃を鍔迫り合わせている。

 

 大地を揺るがす振動。ビカムの戦いが始まった。

 

 ――次の瞬間、二人の距離はゼロとなり、高周波ブレード同士の接触点から激しい火花が(ほとばし)っていた。

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