異界渡り、ビカム -伝説のエルフは今日も勝手に深読みされる-   作:鹿紅 順

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第二章 第21話「決戦の地へ」

「……(!?!?!?!?!?)」

 

「エデン、ですって……⁉」

 

 外郭とはいえシティに生きるリンは勿論、ビカムですら認識する存在。

 アキツ・シティの生きとし生ける全てを統制下に置く、機械仕掛けの神。

 あらゆる機械は彼の手足にして、あらゆるシステムは彼の神経網。エデンの指先一つで全命令が書き換わり、世界は変化を余儀なくされる。

 

 それほどの存在が介入……いや、黒幕であるということが事態の異常さをこれ以上なく示す。

 

「……あ、貴方がいったい私たちに何の用があるの? それに、なんでお父さんを……」

 

『その問いに回答する権限と必要性を私は有しません。ですがリン・ツカモトと対話を求めている方との通話を繋ぐことは可能です』

 

 お繋ぎします――いかにも機械じみた、喜怒哀楽を感じさせない音声の後に聞こえてきたのは、重圧を帯びた老人の声であった。

 

『――世界を跨いだ追いかけっこは終わりだ、〝異界渡り〟ビカム』

 

「……何者だ(何者だ)」

 

『マーカス・ハーディ。貴様にはこれで十分であろう?』

 

「……(……、…………、……誰だったかな?)」

 

 それだけでビカムは得心がいったのだろう、全てを理解したように鍔広帽子を俯かせた。

 最悪の予想が当たってしまった――まるでそう言わんばかりに。

 

「……(ああ、思い出した。昨日アイが言っていたアキツ・シティの一番偉い人ね、そうそう。……え……えっ⁉ 〝絶対に敵に回してはいけない相手〟じゃないか! どうしよう、ヤバいヤバいヤバいヤ――)」

 

『フン、敵ながら気持ちが良いほどの落ち着きだな。私の名を聞いて恐懼(きょうく)せぬ者は久方ぶりよ』

 

 圧政者らしく傲岸不遜な態度ながら、マーカスは美剣士に賛辞を送った。もし企業社員が知れば驚天動地の出来事だろう。

 張り詰めた空気など知らんとばかりにアイが声を上げた。敵味方を問わず畏怖を集めるマーカスの権威もこの電子生命体には通用しないようだ。

 

『バルキロアはいつのまにリンダリアルへ基地局を立てたのかしら? わざわざ異世界まで通信網を構築するなんて、携帯事業でも始めたの?』

 

 軽妙、ともすれば不敬な物の言い方に対し、マーカスは怒りなど感じさせず淡々と言葉を返す。

 

『この〝黒鬼士〟の鎧には通信中継用のバグを放出する機能がある。〝四鬼天〟の動向は余さず把握している。飼い犬にリードを付けぬ主はおるまい? ……さて――』

 

 場の空気が一気に変質する。

 ここにいないはずのマーカスの意識がビカムへと向けられたのが分かる。

 

 いったい何を言うつもりなのか。リンはごくりと唾を飲んだ。

 

 

 

『ビカムよ。貴様が手に入れた書物――〝聖書〟を渡してもらおう』

 

 

 

「……〝聖書〟?」

 

 リンは内心で首を傾げた。マーカスが欲するものの正体が分からなかったからだ。

 その書物のことをこの場で最も理解していたのはアイである。

 

『ありえない――⁉ シティを運営する企業のトップが、あれだけの騒ぎを起こして犠牲を払ってまで入手しようとしていたのが……〝聖書〟ですって⁉』

 

 だが、よりにもよってマーカスがそれを手に入れようとする意味まではまったく理解の範疇になかった。

 

 最終戦争によってチキュウから失われたものは多いが、その一つが宗教(・・)であった。

 シティが支配する現代において、むしろ積極的に排除された信仰。

 宗教が人類に与えた影響は文化の発展など好ましいものばかりではない。数千年前のもはや誰も確かめようもない伝承一つで血みどろの争いを人間は続けられる。最終戦争の原因は経済だけではなく信仰の違いにもあると戦後の記録は物語っている。

 

 ゆえに新たなる支配者である企業は、先の時代の過ちを起こさないよう、宗教に関する情報を削除、隠蔽した。それらは統治に不要なものだ。

 信仰のエッセンスにして宗教の経典たる〝聖書〟など、シティに存在しては困るのだ。

 

 普通に考えれば、マーカスの目的は〝聖書〟という危険因子を排除することだと思われるが――その推論を支持する者はいない。

 なぜならば、ビカムたちがリンダリアルへと移動した時点で排除は達成されているからだ。それをわざわざ〝四鬼天〟という刺客を放ってまで追ってきた。

 

 つまり、企業の最高責任者であるマーカスは、本当に何かの目的に利用するために〝聖書〟を求めているのである……!

 

『貴様が〝聖書〟の入手を企図していたことは『こみげむ』とのメール履歴で分かっている。白を切ることはできない』

 

「……なぜ欲しがる、あんな物を(コレクションしているのか……?)」

 

『ただ一つ言えることは、貴様が所有しているより私の方が有意義に〝聖書〟を利用できることだ。シティの繁栄のためにな……』

 

 マーカスの意識の矛先がリンへと向かう。

 

「ッ……‼」

 

 通信の電波が情報以外の非科学的なものを含んでいるとでも言わんばかりに肌が(あわ)立つ。

 

 人間と対話しているとは思えないほどの――畏れ。

 

 修羅場を潜り抜けてきた武装請負人のリンですらこうなのだ。ただシティに住まう住人であれば耐えられずに意識を飛ばしているだろう。

 

『〝黒鬼士〟と小娘の縁は偶然の産物であるが……この機会、有効に使わせてもらおう』

 

 マーカスはそう前置き、

 

『リン・ツカモト。父を解放してほしくばビカムから〝聖書〟を奪い、私に納品せよ』

 

「な――‼」

 

 ――なんという恐ろしいことを考えるのだ、このマーカス・ハーディという男は!

 

 それはビカムとリンの仲を引き裂く最も狡猾で効果的な交換条件だった。

 今まで肩を並べ窮地を潜り抜けてきた相手を裏切れと。

 異世界に失踪した、生存が絶望視されていた肉親を天秤に乗せて。

 

「あ……あ……!」

 

 リンの目は〝黒鬼士〟とビカムを交互に行き交う。

 ブレードを握る手はこれ以上なく震えていた。

 

 ビカムを裏切ることはできない/ビカムを裏切らなければ父は戻ってこない。

 

 相反する二律の間で雁字搦めになり、どちらの選択も取ることができなかった。

 時はリンの敵である。時間が経てば、マーカスが見切りをつけないとも限らない。

 

(選べっていうの――父を――ビカムを――どちらかを――)

 

 緊張のあまり視界が明滅する。

 息が荒くなる。汗が額から顎を伝う。

 いっそ気を失って倒れてしまえば、どれほど――

 

「――え」

 

 気づけば、眼前に何かが差し出されていた。

 あの日、『こみげむ』の秘密の地下室で目にした小包(こづつみ)が、ビカムの手に。

 

「……リン殿、これを」

 

「本当に……いいの……?」

 

「……父君のためであれば(残念だが……さすがに人の命には代えられないからね)」

 

 少女の嗚咽(おえつ)がレベト平野を濡らした。

 子供のように泣きじゃくるリンを、ビカムの眼差しが優しく包み込む。残酷な運命の最中にも美しく尊い瞬間はあるのだと教えるような光景。

 

『小包をこちらに投げろ』

 

 ……ならば、それを無粋にも介さないからこそ悪党は悪党たりうるのか。急かすマーカス・ハーディに、リンは乱暴に涙を拭うと睨みつけながら小包を投げ渡した。父の体を操る稀代の悪党へと。

 

〝黒鬼士〟が小包を受け止めるのを見届けたマーカスは、

 

『――さて、では次の条件だが、』

 

「お前ッ……‼」

 

 話が違う――今にも飛びかからんとする肩をビカムが掴む。

 怒りで沸騰しそうになるリンの脳髄、

 

 

 

 

 

『リン・ツカモト。お前の手で――〝異界渡り〟ビカムを殺せ。その首を持って来い。これが最後の条件だ』

 

 

 

 

 

 ――そこへ直接冷や水を流し込まれたかのように制止する肉体。

 

 この男は今、何と言った?

 

〝黒鬼士〟の背部装甲からワイヤーのようなものが直上へ発射される。

 規定の高度に達したそれの先端から落下傘が花開いた。

 

『ではな。異界に咲く華と――取るに足らぬ路傍の小石よ』

 

 ――超高速で何かが空気を切り裂き、飛来する甲高い音。

 ビカムが霊剣を構えた直後――チキュウの戦闘機が彼らの上空を通過した。

 

 戦闘機から垂らされたフックがワイヤーを引っ掛け、一瞬で〝黒鬼士〟は連れ去られるように空の彼方へ姿を消した。マーカスはこんなものまで投入していたのか。

 ジェットエンジンの爆音が過ぎ去った後……痛々しいほどの静寂に包まれる。

 

 リンは振り返らない。

 

「……(戦闘機まで投入して……とんでもない事になった……。どうする、リン殿……? なんて声を掛けたらいいんだ……)」

 

 ビカムもあえて口を開かない。

 

 父か〝聖書〟か。

 

 選べないうちにビカムの助け舟に救われた。

 だが今度こそ、リンは選ばなければならなかった。たとえ美剣士といえども、口を差し挟むことは許されない。

 

「……ビカム……」

 

 ――向けられた刃の切っ先が、その選択の結果だった。

 

「私って、最低だ……‼」

 

 暴走アンドロイドに襲われていた窮地を救ってくれて、

 強引に異世界についてきた自分を惜しみなく守ってくれて、

 刺客との共闘では過大なほどの信頼を寄せてくれて、

 大事な本まで肉親のためだと差し出してくれた。

 

「そんな人を゛ッ、わだしはッ……、父親の命のだめにッ……斬ろうどじでる……ッ‼」

 

 慟哭。

 痛哭なる魂の叫び。

 

 涙は大地に染み込むそばから絶えることなく滴り落ちていく。

 呼吸の代わりに泣いているかのごとき有様のリン。

 シン・シャドー・スタイルを修めたのが嘘のような滅茶苦茶な構え。これならビカムでなくとも簡単に斬り伏せることができる。

 

 ……いや、もしくは本当にその未来を望んでいるのか。

 悲鳴を上げる肉体にとどめを刺す(・・・・・・)ことで、全てを終わらせてほしいと。

 

「……(くっ、話をしたいがリン殿を落ち着かせるのは……。こんな時、師匠の剣爺なら……『迷えばこそ、刃を交わしてみせよ。然らば迷いの霧は晴れ、正道を取り戻す』だったか。効果が無かったら恨むぞ……)」

 

 ――ビカムは迷いない動作で霊剣フェーレを構えた!

 

 高周波ブレードの切っ先を向けられたように、フェーレの切っ先をリンへと。

 

 まさか、真にリンを斬ろうというのか……?

 

 二人の剣士が相対する。

 既に結末を知ったような曇りなき碧眼が、鍔広帽子の下で輝く。

 

「……(い、いくか? ええい、(まま)よーッ!)」

 

「うああああああああああッ‼」

 

 慟哭の刃と、流麗なる剣が衝突した。

 

 その光景は異様の一言に尽きた。

 荒れ狂う、しかし必死の威力を秘めた高周波ブレード。

 剣で触れれば火花が、肉で触れれば血が飛沫(しぶき)を上げるはずのそれを、ビカムの霊剣フェーレは努めて優しくいなしていく。まるで遣い手だけではなくブレードすら労わっているのかのようだ。

 

「……(傷つけないように……! 傷つけないように……!)」

 

 彼我の間に圧倒的な実力差がなければ起こりえない現実――という単純な話ではない。

 この場に剣術を解する第三者がいたならば、こう思いを抱くのではないか。

 

 これは、泣きじゃくる娘を抱擁する父の大きな腕のようだ、と……。

 

 リンもそれを感じ取っていた。

 言の葉ではなく剣と刃による会話。

 その一合ごとにビカムの意思が、はっきりと伝わってくる……

 

 ――悲しみは全て、私に吐き出すがいい。私はそのためにいる。

 

「……(あっ、ちょっ、あまり出鱈目に動かないで、斬ってしまうっ、落ち着いて……!)」

 

 彼がそう語っていることをリンは確信した。その慈愛に身をゆだねる。

 心の中の澱を、刃に乗せて吐き出す。

 ブレードを振るごとに世界はクリアになっていく。

 

 どれだけの時間、剣劇は続いただろうか。

 ……やがて涼風が撫でる平原の上には、感情の嵐に打ち勝った少女と、それを導いた美剣士がいた。

 

「ビカム……」

 

「……君の行動は、間違っていない(父親を人質にとられたら仕方ないよ)」

 

 霊剣を宙に霧散させたビカム。

 終わりを告げると同時、彼が何事もなく佇む姿は日常の帰還を象徴するようだった。

 

 唇を引き結んだリンに、ビカムは力強く告げた。

 

「……父君を救い出そう(絶対に策はあるさ! まだ何も考えてないけど! 多分なんとかなるって! 多分! 待っていてくれ、コーイチロー殿……!)」

 

「うん……うん!」

 

 頷くと同時に最後の涙の粒が頬を伝った。

 リンは己自身に誓った。これより先は父を取り戻すまで泣くことを許さないと――

 

 

 

 

 

 そしてビカムよ、気づいているだろうか?

 いや、気づかないはずもなし……。

 

 当初の話――『異世界リンダリアルに失踪した父を探してほしい(・・・・・・)』という依頼を……実は既に達成していることに!

 

 別にここで成果を認めさせて報酬を回収し、おさらばする事に何の非もない。むしろ普通の〝異界渡り〟、いや、プロの仕事人なら必ずそうする。それがビジネスというものだ。

 

 ……まさかあの美剣士ともあろう者が、その場の雰囲気に乗せられて自発的にコーイチローを助けに行くなど……。そんな考えなしに……。追加の報酬を求めもせず……。

 

 ――そんなことは絶対に考えられない。

 

 であるならば、利害を超えた存在が蠢いているということだ。

 彼をして看過することはできない、チキュウの巨悪が。

 

 

 

 

 

『〝黒鬼士〟を救出する云々の前に、マーカスが〝聖書〟を使って何をするつもりなのかよね。奴の目的次第では救出のアプローチも変わるわよ』

 

 ……と、アイが当然の疑問を改めて浮き彫りにする。

 

 シティの支配者たる企業最高経営責任者。

 最終戦争の引き金の一つとなった、禁じられし神の書。

 この二つを結びつける目的など――

 

「「「――楽園を完成させるためだ」」」

 

 手掛かりは予想だにしないところからもたらされた。

 

「……ッ!」

 

「……(あれ⁉ 倒したはずでは……)」

 

 唐突に響く、三重に重なった声音。

 ビカムが微塵に斬り捨てたはずの〝鬼怒女〟――改め〝鬼神〟ラクシュナが仁王立ちしていた。

 

 常識を外れた再生力を有する〝鬼神〟にとって、あれですら死に至るダメージにはなりえなかった。

 

「「「案ずるな。今の我にもはや貴様たちと闘争する理由はない」」」

 

 身を強張らせたリンを制するようにラクシュナは掌を向けた。

 

「「「フ……驚愕の真相に声も出ないようだな」」」

 

「どちらかと言えば、顔と腕の数が三倍になってる方が驚きなんだけど……」

 

 ラクシュナは三対ある腕のうち、一対は胸の前で腕を組み、一対は腰に手を当てた尊大なポーズを崩さず続ける。

 

「「「知りたかろう、マーカスの狙いを」」」

 

「……なぜ、それを教える?(守秘義務とかあるんじゃないのか?)」

 

「「「なに、我を〝鬼神〟に昇華させた礼と、打ち倒した褒美のようなものだ。貴様に敗北した時点でマーカスにとって私は用済みのようなもの。私も今さら奴が何を為そうがどうでもよい。ゆえに気にする必要はない」」」

 

「……後悔しても知らないがな(契約解除しても守秘義務は継続することが多いのだぞ)」

 

 敵に塩を送るラクシュナに、決して油断していないと表明するようにビカムは目を細めた。

 剣呑さを帯びだした空気の中……リンは気まずそうに手を挙げて、

 

「その前に……隠してくれないかしら、その、色々と見えてるから」

 

「「「美剣士が我と一緒に衣服も細切れにしたのだ」」」

 

 魔法の収納袋から無言で布を取り出すビカム。

 特に恥じる様子もなく腰にそれを巻くラクシュナ。

 

「「「……と言っても、我もそこまで詳しく聞いたわけではない」」」

 

 そう前置いて、

 

「「「たった一度だけ、戯れに奴と言葉を交わしたことがあった」」」

 

 いつもは秘書を介して仕事の指示を受ける〝四鬼天〟だったが、いかなる運命が働いたのか、ある時シン・セントタワー最上階にあるマーカスの執務室を訪れる機会があった……当然他の社員と鉢合わせないように道中も人払いされたうえで。

 

 画面越しの映像ではなく直接対峙したマーカスはラクシュナに怯えも驕りも見せず、拍子抜けするほど淡々としていた。

 その気になれば片手で首をねじ切れる異世界の鬼を前にして、そんな未来は絶対にありえないと確信したような男の振る舞い。チキュウの人間にしてはなかなかの胆力だと見直すラクシュナを余所に、マーカスは全面ガラスの向こう側――足元に広がる都市の夜景を見下ろしていた。

 

 実に……忌々しそうな目で。

 

「「「〝この都市は酷く不完全だ〟――そう呟いた奴に我は問いかけたのだ。ここまで満ち足りて完成された楽園は地上にまたとないだろう、とな。そしたらこう宣った」」」

 

 

 

〝――卵の殻の中で育った鳥は、どれだけ大きくなろうと雛のままだ。美しい花も鉢植えの外まで根は伸びない。どんな動物も檻の大きさが成長の限界となる……〟

 

 

 

 多分に抽象的な独白であった。

 それが意味するところを当時のラクシュナは分からなかったが、マーカスが良くない事を考えていることだけは理解した。

 シティに生きる多くの者にとって、良くない事を。

 

「「「……その直後だ、ジャガンと企業の社員どもが活発に行動し始めたのは。ジャガンは〝四鬼天〟の中でも潜入や諜報に秀でていて使いやすかったのだろう。アイツは直接マーカスと話しながら何かを探しているようだったな」」」

 

「それが〝聖書〟……」

 

 これで知っている事は全部だと、ラクシュナは視線を切ることで表現した。

 

 リンは沈思し、今得た情報を頭の中で並べていく。

 

 繁栄と破壊。

 卵の殻と雛鳥。

 鉢植えの花の根。

 動物の成長と檻――

 

 これらの対比が核心を突く何か(・・)と紐づこうとするも、激戦の疲労から頭が上手く働かない。逆に今これ以上考えても正解には至らない確信があった。

 

「ビカム……ここからは……」

 

 父、〝聖書〟、マーカスの狙い。

 

 様々な事柄が絡み合ってリンの脳内を占拠する。

 次に自分たちはどう動くべきか……その答えを縋るようにビカムへ求める。

 

 だが、美剣士は彼女の問いを、あえてそのまま投げ返した。

 

「――我々が()すべきことは何だ、リン殿?(教えてくれリン殿! 何から手を付ければいいんだ? マーカスはなんであの本が必要なんだ? コーイチロー殿を救出するのはいいが、どうやって……?)」

 

「……ッ‼」

 

 それは迷いなき者の(まなこ)だった。

 

 進むべき道を既に捉えた碧眼が物語る。

 我々の前に課題は山積している、だが為すべきことは変わらない。

 

 ――バルキロアCEO、マーカス・ハーディを倒し、野望を打ち砕く。

 

 それさえ見失わなければ心配することなど何もないのだ。

 

「……(いや、そうだな、分からないよな。急に言われても……。とりあえずチキュウに戻るか……)」

 

 ロングコートを翻し無言で歩き出した美身を、リンは慌てて追いかける。美剣士の決然たる行進に、畏れと頼もしさを感じながら。

 歩くにつれてリンの心中からは、リンダリアル世界に来たばかりの時の心許なさは消えていった。

 

 父を救う――

 確固たる意志を抱きなおした、美剣士の隣を歩むに相応しい剣士がそこにいた。

 

 二人の姿が見えなくなるまで見送ったラクシュナはやがて踵を返し、最後に一度だけ振り返ると、彼女もまた幻霧山のある方角へと歩いていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして恐るべき刺客たちは打ち倒された。

 だがビカムとリンに安息は訪れない。

 

 ついに露わになった黒幕、マーカス・ハーディ。

 

 機械仕掛けの神、シティ運営管理統括AI、エデン。

 

 そしてリンの父、コーイチローにして最後の〝四鬼天〟――〝黒鬼士〟。

 

 楽園の完成の意味と、その鍵を握る〝聖書〟とは……?

 

 さすらいの〝異界渡り〟とサムライガールの物語も最終局面。

 舞台は決戦の地アキツ・シティへと再び舞い戻る――!

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