異界渡り、ビカム -伝説のエルフは今日も勝手に深読みされる-   作:鹿紅 順

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第一章 第3話「依頼の条件」

「あっ!」

 

 サムライたるリンが、少女のように声を上げたのも無理からぬ。

 

 ビカムは寸毫(すんごう)も背後を振り返ることなく、左の掌で警棒を握り止めていた。

 

 暴力を振るった男は驚愕した。起こるべきことが起こらなかったのだ。

 警棒から流れる電流――クローン虎ですら失神させる――を受けて、このリンダリアル人はなぜぴんぴんしているのか。

 

 その気の緩みを突き、ビカムは手を捻り、鮮やかに警棒を奪った。

 蛮行には相応の報いを受けなければならない――流れるようにビカムは警棒で男の肩を突いた。

 

「ぐえあああああーーッ⁉」

 

 なんと! ビカムが扱うや否や、警棒は凶悪な電流を迸らせ、男の全身を正しく駆け巡り意識を奪うに至った。

 

 リンが見た一連の動作は、流麗の一言に尽きる。

 そう営まれることに何の違和感も抱けないほど、意識にしっくりと染み渡ってくる。無様に寝転がる相手の姿を見て、ようやく洗練された武の凄味を理解した。

 

「……来ないのか?(来ないなら帰ってくれ)」

 

 しかし、この場でビカムの真の強さの片鱗を感じ取れたのはリンぐらいのもの。

 強さを推し量る技量が追いついていない以上、ビカムのあからさまな挑発に乗らざるをえないのが、残されたライゾーたちだ。

 

「舐めんじゃねえ!」

 

 事ここに至り、遂にライゾーたちは腰の高周波ブレードを抜き放った。

 リィィン――と刃から伝わる振動が空気を震わせる。

 

 腐ってもライゾーたちはローニンだ。少なくともそう自負している。

 ゆえに、腰のブレードは軽々に抜いてはならない。

 抜き放ったが最後、立っているのは自分か相手のどちらかのみ。ローニンが、サムライが、抜刀することは計り知れない重みを持つのだ。

 ライゾーたちに、もはや退く選択肢は無くなった。

 

 その意気を感じ取り、ビカムの目が鋭く細められる。

 

「(そんな壊れそうなガタガタのブレードを使うなんて)……本気か?(逆にそちらがケガするぞ)」

 

「本気も本気よォ! 今さらビビったなんて言わせねえぜ! チェストーッ‼」

 

 乾坤一擲、ライゾーは大上段に構えたブレードを一切の躊躇なく振り下ろした。

 

 ――ビカムは横薙ぎに腕を振るった。ブレードと警棒が運命に導かれるように空中でぶつかり合う。

 

 勝負にもならなかった。

 いや、勝負など成立していなかった。

 警棒の先端が打ち据えたのは、ブレード中ほどの腹だった。渾身の力を込めて振り下ろされたブレードの中腹に、ビカムは正確に一撃を加えたのである。

 それだけでライゾーの得物は手の中でバラバラに壊れた。絶妙なバランスで形を保っていた積み木が、たった一つ部品を抜いただけで崩壊するように容易く。

 

「う、あ……!」

 

 言葉にならない呟きを吐くしかないライゾー。

 その鳩尾(みぞおち)に警棒が突き込まれ、電流があっという間に彼の意識を刈り取った。

 

 ドサリ、巨漢が崩れ落ちる音だけが響き渡る。

 

「……脆いものだ。すぐに壊れる(ヤバい、ブレード弁償しろって言われるかも……)」

 

 ビカムが思わずといった風に呟く。

 彼自身の強さに比して、チキュウ人の脆弱さといったら……そんな本音がありありと透けて見える。

 残された男たちが持つブレードの切っ先は一斉に垂れ下がった。

 

「……(弁償とか言い出す前に)仲間を連れて()く去るがいい!」

 

「ひ、ひいぃぃぃぃぃ!」「ばっ、バケモンだあああああ!」

 

 倒れ伏すライゾーともう一人を引きずるように、ローニンの集団は路地へ一目散に走り去ったのだった。

 

「……(あ、警棒を返し損ねた)」

 

 ビカムの瞳が物憂げに沈んだ。結果の分かりきった勝負をなぜ挑んでくるのかと。強者が故に理解に苦しむ。スタンバトン一本で高周波ブレードを返り討ちにできる戦士だけに許された、孤高の悩みであった。

 

 真相として、ビカムの左腕を覆う機械鎧は警棒を受け止めた瞬間、電流の一撃を防ぎつつ逆に電気エネルギーを一瞬で吸収して無力化した。

 今度、ビカムが警棒を振るう時は、逆に吸収した電気エネルギーを戻すことで本来の機能を復活させていたのだ。

 

 ……とはいえ、寄せ集めパーツで作られたブレードの脆い部分を見抜き、狙い通り打ち据えた技量は、言うまでもなくビカムの極まった武技の現れだろう。

 

「なんとも見事な手並みだねえ……。一目見た瞬間に強いとは思ってたけど、ここまでとは……」

 

 観劇を終えた後のような明るい声がかけられる。

 

「久々に留飲が下がってスカッとした! リンダリアル人だろうと関係ない。ウチの店に用があるなら特別出精値引きで承るよ」

 

「ア、アカネさん。実はね、その……」

 

 リンの顔は赤面せざるをえなかった。

 貴方がライゾーたちを(けしか)けた相手は、貴方の妹分の恩人ですよ……その事実を告げなければならない恥ずかしさによって。

 

 穴があったら入りたい気分だった。

 

 

 

   ***

 

 

 

「――申し訳ない! 義妹(いもうと)の恩人に大変な迷惑をかけちまった!」

「本当にごめんなさい!」

 

 畳柄フローリングの上で、二つの綺麗なドゲザがきまった。

 

「……頭を上げられよ(こっちが悪い事した気分になる……)」

 

 用意された椅子に腰かけたビカムは淡々と言葉を返す。

 リンとアカネは救われたような気持ちになった。この美しき麗人に迷惑をかけることが、まるで財宝に傷をつけてしまったかのように罪深く思えてしまう。

 

 ライゾーを退けたビカムは『万修理屋 ツカモト商店』の客人として招かれ、二階の客間で丁重なもてなしを受けていた。

 

 完全屋内プラントで栽培された茶葉で淹れられたお茶で喉を潤す。

 

「……(この茶葉、どこに行けば買えるのだろうか……)」

 

 言葉を発しないビカムの存在感に耐えかねたのか、アカネはギッと視線をリンに向ける。

 

「しっかしリンもリンだよ! なんでそんな大事な事を話さなかったんだ!」

 

「そもそもアカネさんがライゾーたちを嗾けなかったら起きなかった問題でしょ!」

 

 しばらく口論していた二人だが、目の前の美しい客人を思い出し、再び恥ずかしそうに背を丸めた。

 ビカムはまるで気にしていないように黙然と茶を味わう。室内でも鍔広帽子は被ったままだった。何かこだわりがあるのか、それ以上の深淵な理由があるのか。

 いずれにせよ言えることは、目深に被ったそれがリンたちの醜態を視界から遮っていたことを切に願うのみだ。

 

「……『こみげむ』」

 

 沈黙をもたらしたのがビカムなら、沈黙を破るのもまた彼であった。

 

「……この店の場所を知っているか?」

 

 リンダリアルの〝異界渡り〟の問いかけは、アカネの心中に新鮮な驚きを生んだ。

 

「ああ、そりゃあ知ってるけど、なんだってリンダリアル人があの店に……」

 

「……」

 

「いや、詮索は無粋だったね。野暮な好奇心を許してほしい」

 

 ははは、と後頭部を掻くアカネ。

 ビカムは彫像のごとく微動だにせず、静謐な雰囲気を周囲に放散するのみ。

 リンは何と声をかけてよいか分からず、居心地悪そうに肩を揺らした。

 

「(気まずい。何か言わねば)……この店は、長いのか?」

 

 それがビカムから発せられた二度目の問いだと気づくのに、アカネは数瞬を要した。王侯から直接下問され硬直した使用人かのようだ。この店の主は彼女だというのに。

 

「あ、ああ、そうさ! 先代……リンのお祖父さんがお祖母さんと結婚した際に開業したのが始まりでね。以来五十一年、この場所で修理業を営んでるのさ」

 

「歴史のある店でしょ?」とアカネは誇らしげに言った。

 

「旧時代の機械とかメーカー保守も切れたような型落ち品ばかり修理しててね。このジャンク・タウンで最新機なんて買える奴いないから、それなりに重宝してもらってるよ。……手間ばかりかかる割に収入は少ないけどね」

 

 そう語る声音に卑屈さは微塵もなかった。

 決して生活に苦労が無かったわけではないだろうが、それすらも人生の楽しみであったと、きっとこの女性は言ってのけてしまうに違いない。

 

「……ご祖父殿はどちらに?」

 

 リンとアカネは顔を見合わせた。

 

「……おられるならば、挨拶したい」

 

「あー……祖父は三年前に寿命で亡くなっていまして」

 

 リンは部屋の奥にある機械を再び作動。空間に祖父のホログラムが投射される。

 

「一応こんな人です」

 

「――(やってしまった……! 私ってやつはいっつも無神経で……!)」

 

 ビカムはやおら立ち上がると、ゲンジューローのホログラムの前に立つ。

 そして右の掌を胸に当て、左足を一歩後ろに引き、優雅に一礼。

 

 言葉は何もなかったが、それがビカムの世界において敬意を示す礼であることは二人にも理解できた。

 ――リンはハッと思い出す。彼がリンダリアル世界の住人であることを。

 

「あの!」思わず出た声の大きさを誤魔化すようにリンは咳払いする。「……貴方はリンダリアルの〝異界渡り〟ですか?」

 

 ビカムは背を向けたまま答えた。

 

「……そうだ」

 

「〝異界渡り〟の方は、違う世界の住人から依頼を請けることもある……んですよね? 貴方も?」

 

「……条件が合えば(依頼人の性格が気難しくないとか無茶を言ってこないとか頻繁に口出ししてこないとか嫌味を言ってこないとか圧力をかけてこないとか依頼内容が大勢の人前に立つようなものじゃないとか初対面の人との懇親会がないとか)」

 

 条件が合えば(・・・・・・)

 

 そのたった一言に、彼が依頼を受諾するハードルの高さが滲み出ていた。

 報酬が高額で済めばいい。

 問題なのは、金銭で(あがな)えないものを要求される場合。リンには用意できないものを指定されればおしまいだ。

 

 そしてビカムに金銭に困っている様子はまったく見受けられない。綺麗な身形が、整った装備が、纏う余裕が経済的困窮を否定している。

 きっと、数時間前に七十万レジットで救援してくれたのも金以外の理由があるに違いなかった。

 

 それでも願わずにはいられない。

 

「父を……」

 

 未だ祖父の遺影に向き合う美剣士の背中へぶつけるように叫ぶ。

 

「リンダリアルで失踪した父を探してもらうことはできますか⁉」

 

「リン! アンタまだ……」

 

「病気にかかった母の治療方法を探しに行ったっきり戻ってこないんです! きっと今も向こう世界のどこかで、」

 

「――リンッ!」

 

 アカネの声にリンはびくりと肩を震わせた。

 

「リン。コーイチローさんは、多分もう……」

 

「……」

 

 そうして押し黙った二人。

 並々ならぬ事情がこの家族を取り巻いていることは疑いようもなかった。

 

「(なんてシリアスな空気なんだ……耐えられない)……父君は、いつ」

 

 静寂を友にする彼がまさか沈黙に耐えられなかったはずもなかろうに。

 しかし、珍しく口を開いたのはビカムからである。

 

「七年前にアキツ・シティから一番近い〝ゲート〟を潜って、それきり……」

 

「……母君の病気とは」

 

「正確なところはチキュウじゃ分からなくて、ずっと寝たきりで、一度も目を覚まさないまま……。お医者様が言うには、実体の無い呪い(・・)みたいなものに罹っているらしいと」

 

「……そうだ!」名案得たりと言わんばかりにアカネが立ち上がった。「リンダリアル人のアンタなら病気の原因が何か分からないのか⁉ 治し方とか!」

 

「……母君は、どちらに?」

 

「入院してるんだ! リンがサムライの仕事でお金を稼いだお陰でさ、シティ中心部の大きな病院で診てもらえて――あっ」

 

 ……そのシティ中心部に行くには〝選別の壁〟を通る必要があり。

 リンダリアル人であるビカムは門前払いをくらうことが必至であった。

 

「んあああああ! せめて半年前にアンタが来てくれてりゃ……!」

 

「……診たとして、分かるとは限らない(原因も、治療法もね)」

 

 この世で希望的観測ほどあてにならないものはない。

 

「……父君も」

 

 そう。

 チキュウ人がたった一人で、目的の物も存在する場所も分からないまま異世界に旅立った。

 そのまま七年が過ぎて、音沙汰なし……。

 励ましの言葉が虚しく響かざるをえないほど、年月というものが経ち過ぎていた。

 

「――お願いしますッ!」

 

 ――それでも、少女が諦める理由にはなりえなかった。

 

「どうしても諦めきれないんです! お父さんが約束を破ったことはないんです! 必ずお母さんを助ける方法を見つけて戻って来るって……。せめて、せめてリンダリアルにいた痕跡だけでも……」

 

 深々と頭を下げて懇願するリン。

 垂れ下がった黒髪の隙間から二筋の雫がいくつも滴り落ち、床の上で照明の光を反射した。

 

「……(しかしなぁ。()く限り、痕跡が残っている(・・・・・・・・)かすら怪しい(・・・・・・)と思う……)」

 

 果たして美しき〝異界渡り〟は何と答えるのか。

 

「……(うーむ、可哀想だけど断ろう。残念だが、強く生きてほしい……)」

 

 ビカムはゲンジューローのホログラムから視線を切り、リンとアカネの方へ振り返らんと――

 

「……(!?!?!?!?!?)」

 

 途中、不意にその動きが止まった。

 

 ビカムの碧眼は壁際のあるものを射抜いていた。

 何の変哲もない金属製の棚だ。

 そこに収納されているモノ(・・)はやや埃を被っているようだが、きちんと整頓されている。その程度の感想しか湧かないものだ。

 

「……ああ、それですか? お祖父ちゃんが趣味で集めていたものです。亡くなる間際に、このツカモト商店と一緒にソレも私の好きにしていいと言われたんですけど……」

 

 棚の遺品――数と種類のあるそれを、リンは特に何が面白いのか分からなかった。

 だが、この店を除けば祖父が唯一遺してくれたものである。内容の妙味を理解できずとも、捨てる気など起きなかった。

 この店もそうだ。店の権利はリンにあるが、実質的な継承者兼店主はアカネであるし、そうあるべきと納得している。あの棚のモノ(・・)と同じように、今さら所有権を主張してどうこうする気はない。

 

「……君の依頼を請けよう」

 

 ――あまりにも唐突な福音に、リンは弾かれたように顔を上げる。

 

 

 

「――報酬に、君が祖父から受け継いだモノ(・・)全てを貰う」

 

 

 

「え……」「はあ⁉」

 

 だが続く言葉は、少女にとってあまりにも無慈悲な取引の提案であった。

 

『万修理屋 ツカモト商店』

 棚に並べた遺品。

 

 その二つだけが祖父から受け継いだもの全て(・・)である。

 

 真っ先に激昂したのはアカネだった。

 

「ふざけんじゃないよッ! リンが難しい事を依頼してるのは分かるけど、それで全部(・・)寄こせだと⁉ ゲンジューローさんがこの子のために残した全てを⁉ アンタ血も涙もないのかッ!」

 

「アカネさんやめて!」

 

 飛びかからん勢いの彼女をリンが後ろから羽交い絞めにする。

 

 ビカムが要求したのは、危惧した金銭以外の物――このツカモト商店そのものだった。

 ゲンジューローが天寿を終えるまで維持し続け、家族との思い出をたくさん詰め込んでくれた――ツカモト商店こそ祖父が遺してくれた全てなのだ。

 ……厳密には棚のアレも祖父の遺した全て(・・)に含まれるが、まさか孫の自分ですらよく分からないものをリンダリアル人の彼が欲するとは絶対に思えない。ゆえに、この店が欲しいという意図は明白だ。

 

 リンに止められてなおアカネは叫んだ。

 

「アタシはいいさ! 悲しいけれど、アタシ一人ならまだ耐えられる! でもリンには! この子にとってそれがどれだけ大切なのか分かってるだろう⁉ 今まで話を聞いたアンタなら!」

 

「……(?????)」

 

 ビカムもまた、珍しく感情を露わにしていた。

 表情には決して表出させずとも、彼の声音は微かに思いを薫らせていた。

 

 それはもう、心底不思議そうに(・・・・・・・・)

 

「――報酬の対価として、安いものではないか?」

 

 今度こそ、アカネは絶句せざるをえなかった。

 このツカモト商店を売り渡したとして、なお買い得(・・・)なのだと、目の前の美しい男は言うのだ。

 

 説得の類は無駄であると、試みる気概さえ起こさせない美貌。

 アカネはそっとリンを見た。ふざけるなと一喝言い返す姿を期待して。

 

 ――恩人であるゲンジューローの血を感じさせる、力強い瞳が輝いていた(・・・・・)

 

(……ああ……)

 

 それだけで、アカネは己が何をすべきか理解した。

 この可愛い妹分が胸に秘めたる激情を、自分が外に解放してやるのだ。

 

「――条件がある」アカネは神妙な雰囲気を纏い、言う。「コーイチローさんを探すのに、リンも一緒に連れて行ってやってくれ。リンをもう一つの世界(・・・・・・・)に連れて行くんだ」

 

「……! ちょっ、アカネさん⁉」

 

「行ってみたいんだろ? 親父さんが旅立った世界がどんな所か見てみたい……そういう顔をしてたよ」

 

 リンはその言葉を……否定しなかった。

 代わり出たのはアカネの未来(・・)を案じる言葉だ。

 

「……でもっ、そうしたら、この店は、アカネさんはっ……、」

 

「こまっしゃくれた事を考えてんじゃないよ。アタシを誰だと思ってんのさ? ゲンジューローさんの一番弟子たるアタシの腕前ならどこのジャンク屋からも引く手数多だよ。……気にすんな。いつものサムライ・タマシイはどこいったのさ? 気合い入れて行ってこい。親父さんだけじゃなく、お袋さんの治療法も見つけてくるぐらいの勢いでな!」

 

 リンはアカネの胸へ飛び込んだ。

 しばらくの間、武装請負人の鎧を脱いだ少女の嗚咽がツカモト商店の二階に響き渡った。

 

「……(完全に一人で探すつもりだったけど絶対に拒否できない雰囲気だコレ……)」

 

 抱き合う家族の姿からビカムはすっと目を外し、窓の外から覗く中心部の巨大なビルディングの群を見据えた。

 シティの栄華を象徴する摩天楼は今日も壁面に広告映像を躍らせながらグロテスクに光り輝いている。ジャンク・タウンの営みを見下ろすように。

 そして、それを見上げるビカム。

 

 彼が今何を考えているかは分からない。

 しかし、この構図は見る者に何かを予感させるだろう。

 

「……(あ……『CY・BAR(サイ・バー)』新しい味が出たのか)」

 

 天に弓引かんと睨みつける反逆者――あるいは英雄の姿を。

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