剣豪の英雄譚   作:二天一流

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戦闘描写って難しいんだなあって。


第2話

 

 

選抜戦が始まった。

七星剣武祭、七つの魔導騎士学校が戦い合う祭典。その代表を決める校内戦だ。

今年度からはどうやらトーナメント形式でやるらしい。去年まではレート……伐刀者のランクでとりあえず高いランクの人が代表に選抜されてたが、理事長が変わったことで方針も変わったらしい。

 

ランク主義ではなく実力主義。

 

世間一般的にはランクが高ければそれ相応に実力もあるって考えだが、今年度からの理事長は戦ってみなければ分からない、なんて考えがあるらしい。

まあ実際そうだと俺も思う。下のランクが上のランクに勝つことなんてザラにある。

 

実際、俺も去年はレートで選ばれた選手の1人を斬り伏せて実力で七星剣武祭の本戦に出た。

だからやってみないと分からない。それについては同意だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

ボケーッと空を眺めるだけの時間。

 

俺は現在暇を持て余していた。

何故か。俺は選抜戦に出ないからだ。いや、正確には出れないか。

去年の七星剣武祭優勝者、現七星剣王。故にシード枠で本戦出場ということらしい。

 

当然、理事長には抗議しに行った。

そしたら、

 

『お前は試合になると危ない。せめて本戦だけにして欲しい』

 

との事らしい。

辻斬りか何かだと思われてるのか?

 

「……………………」

 

今頃みんな試合してるのかな。いいなあ。俺も試合したい。強さを見せつけたい。凄いって言われたい。黄色い声援が欲しい。

 

「……それで、なんか用?」

「げっ、バレた」

 

誰かは知らないが、感じていた気配が気になり後ろを振り返りながら声をかける。

そこにいたのは忍び足で近づこうとしている小柄な女性だった。

 

長い黒髪に大きなリボンをつけ、着物に一本下駄という現代らしからぬ服装。

その存在は知っていた。

 

「気配殺してたんだけどなあ。後ろから驚かせてやろうと思ったのに、つまんねーやつ」

「西京寧音……さんだったっけか?いや今は西京先生の方がいいか?」

 

KOKリーグランキング現3位。

世界的に有名な伐刀者がそこにはいた。

 

理事長の伝で今年から破軍学園の教師を務めることになった、らしい。

 

「なんだ、うちのこと知ってんの?」

「そりゃあ。将来倒すべき相手のことは多少は調べるもんでしょう」

 

「へぇー?お前KOKに来る気あんだ?」

 

ニヤリと不敵な笑みを向けてくる西京寧音。

……うん、強いな。立ってるだけで伝わる実力。

今の俺で斬れるかどうか。

 

「それでなんか用ですかね?」

「いやー、くーちゃんイチオシの騎士で現七星剣王ってのがどんなやつか気になって……逢いに来ちゃった♡」

 

なんとも飄々とした人だ。

乙女のような顔つきで殺気が漏れ出てる。強い人と戦いたい。そんな欲望が全面に出てる。

それなら試しで1つ。

 

剣を抜き、そのまま両手で握り上からの振り下ろし。

そんなイメージを彼女にぶつけてみる。

 

「……おお」

 

防御……は間に合わないと感じたのか、半身、ズラされ避けられるイメージが帰ってきた。

 

「斬ったな?」

「いや、斬れなかったですね。避けられましたわ」

 

当たり前のように見切られるか。

その後に攻撃を仕掛けようも……うーん、能力で動きを止められるか。

さすがに世界クラス。学園の伐刀者とはレベルが違うか。

 

「…………あー!やめやめ!」

「……?」

 

頭でシミュレーションを続けていると目の前の西京寧音はそう言って何かを振り払うように手を振った。

 

「はあ、たく……興ざめもいいとこだな。実際に固有霊装を抜きもしないで斬れる斬れないとか」

「…………」

 

「お前がしたいのは言葉遊びか?」

 

そう言って今までの比にならない殺気がぶつかってきた、

不敵な笑みで、我慢しきれない様子で。

 

「暇なんだろ?お姉さんと遊ぼうぜ?」

「優しいお人で」

 

「…………えへ」

 

 

▼▼▼

 

 

校舎から離れた学園内の敷地の外れ。

そこに向かい合う男女がいた。

 

方や小柄な和服の女性。方や学生服に身を包んだ少年。

 

女性、《夜叉姫》西京寧音は無手で。

少年、《剣豪》宮本武は腰に大小二振りの刀。

 

《剣豪》は刀の一振り、普通の日本刀を抜いた。

 

「そっちの固有霊装は?」

「いらねーよ。学生に本気出す訳にもいかねーだろ」

 

全力を出そうとしない《夜叉姫》に《剣豪》は苦笑いを返す。

まあそれも良し、そう思いながら彼は刀を正眼に構えた。

 

「お前の方はどうなんだよ?2本使わねーの?」

「暇つぶしの模擬戦でそんなそんな」

 

お互いがお互いに牽制し合う。

全力ではなくとも本気。勝つために互いの出方を伺っている。

 

「ま、それじゃあ…」

 

その一言と同時に《剣豪》は1歩、踏み出そうとした。

だが次の瞬間、その体に襲いかかる超重力。

 

「お、おぉ…?」

 

体が沈み、足元の地面が蜘蛛の巣状にひび割れた。

それを見て《夜叉姫》もまた少しの驚きを顕にした。

 

小手調べとはいえそれなりの出力で見舞った重力。普通の学生なら地面に倒れるほどのもの。しかし、それを当たり前のように2本の足で耐えている。

 

彼女の口元が弧を描いた。

瞬間、踏みしめた足で前へと躍り出る《剣豪》。

 

「っ!」

 

振りかぶられた刀。狙いは明らか。

即座に体を横にすることで振り下ろされる一撃を躱す《夜叉姫》。

 

刀は地面へめり込みおおよそ5mの斬り込みを入れていた。

 

降りかかる超重力を利用した威力の増した一撃。

それにも驚く《夜叉姫》であったがそれ以前にこうまで身軽に動けるその肉体に驚いていた。

魔力による防御で多少軽減はされてるだろうが、多少程度だろう。

 

生物としての肉体強度が他と一線を画している。そんなことを彼女は感じ取った。

 

「胴体ガラ空き…!」

 

そこへ攻撃後の後隙に間髪入れずに攻撃を加える。

無造作、それでも尚、魔力のこもった蹴りが《剣豪》の腹へと吸い込まれるように入った。

 

が、しかし、それに合わせて後ろへとバックステップを踏むことで威力を軽減させる《剣豪》。

それでも数mは吹き飛ぶ形で距離が空いた。

 

砂埃が宙に舞い、その中に姿をくらませた《剣豪》。

やがて風が吹き砂が風へ流されると中から出てきた彼の両手にはそれぞれ刀が握られていた。

 

左に小を、右には大を。

 

「おっほ……出し惜しみはもうしない、ってか?」

 

刀を一振だけ手にしていた時とは全く違う、二振りを持った《剣豪》の"気"と呼ぶべきものが増したのを《夜叉姫》は感じ取っていた。

 

まずは牽制。

さっき蹴り飛ばした時に《剣豪》にかかっていた重力は解除されている。

もう一度能力を使おうと──

 

「……っ!?」

 

──気が付けば目の前。

 

眼前数cm。《夜叉姫》の目の前には既に二振りの刀を振り下ろさんとする《剣豪》がいた。

 

ほぼ思わず。

男の腹へと雑な蹴りを走らせる。雑とは言うがそれでも魔力で強化し、さらに能力を纏わせた今までよりも数段"重い"一撃だ。

 

それを受けてもなお振り下ろす刀は止まらず、わずか切っ先とはいえ《夜叉姫》の肌を掠め、数滴の血が地面へ零れ落ちた。

 

蹴られたことで《剣豪》の体はそのまま後ろへ吹き飛ぶかと思いきや今回は地面についた両足の踏ん張りにより数mの距離を開けるのみ。

 

「……はは!こいつ…!」

 

凶悪、それでいて歓喜と驚き。

色んな感情が混じる笑みが浮かぶ《夜叉姫》。

 

それに対して、顔を上げた《剣豪》の顔にもまた笑みが浮かんでいた。

 

自分を満足させる予感を感じさせる少年。

自分の目指す道のための最適な女性。

 

各々の欲を満たしてくれるだろう相手と認め合った瞬間。

 

「"出でませ"《紅色鳳(べにいろあげは)》ッ!」

 

《夜叉姫》の両手に顕現された一対の鉄扇。

開いて、閉じる。その動作をすると鉄扇を中心に能力が纏わりつき形を成し巨大なエネルギーの剣と化した。

そのまま、構え《剣豪》を迎え撃つ姿勢だ。

 

それを見て、《剣豪》は自分の体の力を抜いた。

支えもなく、ただただ流れるままの自然体。やがて立つための力すら抜かれた彼の肉体は当たり前のように地面へ落下を始めた。

だが、その落下の勢い、力を踵の操作により向きをしたから前へ変化させる。

 

すると爆発的な速度で《夜叉姫》の元へ。

 

超低空姿勢のまま、下から小、上から大。上下に挟み獣が獲物を食らうかのような攻撃を仕掛けた。

 

時間にして0.0000…………秒。

 

常人なら反応は出来ない。が、目の前の女は常人ではない。

 

「あっぶねぇ…!とんでもない隠し玉持ってんじゃねえかテメエ…ッ!」

 

両手の鉄扇を使い防御が間に合う《夜叉姫》。

そのまま能力の発動と共に円を描くように鉄扇を振るうことで《剣豪》の刀を弾き飛ばした。

 

手元から武器が無くなり、距離を取る《剣豪》。

 

「たくっ…………油断も隙もねえなほんと。だが、これで武器が無くなったなァ?」

「…………」

 

「……素直に降参するか?」

 

視線を向ければそれなりの距離に落ちている刀。

さらに刀同士も真反対方向に落ちている。

 

「取りに行こうとすればうちはそれを見逃さねえし、かといってうち相手に武器無しってのも無理だろ。ま、いい暇つぶしだったし、今日はこんくらいにしとこうじゃん?」

 

能力を解き、ただの鉄扇へと戻した《夜叉姫》は鉄扇のひとつを開き口元を隠し、もうひとつの鉄扇で《剣豪》を指した。

 

それを見て、《剣豪》は自分の手のひらを見つめ、その両手を合わせ握り込み、だらりと体の横へ垂らした。

 

「……剣が無ければ何も出来ないと?」

「…………………………あん?」

 

「そんなに剣士は不自由か?騎士は不自由か?伐刀者は不自由か?剣ってのは…………そんなに不便なものか?」

「ッ!?」

 

《剣豪》の言葉に寒気を覚えた《夜叉姫》は即座に距離を開けた。そして自身の固有霊装を構え、いつでも迎撃できるように。

 

刀を手放され、詰みの状況になってなお闘志が消えない《剣豪》。しかもこんな状況になってさらに"気"が増しているのを感じる。

 

「世界3位……いざ、尋常に…!

 

構える《剣豪》。

 

「っ!最っ高だなお前ッ!」

 

最高の笑顔の《夜叉姫》。

 

掻き消える《剣豪》の姿。

見えない、が嫌な気配、予感を感じ反射的に身体を横へずらす《夜叉姫》。次の瞬間、彼女の髪の毛の数本が切り裂かれひらりと宙を舞った。

 

攻撃後の姿を捉える。

 

そこに向けて能力を発動する《夜叉姫》。しかし、それとほぼ同時に返す刀で攻撃を仕掛けてくる《剣豪》。

 

即座に鉄扇を振りかぶり、今まさに2人の一撃がぶつかり合おうとした時──

 

 

 

 

 

「止まれ、そこまでだ貴様ら」

 

 

 

 

 

 

凛とした一人の女性の声が響いた。

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