異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~   作:クワ

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突然の来訪者

 ピンポーン

 インターホンの音が室内に鳴り響く。

 

「はーい」

 ガチャガチャ

 信長が玄関を開けると……。

 

「こんばんは」

 そこには石倉が立ち尽くしていた。

「すまん、上がるぞ」

 こちらの許可を得ることなく信長の横をするりとすり抜け、堂々と人の家に上がり込む。

 

「ちょ、ちょっと」

「ノブどうしたのってアンタ誰?」

 怪訝そうなサニアの顔をまじまじと見ながら無表情に「石倉だ」と挨拶を投げつけて、呆気にとられた二人を尻目に奥まで進みイスに腰かけた。

 

「ねえ、ノブ?」

「ああ」

「家教えたの?」

「教えてねぇよ」

 

 正気を取り戻した二人は石倉に詰め寄り、事情を聴き出そうとした。

「なんであなたが私の家を知っているんだ」

「そんなことか」

「そんなこと?」

 当たり前なことを聞くなと言わんばかりの態度に怒りというより気持ち悪さが先に立ち、どう対処すればいいのかわからず途方に暮れた。

 

「……そうが、説明せんと納得できんだろう」

 石倉は何か合点がいったのか、誰に語るわけでもなく言葉を呟き、視線を二人に向けた。

 

「俺は、身体を失って魂のみになった時、どうにか身体を取り戻せないかとそこらじゅうを彷徨(さまよ)った」

「今から半年前だったか、妖精を連れた男にあってな、まあお前たちの事だが……こいつらなら俺の体を取り戻せるかもと考えてな」

「コイツらって失礼ねぇ」

 言葉尻を(とら)えてサニアが噛みつく。

「まあ、最後まで聞け」

「なによ! 偉そうに」

 石倉はサニアを無視して話を続ける。

 

「それで、家まで尾行して確認したと」

「まあ、そんなとこだ」

 少しばかりの沈黙の後、サニアがそれを破る。

「でもさ、人の家に来る理由にはならないんじゃない」

「ああ、ドラゴンの話だ」

「昨日の奴か?」

「ああ、そうだ。あの古いビルに何らかの空間の歪みがあるのではと調べた」

 

 

「結果は?」

 信長の問いに石倉は軽く笑う。

「あのビルには理由は良く分からないが、歪みが起きやすい何かがあるようだな」

「たしかにあのビルは入ると嫌な違和感を感じる所だった」

 

「違和感と言っても色々ある。一つはそこの土地で争いがあり、術者がバフ・デバフなどを唱えてそれが残っている時だ」

「そんな長く残るもんなの?」

 サニアの返しに得意そうに返答を返す。

 

「ゲームじゃないんだよ、秒や分とかならかける意味ないだろ。君の相方の物は数時間位みたいだが、一流の術者なら年単位、神の領域に片足を入れているようなのだと百年単位だ」

 

「じゃあ、スピリチュアルとか呪いとか」

「ああ、運気が上がるとかスピリチュアルの土地とかはバフの残っている土地、呪いや嫌な感じはデバフの残っている土地であることも多い」

 

「基本魔法を唱えたものに対して味方ならバフ、敵ならデバフなのだが、かかる範囲の判定が難しく昔敵だった一族の末裔(まつえい)、逆に味方だった一族の末裔などなら分かりやすい方で、民族、思想、信じている神や精霊、果てには食べ物など色々あるので見分けるのが本当に難しい」

 石倉は苦笑し首を振った。

 

「そのバフデバフって解けるの」

 サニアの質問に首を傾け「大概(たいがい)は解除魔法が設定しているのだが、時間と共にほぼ失われていて、そういったものは自然消滅を待つしかない」と繋げた。

 

「次いで恨みなどの負の感情の呪いや逆に神や精霊、ご先祖様の祝福というヤツだな、呪いはそのきっかけを解決するほかないのだがこれがまた難しい」

「そりゃあ恨んでるくらいだからな、簡単に引っ込むようならそこまで念を残さないだろう」

 したり顔の信長に石倉は軽くうなずく。

 

「最後は意図するしないは差があるが、土地のバランスが悪く空間が歪みやすいところだ」

 

式神(しきがみ)や魔法陣のように人工的に歪みを作り異世界とのチャンネルを合わせる方法と、歪みやすい所からその歪みを利用してチャンネルを合わせる方法があるが、後者は自分で開いたものでは無いのでチャンネルを指定しにくい」

 

 イマイチ理解してなさそうな顔をする信長を見て石倉はたとえ話を出した。

 

「まあ指定の話はともかく、昔あった映画に例えると、自動車型のタイムマシンでニトログリセリンを使ってワープするのが前者、時計台に落ちる雷の力を使ってワープするのが後者と考えて貰えば当らずとも遠からずというやつだ」

 

「あ、やべ忘れてた」

「何がだ?」

「洗濯物取り入れるのをさ」

 

 信長は急いで洗濯物を取り込む。 天には薄暗い星々が、控えめに自己主張している」

「そういえば、お前」

 信長がツナギを(たた)んでいるのを見て「あの後また西田に言われただろ」と言ってきた。

 

 流石に何も言ってないにもかかわらず上司の名前が出てきたことに思考が追い付かず固まっている所を「お前は優しすぎるからな」と笑った。

「まあ、色々言われたかな」

 

 そう言う信長に対し「陰徳(いんとく)は分かりずらいからな。紀元前(きげんぜん)五世紀のことだ、今の中国に墨翟(ぼくてき)という人物がいた。彼は()(そう)に攻める準備をしていると聞くと楚に赴き王を説得した、戦争を止めさせるためにね」

「墨翟は王の目の前で自らの帯を解いて城郭(じょうかく)に見立て、模擬戦(もぎせん)を行い楚の重臣に九回攻めさせすべて防ぎ切ったのだが、楚の重臣が急に勝つ方法が分かったと言い出した」

 

「そこで楚の王はどういうことかを問うと、墨翟は『楚の重臣は私を殺せば守れるものがいないから勝てると思っている様ですが、もうすでに私の弟子たちが私の編み出した防御方法を携えて向かわせましたので無駄な事です』と答えて宋への攻撃を諦めさせたんだ」

 

「その帰り、大雨に降られ宋の城へ雨宿りをしに入ろうとしたのだが、衛兵に叩き出されて入れなかった」

「その時墨翟は『人知れず危機を救った時には人々はその功績に気付かない。大騒ぎすれば知られるのだが』と言った話がある」

 

「君が命を懸けてドラゴンと戦っていなかったら、あの地域はいずれドラゴンによって壊滅していただろう」

「君はそれを防いだ英雄であるのにも関わらず説教を喰らった……大方サボってただろうとか言われたんじゃないのか」

 

「よく……わかったな」

 信長の言いにくそうに話す姿を見て、サニアが目を伏せた。

「それは魂の時にお前の会社にも行ったからな、あの上司が言いそうなことはわかる」

 

 ここまで言葉を吐くと、石倉は疲れたのかうつらうつらと頭を傾け、しまいには寝息を立てはじめた。

「寝ちゃったね」

「疲れたんだろう」

 

 無理やり起こして家を追い出すのも気が引けて、今日はこのまま泊めることにした。

「ノブ、押し入れにブランケット入ってるでしょ」

「今出すよ」

 押し入れから出したブランケットを石倉の上に掛けると照明を落とした。

 

「サニア、メシ買いにいこっか」

「台所使えないもんね」

 

 外に出ると日中とは打って変わり、そよそよと心地よい風が体を撫でていく。

「ねえ、ノブ」

「何だ?」

「ノブはこのままでいいの?」

 サニアが言いたいことは分かっている。ただ先延ばしして逃げていることも信長自身が一番わかっている。

 

「サニア……平和な異世界ってあるのかな……」

「ノブ……」

 それも逃げなのか、それとも新たな門出(かどで)の挑戦なのか、信長は答えを出しあぐねていた。

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