異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~   作:クワ

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廃屋のウェアウルフ

「ふぅ」

 相変わらず叱られてばかりの職場から外回りと称して脱出し、一駅離れた場所にある喫茶店に入る。

 

 カランカラン

 優しく鳴る鐘の音が、信長を向かい入れてくれると、一番端のカウンター席へ腰かける。

 

「マスター、コーヒーお願いします」

 注文する信長に勝手知ったるとマスターはオリジナルブレンドのコーヒーを()れた。

 

「はい、お待たせ」

 優しい掛け声とともに目の前にコーヒーが用意され、湯気が香ばしい豆の匂いを運んできた。

 

「んー、いい匂いだ」

 

 カチャカチャ

 マスターがグラスを洗っている音を響かせている音をしばらく聞きながら頭の中を自分の赴くまま回転させた。

 

(このまま仕事を続けるか、転職するか)

 

(異世界にサニアと共に戻るというのも出来るならいいが、恐らく難しいだろう)

 

(いやいや、可能性はなくはない……が、前に行っていた世界と同じとは限らないよな)

 

「‼」

 コーヒーを啜りつつ考えをまとめているさなか、近くでちょっとした違和感が感じられた。

「マスター会計」

 カランカラン

 鐘の音を鳴らし外に出ると、自分の中で戦闘スイッチの音が聞こえたような気がした。

 

「あれだけ(いくさ)がイヤで戻ってきたのに、今は異世界に行くための(きざ)しを探すためにむしろ行きたがっている」

 

 早足で違和感の発生元に急ぐと、草がぼうぼうに生い茂った空き家が目に入った。

「ここか」

 その木造家屋は所々かべに穴が開いており、放棄(ほうき)されてからの時の経過を物語っていた。

 

 業者を装い建物に近づいてゆく。

 カララララ

 引き戸には鍵が掛かっておらず容易に開いた。

 

(おかしい! 鍵もそうだが、トビラが簡単に開きすぎる)

 

 ここまでの廃屋にもかかわらず、トビラが歪んでいないのはめったにない。

 中は思ったより薄暗くなく、窓から取り込まれた太陽光で部屋の中が照らされて大体の物の位置が判別できた。

 

「この奥だ」

 ワンドをズボンのベルト前側に刺し、口笛を鳴らし小太刀を取り出す。

 

「ガルルルル」

「犬? いや」

 ウェアウルフだ。

 

「敵は、素早く飛びあがったかと思うと上半身を突っ込む形で鋭い爪と牙を剥き出しにして襲い掛かって来た。

 バックステップで手の届かない位置まで飛ぶと、小太刀を振り下ろす。

 

「ギュアアアァァァ」

 ウェアウルフの悲鳴が上がると同時に、少し距離を詰めて二撃目を繰り出す。

 毛むくじゃらな腕が宙を舞い、ウェアウルフの目に恐怖に染まった。

 

「すまねぇな」

 横からの一撃で、狼の首が跳ね飛んで、胴体がドカリという大きな音と共に(ほこり)を舞い上がらせた。

 

「ゴホゴホ、すげえな」

 刀の血糊を炎の魔法で飛ばす。

「一応、石倉の所に連絡するか」

 

 スマホを取り出し、数行メールを打つ。

「送信完了」

 刀をしまい、現場をそのままに会社に戻った。

「めんどくさいことが無ければいいが」

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