異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~   作:クワ

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魔法少女石倉

 昼間におサボりしていた分、仕事が少しばかり残されており、誰もいない職場で粛々(しゅくしゅく)と仕事をこなす。

「ふぅ」

 正直、上司帰宅後の職場の方が気が楽ではあるが、あまり遅いとサニアの夕飯で問題が発生してしまう。

 

「さてと、もう一息だ」

 パソコンのモニター前にデカい障害物が入り込む……サニアだ。

「今日も残業? お疲れさまと言いたいんだけど……石倉さん、ノブのメール見た後に急いで出かけてったよ」

「えっ」

 現場に確認に行ったのだろうか、ちょっとばかり気になるので遠回りして見に行くべきか……。

 

「ノブ、気になるなら見に行こうよ」

 信長の様子から察して、サニアが助け船を出した。

「ああ、そうしよう」

 パソコンのデータをセーブして、電源を落とす。

 

「ちゃんと戸締りしないとな」

 職場から出てカギをかけると、駅へと向かう。

 

 仕事帰りのサラリーマンと幾人(いくにん)とすれ違い百均ショップに入る。

「どうしたの?」

「んー夜だから」

 大中小と懐中電灯三つと乾電池を買い込み店を出る。

 

「よし、これでOK」

 試しに電源を入れると三つともLED特有の眩しい光を放つ。

「明るいね」

「ほれ、サニア」

「何?」

 一番小さい懐中電灯をサニアに渡すと昼間の廃屋に向け歩き出した。

 

「ライトの魔法使えるんだけど」

「念のためだ」

 昼間の廃屋に近くなると、何故だか分からないが、そこに近づきたくなくなる気持ちが沸き起こる。

 

「なあサニア、この先おかしくない」

「うん、明らかに変な反応があると思う」

 不快な反応と格闘しつつ奥に進む。

 

「サニア、あと少しで昼間の廃屋に着く」

 やっと昼間の廃屋近くにまで到達したかと思うと、距離があるので詳しくは分からないが廃屋の前では石倉が何者かと戦っているのが見えた。

 

「ノブ大変」

「おう」

 信長はダッシュで駆けつけようと走り出して少し行ったあたりで速度を落とすこととなった。

 

「なんだ、ありゃ」

 石倉の相手は昼間のウェアウルフの仲間だろう三人ほどが散開(さんかい)してジリジリと距離を詰める体制を取っているのだが、問題は石倉の方だ。

 

「あれ、何の衣装だ」

「魔法少女?」

「少女? 中身オッサンだぞ」

「そこは、何も言わないであげて」

 

 石倉はコスプレというのかアニメから出てきたような服を着て、石倉が以前渡したエジプトで使われたような杖を使い魔法を繰り出しては相手の攻撃を避けそれを上手に繰り返し、かつて賢者と呼ばれていたのを信長たちに証明するかの(ごと)く戦っていた。

 

「すごいね、すごいけど……」

 サニアが言葉を濁すと信長もどう表現したらいいかわからずに押し黙った。

 

「何だか……石倉さん、ノリノリだよね……」

「ああ、それは間違いない」

 はたから見ると石倉がまるで何かを演じているかのように映り、大変そうな顔でさえ喜びに満ち溢れているように感じられた。

 

「どうしようかねぇ」

 苦笑いを浮かべる信長にサニアはため息をつく。

「一応助けたら」

「そうだよなぁ」

 

 あまりに楽しそうな石倉を助けるのを信長は迷ったが、気を取り直して助太刀(すけだち)に向かった。

 ヒュー

 口笛の音色と共に小太刀が手のひらに(おどり)り出ると、そのまま一番近くにいるウェアウルフに助走をつけた上段からの一撃を加える。

 ドサ

 相手はこちらに気付くことなしにそのまま床に突っ伏して息絶えた。

 

「ガリュルル!」

 こちらに一瞬気を取られた先頭のウェアウルフが火の玉に包まれて断末魔を上げたのは刀の振り下ろしたすぐ後だった。

 

 構えて最後の奴を屠ろうと動き出した時には、もうそいつが火に焼かれた後だった。

「え? 来たの」

「あ、ああ」

 しゃべり方まで変わった石倉を見て二人は顔を見合わせて何とも言えない表情になった。

 

 その顔を見て、石倉がいたたまれない顔を浮かる。

「さ、流石、石倉さんすごいですね」

 信長の困惑したフォローを受けた石倉は、星空に向け顔を上げて悲しそうな声を発した。

 

「たしかに魔法少女が小さな女の子用に製作しているのはわかっている。それを好きな自分が可笑しいのもわかっている。また娘を持つ親が警戒する感情もむろんわかっている」

「だが、俺が何か迷惑かけたか? 犯罪を起こしたか?」

「確かに迷惑をかけるやつも一般人より多いのは知っているし犯罪を起こした奴がいるのも知っている」

 

「だからって皆が皆犯罪を起こした訳では無いだろう」

「新宿などで女を酔い潰してお持ち帰り~なんてやってるやつの方がよっぽど問題だろうが」

「自分が理解できない、したくない物にレッテルを張り差別する、それが正しいのか」

「キモイ趣味とか第三者を気取って判別しているが、そもそのその目には透明なメガネじゃなく褐色のサングラスを着けて判断していないか」

 

「色がついているんだからおかしいって判断になるって当たり前じゃないか」

 石倉は視線を信長たちに向け、寂しそうな笑みを浮かべゆっくりと語り掛けてきた。

 

「どうやら君らとはその点は理解しあえないようだ」

「だが、気にしていない、そのような扱いには慣れているのもあるが、君たちが私のすべてを否定していないことはわかっているから」

 石倉は後ろを振り返る事なしに小道の中へと消えた。

 

「何か、悪いことした気分」

 サニアの意見に同意して相槌(あいづち)を打つ。

 

「……」

「どしたん?」

「なあ、サニア」

「ん?」

「片付け、俺やるの?」

「……うん、そうだね、がんばってね」

 そう言ってサニアは姿が見えなくなった。

 

「きたねえぞ! マジかよ」

 それから信長は人が来ないかビクビクしながら現場の片づけを行った。

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