異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~ 作:クワ
「ちくしょう!」
時計は零時を回り、あたりには人影なぞ当然存在しない。
終電もとうに出発しており、移動手段はタクシーしかないが、ウェアウルフの血の匂いが付着していると考えると使用するのは危険に思えた。
「歩いて帰るしかないか」
気楽な
「ジュースでも買うか」
あれだけの作業を飲まず食わずで行い、行っている内は空腹感など感じなかったが終わってしばらくたったら急に
「小腹も満たせるこれにしよう」
ピッ
ガタン
取り出した缶には『おかゆ・鯛エキス入り』と書かれている。
シュポ
「ングング」
「コーンポタージュ缶のコーンとか全部飲みきれないんだよなぁ」
案の定ご飯粒が数個缶の中に張り付いていた。
「もったいないが仕方がないか」
カララン
自販機の横にある空き缶入れに放り込み家路を急ぐ。
「あまり遅いと睡眠時間が無くなっちまう」
家に到着したのはそれから一時間位後の事だった。
「やっと帰ってこれた」
鍵をかけ家に入るも中には誰もいなかった。
(サニアは帰って来てないのか)
そのまま雑に服を脱ぎ捨てると浴室へ向かった。
ササッとシャワーを済まし、ポテトチップスをお茶で流し込み、歯を磨いてベッドへ足を進めた。
「あれ、何だコレ」
テーブルにはパソコンでプリントアウトした用紙が百枚ほど束で置かれていた。
「
石倉の顔が浮かんできた。
「……」
(今度会ったら謝っとくか)
久しぶりの孤独な寝室はとても広く感じ、解放感と共に寂しさが襲ってきた。
(寝ねえと)
目覚ましをセットして布団を被った。
「……」
チュンチュン
ジリリリリ
「んー」
寝ぼけ眼で目覚ましを止める。
(サニアは戻って来てないのか)
タペストリーに目を向ける。
「おっとマズい遅刻しちまう」
スーツを取り替えるのに手間取って朝食を食べずに家を出た。
「おはようさん」
「ああ、おはよう」
通勤途中に偶然前を歩いている東島にすれ違いざま声をかけられた。
「おっ佐藤、クリーニングから戻ってきたん?」
「俺にどんだけ夢中なんだよ」
「アハハ、ウケる、夢中ってなんだよ?」
「俺の事、気にしすぎじゃねぇ? 着てるスーツなんてどうでもいいじゃん」
「まあ、どうでもいいけど、ファッションとかにうるさいのよ、基本」
「植松〇士かよ! 芸能人とかチェックしてくれよ」
「それは基本チェック済みっしょ」
信長は腕時計を指さし「このままじゃ遅刻になるぜ」と声をかける。
「アハハ、大丈夫だって、説教聞けばいいだけじゃね」
「俺はそうはいかねえんだ」
東島と違い課長に好かれていないため、ここで失点すると後々めんどくさい。
「確かに、ウケる」
いつも通り手を叩いて笑っている東島を尻目に声をかけて急ぎ会社に向かう。
「後で会社でな」
「ウケる! ほうら、走れ走れアハハハ」
始業時間ギリギリに滑りこむ信長に対し、東島はしばらくおいてからゆるゆると職場に入って来ると西田に向かって「混んでて遅れました」などとしれっと話した。
「お前なぁ~~」
怒る西田に対し東島は馬の耳に何とやらばかリに聞き流し、さすがの西田も呆れ「とっとと仕事に戻れ!」と怒鳴り説教は締めくくられた。
(あれくらい図太けりゃ楽なのかもなぁ)
仕事を終え、帰宅をするとサニアが退屈そうにタブレットを操作して何かしらの映像を見ていた。
「ただいま」
「あっお帰り」
こちらをチラリと確認するとタブレットを投げ出し羽をぱたつかせて飛んできた。
「腹減ってないか」
「うん、ちょっと……」
信長はサニアの歯切れの悪い返答を聞いて、何か隠し事をしていると感じつつも気付かない素振りで夕食を作った。
「あ、焼うどん」
いつもは食い意地の張ったサニアなのだが、今日は勝手が違うようでまったく手を付ける気配が無い。
「今日は違うものを食べたかったのか?」
「ううん、そうじゃない」
サニアはかぶりを振った。
「早く食べないと冷めるぞ」
ちゅるちゅる
麺を
「ノブ、昨日は……ゴメンね」
申し訳なさげにサニアは俯いた。
「気にするな、サニアには色々助けてもらっているからな」
「そんな助けてる?」
「ああ、色々愚痴を聞いてくれてるし」
「うん、ありがとう」
「お互い様」
心配げなサニアの顔に笑顔が戻る。
「美味しい」
すでに食べ終わった信長は、焼うどんを美味しそうに頬張るサニアを愛おしく眺めていた。