異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~ 作:クワ
「こんばんはだニャン」
くりくりとした丸い眼をこちらに向けながら穏やかそうな笑みを浮かべている猫を見ながらサニアは恐れおののいた。
「い、いや~妖怪よぉぉぉ」
猫はなおも不思議そうにサニアの見つめている。
「お前だって妖精だろ」
「え、あ、そっか」
信長に指摘されて、そこで自分も普通の存在ではないことに気付いたサニアは、ちょっとばかり猫に親近感を持ったのか羽を休めて地面に立ちおっかなびっくりながらも語り掛けた。
「あんた、どっから来たの?」
「場所は良く分からないニャ」
「うーん、じゃどうしてウチに来たの?」
「お社を作ってもらったから来たにゃ」
「……お社?」
サニアは視線を天井に向け何事かを考えだした。
「サニア、この猫は俺が図書館で本に挟まれてる符を触ったら意思を
「どういうこと?」
「どうも小さな社で祭られていたみたいでさ、飛ばされた時はまわりは竹林だったかな」
「そんな場所どこにでもあるじゃない」
「ああ、だから分からないのと、それが五百年前だって言っててさ、今はもう朽ち果ててしまったらしい」
「なんなのよそれ」
呆れたサニアに変わり信長は猫に語り掛けた。
「言われたご神体だけど、こんな感じでよかったのか」
「うん、大丈夫にゃ」
「それなら良かった」
落ち着きを取り戻すと、玄関に荷物を置いてきたことを思い出して取りに向かった。
「サニア、弁当温めるぞ」
「うん、お願い!」
サニアはどうも猫は危害を加えなさそうと思ったらしく、まるでお姉さんのようにコミュニケーションを取り始めた。
「猫ちゃんは何て名前なの?」
「にゃあ? 名前?」
「そう、名前」
「うー分からないニャ」
「うーん、困ったわね」
「名前が分からないなら何て呼べば……」
「困るのかニャ」
「名前が無いと呼べないでしょ」
「それもそうニャ」
「――そうだ、とりあえず白猫だからシロにしましょ」
「安直だなぁ」
「なによ、ノブ、文句あるの!」
「特にないけどさ」
「じゃあ、いいじゃない」
「――ならっ尾っぽが分かれているからシロワカってのはどう」
「いいんじゃない! アンタシロワカよ」
「にゃあ? シロワカ?」
「そう、アンタの名前、思い出すまでの暫定的なものだけどね」
「わかったニャ」
チーン
電子レンジが終了のチャイムを鳴らすと、サニアがすっ飛んでテーブルまで来た。
「何だニャ?」
シロワカは器用にイスに飛び乗り、そこからテーブルへとジャンプした。
「テーブルに土足で乗っちゃだめよ」
キョトンとしたシロワカにサニアが注意したのだが、当然意味が通じる事なくシロワカは
「私、焼肉ぅ!」
「じゃあ、俺は幕の内だな」
弁当の蓋を開くと美味しそうな匂いが家の中に立ち込める。
シロワカの物欲しそうな目線が弁当に注がれる。
「ニャ」
二人へと視線を動かしフンフンと鼻を鳴らす仕草をしだした。
「めちゃアピールするね、この猫」
「……ああ」
信長は
「ありがとニャ」
「……しょうがない、私のもやるか」
サニアは非常に不本意だという表情を隠さず、肉を数切れ蓋に乗せる。
「こっちもありがとニャ」
「サニア」
「……なによ、こっちは肉とのお別れで心の折り合いをつけてるの!」
「お菓子、買ってきたぞ」
「え、ホント! ラッキー」
小さな不機嫌が一気に回復し、上昇してゆく。
(買ってきておいてよかった)
「アンタ、お社に住んでたってことは神様かなんかなの?」
「おっ、おいサニア」
「わからないニャ」
猫は困ったような仕草をして、そう答えた。
「シロワカは記憶が無いのかい?」
「うーん、ところどころ覚えているんにゃけど……」
シロワカはどうも嘘は言ってないようで、本当に困った声で鳴いていた。
「そういえばノブ」
「うん?」
「借りてきた本に挟まってたんでしょ? 何か本に手がかりとか無いの」
「うーん、どの本に挟まっていたかよくわからないんだ」
落とした五冊の中に挟まっていた本があるのは確かなのだが、それがどれなのか、またどのページなのかがわからなかった。
「シロワカは、どの本に挟まっていたか覚えてる?」
「わかるわけニャいでしょ」
「まあ、挟まっていたら見えないもんね」
サニアは
「うーん、挟まってる本とページが分かれば、もしかしたら前の人が調べたシロワカの事が書いてあるかもしれないじゃない」
「適当に挟んだ可能性もあるよ」
「そうだけどさ、可能性はあるじゃない」
そう言って本を開いて読み始めた。
「んー重い!」
サニアがその分厚さから重たがっている本を含め、五冊とも日本や世界中の神話などが書かれた本であり、当然内容はお堅く読みにくい。
「ちょっとサニアいいかい」
「何?」
「シロワカは日本の神だか妖怪だかなんだよな……だったら」
「そうね、日本のを中心に見ていくね」
遅い時間から調べたこともあり、結局その日には答えが導き出せなかった。