異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~   作:クワ

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邪気を纏った女

 サアアア

 

「今日は一日雨か」

 窓から外を眺めると滝のような雨が降り続いている。

 

「はあ、会社行きたくねぇ」

「じゃあ、休めばいいじゃん」

 

 サニアはタブレットの動画を見ながら適当に返す。

「軽く言うなよ、プリン食えなくなるぞ」

「それはダメ。行ってらっしゃい」

 現金な奴だ。

 

「雨はいつまで降ってるか調べてよ」

「ヤダ、めんどくさい」

「タブレットですぐだろ」

 サニアはぶつくさと文句を言いながらもしらべて「一日雨だって」と教えてくれた。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 再びタブレットの動画を見始めて、生返事を投げてきた。

 

 いつもより人が多い通勤電車を降り、改札を出るころには雨が段々と小降りになってきており、夕方には上がりそうな気がした。

 

「またか」

 通勤途中の雑居ビル。

 外装を塗りなおしてはいるのだが、かなり年季の入った建物特有の雰囲気を醸し出している。

 それもあり、嫌な気配や雨などと相まってそこには近寄りたくなかった。

 

(雨も降ってるし、仕事もあるから帰りにまだ気配がするようなら寄ろう)

 そう決めて会社へ急いだ。

 

「東島ぁー、サンドイッチ買ってきて」

「えー、何で俺なんすか、おかしくね?」

「おかしくね? はないでしょ」

「えー」

「とっとと行ってきて」

「うひひーーー」

 

 二人のやり取りを聞きながら、一段落したところで昼食を取ろうと立ち上がる。

 

(今日は何を食べようか)

 踊り場から見える道路には、歩行者の姿がまばらに映り、そのすべてが傘をさしていなかった。

「雨は止んだみたいだな」

 信長は会社の入り口から手を伸ばして再度確認する。

「やっぱり傘なくって大丈夫」

 

 そうなると少し遠出をしてみたいと考えるようになる。

(うん、今日はそばの気分だ)

 駅前の立ち食いそば屋へと足を向けた。

 

 キィィィィ

 油の足りない(きし)み音が出るトビラをくぐると目の前にあまりきれいとは言い難い(いいがたい)カウンターがある。

 食券を買い、店のおやじさんに手渡すと、「あいよー」という威勢(いせい)のいい声と同時に麺をゆで始めた。

 

 信長は、ポケットからスマホを取り出し、おもむろにロックを解除した。

「どれどれ……」

(‼)

(なんだ! この感覚は‼)

 

 いつもとは比べ物にならない嫌な気配をひしひしと感じて、気取られぬようにそれとなく相手に視線を向ける。

「……」

 年齢的には三十前後だろうか、姿かたちは白いフリルのついたスカートの上下を履いているような女性なのだが、明らかに(まと)っているオーラが違う。

 

(ほぼ邪気だな)

 ただ、今までと違うのは巨大化もしていないが、立ち食いそば屋に入って来るのは違和感がある恰好(かっこう)ではある。

 

 サラリーマンなら女性でもスーツまたは会社の制服、そうでない女性でももっとカジュアルな格好で来るだろう。

 なにせ立ち食いそばだ。

 

「へい、おまち」

 おやじさんに出されたそばをすすりながら、頭の中を整理するが、経験上イヤな事しか考えられない。

 

(あの時は、変装が上手い魔物だったよな)

 

「ごっちそうさん」

 器をカウンターに戻し急ぎ足で店を出る。

 

(そういえば、朝の雑居ビルは……)

「えっ」

 雑居ビルの前には救急車が止まっており、そこを人たかりが幾重にも囲んでいた。

 

「はいはい、通してください」

 ウィーン・ウィーン

「何が起こったんだ?」

 パトカーのサイレンが近づいてくるのが聞こえてきたのと同時に人たかりをかき分け警察が出てきた。

 

 道すがら近づいてみるも、警察が規制線を張るのに邪魔なようで、別の警察の誘導もあり車道まで追い出されてしまった。

 

 昼休憩を終えて会社に戻ってみると、明らかに様子が違った。

 そのころになると、上空をヘリコプターが飛ぶ爆音に(さら)され、もはや業務出来る状況ではない。

 

「殺人事件ですって」

「ホント怖い」

「さつ……じ……ん?」

 立ち食いそば屋での嫌な気配の女性を思い出す。

 

(いや、偶然いただけで関係ないかもしれない)

 頭を切り替えて机に戻るも。

「課長、今日は怖いので帰ります」

 北口がそう宣言して帰り支度を始めると、まわりの者たちも動揺をきたした。

 

「確かに、犯人は逃亡中だし、夜になると危険なので帰れるものは早めに帰りなさい」

 そう言って西田も帰り支度を始めた。

 信長はパソコンのスリープを解除すると、仕事の続きを始める。

 

「お先失礼します」

「おつかれーす」

 

 みなの帰宅の挨拶の返事を適当にしつつ作業を進めていると西田が声をかけてきた。

「おまえはさ、普段は遅刻するくせに今日みたいな日に限って仕事してるって変な奴だな」

「課長、仕事の切りのいい所まで終わらせたいので」

「まあ、いいけどよ、無理はするなよ」

「ありがとうございます、あと少しなので終わったら帰宅します」

「おう、無理するなよ」

 

 流石の課長も今日ばかりは後ろめたさもあってなのか信長に優しいことはを一つばかりくれて帰っていった。

 

「なんか休日出勤みたいだな」

 まだ午後三時前だというのに、フロアは誰一人おらずがらんとしている。

「うーん」

 信長は伸びをした後、窓際に進み外を眺める。

 

 目下、警察官やパトカーの数は先ほどより増えて、忙しそうに走り回っている。

 

 コツコツコツ

 ハイヒールが奏でる協奏曲(きょうそうきょく)がすぐ後ろまで迫ったかと思うと、歩みを止めたのか静寂(せいじゃく)に包まれた。

(さっきの女性だな)

 窓ガラスに写された姿を見ると、先ほどと変わりがなかったが、一つ違う点は邪気のような違和感が感じられなかったことだ。

 

「殺人事件があったようだが、あなたが係わっているのかい……」

 女性はその問いに答えることなく、信長から視線をそらさずに口を開いた。

「アンタ、異世界帰りだろう」

(!!)

「ねえさん、何者だい?」

 信長は体を傾け右手をポケットに突っ込みワンドを握る。

 

「はは、俺も異世界帰りだからな」

「えっ」

「今日は、妖精は一緒じゃないのか?」

「……」

 

 コチラに帰ってきて以来今までサニアの事が見えていたやつに会ったことは無い。

「お前は、ナニモンなんだ?」

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