異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~ 作:クワ
ある日の夜
「こっ、これは!」
石倉がある番組が流れると目を皿のようにして見入った。
「その番組がどうかしたの?」
サニアが不思議そうに首を傾げる。
なんてことは無い時々忘れた頃にやっているエジプトの特集の歴史番組が流れていた。
「昔は古代エジプトブームがあって、よく流れていたなぁ」
信長の言に一切答えず、真剣なまなざしで見続ける石倉。
(こりゃあ……何かあるな)
「ねえ、ノブ?」
「ああ、異世界が関連しているのかもな」
声をかけるのを止め一緒に番組を見続けた。
「この博物館では――」
芸能人が大げさなリアクションで視聴者に向けて色々と説明をしてゆく。
「博物館の名は?」
石倉の独り言が小さく二人に伝わる。
王家の谷は数々の王墓があり、その王墓はほとんど盗掘の被害を受け――ツタンカーメンの王墓以外は……。
「……」
「アイツは神官ではなかったのか?」
アナウンサーと芸能人が手を振り、エンディングロールが上から降って来ると、ようやく石のように微動だにしなかった石倉が動き出した。
「エジプトに行ってくる」
そう言って石倉は隣近所のスーパーに買い物にでも行くような軽さで家を出て行こうとする。
「ちょっと待てよ、エジプトだぞ。飛行機に乗らないといけないぞ?」
「ああ、そうだな」
信長の言葉に石倉は適当に相槌を打つ。
「パスポートは?」
「無いな」
「取るにしても、アンタしばらく行方不明だったじゃないか?」
「そうなると難しそうだな」
石倉は瞳孔を左上に上げて思考を開始した。
「信長君はパスポートを持っているのかな?」
「俺? 一応取ったことは取ったけど」
石倉は何を思ったか信長にパスポートの有無を聞いて来た。
「まさか、ノブに憑りつくつもり?」
サニアのセリフに石倉は笑いながら首を振る。
「お前らは、俺が移転の呪文を使えることを忘れたのか?」
二人は昔の記憶を手繰り寄せ、そういえばと思い出した。
「俺は鉄砲玉か」
「この場合は鉄砲玉ではなく先陣だな」
信長の自虐に石倉は顔色変えずにツッコミを入れる。
「そういう問題じゃ……」
「君は会社を辞めたのだろう? 時間は自由ではないか」
「お金は自由ではないケドね」
サニアがさっそく文句を突っ込む。
「はは、気にするな。金ならある」
「それ……人の金じゃん」
「そにょお金は樋口にゃんから頂いた大切なお金だったはずにゃん」
「私が体を失った時、貯蓄が全くなかったと思うか?」
「さあ、どうだか」
(まあ、異世界へ戻る手がかりなら仕方がないか)
信長は諦め、旅行の支度を開始しだした。
成田空港
ここからカイロ行きの直行便が出ている。
「飛行時間はおおよそ十四時間らしい」
空港の窓から見える朝日が目に刺さる。
準備自体はこの手の観光旅行に慣れていない分いくぶん手間取ったことは確かだ。
「インターネットで予約をして……当面の宿の手配をして……」
石倉たちと回るのでツアーという訳にはいかないし、ガイドも雇えない。
石倉にそのことを伝えると「わかった、調べておく」と軽く答え、冊子やら本やらを買いあさって調べてはいた。
(まあ、基本頭のいい人なので、どうにかしてくれるだろう)
「カイロ行き、国際便は第一ターミナル……」
「さてと、行くか」
信長はゴロゴロと鳴くカートを引き連れ歩き出した。
「次のお客様。こちらへ」
「お願いします」
チケット、パスポートをやり取りし次へ。
「お荷物をお預かりします」
入国管理局の職員の鋭い眼光が信長に視線を合わせる。
(フッ、今は武器は持ち合わせていないんでね)
適当な座席に腰かけ、電光掲示板に向け視線を上げる。
「フライトは後三十分と行った所か」
滑走路を見ると、色とりどりの鳥が巣の中に頭を入れてエサを食べているように感じる。
「どれに乗るんだろう?」
係員の案内に導かれ搭乗口を潜り、指定された座席に腰かける。
「――よき空の旅を」
鈍重な飛行機がゆっくりと滑走路に向かい走り出すと、少しばかり緊張の空気が張る。
滑走路に出て速度を上げると、窓から見える風景が流れるように後方に過ぎ去っていき、ガクンと揺れたかと思うと今度は風景が下方に向かって流れて、しまいには視界に写るのは青空のみとなった。
「ここからは……」
張り詰めた空気が和らぐ。
「しばらくの間、サヨナラだな」
飛行機は飛んで行く、そうエジプトへ向けて。
カイロ国際空港に機体が滑り込むと、信長は機内放送に従い大地に降り立つ。
「何か気のせいか喉が渇くな」
空港のカウンター荷物を受け取ると手続きを済ませ、空港を後にした。
「さて、今日の宿だな」
街並みにモスクが溶け込みそれを高層ビルが見下ろす。
「博物館は、石倉さんが来た後でいいか」
とりあえず予約した宿に入り、窓口の女性に声を掛けた。
「ソーリー、予約したノブナガ・サトウですが」
スマートフォンの予約表と英和翻訳で会話を進める。
「二人ではないのですか」
「もう一人は飛行機に間に合わなくて、ドバイ経由のチケットが取れたとの事で恐らく明日来ると思います」
「それはそれは、ではその方は明日会うことを楽しみにしておきます」
「ありがとう。今日は私だけなので、よろしく」
「かしこまりました」
女性はニコリと笑うと部屋のキーを渡してくれた。
そのまま部屋に突入すると、ベットに身を投げ出す。
「ダメだ、疲れてなにもやる気が起きない」
慣れない飛行機に疲れは極限まで高まり、目を瞑ると睡魔に夢の国へといざなわれた。
次の日、人気のない路地裏の一角に陣取ると石倉に電話を掛けた。
プルプルプル
プルプルプル
「あ、信長君か?」
電話のコールが数回鳴ると石倉の声が聞こえた。
「はい、昨日カイロで一泊して、今路地裏で電話してる」
「わかった、すぐに準備する」
「えっ?」
「待たせたな」
すぐ後ろから聞きなれた声で話しかけられると流石に驚きビクンと軽く飛び上がった。
「なにを驚いている? 君がこれを見るのは何回目だ」
「へーここがエジプト、なんか面白い」
サニアがふわふわとあっちでもないこっちでもないと飛び回っている。
「あれ、シロワカは?」
「留守番をするそうだ」
案外気を使ってくれたのかもしれない。
「ところで、石倉さん」
「なんだ」
「あれ、エジプト人にも姿、見えねぇよな」
信長が親指ではしゃいでいるサニアを指し示すと石倉はそちらに視線を向け「見えんよ。日本人とかエジプト人とか関係なしに普通の人間には見えない」と断言した。
「チョット! あれ扱いはひどくない?」
どこで聞いていたのかサニアが言葉尻を捉え文句を言ってきた。
「ああ、わるかったよ」
「もうっ」
ほっぺたをぷくっと膨らませ、軽く怒っているサインを出して信長に絡んだ。
「悪かったって」
「ホントに?」
「ああ、ホント」
「なら、許す」
それを見て石倉は呆れたまなざしを二人に向けた。
宿に戻り石倉の荷物を置くと、テレビで映っていた新しい方の博物館へと向かう。
「なあ、そろそろ目的を教えてもらってもいいだろ?」
信長の言葉に石倉は軽く首をひねる。
(これゃあ、教えてくれそうにねえな)
博物館に入ると、早足で展示物を見回ってゆく。
「これじゃない」
「ここにもない」
その鬼気迫る様子に信長とサニアは言葉を失いつつ、仕方なしについてゆく。
「あった、これだ!」
石倉が足を止めたのは一枚の石板だった。
「ノブ」
「ああ」
石板からは魔力の反応がある。
石倉と信長は石板を色々な角度から写真に収め次へ進む。
次は神をかたどった像の足の下だ。
それも写真に収める。
その後もレリーフ、オベリスクなど魔力を宿したものを写真に収め続けた。
翌日は旧博物館に行くもこちらは空振りだった。