異世界から戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~   作:クワ

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伊達に賢者と呼ばれてない?

「このタイプは、マリーカッターで流行ったタイプだな」

 

 コツコツコツとハイヒールの音が鳴る。

 

「当時ゼ〇の使い魔やら色々カッターの影響を受けた作品がでたよなぁ」

「個人的にはさ〇らタンが使っていたようなスタッフが好きなんだが……」

 

 そののんびりとした声がドラゴンの気に障ったのか入り口に向け炎を吐き出した。

 

「石倉さ……、なぜここに」

 石倉がワンドを軽く振ると、上位クラスが操るような炎の呪文が飛び出し、ドラゴンの吐いた炎に衝突した。

 

「フン」

 

 石倉が聞いた事も無いような魔法の詠唱を歌謡曲を歌うように唱えると、ワンドの先が真っ赤になったかと思うと煮えたぎるマグマがドラゴン向けて噴き出しドラゴンの炎をいとも容易く貫通しドラゴンに迫った。

 ドラゴンは大きく息を吸い込み今までにない程の大きな炎を吐くも石倉のマグマに蹴散らされ、そのオニキスの目がマグマを捉えたのは己がそれを被る直前だった。

 

 ジュッ

 肉を焼いた香ばしい匂いが部屋中に漂うと、身体の半分以上が高温によって溶けたドラゴンがゆっくりと床に倒れた。

 

 先ほどまで生命を宿(やど)していたと主張するように。

 

「悪い杖ではないな」

 石倉が差し出したワンドを信長が受け取ると、石倉はニヤリと笑う。

 

「苦戦してたな。刀はどうした」

「あれは大きすぎて誤魔化して持ち運ぶのに苦労する」

「ああ」

 石倉は感情を表すことなしに言葉で(うなず)く。

 

「すまない助かった……ところで何で分かったんだ」

 その答えに石倉は(あご)でドラゴンを指し示し「あそこまでデカいのの発する瘴気(しょうき)は日本ではそうそうないだろう」と答えた。

 

 石倉はドラゴンの亡骸(なきがら)に近づくと右手を差し出し魔法を唱えると、その亡骸はぬいぐるみ程の大きさに縮小してその手のひらに収まった。

 

「そういえば、火災報知器(かさいほうちき)が鳴らなかったなぁ故障かな?」

「ああ、スイッチは切っておいた」

 石倉は顔をこちらに向ける事なしに、部屋を調査しながら答えた。

 

 信長でも石倉のレベルが桁違いな事と用心深く先を見越していることに驚きと畏敬(いけい)の念が湧き上がってきた。

 

「なぜ、炎の魔法を出したんだ、あそこは弱点の……」

 信長が言い切る前に石倉は手で制す。

 

固定概念(こていがいねん)にとらわれるな、世の中は個体、液体、気体で成り立っている。そこに例外はほぼ無い」

「例えばこの鉄」

 先ほど投げ捨てられた鉄パイプを拾う。

 

融点(ゆうてん)が1538度、沸点(ふってん)が2862度この温度で状態変化が起こる」

 

 石倉が先ほどのマグマの呪文を唱えると、パイプは(やなぎ)のようにグニャリと折れ曲がり、その発する熱量を確認することができた。

 

「人間は氷点下(ひょうてんか)では凍死(とうし)する、しかし白熊ならどうか、あいつらは氷点下の海を平然と泳ぐ」

 段々石倉が早口になっていく。

 

「だが、マイナス100度ならどうか、普通に凍死する」

(よう)は何が言いたいかと言うと、生物によって凍死、焼死(しょうし)の温度の差は種別によって色々ある、がどんな生き物でも一定以上の温度変化が起これば死ぬのだ」

 

「それは、下手に弱点を突くより、自分の得意な魔法で相手の生命維持可能(せいめいいじかのう)な温度を超える攻撃を加えろという事か」

「ああ、そうだ」

「うーむ」

 信長は(うな)った。常識(じょうしき)から考えるとなかなか受け入れられるものではない。

 

「お前はRPG(ロールプレイングゲーム)をやったことがあるか」

「まあ、それは人並(ひとな)みに……」

 そう言って頭を掻いた。

 

「5個の能力に10の数字を各能力に振り分けるとする、平均に振り分ければ2だ」

「まあ、そうなるな」

「1点豪華(ごうか)にして8を振り分けたとする、その分野だけ彼は平均に振り分けた者が何年も努力した才能をその時点で身につけている事になる。 同じくらい努力の時間をかければ、その差は当然広がる」

 

「それにな、重要なのは人が皆、10振り分けられるわけではないという事だ。 人によっては才能が足りずに5しか振り分けられない者もいる」

「才能が無い人間が秀才(しゅうさい)天才(てんさい)と争うときはその分野では互角(ごかく)に戦える分いいという事か」

 

 信長の言葉に石倉は満足そうに「そうだ、よく気付いた」といって褒めてくれた。

「ただ、才能だけではないのは頭に入れといたほうがいい」

 

「どういうことだ」

「人間基準でも白人のパワー、黒人の瞬発力(しゅんぱつりょく)、黄色人の持久力(じきゅうりょく)とそれぞれ特徴がある。人間ですらそうなのだから、ましてや魔物や精霊になると人間同士よりもその能力に差がある」

「それは、経験上分かっている」

 

 石倉は信長の返事に反応せずに入り口に向かって歩き出す。

「帰りに刀を仕舞い込んだ場所に案内するといい、どうにかしてやる」

「時間は大丈夫なのか?」

「職場が閉鎖されているからな、いくらでもある」

 石倉はそう言って振り返る事もなしに歩き出す。

 

「わかった、下に車がある、それで移動しよう」

 皮肉を吐く石倉にロッカーへの案内をするために、頭の中の点と点を結び合わせてルートを確定する作業に入った。

 

 バン

 軽のワゴンのドアを閉めるとシートベルトをしてエンジンを始動(しどう)する。

「ところで、俺の経験だと今までそこらの生物が巨大化しただけで異世界のドラゴンが移転してきたのは今までなかったんだが、石倉さんは経験あるか?」

「いや、無いな。だからこそ非常に興味深い」

 

「あの大きさの生物が生きたまま通過できたのなら、当然人間も出来ると考えていいのか?」

「ああ、ただ先ほども言った通りに耐えられる環境には種族差がある、ドラゴンなら耐えられても人間には耐えられない可能性もある」

「……」

 

 ロッカー近くのコインパーキングに車を止めるとシートベルトを外しながら石倉に声をかけた。

「すまないが、ここで少し待っていてくれ」

 

 信長は早足でロッカーまで向かい、仕舞っていたすべての荷物を抱え戻ってきた。

 

「これが愛用の小太刀だ」

「うむ、分かった」

 信長が持ってきた荷物に何気なく目をやった石倉が、目を見張る。

 

「おい、これ!」

 一本のスタッフを持ち上げて興奮のあまり大きな声を出した。

「それは……」

 戦場で拾ったもので使えそうだから持って帰ってきたものだった。

 

「そのエジプトのファラオが持ってそうなスタッフがどうしたんだ」

 白い杖の先端には同じく白みがかった宝石に鳥をあしらった美しい彫刻(ちょうこく)が施されており、それ自体は素晴らしいのだが、いざ使うととても嫌な感じがする物でもあった。

 

「その杖は使うとなぜか魔力を吸い取られるというか、なんというか……」

「当然だ、呪われている、いや、呪いではないな、霊だな……体液が付着するものに霊力は宿りやすい」

「それは戦場で拾ったものだ……しっかり洗ったんだが……」

「そういう問題ではない! なあ、このスタッフを俺にくれないか、どうせ君には除霊できないだろう」

 

 相も変わらず興奮気味に失礼なことを言う石倉に対し、先ほど言っていた小太刀を携帯できるようにしてくれるならと条件を付けた。

「ああ、構わない、すぐやろう、さあやるぞ」

 

 石倉に促され、小太刀を左手に持ち腰のあたりに当てる。

「アールンーダナー……」

 石倉の詠唱が終えるとまわりを見回しても始めから存在しないかのように信長の手から小太刀が消え失せていた。

 

「どこにやった?」

「刀を頭に思い浮かべて口笛(くちぶえ)を吹け」

 信長は胡散臭(うさんくさ)いと感じながらも口笛を吹いた。

 すると、左手に小太刀が握られているではないか!」

 

「これは、スゲエ」

 今度は信長が驚く番である。

 興奮する信長を尻目に石倉は独り言を呟いている。

 

「この杖はいい、サイコーだ! さ〇らタンの持っている物に瓜二(うりふた)つだ」

 

(……これ、触れない方がいいヤツだな)

 そんな信長を尻目に石倉は急に体をよじって動き出す。

「俺はここまででいい、帰る」

 そう言ってシートベルトを緩める石倉を引き留め何点か質問した。

 

「なあ、これって魔法が切れる期限とかあるのか?」

「無い、お前が死ぬまでだ」

 話を早く切ってさっさと帰りたい石倉にまたも質問をする。

 

「ひょっとして、杖とかの荷物、身体と一緒にどっか行ったままなのか」

「ああ、そうだ」

 めんどくさそうに対応する石倉に、今後の事も考え少し腹を立てながらも使わない魔法用具を分けてあげることにした。

 

「まあ、無くても平気なんだが……あれば多少は助かる」

 そう言って興味なさげに束になって布袋に入っている一本のロッドを取り上げ目の前にかざす。

 

「プリ〇ュアだ……」

 その星形の宝石が先端についたロッドを素早く(ふところ)にしまい、先ほどとは打って変わりにんまりと嬉しそうに笑う石倉にどう対応していいかわからず残りの物を適当に押し付けた。

 石倉はリングやネックレスなど欲しいものを何点か受け取りココロそぞろに車から降りる。

 

 少し歩いたあと何かに気付いたのかクルッと振り返り「また近いうちに会うだろうが、お前も今後の事を深く考えた方がいい」と言ってこちらの反応も待たずに行ってしまった。

 

「相変わらずだな」

 車を会社の駐車場に止めると、空は茜色に少しずつ黒を足していった色に変化していっていた。

 

「随分と丁寧に仕事を行っていたみたいだね」

 西口の嫌味がこれでもかと炸裂する。

 

「うちの会社ももうちょっと車を買ってくれれば良いんだけどねぇ~」

「なんだかね、今日も足りなかったみたいだしねぇ」

 

 西口のいつもの机トントンが始まった。

「今日の見回りは三件だけだったよねぇ」

「はい」

「なんだか時間かかりすぎじゃないの? トラブルでも起こった?」

 

「三件目のビルでちょっと……」

「なにがあったって言うんだい? 警報の連絡とか受けてないけど」

 

 さすがにドラゴンの事は言えないので誤魔化すことにする。

「いえ、私が、脚立から足を滑らして、しばらく立てなかったんです」

 

 そう言って頭を掻く信長を侮蔑(ぶべつ)の笑いを浮かべながら眺めて「ははは、確かにホコリまみれだねぇ」と馬鹿にした口調で吐き捨てた。

「申し訳ありません」

「あっこれは聞かなかったことにしておくよ。労災(ろうさい)とか申請(しんせい)されると監督責任(かんとくせきにん)とかめんどくさいし」

 ちょっと困った顔をした西口はそう言ってため息を一つついた。

 

「お疲れさん、帰っていいよ、ちゃんとツナギ洗っとけよ! 汚い格好(かっこう)でウロチョロされると迷惑だから」

 手でシッシと犬でも追い払うような仕草をして目の前から信長を追い払った。

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