胡の地より   作:遼心

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海陵王の軍が近づいていても、胡土児は冷静だった。それよりも胡土児は、候真が携えてきたものに心を奪われる。それは胡土児が胸の奥にしまい込んでいた何かに、触れた。


第九話 友の書

「俺も退屈だったのよ。昔の致死軍は肌がひりつくような任務が多かった。南宋の青蓮寺があったころは、闇の組織同士の暗闘もあった。だが最近じゃ麦の買い付けなんて商人の真似事もさせられたのだ。俺は昔、楊令殿を探しに武松殿、燕青殿と北へ旅した。その時二人から、死すれすれの鍛錬を受け身に付けた体術が、徐々に腐っていくのではないかと思ったよ。梁山泊がなくなった後、俺はこの半生で気になる奴に会いに行くことにした。それで」

「こんな北の大地に来てしまったのか。もの好きだなぁ」

「お前、緊張感ないな」

「じたばたしてもしょうがないだろう?蒙古にも逃げ場がないなら、戦うだけだ」

「何か策でもあるのか?」

「そんなものはない。明日森を出て、もし海陵王の軍がいたら戦う。それだけだ」

 胡土児(コトジ)はもう話に飽きたのか、毛皮を敷き、横になろうとした。

「呑気なやつだ。そんなだからあんな目立つところに家など建てるのだ。そうだ、斜律里(しゃりつり)から書簡を預あずかっているぞ」

「なに」

 胡土児は跳ね起き、候真が懐から出そうとした書簡をかすめ取ると、勝手に読み始めた。

「斜律里に会ったのか」

 書簡に目を落としたまま、胡土児が言った。

「気になるやつに会いに行くといったろう。会寧府でおかしな軍の動きがあったので念のため会いに行ったのだ。会うといっても勝手に忍び…って聞いてないなお前」

 一通り書簡を読み終えると、胡土児は尻餅をついて一息つき、笑い出した。

「斜律里の奴、変わっていないな。蕭尤(しょうゆう)、耶律哥(やりつか)、肉をありったけ焼け。お前たちまだ全然食っていないだろう。たらふく食っておけよ。最後の晩餐かもしれんからな」

 二人が慌ただしく動き始めた。胡土児は、書簡を焚火に放り込んだ。

「おい胡土児、すぐ動かなくていいのか。奴らは今夜にもここに辿り着くかもしれんぞ」

「俺は森で育ったといったろう。奴らが近づけば、たとえ眠っていてもすぐにわかる。それに森で俺に敵う奴はいない。いいからお前も肉を食え。俺は食ったら寝る」

 二人が焼けた肉を片っ端しから平らげていく。胡土児と候真も負けじと続いた。

「候真殿、ひとつよろしいですか」

 蕭尤が言った。候真が肉を頬張ばりながら目を向けた。

「候真殿は、どのくらい強いのですか」

 候真が戸惑い、少し考える仕草をした。

「おい蕭尤、候真にはこの三人でかかっても勝てんぞ」

 胡土児が言って笑った。

「そんな」

 耶律哥が唖然とした。候真は苦笑いしかできなかった。

「玄旗隊か」

 胡土児が一言、呟いた。

 

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