翌日、日没と同時に候真は獄舎の門兵に襲い掛かった。
兵の戟を奪うとそのまま兵の胸を貫き、その戟を馬来に放った。背後から罪人たちが門に駆け寄り、騒ぎ声を上げる。
候真が門を飛び出すと、すぐに詰所から四、五十人の兵が駆けだしてきた。鉦も激しく打たれている。
「お前たち、何をしている」
先頭の兵が駆けながら、血相を変えて叫んでいる。
候真と馬来は迷うことなく、その兵団の中に飛び込んでいった。候真の突きは確実に兵の急所を捉え、次々と兵が倒れていく。そしてその兵が持っていた戟や剣を、次々と後ろへと放った。
馬来の動きも大したものだった。戟の一振りで三、四人は吹っ飛んでいく。
「馬来、気負うなよ。そんな身体の使い方では、すぐ息が上がるぞ」
候真は、突き出された戟を躱しながら言った。躱した瞬間、兵は膝を折った。
「うるさい、候真。いま俺に話しかけるな」
馬来も、人を斬るのは初めてのはずだ。後ろで武器を拾った罪人たちも、鍛錬ではかなりの動きをしたが、武器を手に取ると、及び腰になる者もいた。
「固まれ。三人一組になり戟を突きだせ。無理に攻めなくてもいい」
続々と兵は現れ、すぐに二百人ほどになった。候真も二十人程は倒したが、馬来は息が上がり始め、動きが硬くなり始めている。兵が罪人たちを取り囲む動きをして、一人、二人と罪人を突き倒し始めた。
「よし、退け、門を閉じろ」
候真が言うと、罪人たちは後退していった。脚がもつれて転ぶ者もいたが、他の者が引き起こしながら門の内側へ退いた。候真が戟を振るって、兵を押さえながら門をすり抜けると、すぐに門は閉じられた。
「みんなよく闘った。自分たちは戦えるのだと、自信を持っていいのだ」
候真は声を張った。罪人たちは、身体は震えていたが、闘志は漲っていた。何度か戦闘を経験すれば、普通に戦えるようになるはずだ。
「あいつが、あいつが戻ってねぇ」
突然一人の罪人が暴れ出し、門に取りつき開けようとした。
候真はその罪人の襟を後ろから掴み、門から引きはがしながら、顔面に拳を叩き込んだ。罪人は白目を剥いて気を失った。
「そいつをそこの独房へ放り込んでおけ。しばらく目を覚まさん。今後勝手なまねをする奴は、首を刎ねる」
候真がそう言うと、場がしん、とした。すると馬来が寄ってきて、候真を睨みつけた。 巨漢の馬来が上から睨みつける圧力は相当なものだが、候真は平然としていた。
「なんだ馬来。お前も死んだ仲間を助けに、門を開けるつもりか?」
候真が言うと、馬来がにやりと笑った。そして罪人たちの方へ振り返った。
「お前ら、これから候真の言うことは絶対だ。従えねえ奴は俺がぶっ飛ばす。俺たちは戦うことに決めた。当然死ぬ奴もでる。それに耐えられない奴は小屋で震えていろ。俺たちは生きてここから出る。自分たちのためにだ。そう信じられる奴だけ戦え。分かったか」
馬来の大音声が響き渡った。しばらくして、大歓声が起こった。
「すまない馬来。助かった」
候真が、馬来に歩み寄って言った。
「候真、礼よりこれからどうするか考えろ。門の外にはすでに千を越える兵が押し寄せているぞ」
「すぐ動くことになるかもしれん。武器を持った奴を門の前に並べておけ。お前もいつでも戦えるように準備しておけよ」
そう言うと候真は傍の櫓に登った。日は沈んだが、まだ辺りは明るさが残っている。遠くを羅辰が駆けまわっているのがかすかに見えた。
そして小さな火も、点々と上がっている。